
パパをやり直す
僕ら夫婦。一緒に育児をして、それなりに支え合ってきたと思います。
おまけに、うちの奥さんは「あなたと結婚して良かった」なんて言ってくれるんです。
まぁ本心はわかんないですよ。
でも、僕にとって。
奥さんは、出会った時にはもう幸せそうでした。
いつも笑ってて。
彼女を取り囲むまわりのみんなも笑ってて。
悩みがないように見えます。
でも、そんなあなたでも、
あの日だけは怖かったんじゃないかって。
夫婦になって、支え合ってきたけれど。
僕が支えなきゃいけなかったのは、本当はあの日だったんじゃないかって。
それはいつか?

あなたの出産の時。
後悔するのは、いつもお腹に赤ちゃんがいると分かったあの日。
体調がすぐれない日が続き。
夜。病院の待合室であなたは言いました。
「子供ができてた。それも双子。」
あなたはどんな気持ちでしたか?
恥ずかしそうに、嬉しそうに僕に伝えてくれたけれど。僕はどんな顔をしてましたか?
おそらく笑ってなかったと思います。
起業して間も無く、二人で食べるだけで精一杯。
そんな中。
さらに二人も増えるなんて。
自分だけ責任がのしかかったようで笑えませんでした。
でも、背負っているものはあなたも一緒。
いや、あなたの方がずっと大きいのに、お腹の子に笑って祝福してくれたのは、あなただけ。
「今から産婦人科に行く。」
とあなたは言いました。
初めてだったのに。
ついて来て欲しいと言わなかった。
一人で車を走らせ、病院まで行き。
一度入口まで行って、やっぱり車に戻ってみたり。
寂しくなかったですか?
赤ちゃんの心臓がちゃんと動いているか。
一人で確認するのは怖くなかったですか?
僕は何も考えないで、「行ってらっしゃい」と言うだけ。
それは僕がいつもの日常だったから。
違ったのは、あなただけ。
「今から産むことになった。」
とあなたは言いました。
帝王切開。
オペ室に入る前、ベッドで運ばれるあなたを鮮明に覚えています。
お医者さんから「奥様へ何か伝えることはありますか?」と言われたけれど。
僕はあなたへ。
「頑張ってね」の一言。
たった一言。
だって、周りにたくさん人がいたから。
あなたの気持ちより、あなたを安心させることより。
自分のツラを優先しました。
あなたの育児は、いつから始まりましたか?
僕は、あの日。
まだ入り口にも立っていませんでした。
優先したのはお腹の子でもなく、あなたでもなく、自分だったから。
「産まれました。」
とあなたは言いました。
もうほとんど覚えてない。
病室に戻ったあなたに、産んでくれてありがとうとも言わなかった。
なぜ言わなかったかも覚えてない。
ただ自覚がなかったんだと思う。
後悔するのは、いつも育児のこと。
あるところでは完璧なパパと呼ばれ。
子育て講演では拍手を浴びる。
けれど、蓋を開ければ
完ぺきとは、ほど遠く。
拍手は、僕のモノじゃない
いつも、あなたは。
「あなたと結婚して良かった」と言ってくれるけれど。あなたと結婚する人は、誰も幸せになります。
僕は、これからも幸せだと思う。
でも、もしやり直せるなら。
もし、あの日に戻れるなら。

「子供ができてた。それも双子。」
とあなたがそう言えば。
今まで見せたことのない顔で笑います。
ちゃんと練習するの。
あなたが一目でわかるように。
今なら大丈夫。
あなたより笑って見せて。
その顔を見ただけで
安心してもらえるような。
「良かった」と言ってもらえるような。
周りには誰もいらない。
僕一人で十分。
一人で、全員分笑うから。
「今から産婦人科に行く。」
とあなたがそう言えば。
僕も一緒に行きます。
怖かったら、先に入る。
ズカズカ、ズカズカ。病院に入って。
ううん、大丈夫。
病院の人には迷惑をかけないから。
ただ大切にされていることが伝われば良い。
ひとりぼっちじゃないんだって。
で、もし一人になることがあっても、
耳を塞げば、僕らの笑い声が聞こえるように。
目を閉じれば、その笑い顔が浮かぶように。
「産まれました。」
とそう聞けば。
一番にあなたに会いにいきます。
子供じゃないの。
やっぱり一番はあなた。
そして、みんなを部屋から出します。
すぐに出して、あなたの手を握る。
ずっと手を握って。
「もう大丈夫」と言うまで手を握って。
それから。
元気になったら、また昨日の続きを始める。
くだらないことで、お腹いっぱい笑うの。
この話は別に悲しい話じゃない。
むしろ、夢や希望の話。
僕が忘れないようにここに残します。
忘れないように
忘れるものか。
