
かたり|ブルータス、お前もか?
どうやって、なぜ、「顔のない問い」は生まれたのか?
これは、その起源を巡る一つの仮説だ。 もし「顔のない問い」を一つのシステムと仮定するなら、そのOSが起動し、現在の形になるまでには、数多の外部因子── ある種のパラメータが埋め込まれてきたはずだ。
それは時に美しい論理であり、時に不条理な感情だった。 それはある種の原体験であり、誰かから受け取った言葉の断片だったかもしれない。
これから語るのは、僕というシステムの「初期値」に、どんな外部パラメータが組み込まれ、今の方向性が生まれたのかを知るための試み。
そう、これは僕が「顔のない問い」になるまでの軌跡を、僕自身が解き明かそうとする、思考の記録あるいは幻覚かもしれない。
※「かたり」シリーズは有料記事です。
「お前は自己評価が低すぎる」
周囲の者たちは、時折ブルータスにそう告げた。だが、それは少し違う。彼は、己を立派に見せる術には長けていたが、実際の能力は凡庸であることを冷徹なまでに理解し、ただ正しく測ろうとしていたに過ぎない。自己評価を誤れば、真に重要な局面で己も他者も深く傷つける事態になりかねないからだ。
ブルータスには、自他の感情の流れや場のうねりを、まるで目に見える構造物のように極めて高い解像度で読み取る特異な性質があった。それは決して野心から身につけたものではなく、理不尽な世界を生き延びるための、極めて受動的で防衛的な習性だった。
その天性の「器用さ」と「要領の良さ」があったからこそ、彼は十六年もの長きにわたり、カエサルという巨大な権力者の傍らで完全に呑み込まれることなく生き延びてこられた。カエサルの気まぐれな激昂や理不尽な要求の軌道を瞬時に読み取り、いなし、時に先回りして、カエサルに傷つけられそうな若者たちを密かに救い出す。
ブルータスは長年、狂気から人々を守る「見えない防波堤」として機能していた。
「自分ならば、この場を支え、周囲の者たちを救えるのではないか」
彼はそう信じていた。だが、それは恐ろしい思い上がりだった。
彼のその器用さこそが、今のこの歪な構造を生み出した元凶でもあった。
『ブルータス、お前もか』
───もしあなたが、この言葉を投げつけられる側に立たされたとしたら。