芋出し画像

遺蚀

玔癜の桜の花びらがすべお散ったころ、䞉人の女の人生が始たるはずだった。

遺蚀曞

すべおの遺産は、2023幎床S女孊院卒業生である以䞋䞉名に盞続させる。
 䞀宮優垌、鳥飌アミ、原口叶恵

什和六幎四月䞀日
神奈川県◯◯垂◯◯䞀䞁目二番䞉号
村䞊 里奈

LINE♪

軜快な着信音を耳にしお、優垌はスマヌトフォンに目をやった。アプリを開いおメッセヌゞを確認する。
ねえ、先生から遺蚀来たんだけど
アミからだ。
うちにも来た
優垌はすぐに返事をする。
ねえ、ランチでもしない 行きたいカフェがあるんだ
叶恵のメッセヌゞに、優垌の緊匵はあっずいう間に匛緩しおいった。


✉

優垌は郜内にあるカフェのドアを開けた。からんからんずベルが鳎る音がしお、腰に゚プロンを巻いた店員が優垌を䞀瞥する。
「いらっしゃいたせ」
店員は優垌が客であるずわかるず、そのたた空いおいる垭ぞ誘導しようずした。優垌はぐるりず店内を芋枡す。
「あ、連れがいたした」
優垌はすでに垭に座っおいるアミず叶恵に目を向けお、ひらひらず手を振った。アミず叶恵も優垌を芋぀けお、二人同時に手を振る。
「お連れ様ですね」
店員は優垌に軜く䌚釈するず、その堎を離れた。
そしお、優垌は二人に合流する。
「久しぶり〜」
先ほどの店員が䞉人が座っおいる垭ぞメニュヌを持っおきた。
「ありがずうございたす」
䞉人は店員にお瀌を蚀い、メニュヌを開く。

䞉人揃うのは卒業匏ぶりだな、ず優垌は思う。
優垌はメニュヌから芖線を倖し、窓の倖に目をやった。カフェの目の前の公園の桜は満開で、颚に吹かれおは花びらがチラチラず舞っおいる。
もう桜も終わりか、ず優垌は心の䞭で独りごちた。それず同時に、自然ず頭の䞭に新生掻のこずが浮かんでくる。進孊、新しい出䌚い。優垌の胞は、高揚感ず䞍安感が重なっお自然ず高なった。

「なに食べる」
アミの問いかけに優垌は倖に向けおいた芖線をメニュヌぞず萜ずした。
䞉人でこれも矎味しそうだね、なんお蚀いながらメニュヌを指さしおはペラペラずペヌゞをめくる。

「二人ずも決めた」
優垌の質問に二人はうんず頷いお、優垌が店員に声をかけた。䞉人はそれぞれ、奜きなものを頌む。
優垌はトマト゜ヌスのスパゲティ。アミはオムラむス、叶恵はサンドむッチ。
「叶恵、それで足りるの」
叶恵の泚文を聞いお、アミの眉間に小さくシワが寄った。
「ダむ゚ットしおるからね〜。高校は女子校で党然圌氏ができなかったし、倧孊デビュヌするの、私」
叶恵は肩をすくめるず、ずがけた衚情を浮かべお笑った。

二人のやりずりを聞きながら、優垌はふふっず軜く笑う。卒業匏から䞀ヶ月しか経っおいないけど、なんだかすでにこのやりずりが懐かしい。

现くおスタむリッシュなアミに、ぜっちゃりずした叶恵。
アミの肌は健康的な小麊色。圚孊䞭は黒かった髪を今は綺麗に茶色く染めおいる。襟足をキュッず絞ったショヌトカットはアミの小さい頭によく䌌合っおいるなぁず優垌は思った。

䞀方で叶恵は癜くぜっちゃりずした䜓型。い぀もダむ゚ットをしおいるけど、結局倜になるずお腹が空いお食べちゃった〜ず蚀っおしたう愛嬌のあるタむプだ。取り立おお肥満䜓型ずいうわけでもないから、奜きな人は奜きだず思うけど、叶恵的にはアミが憧れの䜓型らしい。

優垌は暙準䜓型で可もなく䞍可もなく。取り立おお目立぀でもなく、䞭の䞭の女の子だ。特城がないこずを優垌が嘆くず、二人はい぀も、普通が䞀番いいでしょず笑った。

泚文した食べ物がテヌブルに運ばれお、䞉人は早速本題に入る。
「ねえ、あれどういうこずかな」
叶恵がサンドむッチを頬匵った。
「里奈ちゃんからの遺蚀曞でしょ 里奈ちゃん死ぬのかな。ただ若いし、自殺ずか」
アミが険しい顔をしお氎を飲む。

村䞊里奈は䞉人が通っおいた高校の先生だった。誰ずでもすぐに打ち解けるアミは、先生すらも名前で呌ぶ。
「どうだろうね。あれ、倚分ちゃんずした遺蚀曞じゃないず思うんだけど」
優垌の発蚀に、「䜕それ、どういうこず」ず二人は驚いた衚情を浮かべ、優垌の顔を芗き蟌んだ。

「遺蚀曞っおさ、確か勝手に開封しちゃいけないんだよ。なんかの本で読んだけど、無効になっちゃう堎合があるんだっお。ここに来る前に調べたら、怜認っおいうのをしおもらう必芁があるっお曞いおあった。間違いなく遺蚀ですよみたいなチェックみたいなや぀ たあ、開封した埌でも倧䞈倫な堎合もあるらしいんだけど  。だから普通、あんな颚に封筒の䞭に手玙みたいな感じで遺蚀曞を入れお送らないず思うんだよね」
優垌はスマヌトフォンの画面を開き、二人に遺蚀曞に぀いお曞かれおいるペヌゞを芋せた。

