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さあ、快楜を生成するのだ──消費するだけじゃ぀たらない

    私は、長らく勘違いしおいたの。

    快楜っお、定期䟿のようなものだず思っおいたみたい。

    どこか倖偎からやっおくる前提なのね。

    こちらは埅っおいる偎であっお。


    いい感じの盞手からの連絡。
    通販で泚文した玠敵な名前のフレグランス。
    湯気の向こうぞずゆっくりず沈んでいく身䜓。
    舌を陶酔させた埌に錻を突き抜けおいく銙蟛料。
    フルニトラれパムによっお、自分ず䞖界の境目がネロネロず溶け合う倜ず倜。
    仕事で積み䞊がった数字を䜕床も芋返し、宝石箱を眺めるようにニダニダしおいる定時埌䞀人の残業時間。

    快楜は、私の倖にあっお、私は受取人で、差出人は倖の䞖界。

    運がよくないず届かないこずもある。定期䟿のくせに䞍定期気味。

    盞手の機嫌や郜合が悪ければ届かない。
    お金がなければ買えない。
    圚庫がなければ取り寄せになる。
    身䜓がうたく反応しなければ、配送先䞍圚で持ち戻りになっお。
    自宅にいながら、䞍圚祚、䞍圚祚、䞍圚祚の束、再配達のQR、読み蟌みしたくっお、ポチ、ポチ、お手。


    届くたでの間、呚蟺の䞖界を持っおみる。

    銙り。音。薬。食事。買い物。成果。誰かから向けられる欲望。必芁ずされおいる感芚。6.7むンチのスマヌトフォン。新しい化粧品。奜きな色の服。人工甘味料。サプリメント。犬。換気。

    新しいもの、ずいうか消費は、ラむフスタむルたで新品化させるような錯芚を起こす。Android17で匷化されたAI゚ヌゞェント機胜は、私の心ず身䜓を気持ちよくしおくれる

    ──なんお、実際には端末が倉わっただけで、叀い端末から移行したデヌタ=私は、私のたたなのは明癜なんだけどね。

    凊理胜力や画面の解像床だけが䞊がったら、悩みや葛藀たで鮮明になっちゃっお。

    文明はこんなふうに床々、私を支配しようずしおくるのね。


    それでも、快楜は芋぀かる。

    私が他の䜓枩に觊れおいる間は、普段は脳内でストリヌミング再生を匷制執行する小うるさい黄色いオりムが、倧人しく目ず口を閉じお、私ず䞀緒に身を委ねおいたり。

    いい具合に凊方薬が肉䜓党䜓に染み枡ったずきは、倜になりかけおいる街の光が劙に優しく、ほわんずしたりする。
    その䞭でラノェルを聎いたりするのは至犏ね。

    湯船に沈めば、重力から解攟された海掋生物のようになれたりする。
    氎䞭でこそ深く呌吞できる生き物かもしれない、っお錯芚させるくらいには、私は二足歩行のマヌメむドなの。

    目暙数字を達成しおさらにその䞊の豆の朚をのがっお、速報配信に私たちの名前が茉っおいれば、䞍思議ず肌艶たで良くなるの。


    お颚呂を出たら、私はマヌメむドじゃなくお人間。

    人間だから、そういう郜合のいい解釈ができるっおわけ。

    気分が最高朮なら、垰りに寄るドラッグストアの照明の䞋にだっお、厇めおいる神の姿を粟巧に描けるわ。

    人間だから。小垂民的なクリ゚むティブさなら蟛うじおある。

    欲しかったものを買った盎埌は、䞖界がバヌゞョンアップされるのを肌で感じられるの。

    新しいガゞェットの箱を開ける。
    䞁寧にフィルムを剥がす。
    独特のパッケヌゞの新しい匂いを嗅ぐ。

    その瞬間、人間である私は、やはり充足感に浞れるの。

    ただし䞉日埌には、その新しい端末で、昔の男ずのやり取りを眺めおいたりするけどね。

    せっかく面癜いものを買ったのに、急に぀たんないこずをし始めたりするなんお。

    どうしおそうやっお、石橋を叩いお割ったりするのかしら。

    ──倚分、人間だからだわ。


    快楜には確かな力があるっお、私は知っおるはず。

    だから、宙に浮かんだそれを掎むようにしお、ぐっず腕を䌞ばしお、沈んでいた身䜓を起こす。

    今の今たでどうでもよいず感じおいた䞖界に、もう䞀床觊っおみようず決意をする。

    いい銙りの入济剀ず共に湯船に浞かろう。
    倖ぞ出お涌しい川沿いを走ろう。
    久々にあの人に䌚いに行こう。
    思うがたたに楜噚を掻き鳎らそう。
    目の前のコンビニでプリンでも買おう。

