
20代の半数以上が車を持たない時代。地方企業の採用戦略で見直すべきこと
20代の半数以上が車を持たない時代。地方企業の採用戦略で見直すべきこと
筆者:角田千鶴(一般社団法人ミライゴト代表理事/株式会社山陽管理代表取締役社長)
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はじめに:「車通勤が当たり前」という常識の終焉
「社員は車で通勤してくるもの」
「地方なら誰でも車を持っている」
地方企業の多くが、こうした前提で採用活動を行ってきました。求人票には「マイカー通勤必須」と書かれ、通勤手当は車での通勤を想定して設定され、駐車場さえ確保すれば立地は問題ないと考えられてきました。
でも、その常識がいま静かに崩れ始めています。
福山市で若者の就職支援を行う一般社団法人ミライゴトでも、この変化を肌で感じています。「車がないので公共交通機関で通える範囲で働きたい」「住宅手当が出る会社を希望したい」といった相談が、ここ数年で急激に増えているのです。
数字が示す、20代の劇的な変化
ソニー損害保険が毎年実施している「20歳のカーライフ意識調査」の最新データ(2025年)を見ると、若者と車の関係が大きく変わっていることがわかります。
20歳の運転免許保有率の推移:
2023年:61.2%
2024年:56.2%
2025年:53.5%
2年連続で下降し、ついに半数を少し上回る程度まで減少しました。
さらに深刻なのは、マイカー所有率です。
20歳のマイカー所有率の推移:
2024年:17.4%
2025年:12.9%
わずか1年で4.5ポイントも減少しています。
地方と都市部で比較すると:
地方:14.5%程度
都市部:7.3%
地方でも、20歳の約85%は自分の車を持っていないという現実があります。
つまり、「地方なら誰でも車を持っている」という前提は、もはや成り立たないのです。
私たちの会社で起きていること
山陽不動産で働く20代社員のうち、40%は車を運転していません。
具体的には
1名:JR福山駅から電車通勤
1名:自転車通勤
二人とも免許は持っています。でも、車の運転をしたくない。車だと15分ほどの距離なのに、あえて電車や自転車を選んでいます。
理由を聞くと、「運転が怖い」「車を持つ必要性を感じない」「他のことにお金を使いたい」という答えが返ってきました。
弊社はJR福山駅から徒歩約15分という立地にあります。これが、採用で困っていない要因の一つだと感じています。電車でも自転車でも徒歩でも通える。この「選択肢の多さ」が、若者にとっては大きな魅力になっているようです。
なぜ若者は車を持たないのか?
ソニー損保の調査によると、車を購入しない理由として以下が挙げられています:
「買わなくても生活できる」
「駐車場代など維持費がかかる」
「お金はクルマ以外に使いたい」
注目すべきは、単なる経済的理由だけではないということです。
「車がないと生活できない」ではなく、「車がなくても生活できる」という選択。
「車を買うお金がない」ではなく、「車以外のことにお金を使いたい」という価値観。
これは、若者のライフスタイルそのものが変化していることを示していると思います。
休日の移動はレンタカーやカーシェアで十分。必要な時だけ借りればいい。車の購入・維持にかかるお金は、旅行や趣味、自己投資に使いたい。そんな若者が確実に増えています。
ミライゴトの相談現場で見えてきたこと
一般社団法人ミライゴトでは、若者のキャリア相談を日常的に受けています。その中で、相談内容が明らかに変わってきたと感じています。
以前の相談
「やりたい仕事ができる会社を探しています」
「この分野で成長できる環境を知りたいです」
最近の相談
「車がないので公共交通機関で通える範囲で働きたい」
「住宅手当が出る会社を教えてください」
「駅から徒歩圏内の会社はありますか?」
仕事内容や成長環境の前に、「通勤手段」が最初の選択基準になっているのです。
実際、私たちが支援している企業で過去3年間に採用された新入社員の実態を見ると
運転免許を取得していない人:25%
自家用車を持っていない人:50%
そして、自家用車を持っている人でも、その多くが「両親の車を共有している」という状況です。つまり、自分専用の車を持っている若者は、さらに少ないということになります。
地方の製造業が直面している深刻な課題
3K(きつい・汚い・危険)の改善は、製造業にとって長年の課題です。でも、それとは別に、もう一つの深刻な問題があります。それは「立地」です。
工場は広い敷地が必要 → 郊外立地が基本
郊外立地 → 公共交通機関が不便
公共交通不便 → 車通勤が必須
車通勤必須 → 若者が来ない
この構造的な問題をどう解決していくか。これは、地方の製造業にとって避けて通れない課題だと思います。
3Kを改善しても、そこにたどり着く手段がなければ、若者は応募すらできません。
地方企業ができること、今日から考えるべきこと
もちろん、すでに稼働している工場を移転するのは現実的ではありません。設備投資、取引先との関係、地域とのつながり。簡単に動かせるものではないことは、私も理解しています。
でも、今後の戦略として「公共交通機関へのアクセス」を意識することは、とても重要だと思います。
例えば
新規拠点や工場増設を検討する際の立地選定において、「公共交通アクセス」を評価基準の一つに加える
採用ターゲットを広げる際に、「車なし通勤は可能か」を確認する
次の世代の採用を見据えた中長期的な戦略として、立地と採用の関係を位置づける
そして、今すぐできることもあります。
地方企業の多くには「マイカー取得手当」があります。これ自体は素晴らしい制度だと思います。でも、マイカーがない人へのサポートは、驚くほど手薄ではないでしょうか?
