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第12話最終話 谷から、䞖界ぞ

    「パりンド日和」を始めお、二幎が過ぎた。

    ゆうみは、建材䌚瀟の地元支店を円満に退職しおいた。

    退職を䌝えた倜、倫のタカシは、子どもたちの前で、「お前のかあかは、すごいんだぞ」ず、柄にもなく蚀っおくれた。長男が「知っずるよ、それ」ず笑い、長女も、埗意げにうなずいた。

    今は月に䞀床、か぀おの職堎にパりンドケヌキの出匵販売に通っおいる。元同僚たちが「ゆうみさんの日」ず呌んでくれおいるのが、少しくすぐったい。

    ある日、ゆうみは、䞀通のメヌルを受け取った。差出人は、高瀬さんが連れおきた、あの友人だった。

    「あの日、勇気をもらっお、地域の出産盞談の堎所を、小さく始めたした」

    「最初の利甚者さんが、2人だけでした」

    「でも、その2人が、たた誰かを呌んでくれお」

    「今、近くの町村からも集たっお、15人になりたした」

    「枬れないからっお、䟡倀がないわけじゃない。あの蚀葉を、䜕床も思い出しながら、ここたで来たした」

    ゆうみは、画面の前で、しばらく動けなかった。

    自分が受け取った蚀葉が、自分を通っお、たた別の誰かのずころぞ枡っおいた。灯りは、消えおいなかった。

    その晩、ご本人の快諟があり、ゆうみは月暹あかりに、そのメヌルを転送した。

    あかりからは、こう返っおきた。

    「これで、䜕人目でしょうね」

    「あなたから始たった灯りが、もう䜕本の、別の灯りになっおいるか。私にも、もう数えられたせん」

    数えられない。

    その蚀葉が、ゆうみの心に残った。数えられないこずは、䞍確かなこずではなかった。数えられないほど、広がっおいるずいうこずだった。

      

    月暹あかりは、アメリカ東海岞のカンファレンスに参加した。

    瀟䌚起業をテヌマにした、ある倧孊䞻催の幎次倧䌚。䞖界各地から、瀟䌚課題に取り組む実践者たちが集たる堎だった。

    あかりは、あるセッションで、自分の掻動を玹介した。

    地方の女性の起業支揎。毛现血管ずいう考え方。枬れない䟡倀を、どう瀟䌚に䜍眮づけるか。

    正盎に蚀えば、あかりは緊匵しおいた。決しお英語に自信はない。日本の、しかも地方の、こんな小さな財団の話が、ここに集たった人たちに、どこたで通じるのか。

    発衚が終わった埌、䞀人の男性が、あかりのずころに歩いおきた。

    䞖界的なむンパクト投資機関の幹郚だった。

    「あなたの話を聞いお、驚いた」

    その男性は、静かに、しかし、はっきりず蚀った。

    「プレれンを聞く前は、日本だけの問題だろうず思っおいた。でも、あなたの話を聞き続けお、気づいた。これは、䞖界䞭で起きおいるこずだ」

    「地方は人口が枛る。女性がケアの仕事を担っお、正圓に評䟡されおいない。非営利で誠実に働いおいる人たちが、䜎廉な賃金になっおいる」

    あかりは、その蚀葉を、黙っお聞いおいた。

    「あなたが䜿った、毛现血管ずいう蚀葉。あれは、私たちが、ずっず探しおいた蚀葉かもしれない」

    その男性は、名刺を差し出しながら、最埌にこう蚀った。

    「あなたの問いを、もっず聞かせおほしい」

    䞀぀の問いが、地球の向こう偎にいる誰かの䞭にある問いず、確かに重なった — その瞬間だった。

    あかりは、倜ホテルに戻っおきおから、ゆうみの顔を思い出しおいた。

    「あなたが売っおいるのは、お菓子の倀段では枬れないものです」

    あの日、喫茶店でゆうみに蚀った蚀葉を、今床は、自分自身が、地球の裏偎で、受け取った。

    灯谷村の毛现血管は、あかり自身も気づかないうちに、囜境を越え始めおいた。

      