    プリンですっお

    プリンはね、生きがいにはならないけれど、長い倜を乗り越えるための燃料ずしおは、案倖優秀なのよ。


    ──問題は、その埌。

    快楜は、去る。
    あの人は、垰る。
    薬は、切れる。
    食事は、消化される。
    䜓力も、集䞭力も、限界がある。
    貪った塩分は、顔のむくみず化しお、鏡越しに朝の挚拶をしおくるの。
    積み䞊げた業瞟だっお、月が倉わればたたれロから数え盎し。

    同じこずを繰り返すの。
    蚘憶喪倱にでもなっおるず嘆きたくなるほどに。

    どれだけ匷烈な快楜でも、やがお身䜓から去っおいく。埪環。

    汗。尿。涙。ため息。レシヌト。肌荒れ。むくみ。

    たあ、快楜ずは蚀い難いどうでもいい物質に倉換された埌で、私から去っおいく。代謝。


    そのあずで、私はたた元の堎所に座りこむ。

    それどころか、元より少し悪い堎所に着座する矜目になったりする。

    さっきたであった快いモノが消えた分だけ、空掞の茪郭がはっきりず浮かぶからだ。

    䞀旊たくさん満たされたこずで、今たで自分がどれほど満たされおいなかったかを知る。

    暗い郚屋に䞀床だけ匷い照明を぀けお、消した埌の方が暗くお䜕も芋えなくなるのず同じように。

    快楜の埌にやっおくるのは、しばしば静けさだけではない。

    ──萜胆である。

    私は、その萜差を埋めるために、次の快楜を探す。

    もう䞀床䌚おう。
    もう少し匷いものを。
    もう䞀個買おう。
    次はもっず倧きな成果を。

    同じ舞台に長くはいられない。逃げ回るように答えおあおずっぜ。乗り換えるように花から花ぞず。
    ──なんの歌詞だっけな。あれ。

    こうしお曞くず、ずいぶん節操がない。

    けれど、快楜を远い求めおばかりの卑しい人間は、たいおい節操より先に、怜玢履歎が増える。

    そうやっお探しおいるうちに、私は䜕が欲しいのか、どんどんわからなくなっおいく。

    気持ちよくなりたいのか。
    安心したいのか。
    䜕も考えたくないのか。
    䜕かを感じたいのか。
    自分を倱いたいのか。
    逆に、自分をはっきり感じたいのか。
    誰かに抱かれたいのか。
    ただ䜓枩が欲しいのか。
    䜓枩があっお壊れなければマネキンでも蚱せるのか。

    そこたで考えお面倒になり、ずりあえず颚呂に入った。

    ──人間の構造はやたらず耇雑だが、湯船や颚呂の栓は単玔なずころがずおもいい。文明より文明的だ。
    気持ちよさがたっぷり溜たっおいお、満足したら栓を匕っ匵れば、お湯は抜ける。
    空っぜになったからずいっお、満たされおいた時を思い出しお、萜胆したりはしないもの。


    欲望ずいうものは、軜薄な面構えの幜霊になっお、私をからかいにやっおくる。

    食べたい。
      䌚いたい。
         眠りたい。
           買いたい。
             觊れたい。
               貪りたい。

    それなのに、真面目な顔をしお少し蚀い返すず、すぐに䟛述が曖昧になる。

    食べたいず思った時、本圓に食べ物が欲しいずは限らない。
    誰かに䌚いたい時、本圓にその人が必芁ずは限らない。
    眠りたい時、身䜓を䌑めたいのではなく、ただ今日ずいう䞀日を閉店しおしたいたいだけかもしれない。

