
【レシピ付】祖母のたくあんから始まった、私の発酵人生〜発酵薬箱に詰まっているもの〜
あらすじ
祖母が冬の軒先で干していた大根。風と太陽の力を借りてゆっくりとおいしくなっていくその姿は、今振り返ると発酵そのものだったのかもしれません。忙しい子育てや仕事に追われ、自分を見失いかけていた私が再び出会ったのは、ぬか床や甘酒、味噌汁といった発酵のある暮らしでした。発酵は単なる健康法ではなく、心と体を整え、家族との会話や笑顔を育む知恵です。祖母から受け継いだ手仕事の記憶とともに、私が発酵を「発酵薬箱」と呼ぶ理由、そして次の世代へつなぎたい想いを綴ります。私の原風景には、祖母が漬けるたくあんがあります。
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冬になると、畑から沢山の野菜が収穫され、軒先にはたくさんの大根が並んでいました。
それは当たり前の季節の風景でした。
けれど大人になった今、その風景がどれほど豊かなものだったのかがわかります。
祖母は毎年、畑で育てた大根を収穫し、一本一本丁寧に洗い、軒先に吊るしていました。
大根はすぐには食べられません。
風に吹かれ、太陽を浴びながら少しずつ水分を抜いていきます。
時間をかけて、おいしくなる準備をしているのです。
子どもの私は待つことが苦手でした。
早く食べたい。
早く完成してほしい。
そんなことばかり考えていました。
けれど祖母は急ぎません。
自然の流れに逆らわず、その時を待っていました。
今思えば、それは発酵そのものだったのかもしれません。
大根が干し上がる頃になると、今度は樽が用意されます。
塩やぬかを使いながら、祖母は黙々と漬け込んでいきました。
数週間後、食卓に並ぶ黄金色のたくあん。
ポリポリという音。
噛むほどに広がる旨み。
そして何より、
「今年のたくあんはどうかな」
という父との会話。
私はその時間が大好きでした。
食べ物には、人をつなぐ力があります。
祖母はきっと、そのことを知っていたのでしょう。
祖母が亡くなってから、しばらく私は発酵から離れていました。
結婚し、子どもが生まれ、毎日をこなすことに精一杯だったからです。
祖母の家で当たり前だった手仕事も、いつの間にか私の暮らしから消えていました。
スーパーへ行けば何でも買える時代です。
漬物も。
味噌も。
甘酒も。
手軽に手に入ります。
だから最初は、自分で作ろうなんて思いませんでした。
けれど心のどこかで、ずっと探していたものがありました。
それは便利さでは埋められない何かでした。
忙しい毎日なのに満たされない。
家族はいるのに孤独を感じる。
頑張っているのに自信が持てない。
そんな時、ふと祖母の台所を思い出したのです。
大きな漬物樽。
味噌の香り。
湯気の立つ味噌汁。
祖母は特別なことをしていたわけではありません。
ただ毎日の暮らしを丁寧に積み重ねていました。
その姿を思い出した時、私は初めて気づきました。
私が求めていたのは健康法ではなく、暮らしそのものだったのだと。
けれど母になった私は、その食卓を楽しめなくなっていました。
朝は起きた瞬間から慌ただしく始まります。
洗濯物を回し、朝食を作り、子どもを送り出し、仕事へ向かう。
帰宅すれば夕飯の支度。
片付け。
お風呂。
明日の準備。
気づけば一日が終わっていました。
「お母さん見て!」
子どもが話しかけてくれても、
「あとでね」
と言ってしまう。
本当は見てあげたい。
本当は話を聞いてあげたい。
でも余裕がありませんでした。
夜になると後悔するのです。
どうしてもっと優しくできなかったのだろう。
今日は怒らないと決めていたのに。
また怒ってしまった。
家族のために頑張っているはずなのに、自分が思い描いていた母親にはなれていない気がしていました。
そんな頃、私はぬか床と再会します。
祖母の家では当たり前だったぬか床。
そのぬか床を、自分でも育ててみようと思ったのです。
朝、ぬか床を混ぜる。
夜、野菜を漬ける。
たった数分。
でもその数分だけは、不思議と呼吸が深くなりました。
ぬか床は急かしても育ちません。
毎日少しずつ手をかける。
失敗する日もある。
味が変わる日もある。
それでもまた手を入れる。
その繰り返しです。
まるで子育てのようだなと思いました。
ある日の夕飯。
ぬか漬けを食卓に出した時、子どもが言いました。
「これ、おいしいね」
たった一言でした。
子どもの反応がとても嬉しかったのを覚えています。
料理を褒められたからではありません。
食卓に会話が生まれたからです。
私は完璧な母親になりたかったわけではありませんでした。
家族で笑いながら食卓を囲みたかっただけだったのです。
そんな私をさらに支えてくれたのが甘酒でした。
長男の偏食をキッカケに、発酵を本格的に学び始めました。
そして40代に入る頃からでしょうか。
朝起きても疲れが抜けない。
以前より疲れやすい。
やりたいことはあるのに体がついてこない。
そんな日々の中で出会ったのが、米麹で作る甘酒でした。
砂糖を使っていないのに驚くほど甘い。
初めて飲んだ時、その優しい味に心までほどけていくような気がしました。
仕事後は子供達の帰宅時間。
家事も残っている。
夕飯も作らなければいけない。
それなのに体が動かない。
そんな時、一杯の甘酒を温めて飲みました。
すると肩の力が抜けたのです。
甘酒は魔法ではありません。
でもその一杯には、
「今日もよく頑張ったね」
と言われたような温かさがありました。
私は気づきました。
足りなかったのは栄養だけではなかった。
自分をいたわる時間だったのだと。
