
『ありふれた家を建てる』の間取りを推理してみた
久しぶりに、東京丸の内の丸善へ行ったときのこと。
お目当ての本を手にレジへ向かう途中、平積みの本が目に留まった。
表紙にあったのは、毛糸で編まれた小さな家。
ギュッと編み込まれた質感が妙に目を引いて、思わず手に取った。

いつからか、書評やレビューを参考に本を選ぶようになっていた。だから、何の前情報もなく、自分の直感だけで一冊を選んだこと自体が、なんだか嬉しかった。
本の内容は著者が17年前に家を建てたときの話。読む前にパラパラと最後までページをめくってみたら、間取り図らしきものはない。どんな家が出来上がるのだろう、と想像しつつ読み進めた。当時の設計者や営業担当との軽妙な攻防が何とも可笑しい。一方で、家づくりに対する著者の考え方には、一貫した軸があり、最後には、その家に17年間住み続けた感想も綴られている。家との付き合い方や暮らし方は人それぞれ。私は改めて、自分なりの軸を持つことが、暮らしを楽しくするのだと感じた。
文章から間取りを推理してみた
読み終えても、私の頭には「どんな間取りなのだろう……」という疑問が残ったまま。そこでまず、部屋同士の関係をざっくりスケッチしてみた。

次に、それぞれの部屋にサイズを当てはめ、パズルのように組み合わせていく。
14畳の仕事部屋に隣接するのは、仕事部屋前室、書庫、ミニキッチン。4畳半のミニキッチンの上には階段があり、勝手口もある。書庫は8畳で、うなぎの寝床のように細長い。
部屋ごとに、サイズ、特徴、窓、本文中の記述をスプレッドシートにまとめた。それを見ながら、Illustrator上で部屋を動かし、パズルを解くように間取りを組み立てていった。
細かく描写されている箇所もあれば、ほとんど手がかりのない箇所もある。
当然、ある程度は私の想像も入る。

そして、できた。
けれど実はひとつだけ、文中の描写と明らかに合致していない部分がある。
それが、仕事部屋と前室の間に設けられる凹みと窓の向きだ。
設計担当と著者のこんなやりとりがある。
「仕事部屋には、大きな窓が南側にありますが、北側の壁には例の巨大なスチール棚を三台並べますので、窓はありません。そして残った西側は、やはり西日がお仕事の邪魔になろうということで、窓は端っこにごく細いもの1枚しかけていません」
「あ、ほんとだ」
「となりますと、光量が足りませんので、東側に窓を設けたいということで、この凹みが必要となるわけです。大きめの窓を東と南に作ることで風の通りも良くなります」
ああ、そういうことか…!
実用的な ”ありふれた家” を望んでいる施主である著者が、設計上の意図に 納得するシーンだ。ところが、私が描き起こした間取り図では、この凹みによって作れる窓は北側になってしまう。
東?東側の窓を作るために凹みが必要になるということは、本来、東側に別の部屋か壁が接していて、そのままでは窓が取れない状況になるはずだ。

ん~、まさか印刷ミスってことないよね、、「東」が間違い、「北」が正解。ないか…こんなに細かく書いているし。
私のスケッチが根本的に間違ってる、よし、直そう。
仕事部屋の東側に前室があり、そこに凹みがある。
そうすると、玄関の位置が変わる。玄関近くの客間も変わるし、客間の向かい側にあるトイレと洗面の位置も変わる。
ほとんど違うじゃん~。
グリッドを切ったIllustrator上で、部屋のボックスをこねくり回しているうちに、ようやく形が見えてきた。
できた。
今度こそ、矛盾のない間取りができた。

階段の位置を合わせて、2階も作ってみた。1階に比べると2階の描写は少ないので、ここはかなり想像が入っている。
こちらが推定間取り図。


間取り以外にも、共感したことなど
間取りを想像しながら楽しく読んだ一方で、著者の家づくりへの考え方にいくつか共感した。
コンセントは腰の高さに
著者は、各部屋の入り口近くにあるコンセントを腰の高さに設置してほしいと希望。理由は「掃除機のコンセントを何度も抜き差しするたびに腰をかがめるのが嫌だから」確かに良いアイデアだ。
設計担当は見た目を気にして、渋々承諾したが、私ならコンセントとスイッチを一つのプレートにまとめることを提案するかな。実際、我が家にもコンセントと照明スイッチをまとめたプレートがある。

住宅メーカーの選び方
著者はご両親が家のメンテナンスに苦労されたのを見ていたことと、ご自身の性格を考慮して「メンテナンスを何十年に渡って面倒みてくれる会社」という軸で、住宅メーカーを選んだ。
誰に家の設計や施工を任せるか、というのはとても重要な問題。私の考えは、住宅メーカー、設計事務所、工務店、どれを選ぶにしても、「信頼できる相手を選ぶこと」。
工事中は予測不能なことが起こり、すぐに判断しなければならない場面が次々と出てくる。判断によっては、予算より金額が増えることもある。そんな時には、不信感を抱きやすい。
だからこそ、信頼できる相手を選び抜き、最後まで信頼する。その姿勢が良い家づくりにつながると、住宅設計の仕事をしていた20代の頃から常々思っている。
歳を重ねることを見据えた家づくり
この家には、ホームエレベーターがある。2階にキッチンがある家なら、理にかなっている。80代の私の親を見ていても、2階へ上がる機会はぐっと減っている。若い頃には何でもなかった階段の昇り降りが、大きな負担になってくる。著者も「備えあれば憂いなし」という思いからホームエレベーターを設置し、その後、足をけがしたことで早速そのありがたさを実感したそうだ。
職人さんへのまなざし
クロス貼りの職人さんの話。
詳細は省くが、完成後には気づきにくい部分に手をかける職人さんの仕事と、それをきちんと見ている著者のまなざしが印象的。職人さんへの敬意が感じられるエピソードだった。
そういえば、我が家をリフォームしたとき、入れ替わり立ち替わり来る職人さん達に様々な質問をした。職人さん達の細かいこだわりを聞くことができて、私は楽しかったが、少々面倒な施主だと思われていたかもしれない。
17年後だから書けること
あとがきには、家を建ててから17年後の暮らしが綴られている。住んでみて初めてわかったことや、失敗だったことも率直に書かれていて、「なるほど」と思いながら読んだ。
特に印象に残ったのは、今後の大規模メンテナンスに備え、これからも仕事を続け、家とともに歩んでいこうとする著者の姿勢。家を維持することも、自分の暮らしに責任を持つことも、自分の腕一本で支えていく。その覚悟が伝わってきて、著者の生き方に、素直に憧れた。
次作では、実際に経験して大変だった「実家じまい」を書かれるとのこと。ちょうど私自身も親世代のことを考える機会が増えているので、今から楽しみだ。