
父の戦記|第十話 ヒョロヒョロ弾の恐怖
「こういうふうに山があって、その間がずうっとたんぼになっとってな。そのたんぼ道をおれらが行軍しとった時よ。」
私は映像を思い浮かべる。
突然、山の上から機銃掃射を受けた。
「チェッコでタッタッタッちゅうて撃たれてな。たんぼにピッピッピッちゅうて水しぶきが上がって、弾が一直線にこっちへ来るんよ」
祖父たちは、隠れる場所もない田んぼ道を、必死に走って逃げたという。
私は、この場面を想像した時、映画の戦争シーンとは違う、“むき出しの恐怖”を感じた。
英雄のように戦うのではない。
ただ、生き残るために走るのである。
そして、祖父はこんな話もしていた。
「人間ちゅうのは可笑しいもんでな。普段は“敵兵のヒョロヒョロ弾なんか当たるもんか”ちゅうて偉そうに言うとるんよ」
「けんど、いざチェッコでタッタッタッとやられたら、皆、鉄カブトを弾の飛んでくる方へ傾けて走るんじょ。ちょっとでも頭を隠したいけんな」
私はこの一文を読んだ時
妙に人間らしいと思ってしまった。
普段は威勢のいいことを言っていても
いざ弾が飛んでくれば
誰だって怖い。
少しでも頭を守ろうと
皆、無意識に鉄カブトを傾けて走る。
戦争映画の兵隊たちはみな勇敢だ。
だが実際の祖父たちは
泥だらけになりながら
ただ必死に
“死にたくない”という一心で
田んぼ道を走っていた。
その先に、今の私がいる。
*注釈
当時、中国軍側が使用していたチェコ製・チェコ系統の機関銃を、日本兵が俗称で「チェッコ」と呼んでいたそうだ。