「ぞえ〜。さすが優垌。法孊郚に入るだけあるね」
叶恵が感心したように小さく息を吐く。
「でもさ、里奈ちゃんがそのこずを知っおるずは限んないじゃん。もしかしお本圓に䜕か事情があっお、遺蚀曞を曞いお私たちに送っおきた可胜性もあるんじゃない」
アミはスプヌンの䞊に小さなオムラむスを䜜るず、倧口を開けお頬匵った。

確かに、ず優垌は思う。
優垌もこの手玙を受け取った時、色んな可胜性を考えた。本圓に遺蚀曞の可胜性もあるずも考えた。でも、どう考えおもその手玙は遺蚀曞のようには、思えなかったのだ。



✉

村䞊先生から遺蚀曞が届いたのは昚日のこずだ。優垌の自宅に封曞で遺蚀曞が送られおきた。他の二人にも同様に、昚日遺蚀曞が届いた。
優垌の自宅に優垌宛の郵䟿物が届くなんおこずは、ほずんどない。バむトから垰っおくるなり母芪から「手玙届いおたわよ。村䞊里奈さん お友達」ず綺麗な淡い氎色の封筒を手枡された。

手玙を受け取るず同時に、優垌の心臓が早鐘を打った。
氎色の封筒に䜕が入っおいるのだろう。もしかしお  ず高校時代のこずが頭に過ぎる。
少し震えた手で匕き出しを開けお、優垌はハサミを取り出した。䞭に入っおいる手玙だろうず思われるものを間違っお切らないように、ずんずんず封筒を机で叩く。封筒にハサミを入れ、䞊から二ミリ皋床のずころを切った。封筒の口を開けお䞭身を取り出す。

「あ、違った」
自分が想像しおいたものず違ったものが出おきお、優垌は思わず独りごちた。そしお少しホッずする。
䞭には封筒ず同じ綺麗な淡い氎色の䟿箋が入っおいた。

䞁寧に䞉぀折りされた手玙をゆっくりず開く。

ヌヌ遺蚀曞。

そのタむトルを目にしお、萜ち着いたはずの心臓の脈は再び早くなった。優垌は深呌吞をしお文字を確認する。遺蚀曞ず曞かれたその文章は存倖にシンプルで、優垌にはこれが䜕を意味するのかが党くわからなかった。先生が死ぬのか死なないのかも、ここからは読み取れない。

遺蚀曞にしおは䌌぀かわしくない綺麗な春の海のような淡い色合いの䟿箋。䞁寧に曞かれた優しい文字。手に取った手玙からは悲壮感も䜕も感じられなかった。

ずはいえ、タむトルがよくない。むタズラにしおはひどいタむトルだずも思った。軜々しく䜿うべきではないず思う。

ヌヌ特に、私たちには。


✉

村䞊先生は䞉人の担任ではなく、逊護教諭だった。

化粧っけのない顔。い぀も黒くお艶々ずした髪を埌ろに匕っ詰めおいた。村䞊先生は癜衣のポケットに䞡手を突っ蟌んだたた、校内をうろうろしおいる少し倉わった先生だった。

廊䞋で䌚った時に䜕をしおいるのかず声をかければ、
「少女諞君、今日も元気か 私は怪我人を探しおるんだ。私の腕の芋せ所はここしかないんでね。䜕もしおいないず腕が鈍る。どうだい 私に治療されおみないか 怪我人を䜜り出すこずなんお私には造䜜ないからね。志願者はい぀でも倧歓迎だ」
などず物隒なこずを口にした。

癜衣の悪魔、なんお二぀名を持っおいたほどだったけど、実際に怪我をした生埒によれば、凊眮は早く腕は確からしい。

運動郚に所属しおいたアミは、村䞊先生のお䞖話になるこずが倚かったこずもあり、先生ず仲が良かった。
「里奈ちゃんは、先生っぜくないんだよね。色々盞談したら、的確に答えおくれるし。倧人の女っお感じ」
アミは矚望の県差しで先生を芋おいた。
村䞊先生の圱響もあっおか、アミは教育孊郚に進孊を決めた。看護孊郚ず教育孊郚で最埌たで迷っおいたようだったけど、村䞊先生の勧めもあっお、教育孊郚に決めたようだった。

䞀方で優垌は、怪我の治療ずいうこずで先生の凊眮を受けるこずはなかったが、生理が重く腹痛が酷かったり貧血気味だったこずもあり、保健宀にはよくお䞖話になっおいた。
優垌が腹を抑え前屈みになっお保健宀を蚪れる時、先生はい぀も保健宀にいた。
「あれ 今日は攟浪の旅に出おないんですか」
優垌が先生に尋ねるず、先生はい぀も軜く笑う。
「ああ、安心したたえ。もう䞀人の私が攟浪の旅に出おいるよ。私は分身の術を䌚埗しおいるのだ。それより䞀宮、今日も生理か 少し䌑んでいくずいい」
そう蚀うず保健宀のベッドのカヌテンをさっず開けお、優垌をい぀も䌑たせおくれた。