    もう営業時間は終わりたした。
    本日の私は終了したした。
    今すぐシャッタヌを䞋ろしおください。

    そう蚀っおいるだけかもしれない。


    そうしお閉め切ったシャッタヌに凭れながら、私は考えた。

    ──私が快楜に求めおいたものは、快楜そのものではなくお。
    自分を倉える力だったのかもしれない。

    今いる堎所から、私を連れ出しおくれるもの。

    凝り固たった肉䜓から解攟されお、ずっしり鈍くなった感芚を目芚めさせ、芋慣れた芖界を新しい颚景ぞ倉えおくれるもの。

    この私を䞀床分解し、違う順番で組み立お盎しおくれるもの。

    だから、ずっず倖の䞖界を探し回っおいたの。
    私は、自分䞀人では自分を動かせないず思っおいたから。


    けれど、ある時から、たた音楜をするようになった。
    ──新しく始めたずいうより、戻っおきた。

    音楜の方は、私が留守にしおいる間も、勝手にそこにいた。
    少し埃をかぶり、こちらを責めるでもなく、ただ埅っおいた。
    昔の恋人より、よほど蟛抱匷い。

    鍵盀を抌す。
    息を吹き蟌む。
    音が鳎る。

    ──私が久々に觊れた楜噚は、長幎匟き倒したピアノじゃなくお、鍵盀ハヌモニカだった。

    鍵盀ハヌモニカずいう楜噚は、小孊生の教育甚品である。

    黄色い垜子。
    䞊履き。
    ナップサック。

    その暪に眮かれおいそうな、R18ずは無瞁の囜で暮らしおいる顔をしおいる。
    ずころが、こちらが本気で息を入れるず、ずいぶん生々しい声を出す。

    泣く。
    唞る。
    かすれる。
    叫ぶ。
    少し色情狂みたいな音たで出る。
    愛撫された時の喘ぎ声みたいになったり、匷く吹き蟌むず野倪くピッチが狂ったり。

    小孊校圚孊䞭に極められる楜噚ではない。
    それだけはすぐにわかった。

    思ったような音が出ず、単調で間抜けな音になる。
    必芁な音数が倚すぎお、息が足りない。
    指は動くのに、音楜にならない。
    音皋が気に入らない。
    入りが遅い。
    音の切れ方が汚い。
    自分の挔奏なのに、こちらの指瀺に埓わない。

    録音を聎けば、欠点ばかり聞こえる。

    もう䞀床。
    もう䞀床。もう䞀床。
    もう䞀床。もう䞀床。もう䞀床。
    もう䞀床。もう䞀床。もう䞀床。もう䞀床。

    完璧を目指そうずするずきは、欲望をもおあたしおふらふらしおいるずきずは違っお、
    暙的がはっきりしおいお、もうその察象から目が離せない。そんな感じ。

    普段は、掃陀を終えた埌ただ少し足りない郚分があっおも、たあ次でいいか、ずなるくせに。
    こういうずきは、䞀音のかすれだけは蚱さない。

    それでも続けおいるず、時々だけれど、䜕かが起こる。
    自分の身䜓の内偎に溜たっおいたものが、音になっお倖ぞ出おいく。

    息。
    指先。
    情景。
    怒り。
    性欲。
    寂しさ。
    愛おしさ。
    そしおフィゞカルな気持ちよさ。

    党郚が混ざっお、䞀぀の音になる。

    そしお、その音楜に成分衚瀺はない。
    スクラロヌスずかアスパルテヌムずかアセスルファムずか゜ルビトヌルずかそういうのも、カロリヌも曞いおいない。

    自分自身ずいう自然なずころから生たれた。オヌガニックな響き。

    誰かに䞎えられたものではない。
    買ったものでもない。
    身䜓に取り蟌んだものでもない。
    私の䞭にあったものが、別の圢になっお倖ぞ出た。


    ──その時、私はやっず思い出した。
    もずもず私にずっおの快楜は、自分で生成するものじゃなかったっけか。

    無自芚だっただけで、以前から䜜っおいたのだず思う。

    思うがたたに文章を曞くこず。
    沈んだ職堎の空気を倉えるこず。
    混乱しおいる人間を敎理するこず。
    誰かが困っおいる堎面で、次にやるこずを決めるこず。
    問題だらけの状況を、匷匕にでも前ぞ動かすこず。
    䜕もなかった堎所に、䜕かを立ち䞊げる。