母になると、自分のことは後回しになります。
家族のため。
子どものため。
仕事のため。
気づけば自分の心と体の声を聞く時間がなくなっていました。
甘酒を飲む時間は、そんな私にとって立ち止まる時間になったのです。
振り返ると、祖母もそうだったのかもしれません。
たくあんを漬ける。
味噌を仕込む。
季節の手仕事をする。
それは家族のためだけではなく、自分を整える時間でもあったのでしょう。
発酵は急ぎません。
時間をかけることでしか生まれない味があります。
人も同じです。
私は40代を「衰える時期」ではなく、「醸される時期」だと思っています。
発酵の世界では、熟成したものほど深みを増します。
味噌も。
醤油も。
そして人も。
だから私は発酵に惹かれるのだと思います。
今、私は発酵教室を開いています。
でも本当に伝えたいのはレシピだけではありません。
発酵のある暮らしです。
忙しい毎日の中で立ち止まる時間。
自分をいたわる時間。
家族を想う時間。
そんな時間を届けたいと思っています。
私はその場所を「発酵薬箱」と呼んでいます。
薬箱の中にあるのは薬ではありません。
たくあん。
ぬか漬け。
甘酒。
味噌汁。
そして誰かを想う気持ちです。
体が疲れた時。
心が疲れた時。
食卓にそっと寄り添ってくれる知恵の箱。
それが私にとっての発酵薬箱です。
祖母が干していた大根。
母になって育てたぬか床。
疲れた私を支えてくれた甘酒。
そして今も毎日の食卓に並ぶ味噌汁。
発酵はずっと私の人生のそばにありました。
祖母から受け取ったバトンを、次の世代へ。
私はこれからも台所に立ち続けたいと思います。
今日も誰かの「おいしい」のために。
そして、自分自身の笑顔のために。
冬の軒先で風に揺れていた大根を思い出しながら。
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レシピ① 祖母のたくあん
【材料】
・大根 5kg
・塩 250〜300g
・米ぬか 500g
・米麹(雪どけこうじ)大さじ5
・昆布 10cm
・赤唐辛子 2〜3本
【作り方】
①大根を2〜3週間干す。
②樽に大根、塩、ぬか、米麹、昆布、唐辛子を重ねる。
③重石をして1〜2か月漬ける。
④好みの漬かり具合で完成。
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レシピ② お母さんの甘酒
【材料】
・米麹 (つきみこうじ)200g
・水 400ml
【作り方】
①米麹と水を混ぜる。
②60℃で8時間発酵。
③とろりと甘くなったら完成。
【おすすめ】
朝はお湯割り。
疲れた夜は豆乳割り。
夏は炭酸割りがおすすめです。
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レシピ③ 発酵薬箱の酒粕入り味噌汁
【材料】
・だし汁 800ml
・味噌 大さじ3〜4
・酒粕 50g
・大根 100g
・にんじん 50g
・長ねぎ 1/2本
・油揚げ 1枚
【作り方】
①野菜を切る。
②だし汁で大根とにんじんを煮る。
③油揚げを加える。
④酒粕を溶き入れる。
⑤味噌を加える。
⑥長ねぎを加えて完成。
寒い日も、疲れた日も。
湯気の立つ味噌汁は、私にとって今も変わらない発酵薬箱です。
教室で生徒さんと話していると、かつての自分と同じような悩みを耳にします。
毎日忙しい。
自分のことは後回し。
家族のために頑張っているのに余裕がない。
そんな声を聞くたびに思うのです。
発酵は体を整えるだけではない。
心を整えるものでもあるのだと。
ぬか床を混ぜる時間。
味噌を仕込む時間。
甘酒を飲む時間。
ほんの数分でも、自分を大切にする時間が暮らしの中に生まれる。
その積み重ねが、人生をゆっくり醸していくのだと思います。
最近、教室に来てくださる方からよく聞かれます。
「どうして発酵を伝えているのですか?」
私はそのたびに少し考えてしまいます。
発酵が体に良いから。
おいしいから。
もちろんそれもあります。
でも本当は、それだけではありません。
私が伝えたいのは、発酵食品そのものではなく、その奥にある暮らしだからです。
大根を干す時間。
ぬか床を混ぜる時間。
甘酒を飲みながらほっと一息つく時間。
味噌汁の湯気に心をゆるめる時間。
そんな何気ない時間の積み重ねが、私たちの毎日を支えてくれているのだと思います。
祖母はきっと、「発酵文化を伝えたい」なんて考えてはいなかったでしょう。
ただ家族のために手を動かしていただけ。
けれど、その姿は何十年経った今も私の中で生き続けています。
人は忘れてしまう生き物です。
けれど、誰かを想って作られた食べ物の記憶は不思議と残ります。
あの日食べたたくあんの味も。
ぬか漬けを囲んだ家族の会話も。
子どもが喜んで食べてくれた水キムチ。
疲れた日に飲んだ甘酒の温かさも。
すべてが今の私を支えてくれています。
だから私はこれからも発酵を伝えていきたいのです。
レシピだけではなく、その先にある温かな暮らしごと。
今日も世の中のお母さんが育児を楽しみ、自分らしく、心地よい1日を過ごせますように。


▶︎このnoteを書いたひと
unicosalon|
栄養士・発酵セラピスト saori
東京都在住・3児の母+🐈
麹や発酵を、忙しいお母さんの暮らしに寄り添う形で発信しています。
「お母さんの料理は発酵する」をテーマに、
家族の心と体を整える発酵習慣をお届け。
□ 麹・発酵調味料レシピ
□ 腸活とやさしい暮らし
□ 家族が笑顔になる台所づくり
□ 次世代へ残したい発酵文化
日本の発酵文化を、日々の食卓へ。