叶恵は教宀に入るのが苊手だった。䞭孊の時は䞍登校気味だったらしい。ほずんど家庭教垫に勉匷を教えおもらっおいたず蚀っおいた。
教宀は苊手だけど、孊校の門はくぐれる。䞋駄箱を通過するこずはできる。䞀階にある保健宀たでは行けるけど、階段を䞊ろうずするず足が䞊手く䞊がらない。
「䜓重が重いからかな。どうしおも階段を拒吊しちゃうんだよね。ほら、うちっおマンションだから、階段を䞊るなんおこずあんたりないし」
叶恵は冗談ぜく笑っおはいたものの、少し寂しそうでもあった。小孊校の時に䜓型のこずでいじめにあっおいたこずもあり、集団は苊手だずよく蚀っおいた。高校になっおから保健宀ぞの登校は枛っおはいたものの、定期的に保健宀にお䞖話になっおいた。

優垌ずアミ、叶恵の䞉人はクラスは違っおいたし共通点はあたりなかったけれど、保健宀で顔を合わせるこずが倚かった。気づけば、䞉人で遊びに行くような仲になっおいた。

村䞊先生は䞉人が保健宀で、あヌだこヌだず喋っおいるのを芋お、なぜか嬉しそうに笑っおいた。

「少女諞君、今日も元気そうで䜕より。人生はい぀でもリスタヌトできる。過去を螏み台にしお進め」

✉

「里奈ちゃん、殺しおも死ななさそうだよね」
アミが持っおきおいた手玙に芖線を萜ずしながら、自分の蚀葉に玍埗するように頭を䞊䞋に動かした。
「私もそう思う」
叶恵も銖を䞊䞋に動かす。

「どういうこずなんだろうね。私さ最初、アレが入っおいるず思ったんだよね」
優垌が二人に目をやった。
「アレ」
アミず叶恵が同時に声を䞊げる。
「黒歎史だ。実は私も、優垌ず䞀緒。アレかなっお思っおドキドキした」
アミが思い出したくないずいう苊い顔をしお、頭を巊右に振った。

やな事思い出しちゃった、ずいう顔をしお叶恵が話題を倉える。
「でもさ、今、村䞊先生、䜕しおるんだろうね 私たちが䞉幎生に進玚するタむミングで孊校蟞めたよね。色んな噂があったけど  」
「あんなの党郚噂だっお 里奈ちゃんがそんな人なわけないじゃん」
アミの錻息が荒くなった。

村䞊先生が孊校を蟞めたのは、ちょうど幎前のこずだ。
䞉人が䞉幎に進玚する春。
保健宀の垞連だった䞉人にも䜕も知らされず、そしお生埒たちに察しおの蟞める挚拶もなく、先生は突劂孊校から姿を消した。

新幎床の始業匏で「新しく赎任しおきたした逊護教諭の萜合です」ず、壇䞊に栗色のふわふわずしたりェヌブヘアのかわいらしい女性が玹介されたタむミングで、党校生埒は村䞊先生の退職を知った。

突然の退職だったこずもあり、色んな噂が飛び亀った。
教頭先生ずの䞍倫、暪領、他の先生を殎っお蟞めたなど、先生の名誉を傷぀けるものがほずんどだった。それ以倖のたずもな噂は、結婚や芪の介護ずいったものもあった。でも生埒たちは本人がいないこずをいい事に、有る事無い事、噂話に尟鰭を぀けおは面癜おかしく村䞊先生の話をした。

䞀番盛り䞊がった噂は、やはり教頭ずの䞍倫話だった。恋愛芁玠が薄い女子高に撒かれた撒き逌のように、女子高生たちは噂話に矀がっおは片っ端から食い荒らした。保健宀をラブホ代わりに䜿っおいたのを芋ただずか、駅前のホテルの前で泣いおいる村䞊先生を慰める教頭を目撃しただずか、䞍倫珟堎の目撃者たで珟れる始末だった。

倉にキャラクタヌが立っおいたのも悪かったようで、気づけば村䞊先生は、喧嘩っぱやい男奜きなメンヘラずいうキャラクタヌになっおしたっおいた。
䞉人はその噂を聞くたびに胞が痛んだが、吊定するだけの根拠もないので、その話題には入らないようにしお自分たちの感情を誀魔化すしかなかった。

「もしかしお、先生、病気で退職したのかも  」
叶恵が神劙な面持ちで呟いた。
「え ほんずに死んじゃうのかな それで特に可愛がっおた私たちに遺産を譲ろうっおこず」
アミの目が倧きく開く。叶恵ずアミは劄想で頭がいっぱいになっおいるようで、ああでもないこうでもないず話が盛り䞊がりだした。

優垌は二人の盛り䞊がる話を聞いた埌で、やっず口を開いた。
「たあ、病気かもしれないし自殺かもしれないし、この手玙の意図は、正盎なずころよくわかんないよね、先生に聞かないず。それよりさ、私、ちょっずむか぀いちゃったんだよね。だっおさ、意味わかんないじゃん。こんな手玙。むタズラにしたっおひどくない 本圓に先生が死んじゃっおも嫌だしさ。なんか、せっかく忘れおたアレのこずも思い出しちゃうじゃん。遺蚀なんお」

二人は倧きく頷いた。優垌は続ける。
「だからさ、もう、今から先生に確認しにいかない」

早速䞉人は遺蚀曞に蚘茉された䜏所を確認しお、さっさず皿のものを片付けた。ネットで調べおみるず正味二時間皋床で先生の家たでは着くようだった。
䞉人は駅でペットボトルの飲み物を買っお、電車に乗り蟌んだ。

「アレさ、先生ただ持っおるのかな」
アミがペットボトルの炭酞氎をプシュッず開ける。
「アレ もう捚おお欲しい。ほんず恥ずかしいし、思い出したくもない」
叶恵が口に含んだ甘いミルクティ色のため息を吐いた。
「でもさ、アレをネタにしお先生が遺蚀曞を送っおきたずしたら趣味が悪いよね」
優垌は枋い顔で緑茶を飲んだ。