    1週間埌、あかり財団の起業むベントが開かれた。

    䌚堎に集たった女性たちの䞭に、䞀人、緊匵した様子の女性がいた。

    35歳。事務職員。雪村ずいう名前だった。離婚を経隓しお、子どもず2人で暮らしおいるずいう。

    ゆうみは、その日、登壇者ずしお呌ばれおいたが、䌚堎の隅から、開始前の様子を芋おいた。

    叞䌚者がマむクを持぀。

    「講垫は、あかり財団代衚の月暹あかりさんです」

    壇䞊に、あかりが立぀。あの日ず、同じ蚀葉から始たる。

    「今日は、起業の話をしたせん」

    䌚堎が、少しざわ぀く。

    雪村さんが、䞍思議そうな顔で、あかりを芋おいた。

    その衚情は、二幎前の、ゆうみ自身の衚情ず、よく䌌おいた。

    ゆうみは、その光景を、䌚堎の隅から芋ながら、ふず思った。

    自分が、あの日聞いた蚀葉を、今、別の誰かが、同じように聞いおいる。

    自分の物語は、もう、この堎所の䞻圹ではなくなっおいく。

    それは、寂しさではなかった。むしろ、䜕かが正しく匕き継がれおいく、静かな安堵だった。

      

    それから、12幎が過ぎた。

    長女・日野花マリコは、地元の高校を卒業するず、東京の倧孊に進孊した。「郜䌚で、いろんな䞖界を芋おみたい」。そう蚀っお、灯谷村を出おいった。

    ゆうみは、それを、止めなかった。むしろ、それでいいず思っおいた。村に瞛り぀けるこずが、正しいずは思わなかった。

    高瀬さんが蚀っおいた、「女は地元を出たら戻りにくい」ずいう蚀葉も、頭の片隅にあった。だからこそ、出おいくこずは、たず、自由に遞べるこずだず、ゆうみは思っおいた。

    東京での4幎間。マリコは、ふずした瞬間に、母が倜䞭の台所でケヌキを焌いおいた埌ろ姿を思い出した。

    瀟䌚人になっお、東京の䌚瀟に就職した。満員電車に乗り、倧きなオフィスで働く。それなりに、充実しおいた。

    しかし、瀟䌚人1幎目の正月、垰省したマリコは、母の店に立ち寄った。レゞの前に䞊ぶ、知らない顔の女性客。「マリコさん お店でお母さんに、い぀もお䞖話になっおたす」ず、声をかけられた。

    その瞬間、マリコの䞭で、䜕かが、静かに動いた。

    2幎埌。マリコは、24歳になっおいた。

    ある日、東京の郚屋で、荷物をたずめながら、ゆうみに電話をかけた。

    「かあか、私、戻ろうず思う」

    「えっ」

    「東京じゃなくおも、灯谷でも、ちゃんず頑匵れる気がするんだ」

    「子どもの頃、かあかが倜䞭たで台所に立っおたの、芚えおるんだよ。あれ、ずっず頭にあっお」

    「東京でもいいけど、本圓は、かあかみたいに、地元で䜕かを䜜る人になりたかったんだず思う」

    ゆうみは、電話を切った埌、立ったたた、涙が止たらなかった。

    マリコは、誰に蚀われたわけでもなく、自分で、戻るこずを遞んだ。

    「女は、地元を出たら、戻りにくい」

    涙をぬぐいながら、高瀬さんの蚀葉が、たた、頭をよぎった。

    しかし、少なくずも、ここに、䞀぀の、新しい毛现血管が生たれた。

    毛现血管は、すぐには増えない。䜕幎も、䜕十幎もかけお、少しず぀枝分かれしおいく。

    「あかりさんが、最初に財団を䜜ったずき、芋おいたのは、きっず、こういう時間の長さだったのだ」ず、ゆうみは、ようやく分かった気がした。

      

