1967年4月1日、準社員として勤務
4月1日(土) 〇〇株式会社 舞台制作部 講演課
特殊効果班
準社員として勤務
社会人になった日なんて、人生において特大の花マルがつく「節目」であるに決まっている。
それなのに、2007年春、入社式の記憶がない。あの日の私は何を思い、どんな顔をしていたのだろう。竹の節みたいにボコっとした人生のそれを、私はなんの引っかかりもなく、するっと滑っていってしまったらしい。
唯一思い浮かぶのは、さんざん使い回したリクルートスーツに身を包み、入社式の会場から配属先までベルトコンベアーで運ばれてるかのように移動する、頼りない私の姿だ。
「節目」なんてものは、一日やそこらでバタンと幕を下ろすほど潔いものではないのかもしれない。
朝は誰よりも早く出社して、偉い人のデスクを端から拭いてまわる。常にメモを取り、電話が鳴れば飛びつくように受話器をとる。絵に描いたような「新入社員」を演じ続ける日々。そこに感情なんてものはなかった。繰り返しの渦にただ身を委ねるしかなく、押し流されるまま、ただ時間だけが積み重なっていく。
膨大な時間と引き換えに私が手に入れたのは、メモをとらなくても仕事ができるようになったという、ただの「慣れ」であった。
◇
締めの時限を過ぎた夕方。あちこちで交わされる会話のトーンが、ほんのすこし上がる。ベテランのパートさんが配り歩いていたアルフォートが、張りつめていた空気をじわっとほどいていく。
終業まであと少し。みんながその弛緩したエアポケットに入ったのを見計らって、私は気配を消すようにそっと席をたった。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、更衣室の扉を押し開ける。上り框に突っかかりながらオフィスサンダルを脱ぎ捨て、電気もつけないままロッカーの鍵をがちゃがちゃと回した。足元のカーペットに蓄積する淀んだ匂いが、むわっと鼻をついてくる。
iPodに巻きつけたイヤホンのコードをちぎらんばかりにほどき、両耳にぐっと押しこむ。親指でくるくるとプレイリストをスクロールしてみても、この時間に指が止まる曲は、いつだって決まっているのだ。
磨りガラスの小さな高窓を通して、西陽が射しこんできている。「ホコリと光のすごいごちそう」とフィッシュマンズに合わせてつぶやく。軽快な鍵盤のリズムが疲れた脳みそを弾き、ロッカーの前にしゃがみこんだ私の内臓やら血液やら身体のなかすべてを、ぐわんとかき混ぜていった。
最後の一音が止む、そのはずみで停止ボタンを押す。イヤホンを外すと、更衣室の静寂がいっそう深くなっている気がした。コードをiPodに再び巻きつけ、ロッカーの扉を閉める。がちゃん、と重だるく響く金属音が、静寂のなかに沈んでいった。
ちょっとトイレに行ってきました、という顔で自席に戻ると、私は積み重なった伝票の整理を再開した。