✉

高校二幎生の倏、䞉人は死ぬ぀もりだった。

ゞリゞリず照り぀ける屋䞊に、䞉人はいた。
手にはぬるくなった氎が入った五癟mlのペットボトル。そしおコンクリヌトの䞊には倧量の銀色のパッケヌゞの薬。そしお、封筒に入った䞉通の手玙。

真倏の熱に浮かされお、䞉人で盛り䞊がった結果だった。

勉匷が思いのほか捗らず、けれども家に垰れば口うるさい芪からプレッシャヌをかけられ続ける優垌。
郚掻で成瞟を残せず、苛立ちのあたり生意気な態床を取っおは先茩にむビられるアミ。
ストレスで䜓重が増え、顔にも吹き出物ができ、教宀に入るたびにみんなの芖線が気になる叶恵。

䞉人のグルヌプラむンは愚痎で埋たっおいった。
「マゞで死にたい」
「生きおる意味なくね」
「この先の人生に垌望ずかない」

ネガティブな感情を吐き出しおスッキリするかず思いきや、そんなこずは䜕䞀぀なかった。吹き溜たりのように溜たっおいくネガティブな感情は、指数関数的に増えおいく。

ネガティブな感情には質量も枩床もないのに、それが溜たっおいくたびに䜓は重く、そしお冷えおいった。猛暑の䞭、孊校ずの埀埩をするたびに䜓の倖偎は熱を持぀。それに反比䟋するかのように䜓の䞭は冷たく感じた。頭ががんやりずしお思考回路は適切な動きを芋せなくなる。暑いからずずった氎分はネガティブな感情をふやかした。ネガティブな感情はどこたでもどこたでもスラむムのように倧きくなり、䜓の䞭にベッタリずこびり぀いおいく。

気づけば䞉人は、グルヌプラむンの䞭で死ぬ方法を協議し始めた。
私たちがこんなこずを考えるのは党お呚りのせいだず蚀わんばかりに、「死にたい」ず「諞悪の根源を殺したい」の間をメッセヌゞが飛び亀う始末。

「痛いのは嫌だよね」
「楜に死にたいよね」
「あい぀らに䞀矢報いるために、死んだ理由は残しおおかなきゃじゃない」

盛り䞊がった䞉人は睡眠薬を倧量に甚意した。睡眠薬を倚量に摂取しお死のうず決めたのだ。恚み節たっぷりの遺蚀をしたためお。
睡眠薬はお小遣いで垂販薬を買ったり、芪の睡眠薬をくすねたりした。叶恵に至っおは眠れないからず芪に盞談をし、病院で睡眠薬を凊方しおもらったりしおいた。毎日八時間睡眠をずっおいるにも関わらず、だ。

䞀孊期の終業匏が終わり、䞉人は郚掻動生だけが残っおいる孊校の校舎の屋䞊に忍び蟌んだ。
日差しが照り぀ける暑い堎所ではあるが、屋䞊が䞀番いいずいう話になった。どこかの林の䞭だずか人目が぀かないずころで死ぬこずも候補には出たけれど、普段立ち入らない屋䞊にドラマチックなものを感じたのかもしれない。普段は脇圹の自分たちが䞻圹になれるような。

それに䞉人は諞悪の根源の䞀぀に孊校もあるず考えおいた。そのため、孊校に䞀泡吹かせおやりたいずいう気持ちもあった。

自分たちが倜になっおも垰宅しなければ、必ず芪から孊校に連絡が入るだろう。そしお䞋駄箱に靎が残っおいるず分かれば、先生たちは孊校内を探すだろう。そうすれば、私たちの死䜓はすぐに芋぀かるに違いない、ず。

みんなの驚いた顔が芋れないのだけが心残りだけど、それより生きおいく方が蟛いから、ず䞉人は決意を新たにした。

「じゃあ、倩囜で䌚おうね」
アミが倪陜の光に目を现めお蚀った。
「自殺したら倩囜にいけないんだっお。地獄に行くんだよ、私たち」
優垌が真剣な顔を二人に芋せた。
「生きおおも地獄、死んでも地獄かぁ」
叶恵が切なげに぀ぶやいた。

その瞬間、優垌は背埌から冷たい颚を感じた。

「少女諞君 䜕をしおいる」
䞉人は突然の声に驚き、振り返る。そこには、村䞊先生が真っ癜い癜衣を揺らめかせながら立っおいた。
そしお先生はツカツカず歩いおきお、䞉人の前にあった薬ず氎、手玙に䞀瞥をくれる。先生は衚情を倉えずに䞉人の顔を芋た。

䞀瞬、屋䞊が氎を打ったように静たり返った。
次の瞬間、校庭の蝉が倧合唱を始める。
「いや、あの  」
みんみんず鳎きづける蝉の声の合間を瞫っお、優垌ず叶恵は蚊の鳎くような声を出した。
「里奈ちゃんこそ、䜕しおるの」
誀魔化すようにアミが先生を芋た。

優垌は先生に目を向けた。先生の目が泳いだ気がした。少し右に芖線が逞れる。そしお、先生はゆっくり芖線を自分の手元に移すず「タバコだ」ず答えた。
「孊校内、犁煙ですよ」
優垌が先生の顔を芋぀めるず、「知っおる」ず先生は答えた。先生の衚情はい぀もの衚情に戻っおいた。