    その同じ頃、ゆうみの倫タカシにも、倉化があった。

    地元の芳光䌚瀟で、長く営業をしおいたタカシは、その幎、圹員に就任した。

    䌚瀟の祝賀䌚の垰り、タカシは、少し酒の入った顔で、ゆうみに蚀った。

    「俺、今日、瀟長に蚀われたんだよ」

    「䜕を」

    「『お前、パりンド日和のおかげだな』っお」

    タカシは、少し恥ずかしそうに、続けた。

    「正盎に蚀うずさ。かあかが店を始めおから、家で、収支ずか、原䟡ずか、そういう話を、聞くようになったんだよ。最初は、正盎、なんでそんな现かい蚈算しおるのっお思っおた」

    「でも、い぀の間にか、俺も、䌚瀟の数字を芋るずきに、『これ、本圓に儲かっおるのか』『芋えおない費甚、ないか』っお、考えるようになっおた」

    ゆうみは、少し驚いお、タカシを芋た。

    「もし、かあかがパりンド日和を始めおなかったら。俺、たぶん、今でも、ただの蚀われたこずをやる営業のたただったず思う」

    「かあかが起業しおくれたおかげで、ただのサラリヌマンだった俺も、経営っおものを、近くで孊べたんだ。お店がなかったら、俺、圹員になんお、なれなかったよ」

    ゆうみは、䜕も蚀えなかった。

    あの倜、「倧倉だな  やらない方がいいんじゃない」ず蚀った人ず、同じ人が、今、目の前で。

    「 あの頃は、ごめん」

    タカシは、少し小さい声で、付け加えた。

    「お前が、自分で䜕か始めるの、正盎、怖かったんだず思う。お前が、俺の知らないずころで、匷くなっおいくのが」

    「今は、もう党く、そういうの、ないけどさ」

    ゆうみは、その蚀葉に、小さく笑った。

    「今頃、蚀うんだ」

    「悪い。気づくの、遅かった」

    それでも、その遅れおきた䞀蚀は、ゆうみの䞭の、ずっず固たっおいた䜕かを、少しだけ、解かしおくれた気がした。圓時に比べれば、今のタカシはずっず話が通じお、動いおくれる人になっおいる。

      

    同じ倜、別の土地で。

    東京で、賛助䌚員になった、あの䌚瀟員の男性は、その埌地方に移䜏しお若者支揎NPOを起業。この倜はナヌスセンタヌのパヌティで笑顔の若者たちを芋おいた。

    あかりに刺激された、倖資時代の同期も、地方に移䜏し、独立系財団を蚭立。倧手財団のように囜内倖から巚額の資金調達ず助成を行う日々。

    そしお、䞖界のどこかで — たずえば人口枛少に苊しむ、ペヌロッパの小さな町で。女性の起業が困難な、ある囜の地方郜垂で。寄付文化が育っおいない、東アゞアの非営利団䜓で — 同じ「問い」が、ただ蚀葉にならないたた、誰かの䞭で、静かに灯っおいた。

    地方は、䞖界䞭にある。

    女性は、䞖界䞭にいる。

    非営利ずいう仕事の孀独も、䞖界䞭で、同じ圢をしおいる。

    ゆうみが芋぀けた問いは、ゆうみだけのものではなかった。

    それは、灯谷村の、䞀぀の毛现血管だった。

    しかし、その毛现血管ず同じ皮類の毛现血管が、今、䞖界のあちこちで、ただ名前も䞎えられないたた、䌞びようずしおいた。

    灯谷村の倜は、今倜も静かだった。けれど、その静けさの奥で、確かに䜕かが動いおいた。

    日本の地方ず同じ問いを抱える人は、䞖界各地にいる。

    第シヌズン 完

     
     
    👩👚「ささえずいえば」 🐢🪜「事業のプロデュヌス」 👩👚「どんな事業」 🐢🪜「地方、女性、非営利」 👩👚「どうやっお」 🐢🪜「眠っおいた才胜が、化けたす」 👩👚「実瞟の䟋は」 🐢🪜「女性起業支揎や、非営利事業・医療機関などで、ToCの導入を倚数支揎」

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