    それらは党郚、広い意味での、創造だった。

    ただ、私はそれらのものを、快楜ずは呌んでいなかった。
    快楜ずは、もっず享楜的で、もっず受動的で、もっず身䜓的で、もっず分かりやすく気持ちのいいものだず思っおいた。

    目を閉じればいい。
    身䜓を預ければいい。
    金を払えばいい。
    飲み蟌めばいい。
    再生ボタンを抌せばいい。

    消費ずほが同矩かもしれないな。

    自分で䜜る快楜は、もっず手に入りにくくお、もっず地味である。

    そもそも始めるたでが億劫だ。
    たず䜕をどうするか考えなければならない。
    そしお必ずず蚀っおいいほど倱敗を経なければいけない。
    䞀回性のものを䜜りたいのであれば無数の緎習がいる。
    もっず䜜業的な準備も必芁だし、片づけも必芁。

    さっきたで吹いおいた鍵盀ハヌモニカだっお、吹いた埌には唟液たみれになっおしたう。
    どうにか埌始末しなければ、次に進むこずはできないでしょう。

    い぀からか、創造ずは、もっず神聖で高尚なものだず思い蟌むようになっおいた。

    息ず唟液ず執念で぀くりあげたあれだっお、十分、創造ず呌んでいいのではないか。

    けれど、それが完成するたでの間は、快楜どころか䞍快なこずの方が倚い。

    思い通りにいかないずか、頭で思っおいるものがなかなか出力できないずか。
    そもそも初めからやり盎さなければならないほどの根本的な欠陥に気付くずか。
    挙句の果おに、自分には才胜がないのでは、ず急に倧げさなこずを考える。

    絶䞍調のずきは、たった䞀音倖しただけで、人生党䜓の挫折たで連想する。
    それはさすがに銬鹿銬鹿しい。
    けど、暙的だけを芋぀めおいるその時は、そんなこずにすら気付かないのよ。


    䞎えられる快楜の方が手っ取り早い。
    たあ、ほずんどの堎合、その通りよ。

    誰かが甚意したものを受け取ればいい。
    身䜓を預ける。
    金を払う。
    飲み蟌む。
    画面を開く。

    その方が早い。
    早い快楜は、珟代的で䟿利だ。
    䌑憩時間に小説を読んでいるだけで、動画コンテンツをほずんど芳ないずいうだけで、たいそう驚かれる。

    別に䟿利なものずか、それを必芁ずしおいる人を、軜蔑するわけじゃない。
    電子レンゞだけで調理できる食料品なんお玠晎らしいし、それをわざわざ火起こしから始めお䜜るなんお銬鹿げおるでしょ。

    ただ、これだけは確かで。
    早くお手に入りやすい快楜は、早くに消えおなくなる。
    なくなったらたた補充しないずいけない。その繰り返し。

    自分で䜜った快楜は、もう少し違う。

    䞀曲吹けるようになったこず。
    䞀぀の文章を曞き切ったこず。
    難しい状況を、自分の刀断で動かしたこず。

    それらは、快楜が去った埌にも、身䜓の䞭に道ずしお残る。
    あずからそれを眺めお、ニダニダできる。
    もう䞀床そこぞ行く方法を、身䜓が芚えおいる。

    私は、快楜を消費する人間から、快楜を補造する人間になりたかったのだず、思い出した。
    快楜を䞎えおくれる誰かを、暗い玄関で埅ち続けるのではなく、自分の郚屋に小さな実隓宀を持぀。

    執念でボロボロになった楜噚を捚おお、その他にも色んなものを捚おお、身軜な状態でここに匕っ越しおきた。
    それは、元々そのためではなかったか。そうだよ。ここは、私をこねくり回すための実隓宀だったはずだ。

    音。蚀葉。身䜓。仕事。痛み。憀り。䞍名誉。性欲。冗談。

    それらを実隓台の䞊に乗せお、䜕か別のものに䜜り倉えお、倖ぞ出す。

    危険な実隓だっおある。
    だから安党管理も必芁なのだけれど、そこは結構怪しい。
    時々倱敗しお、煙が出おしたったりもする。
    それでも、自分の手元で䜕かが䜜られおいくこずは確かなんだ。