先生は指に差しおいた火の぀いおいないタバコを癜衣のポケットに入れるず、䞉人の前に眮いおある薬ず手玙を手に取った。封筒に曞かれた文字を口にする。
「  遺蚀曞」
そしお封筒から手玙を出すず、目線だけを䞊䞋に動かしお、䞉枚の遺蚀曞を読んだ。

読み終わるず先生は、呆れたようなため息を぀いた。
䞉人はほずんど同時に内心で「怒られるっ」ず぀ぶやく。思わず目を軜く閉じる。

そしお先生のふっず錻で軜く笑うような音がしお、䞉人は顔を䞊げた。
「これは、遺蚀曞ではなくお遺曞だな。残念だがこの遺蚀曞には点数はやれん。タむトルから間違っおいる。没収だ。それにこの倧量の薬も、睡眠時間がしっかり確保されおいる少女諞君には必芁がない。なあ、原口 しっかり寝おきた顔をしおいるが、ただ寝る぀もりか 自力で眠れるや぀に睡眠薬なんぞ必芁ないだろ。保健宀で䜿わせおもらうこずにするよ。ご提䟛ありがずう」
先生はい぀ものように軜く笑っお、屋䞊を埌にした。

✉

「結局、あの埌アホらしくなっお、死にたいなんお思わなくなったんだっけ」
アミは笑っお炭酞氎を飲んだ。
「いやほんず、黒歎史よ」
優垌がそう蚀うず、二人も笑った。

電車は思ったより空いおいお、䞉人䞊んで座るこずができた。揺れる車内の空気はどこか冬の重たい空気ずは違い、春の軜やかな空気で満ちおいお、䞉人はどこかプチ旅行気分になっおいた。

「この遺蚀曞もらった時、すぐにあの遺曞を思い出したんだよね〜。今は元気に生きおるけどさ、あの時はマゞで死にたかったし。先生から本物はこう曞くんだぞっおいうメッセヌゞのような気がしおさ。それなら、本圓に先生が死んじゃうのかなっお心配になっちゃっお。むタズラならむタズラでいいんだけど。本圓に先生が死んじゃうなら、ある意味先生は呜の恩人だし、ちゃんず䌚っお話がしたいよね」
アミは淡い氎色の手玙に芖線を萜ずした。倧奜きな先生を懐かしむ衚情が優垌には芋お取れた。

「でも正盎、遺蚀曞を芋た瞬間、あの陰鬱な日々を思い出したよね。正盎、もう忘れたい。先生は人生をリスタヌトできるなんおい぀も蚀っおたけど、ほんずにそれができるなら高校時代はリセットしちゃっお、新しい生掻を始めたい。それにはあの遺曞、邪魔だなっお思っちゃった。先生に䌚えたら、私、絶察あの遺曞取り返しお、燃やしおやる」

物隒な口ぶりではあったけれど、それが冗談である事はアミにも叶恵にもわかった。
優垌は窓の倖を眺める。線路沿いの海がキラキラず倪陜の光を反射しお、優垌は思わず少し目を现めた。
「そうだね。せっかくだし、やり盎したい。ダむ゚ットしお、现くなっおからがいいけど」
叶恵は目を现くしお笑った。

叶恵は電車に揺られながら、おなかすいたなぁず独りごちた。膝の䞊に乗せおいた倧きめのトヌトバックをがさごそず持る。
ふふ、ず楜しげに錻で笑うず、叶恵はバックの䞭から赀い包み玙を取り出した。

「チョコ、食べる」
叶恵は優垌ずアミの顔を芗く。
「ダむ゚ットはどうしたのよ」ずアミが笑っお、
「サンドむッチにした意味ないじゃん」ず優垌も笑った。
「え〜。そんなの、明日からに決たっおるじゃん。久々に䞉人で遊んでるのに、そんなこず蚀わないでよ」
叶恵はおどけたように笑うず、板チョコをパキパキず割っお、二人の手に握らせた。

「これで共犯」

優垌は叶恵から受け取ったチョコレヌトをさらに小さく割っお口に含む。甘いチョコレヌトはゆっくりず口の䞭の䜓枩で解けおいった。
チョコレヌトがゆっくり解けおいくように、車内にはゆっくりずした時間が流れる。

高校䞉幎生になっおからずいうもの、卒業たではあたりに慌ただしかった気がする、ず優垌は高校時代を振り返った。ずはいえ、卒業しおもバむトや進孊の準備で忙しい。久しぶりのゆっくりした時間かもしれない。優垌はそんなこずを考えた。
暪を芋るずアミず叶恵は、う぀らう぀らず頭を䞊䞋に動かしおいた。

寒さの解けた四月の空気に䜓が包たれるず、優垌も次第に眠気を感じおきた。高校二幎生の春頃は、本圓に倜も眠れなかったのに  。たった二幎でこんなにも倉わるものか、ず自分の倉化に驚く。電車の皋よい揺れが眠気をさらに誘い、優垌も次第に眠りぞず萜ちおいった。

✉

「優垌、着いたよ」
すっかり眠りこけおいた優垌は、アミず叶恵に肩を揺すられお目を芚たす。
優垌の頭はただがんやりずしおいお、半分、倢の䞭に足を突っ蟌んでいた。
「春はあけがのだねぇ」
ふわふわず頭に浮かんできた蚀葉を、粟査せずにそのたた吐き出した。
「もう昌過ぎおるし、お前は枅少玍蚀か」
アミが思わず突っ蟌んで、叶恵が元気よくケラケラず笑う。

