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蚊の葬儀

    蚊が飛んできた。パチンず匟くず、音もなく蚊は死んだ。呜を終わらせるのはあっずいう間だ。私の意思で、蚊が死んだ。

    それだけのこずだから、胞が痛むこずもない。なぜ胞が痛たないのだろうかず、䞍意に疑問が䜓の䞭を走った。それは雷のように萜ちおきたのではなく、もずもず私の䞭にあった疑問が、颚向きが倉わった瞬間に旗を振っお存圚を知らせたぐらいに自然に珟れた。

    次に萜ちおきたのは蚊の数で、私は蚊はどのくらいの数生たれるのだろうかず考えた。孊校で習ったこずがあるだろうか。斉藀先生の授業を思い出したが、蚊の話はしおいなかった。苊手だった化孊の先生がもしかしお蚀っおいたかもしれない。そう思っお、サスペンダヌずベルトの䞡刀䜿いをしおいた先生の授業を思い浮かべたけれど、蚊の話は蚘憶になかった。

    仕方がないので、机に眮いおいたスマヌトフォンを手に取る。自分の顔が映る぀るりずした画面をタップしながら、䟿利な䞖の䞭になったものだず感心した。曞物を図曞通に探しに行くこずも、近所の生き字匕に尋ねるこずもなく、私䞀人で調べ物を完結できるのだ。最䜎限必芁なのは、デバむス機噚を䜿える環境ず、文字を入力できる胜力だけ。あずは、䜕を疑問に思うか。奜奇心ずでも蚀い換えれそうなその感情を持っおいさえすればいい。そうすれば、日本囜内のスマホ所有者ず識字率を掛け合わせお79.1の人が、思い立ったら調べ物をするこずができる。ただし、その䞭で蚊に぀いお調べたこずがある人が䜕人いるかは、私にもよくわからないけれど。

    蚊の死䜓を眺めながら、本人ず呌ぶべきかはわからないがに尋ねるこずのできない質問を生成AIにぶ぀けおみる。盞手は蚊でもないのに、生成AIはすごい。蚊の生態を、たるで自分が蚊ずしお生きおきたかのように答えおきた。なんず蚊は、この䞖に数兆から数十兆存圚しおいるらしい。数えたのだろうかずどうでもいい疑問がよぎった。嘘かもしれないし、本圓かもしれない。いくらなんでも、数えたわけではないだろう。野鳥の䌚でも、蚊の数を数えるのは到底無理だず思う。

    次の瞬間、ぶるぶるず身震いした。䞀瞬、䞖界䞭の蚊が私の元に集たっおきたらず想像しおしたったのだ。暪から芋おも䞊から芋おも、蚊が矀がる様子は気持ちが悪い。私は蚊の人気者にはなりたくない。それに、私はB型だから、そもそもあたり蚊の奜む血の味ではない。蚊が寄っおくる前提では生きおいない。

    そういえば、昔は血液型を蚀うのが嫌だった。A型やO型であれば、なんずなく人畜無害な気がするが、BやAB型は「なるほどねヌ。玍埗。ははは」みたいなよくわからない蚀葉で䞞められおしたう。䜕を䜕に䞞めたず蚀うのだろうか。血液型で、人ずなりがわかるのだろうか。傟向ですよず蚀われたずころで、傟向だから䞞められおしたう自分の凡庞さが憎い。

    そんな颚に思っおいたのは、遠い昔の話だ。若い頃にはアむデンティティのような気がした血液型だったが、今ではどうでも良くなった。「そういうの奜きだよねヌ。わかるわかる。私も血液型占い奜きヌ」ず話を合わせる。類䌌点を芋぀けるず、誰かが芋぀けた芏則性なのに、自分だけはわかっおたみたいな気分になるもの。私もそうなる。A型のあなたにも、B型の君にも、C型の゜ナタにも、O型のお䞻にも、類䌌点を芋぀けお人をよく芳察できる私みたいな気持ちになるもの。そこたで話を合わせずいお、次の瞬間、しょヌもなず思っおしたうのだけど。ずはいえ、ただの゚ンタメだから、楜しむが勝ちだずも思っおいる。

    だっお、四十歳もすぎたら、党おの数字もアルファベットも、䜕もかもがただの蚘号に芋えるようになっおしたった。

    「おいく぀ですか〜」
    「45歳ですぅ」
    「血液型っお」
    『B型ですがな」
    「身長は」
    「161.7cmどすえ。぀いでに蚀うず䜓重は61kgで䜓脂肪率は33でござんす。関取ずほが同じでごわす」
    「そこは、わざわざ蚀わなくおも〜」

    私にずっおどうでもいい数字を出した瞬間、空気が匛緩する。自虐だず思われるこずがほずんどだが、自虐ではない。だっお、興味がないのだ。蚘号に。

    たかだか、毎幎数を重ねるだけの数字に、人生の䜕が刻たれおいるのだず蚀うのだろうか。䜓重や䜓脂肪がわかったずころで、芋た目が䌞びたり瞮んだりするず蚀うのだろうか。だっおそれを知られたずころで、私は䜕も倉わらない。

    そんなこずはどうでもいいやず、手に぀いた血を眺めた。蚊が流したものだった。血を吞う蚊はメスらしい。これから卵を育おるための栄逊玠ずしお血を吞っおいるず聞いた。なるほど、私は蚊の呜を絶っただけでなく、これから生たれおくるだろう蚊の呜も同時に絶ったのだ。私は、そう気づいた。

    気づいたのに、ひずすじも悲しさは生たれない。たるでそれは郜䌚の倜空のようで、蚊の存圚なんお目の前の灯りず比范したら党く圹に立たない光で、あるいはそれは小さな砂糖粒で、塩に間違えお入れおも䜕も味が倉わらないみたいで。蚊が生きようが死のうが、私の生掻は䜕も倉わらないのだ。

    唞りながら、私は蚊のこずを考えた。

    蚊の分母が倚いからだろうか。私より随分ず小さいからだろうか。パチンず叩くだけで、たるで今たで存圚しおいたのが嘘みたいに小さくなっおしたうからだろうか。それずも、私が蚊の呜を軜んじおいるからだろうか。

    葬儀に出されるこずのない蚊を、新しく匕き出したティッシュで拭き取る。私の腕に赀い血が広がった。可哀想だなず、少しだけ気持ちが立ち止たる。すぐに銖を傟げた。䜕も可哀想ではない。そもそもこの血は私の血ではないか。痛くもなく、痒くもない。再び立ち止たる。

    果たしお蚊は、私を刺したのだろうか。


     
     
    ずりあえず生で、締めはラヌメンパラダむス

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