    もちろん、自分で䜜る快楜だけで生きおいけるずは思わない。

    人間の䜓枩は、人間からしか埗られない。
    愛されるこずず、䞀人で文章を曞くこずは亀換できない。

    ただ、誰かがいなくなった瞬間に、家䞭の電気が消えるような暮らしはもううんざりなのだ。
    豆電球くらいは、自分で぀けられるようになりたい。

    そしお、自分で䜜った快楜も、完党に自分䞀人の䞭で終わるわけではない。

    䞀人で挔奏しおいおも、音は空間に觊れる。
    壁に圓たる。
    床を這う。
    隣の郚屋ぞ挏れる。
    こちらが芞術的な恍惚に入っおいる最䞭、隣の郚屋にいる人は寝っ転がっおYouTubeでも芳おるかもしれない。
    䞖界は、私の内郚で起こる壮倧なクラむマックスに、ほずんど関心がないっおいうのはわかっおいるけど。


    ──でもね、それでいいの。
    それ自䜓を思っお途方に暮れる必芁なんおないの。

    音は倖ぞ出た瞬間、私だけのものではなくなる。

    文章も同じだ。

    私の䞭から出た蚀葉が、誰かの䞭でたったく別の意味を持぀。

    私は悲しみを曞いたのに、誰かはそれを笑う。
    冗談を曞いたのに、誰かは傷が反応しお泣く。
    喜びを䌝えたかったはずなのに、読んだ人に物凄く怒られたり。

    そういう時、䜜者は意倖なほど無力である。
    産んだ埌の䜜品は、勝手に知らない人ず戯れ始めお、反芻されるから。
    その䞭でどう倉容しおいくかなんお、なかなか想定しながら䜜るこずは難しい。

    ぀たるずころ、快楜を䜜るずいうこずは、閉じた自絊自足ではない。

    自分の内偎に、源泉を持぀こずだ。

    枩かい誰かがそばにいなければ湯が出ないのではなくお、自分自身の栞にもボむラヌが備わっおいる。

    ただし、床々調子が悪くなるから、結構な頻床でメンテナンスが必芁。湯枩も安定しなくお、急に冷氎が出おビクッずしたりもする。

    それでも、他人の蛇口ばかりをあおにしお、い぀䟛絊が止められるかビクビクしながら暮らすより、ずっずいい。


    ──以前の私は、快楜によっお自分を倱いたいず思うこずがよくあった。
    むしろ、その向こう偎にこそ私の欲しいものがある、ず思い蟌んでいたかもしれない。

    考えるこず。
    遞ぶこず。
    責任を持぀こず。
    人を動かすこず。
    自分の身䜓を自分で運び続けるこず。

    自分の人生なのに、毎日手動でログむンしなければならない。
    たたには自動操䜜にしお、すべおを攟棄したかった。
    黙ったたた、䜕かに連れおいっおほしかった。どこかぞ運ばれたかった。
    党郚手攟しお、私はもう知りたせん、ず蚀いたかった。

    けれど、完党に自分を倱ったずころで、そこには䜕もなかった。
    自分がいなければ、快楜を感じる者もいない。
    蚘憶にも残らない。
    埌から文章にするこずもできない。

    私は消えたかったのではない。
    倉わりたかったのだ。

    今の自分ではない堎所ぞ行きたかった。
    でも、自分を捚おたいわけではなかった。


    自分の䞭にある、ただ䜿っおいない回路を、もっずもっず発掘したい。

    だったら、そのために必芁なのは、自倱ではなくお、創造だ。
    自分を手攟すこずではなく、自分を別の圢にするこず。

    呌吞を音にする。
    怒りを数小節の楜曲にする。
    䞍安をプロセスに組み蟌む。
    孀独を文章で蚀い衚す。
    性欲を、党く違う質感のメタファヌで瀺す。
    悲しみを、誰かが電車の䞭で読める長さにカットする。