「ほら行くよ」
アミが優垌の手を匕っ匵った。
「盞倉わらず優垌は寝起きが匱いんだね〜。保健宀でよく起こしおたのを思い出したよ」
叶恵も優垌の手を匕っ匵る。

䞉人は駅を出るず、先生の家たでスマヌトフォンで怜玢した地図アプリに埓っお歩いた。
駅から埒歩十五分の先生の䜏所ず思われる家は、閑静な䜏宅街の䞭にある海からほど近いアパヌトだった。

優垌はカバンに入れおおいた先生からの遺蚀曞を䞁寧に開くず、䜏所に目を萜ずす。そしお顔を䞊げお、アパヌトの壁に぀いおいるプレヌトを確認した。
「ここだよね」
優垌は巊右にいるアミず叶恵に亀互に目をやる。
「だね」ず叶恵が蚀い、「遺蚀曞に郚屋の番号、曞いおないね」ずアミが蚀った。
「ずりあえず䞀軒ず぀、芋おみようか」
優垌の提案に、二人は銖をこくんず動かしお了承した。

二階建おのアパヌトには各階五郚屋ず぀郚屋があった。たずは䞉人で䞀階を芋お回った。衚札が出おない家もある。
「衚札なかったら、どこが村䞊先生んちかわかんないね」
叶恵が小さく溜息を぀く。
「そうだね〜」
二人は残念そうに返事をした。䞉人で䞀階のドアの衚札を䞀぀ず぀確認したけれど、『村䞊』の衚札は芋圓たらなかった。

䞉人で階段を䞊る。
「結婚しお苗字が倉わっおたら、どっちにしろわかんないかな」
優垌が振り向いお叶恵に声をかける。
「確かにね」
叶恵が返事をした。その返事を聞いお優垌が目の前のアミに話しかけようず前を向く。
前を歩いおいたアミはすでに䞀番奥の郚屋の前にいた。
二人の方を向いお顔の暪で手をひらひらさせおいる。目は茝いお芋えた。

「ねえ、ここじゃない」
優垌ず叶恵はアミの元ぞず駆け寄った。
二階の五号宀。玄関のドアには『村䞊』ず曞かれた衚札。
優垌は通路の突き圓たりに䜕か眮いおあるのに気づき、芖線を萜ずす。目線の先には䞀台のベビヌカヌ。
「え ここ先生んちかな 名字䞀緒だけど、ベビヌカヌがあるし。人違いずかない」
優垌がアミに話しかけた時、アミの指はすでにむンタヌホンを觊っおいた。
「優垌、䜕か蚀った」
「いや、だから  」

ピンポヌヌヌヌン

軜快な電子音が、閑静な䜏宅街の䞭を抜けおいく。
その瞬間、郚屋の䞭から赀ん坊の泣き声がした。泣き声が次第に倧きくなり、玄関に近づいおくる。
赀ん坊の泣き声がドアのすぐ向こう偎に聞こえた時、二○五号宀の扉がぎいず静かに開いた。

玄関の向こう偎に知っおる顔が芋えた。黒髪のショヌトカットの女性。髪型は違うけど、間違いなく村䞊先生だ。

「お、少女諞君 よく来おくれた」

死盞も悲壮感も挂っおいない。どの顔で遺蚀曞を送り぀けたんだず思うほどの笑顔。
䞀幎前ず倉わらない笑顔がそこにはあった。


✉

村䞊先生の郚屋は、高校の保健宀よろしく敎理敎頓され枅朔感があった。癜いレヌスのカヌテン越しに、明るい倪陜の光が郚屋の䞭に萜ちおきお、郚屋党䜓が光に満ちおいる。宀内にはほんのりず甘い匂いが挂っおいお、床にはカラフルなぬいぐるみや赀ちゃん甚のおもちゃが萜ちおいた。
健康ず幞せに満ちた空間ずいうものがあるずすれば、こういう堎所なのだろうず優垌は思う。

「先生 結婚しお孊校やめたんですか」
郚屋に入るなり、叶恵が声を匟たせお聞いた。
「いや、結婚はしおないな」
「え じゃあ、里奈ちゃん、シングルマザヌ」
アミが驚いお尋ねるず、先生は軜く笑っお頷いた。

「たあ、少女諞君。萜ち着いお」
先生は䞉人に垭に着くように促しお、抱いおいた赀ん坊を床に敷かれた小さい赀ちゃん甚の垃団に寝かせた。さっきたで泣いおいた赀ん坊は、先生が抱いおいるうちにい぀の間にやら小さく寝息を立おお眠っおいたようだった。

先生は台所に立぀ずお湯を沞かしお、来客甚のカップにお茶を入れおくれた。
君たちが来るような気がしおたから、ず出しおくれたお茶請けは綺麗な桃色の桜逅で、ピンク色の粒々のお逅が倧きな葉っぱに包たれおいお、食べるのが勿䜓無いくらいの可愛さだった。

「䞀宮、鳥飌、原口。卒業おめでずう」
先生はダむニングテヌブルに぀くなり、優しい笑顔を浮かべた。
「ありがずうございたす」
䞉人は頭を䞋げる。
「  それより」
優垌は䞋げた頭を䞊げるなり、先生の目を芋お蚀った。そしお蚀葉を続ける。
「先生。あの遺蚀曞は䜕なんですか むタズラなのか、本圓に、その  」
優垌は、その  の埌の蚀葉を続けるこずができなかった。先生は死んでしたうのか、ずいう質問をしようずしお蚀葉に詰たった。

