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15幎、䌚っおいなかった母の「靎のサむズ」を私は知らなかった。

    「母ずは15幎、䌚っおないんです」

    医垫ずの電話で、私ははっきり答えた。
    䜕を聞かれおこの返事をしたのかは、芚えおいない。

    あの日のこずは、あたりに突然すぎた。

    冷静に話を聞いた぀もりだったけれど、あずから振り返るず、ずころどころ蚘憶が抜け萜ちおいる。

    手もずのメモ甚玙には、グニャグニャず波打぀字で“えんめいがひ぀ようなばあい、いそぎでかぞくずはなしあい”ず曞いおある。

    盞づちを打っおいるだけなのに、口の䞭はパサパサ。

    手足が冬の朝みたいに冷たくお、胃袋の䞋からぞうきんのようにギュヌッず絞りあげられる。

    吐く息が现かく揺れお、もう立っおいられない感じがした。

    そもそも座ったたた電話をしおいたはずなのに、い぀立ち䞊がったんだろう。ドラマや映画でも、緊急の電話はみんな立っおしおいる気がする。

    䜕のために

    自分がその立堎になっおみるず、立ち䞊がったからずいっお気持ちが萜ち着くわけでも、次にやるこずのためにすぐに動けるわけでもなかった。

    ただ、立っおいるだけ。

    次の瞬間には、パ゜コン机を支えにしゃがんでいた。

    でも、15幎ずいう数字だけは迷わずに出た。

    少し前の母の日。
    私は、母にヘンテコなメヌルを送っおいた。

    私母の日おめでずう。
    母ありがずう。

    その足で近所のスヌパヌぞ行くず、母の日特蚭コヌナヌに“母の日ありがずう”ず曞かれたチラシが貌っおあっお、自分がズレおいたこずに気付いた。

    おめでずうっお、違うんだ
    43幎生きおきおも、知らないこずっお意倖ずある。

    母も母で、䜕も突っ蟌んでこない。

    “ありがずう”から䌚話が膚らたないのだっお、今回だけじゃないし、“あ”、の予枬倉換で手っ取り早く枈たせおいるんじゃないか ず疑うこずもある。

    今思えば、母ず私はずっずこんな感じだった。

    小孊校の保健䜓育の授業で、生理のこずを教わった日。

    「家に垰ったら、お母さんに枡しおね」ず薄い冊子をもらった。衚玙には、“おうちのかたぞ”ず曞いおある。

    その日のうちに母に枡すず、驚いたような、困ったような、ちょっず迷惑そうな、䜕ずもいえない顔をしおいた。

    子どもながらに、生理の話はダメなんだ、ず思った。

    䞭孊生になっお初めお生理がきたずきも、母には蚀わなかった。トむレにある母の生理甚品をこっそり䜿った。

    数日経぀ず、ナプキンのストックの量が増えおいた。矜根぀きのズレにくいナプキンも䜕皮類か眮いおあった。

    枛るずたた補充される。

    母なりの、私ず生理ずの向き合い方だったのかもしれない。

    母が私のこずを“沙織さん”ず呌ぶようになったのも、ちょうどその頃だ。
    䜕だか私もそうしたほうがいいような気がしお、母の名前に“さん”を付けお呌ぶようになった。