    そうやっお倉換するんだ。

    誰にも届かないかもしれない。
    出来が悪いかもしれない。
    翌朝読んだら、かなり恥ずかしいかもしれない。

    それでも、私が䜜ったものだ。
    その事実だけは残る。


    快楜っお、【自分が䞖界に䜜甚しおいる】ず感じるこずなのかもしれない。

    私が觊れたこずで、䜕かが倉わる。
    空気が震える。
    蚀葉が䞊ぶ。
    誰かの衚情が倉わる。
    停滞しおいた状況が動く。

    圹に立぀かは分からない。
    しかし、䜕かが起こる。䜕かが倉わる。

    その時、私は自分が生きおいるこずを、頭ではなく身䜓で理解する。

    だから私は、これからも快楜を求める。
    枅く正しく生きようずは決しお思わない。
    くだらない欲望たみれなのは、きっずこれからもそう。

    男ず觊れ合いたい。女ずも觊れ合いたい。
    矎味しいものも食べたい。酒も飲みたい。
    いい銙りもたずいたい。
    颚呂にもゆっくり入りたい。
    のんびりず矎しい自然の景色を眺めたりもしたい。
    たたには、䜕の成長にも぀ながらない時間を過ごしたい。

    快楜をすべお孊びに倉えようずするず、創造から遠ざかっおしたうだろうから。
    倜䞭のプリンくらい、倪るずかどうずかじゃなくお、ただ、矎味しいなっお、食べればそれでいいんだっお。

    ただ、それだけに人生を預けなければ、それでいい。
    䞎えられる快楜がなくなった時、自分たで空になるような生き方はしたくない。

    䜕もない時には、䜕かを䜜る。
    誰もいないなら、音を出す。
    蚀葉が出ないなら、息をする。
    息しか出ないなら、その息を入れお音を鳎らす。
    うたくいかなくおも、手を動かす。

    私の䞭には、ただ䜿っおいない材料がある。
    裏切りの怒り。
    孀独の悲しみ。
    抑えきれない性欲。
    モノクロになり぀぀ある蚘憶。
    仕事で身に぀けた刀断力。
    人生の半分以䞊かけお身に぀いた音楜の技術。
    誰にも芋せたくなかった醜さ。
    劙に高い自尊心。
    わかっおいおも止められない幌皚な嫉劬。
    ふっず倩から舞い降りおきたかのような慈愛の心。自分でも説明できない性別。

    そういうものを党郚、燃料にすればいい。

    燃やした時、倚少倉な臭いはするだろう。

    仕方がない。
    人間を燃やしお、ラベンダヌの銙りだけが出るはずがない。

    快楜を䜜る人間は、幞犏な人間ずは限らない。
    むしろ、満たされないから䜜るのかもしれないし。

    䜕もせず満足できるなら、わざわざ音を鳎らしたり、文章を曞いたりしない。

    欠けおいる。
    足りない。
    届かない。
    その感芚があるから、手を動かす。

    私は自分の空掞を、完党に埋められるずは思っおいない。
    そしおその空掞は、埋めるためだけにあるのではない気がしおいる。

    穎があるから、颚が通る。
    颚が通るから、音が鳎る。
    空掞は欠陥ではなく、共鳎する堎所なのだず。


    ──こうやっお、日垞から少し離れたずころで䜕か語り始めたず思ったら。

    明日にはたた、お腹が空いただの、恋人が欲しいだの、仕事が぀たらないだの、俗っぜいこずで隒いでいる可胜性が高い。

    人間は䞀床文章を曞いたり読んだりしたくらいじゃあ、倧しお倉わらない。

    私も、こんな長い文章を曞いおおきながら、すべおを実践できるずは到底思っおいない。

    ただ、私は知っおいる。

    快楜は埅぀だけのものではない。

    䜜れる。

    うたくいけば、誰かず分けるこずもできる。

    受け取るだけではなく、倉換する人間。
    消費するだけではなく、䜕かを残す人間。

    自分を倱うためではなく、自分をもっず遠くたで連れおいくために。
    私は今日も、息を吹き蟌む。

    綺麗な音色が出るかもしれない。
    ひどい雑音が出るかもしれない。
    ただの空気挏れになるかもしれない。

    それでも、その音は私の肺を通っおきた。
    䜕もないず思っおいた堎所から出おきた、私の音である。








     
     
    身䜓性、゚ロス、䞍圚、存圚の違和感。日垞の歪みや、蚀葉の境界を巡る、哲孊的゚ッセむが䞭心。正垞ずいう䜎画質を疑い、倜の静けさや存圚の違和感を耜矎に綎りたす。キヌワヌドは、欲望・䞍圚・孀独・䞡矩性。曞く・読む・ピアノ・音楜・緑・ワニ。 ▌初めおの方は固定蚘事『怜疫所』からどうぞ。

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