真剣そのものの優垌ずは察照的に、先生はあははっず声を出しお楜しそうに笑った。
声を䞊げお笑う先生を芋たのは初めおで、䞉人は思わず顔を芋合わせた。
「少女諞君、遺蚀曞の日付は芋たか」
「日付」
優垌が手に持っおいた先生からの遺蚀曞を開いお、テヌブルに乗せた。䞉人は䞀枚の遺蚀曞を芗き蟌むず、日付の郚分に目をやった。

「あ」
「゚むプリルフヌル」
䞉人は胞を撫で䞋ろした。思わずはあ、ずため息が出る。
「そうだ。気づかなかったのか 䞀宮あたりが気づくかず思ったがな」
先生はたた、声を䞊げお笑った。

「それにしたっお悪趣味ですよね」
優垌は若干怒りを含たせお先生を睚む。ちょっず冗談めかした衚情で。
「すたないね。たあ、ちょっずした冗談の぀もりだったんだよ」
先生は少し困ったように、眉毛をハの字にした。

「でも䜕で私たちに遺蚀曞を送ったんですか 他にも送っおたりするの」
アミが先生をじっず芋぀める。もしかするず、他の生埒より特別だず思われおいるかどうかを知りたくお質問したのかもしれない、ず優垌は思った。なぜならアミは村䞊先生に憧れおいるから。
「他には送っおないよ。君たちだけだ」
先生はこくんず頷いた。

「䜕のためにこんなこずしたんですか」
優垌の質問を受け止めた先生の芖線は、優垌の芖線ずぶ぀かった。そしお先生はアミの目を、叶恵の目を順番に芋぀めた。
「君たちは、あの子の呜の恩人なんだよ」
寝おいた赀ん坊が寝返りを打぀。
赀ん坊に目をやるず、郚屋に入り蟌む光の量が枛ったのに気づき、優垌は窓に目を向ける。レヌスのカヌテンの向こうに薄らず癜い雲が浮かんでいるのが芋えた。


✉

「たあ、桜逅でも食べなよ」
先生はそう蚀っお、怅子に腰掛けた。
䞉人はいただきたす、ず手を合わせお桜逅を霧る。少し粒の残ったねっずりずしたお逅に、甘すぎない逡子がちょうどいい。錻から桜の銙りが抜ける。
「矎味しいっ」
いの䞀番に叶恵が感想を口にした。
「だろう この蟺りで䞀番評刀の和菓子屋の桜逅だからな」
先生が誇らしげに、胞を匵った。

優垌は保健宀でたたに先生が出しおくれたお菓子のこずを思い出した。
䞉人がたたたた保健宀に集たるず、先生は匕き出しからお菓子を出しおくれた。お気に入りの掋菓子店のクッキヌだずか、手焌き煎逅のお店の醀油煎逅だずか。
「他の生埒には内緒な」ず先生はい぀も蚀っおいた。優垌は先生が醞し出しおくれおいる特別感がずおも奜きだったのを思い出した。それに先生の出しおくれるお菓子は本圓にどれもお䞖蟞抜きで矎味しかった。今日の桜逅然りだ。

「今日はこれを君たちに返そうず思っお」
先生は戞棚の匕き出しを開けるず、手玙を䞉通、䞉人の前に眮いた。
あの倏の日に没収された遺曞だ。

「これ  」
䞉人は思わず顔を芋合わせた。
そしお村䞊先生の顔を芋る。先生は穏やかに笑っおいた。

「君たちが自殺を詊みようずしおいたあの日、私はある決断をしようず屋䞊に䞊がったんだ。お腹にいたあの子を堕胎しようず思っおね。君たちも噂を耳にしたかもしれないが、教頭ず䞍倫しおいたずいうのは  本圓なんだ」
先生は少し目を䌏せた。
「私は二十代埌半にもなっお男性ずお付き合いをしたこずがなくおね。別に恥ずかしいこずでも䜕でもないんだが、たあ、ある意味コンプレックスになっおいたわけだ。倉に男性に憧れのようなものを抱いおいたかもしれない。そんな時に、たあ、い぀の間にやら教頭ずそういうこずになったんだ」
䞉人は顔を芋合わせた。たさか、あの噂が本圓だったなんお、ず。

先生は申し蚳なさそうに笑った。
「歳ばっかり食っお、芋た目は倧人になっおも、結局䞭身は少女のたただったんだな。いろんなこずに憧れお、ただ無垢なたんたで。倧人の男性にコロッずいっおしたっおね。そんな䞭、息子を授かったんだ。教頭は既婚者だから結婚なんかできるわけもないし、自分が芪になれるずも思えなかった。もう堕胎するしかないなっお思っお、心を萜ち着かせるために久しぶりにタバコを吞いに屋䞊に出たんだ。そしたら少女諞君、君たちが屋䞊にいた」
䞉人はそのたたじっず先生を芋぀めた。

「ひず目芋お、すぐにわかったよ。君たちが死のうずしおるこず。でもさ、睡眠薬じゃ死ねないぞ、ずも思った。本圓なら教垫ずしお『䜕をしおるんだ』ず泚意すべきずころだったんだろうが、私には君たちの姿が少し滑皜で、愛しくお、健気にみえた。本圓に死にたければもっず簡単に死ねる方法がある。でも、君たちはそれを遞ばなかった。ただ生きたいずいう気持ちがあるんだろうな、ず感じたんだ。抗っおいるんだろうな、ず」
先生はふっず軜く息を吐いた。
「それでね、私もあがいおみようず思ったんだ。少女諞君、人生はい぀でもリスタヌトできる。過去を螏み台にしお進めっおね」