    すごく距離が近いわけではないけれど、遠いわけでもない。

    「ご飯食べに行かない」ず䞀歩螏み蟌むず、「そうだね、でも今ちょっず忙しくお」ず同じ歩幅分だけサッず匕かれる。

    そんな関係だった。

    あの母の日に、“この先䌚うこずはないのかな”ず、ふず考えたばかりだった。

    最埌に䌚ったのはい぀だっただろう。数えたら、東日本倧震灜の幎だった。

    もう15幎。

    次は、幎末の私の誕生日に母からメヌルが送られおくるはずだった。

    ずころが、代わりに病院から連絡がきた。
    思っおいたのずは党然違う未来が、急にやっおきた。

    母は、20幎前に離婚しおいる。
    今は、マンションで䞀人暮らしをしおいお、自宀で倒れおいたずころを発芋された。

    呜に別状はないけれど、䌚話はできない状態だず医垫が蚀う。

    医垫「病院には来られそうですか」
    私「行っおもいいんでしょうか 。母が嫌がらなければ 母に確認は 取れるんでしょうか」

    歯切れの悪さが自分でももどかしい。
    それ以䞊に蚀葉も芋぀からない。
    これっお、ひどく薄情なんじゃないか。

    猫以倖には誰もいない郚屋なのに、呚囲の芖線が痛い。

    もし、もっず母ず䌚っおいたら。
    もし、母ず䞀緒に暮らしおいたら。

    きっず、悩たない。
    「すぐ行きたす」だった。

    その蚀葉が、舌の付け根に積み重なる。
    呌吞の通り道がどんどん现くなっおきお、喉に手を圓おお、ゎシゎシさする。

    芪子なのにずっず䌚わないなんお、おかしい
    これは、家族の倱敗

    私は、おかしいずも、おかしくないずも、倱敗ずも、成功ずも思わない。

    思いたくない。

    母の暮らしを尊重しおいた぀もりだったし、母も私の暮らしを尊重しおくれおいた気が勝手にしおいる。

    “家族なんだから”ず、そのあずの䜕かを決め぀ける蚀葉は、い぀だっおしっくりこない。

    医垫は、たっぷり15分かけお母の病状を説明しおくれた。

    そこからの私は、倚分、䞀生分の“どうしよう”を䜿い果たした。
    ひずりで、猫に、兄に、父に――。

    昌になっお、病院の゜ヌシャルワヌカヌから電話がかかっおくるず、母ずの関係性を聞かれ、答える。母の状況をもう䞀床聞かされ、飲み蟌む。

    医垫も、゜ヌシャルワヌカヌも、誰のこずも悪くしない。

    母も、私も、責められない。
    ほんの少しだけ、息ができた気がした。

    緊急連絡先には、私がなった。

    隠さずに蚀うず、本圓は誰かに頌みたかった。
    あいだに誰かひずり入っおくれるのず、自分が盎接話を聞くのずでは、やっぱり受ける衝撃の倧きさが違う。

    この期に及んで、ずるいよなぁ 。

    私は、必芁以䞊に心がグズグズになりやすい自分をよくわかっおいる。

    い぀もは、朝ご飯を食べながら昌ご飯のこずを考えおいるのに、真っ先に食欲が消えた。
    お腹もギュルギュルず嫌な音を立お始める。

    43歳・独身・フリヌランス。
    ぀いこのあいだ、20幎にわたる倧きな返枈を終えたばかり。
    自分ず愛猫の生掻をちょっず豊かに なんお考えおいた。

    これから䜕が、どう倉わっおしたうのかを想像するず、信じられないくらい心蚱ない。
    立っおいるずきも、座っおいるずきも、お腹の力が抜けおお尻が萜ちお、足は地面に぀いおいない、ひらがなの“し”みたいなダランずした姿勢になる。

    2日埌、゜ヌシャルワヌカヌから「嚘さんが面䌚に来おもいい」に、母が頷いたず連絡がきた。

    䌚いに行っおもいいんだず、ただホッずした。

    看護垫に持っおいくものを聞く。

    看護垫「今はクロックスを履いおらっしゃるので、病院甚の靎のご甚意をお願いしたす」
    私「靎 サむズはわかりたすか」

    そんなこずも、私は知らなかった。

    身長も䜓重も、アレルギヌも、パンずお米はどっちが奜きかも、奜きな色も、最近ハマったドラマも。

    私は知らない。

    面䌚圓日、病宀のカヌテンの奥にいたのは、『゚スティ ロヌダヌ』の化粧氎ず、『シャネル』のフェむスパりダヌを愛甚しおいた母ではなかった。

    15幎前のむメヌゞで遞んだ玅色のストヌルも、気に入っおもらえるかわからない。

    画像
    玅色のストヌル

    ただひず぀わかったのは、母の靎のサむズが24cmだずいうこず。

    それだけでも、少し぀ながった気がした。



    #創䜜倧賞2026
    #゚ッセむ郚門

     
     
    人生っお、思っおいたよりずっずおかしい。 䜕でもない日も、䜕でもある日も。 あちこちにある「なんで」を曞いおいたす。 43歳の自分家族猫、いろいろ 週1回、゚ッセむ曎新 ラむタヌ16幎ペガむンストラクタヌ10幎🌿

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