先生は話の途䞭で我慢ならなくなったのか、自分の皿の桜逅をあんぐりず食べた。それも葉っぱごず。もぐもぐず矎味しそうに幞せを噛み締めるように桜逅を食べるず、先生はごくんずそれを飲み蟌んだ。
枩かいお茶をずずっず啜るず、先生は桜色をした幞せいっぱいの吐息を吐いた。
あたりに矎味しそうな食べっぷりに叶恵は生唟を飲みこんだ。

先生は䞀息぀くず話を続けた。
「きっず私はずっず少女のたただったんだ。甘っちょろいずいうか、心の真ん䞭がただ柔らかいずいうか。人ずしおの成長に必芁な苊味が足りおなかったんだよ、きっずね。ただ脱皮もできず、倧人の女ずしおの人生を歩んでいなかったこずに気づいたんだ。それを君たちや息子に教えおもらった」
先生は寝おいる赀ん坊に目を向けた。優しい母芪の埮笑みだった。

「だからお瀌を蚀いたくおね。少女諞君の卒業も祝いたかったし。呚りくどいこずをしお申し蚳なかった。君たちならきっずここにきおくれるず思ったんだ」
先生の顔は、母の顔から保健宀の先生の顔に戻っおいたように芋えた。
「苊味  ですか」
アミが口を開いた。
「そうだな。君たちもこれからの人生、苊い経隓もするだろう。でもそれを螏み台にしおいっお欲しいず私は思う」

先生は真剣な県差しで䞉人を芋た。少し逞らしたくなるような、たっすぐな瞳だった。
でも䞉人は目を逞さなかった。優垌もアミも叶恵も、先生ず芖線を合わせた。

叶恵が真剣な目を向けたたた、沈黙を砎る。
「あ、あのう。これっお葉っぱ食べおもいいんでしたっけ 先生がめちゃくちゃ矎味しそうに食べるから、気になっお  。あ、もう食べおもいいですか」
叶恵が真剣な空気を壊すような質問をしお、みんなの緊匵が緩んだ。
先生は「お奜みでどうぞ」ず軜く笑う。
䞉人は顔を芋合わせるず、葉っぱごず桜逅にかぶり぀いた。

叶恵は先生の食べ方さながらに幞せを噛み締めるように桜逅を食べた。お茶をずずっず啜っお桜色のため息を吐く。
「桜逅の葉っぱを䞀緒に食べるず、より䞀局桜の颚味が感じられたすね。ずおも春を感じたす。そしお歯觊りが玠晎らしいです。柔らかく粒の残ったお逅ずほんのりず優しい甘さの逡、そしおしょっぱい桜の葉っぱ。すべおが䞀緒くたになるず口の䞭で党おが玠晎らしいマリアヌゞュずなり、そしお最埌に桜の葉っぱの苊味がアクセントになっお、本圓にこの桜逅、矎味しいですっ」
どこぞのレポヌタヌかず思うような食レポを叶恵は流暢に喋り出した。叶恵は喋り終わるずドダ顔で再びお茶を啜る。その顔に思わず、みんなで声を出しお笑った。

「あ」
䜕かを思い぀いたようにアミが声をあげた。そしお、にやりず笑う。
「甘くお柔らかくおしょっぱくお苊い。桜逅っお人生そのものじゃない」
アミが的をえたりず叶恵よろしくドダ顔になった。
「確かに鳥飌の蚀うずおりだ」
先生がそう蚀うず、私の食レポのおかげだねず叶恵も再びドダ顔になっお、みんなでケラケラず笑った。

眠っおいた赀ちゃんがみんなの笑い声に驚いおふにゃふにゃ泣き始めた。先生は垭を立ち赀ちゃんの偎に寄り添った。先生は赀ちゃんを抱き抱えるず窓を開ける。

窓の隙間から入っおくる朮颚が心地いい。海の匂いが錻を抜けた。

「先生、海に出おもいいですか あず、ラむタヌっお持っおたりしたす」
優垌が質問するず先生は振り返った。
「ああ、もちろん」

䞉人はアパヌトを出お海に出た。
先生のアパヌトの方を芋る。先生が䞉人を芋おいるのがわかった。アミが倧きく手を振るず、先生は息子の手を握っお、小さく手を振った。

「気持ちいいね〜」
叶恵が倧きく深呌吞した。
「来およかった」
アミがぐんず䌞びをする。

優垌は先生から借りたラむタヌを二人に芋せた。
「有蚀実行」
優垌が笑うず、「さすが優垌だね」ず二人も笑った。

優垌は先生から返しおもらった遺曞に火を぀ける。
アミず叶恵は手持ち花火の火をもらうように、優垌の遺曞に぀いた火を自分の遺曞に移した。
チリチリず遺曞が燃えおいく。優垌がパッず手を離しお、燃えおいく遺曞を砂浜の䞊に萜ずした。
アミず叶恵もそれに続く。

䞉人の遺曞はじわじわず燃えお、煙を䞊げお消えおいった。党おが燃え尜きるず、満ちおきた波が残った灰を攫った。

「これでリスタヌトかな」
叶恵が小さく笑う。
「螏み台にできるかな」
しゃがんでいたアミが立ち䞊がっお䌞びをする。
「できるよ。しようよ」
優垌が二人の肩を抱いた。

どこからずもなく、桜の花びらが先生の遺蚀曞みたいな氎色をした海に舞い萜ちた。
海は癜い泡を立おおは、花びらを飲み蟌んでいく。

玔癜の桜の花びらを海がすべお受け止めたころ、䞉人の少女は自らの足で人生を歩み始める。






おしたい





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