多様な人から選ばれる企業になるためには、多様な手段での通勤を想定することが大切だと感じています。
具体的にできること①:住宅手当の活用
マイカー取得手当があるなら、会社近くに住む人への住宅手当も同じように用意してはどうでしょうか。
従来の考え方
通勤手当(車での通勤を想定)
新しい考え方
住宅手当(会社近くに住めば徒歩・自転車通勤が可能)
実際、山陽不動産では、会社近くに住むことを選択した社員もいます。彼らにとって、通勤時間がゼロになることは、給与以上の価値があると言います。朝の時間を有効に使える。残業しても帰宅が楽。プライベートの時間が増える。
住宅手当を充実させることで、このような働き方を選べる環境を作ることができます。
具体的にできること②:送迎サービスの検討
単独での送迎バス運行が難しければ、近隣企業との共同運行という選択肢もあります。
最寄り駅からの送迎(朝・夕の定時運行)
デマンド交通の活用
近隣企業との送迎バス共同運行
実際、福山市内でも、複数の企業が共同で送迎バスを運行している事例があります。コストを分散でき、運行頻度も上げられる。中小企業にとっては、現実的な選択肢だと思います。
具体的にできること③:柔軟な働き方の導入
リモートワークやフレックスタイム制を導入することで、通勤頻度そのものを減らすことができます。
週3出勤 + 週2在宅
コアタイムなしのフルフレックス
時差出勤(ラッシュ時を避ける)
公共交通機関での通勤は、車通勤より時間がかかることが多いです。でも、週に2日在宅勤務ができれば、その負担は大きく軽減されます。
製造業では難しいという声もあると思います。でも、事務部門や企画部門だけでも導入することで、採用の幅は確実に広がると思います。
具体的にできること④:採用情報の見直し
今一度、自社の求人票を確認してみてください。
「マイカー通勤必須」と書いていませんか?
「要普通免許」と書いていませんか?
この一文があるだけで、20代の半数以上が「応募できない」と判断してしまいます。
逆に、こう書いてみてはどうでしょうか。
「公共交通機関でも通勤可能」
「駅から徒歩15分」
「送迎バスあり」
「会社近くの住宅手当制度あり」
同じ会社でも、見せ方を変えるだけで、応募者層が大きく変わる可能性があります。
若者から選ばれる企業になるには、さらに
ただし、通勤手段の多様化だけでは、本当の意味で「若者から選ばれる企業」にはなれません。
以前のブログでも書きましたが、小中学生2,500人を対象にした調査では、「仕事とは何か」という問いに対して、41.7%が「人の役に立つこと」と答えています。「お金を稼ぐこと」(23.5%)を大きく引き離しての1位です。
若者が本当に求めているのは:
この会社で何ができるのか(仕事の意味)
誰と働くのか(人・チーム)
どんな未来を作れるのか(ビジョン)
自分らしくいられるか(個性の尊重)
これらが見えて、初めて「選ばれる企業」になると思います。
通勤手段の多様化は、いわば「入口」です。
でも、とても大切な入口です。
どんなに素晴らしい理念や仕事内容があっても、そこにたどり着く手段がなければ、若者は応募すらできません。
「入口」を広げることで、より多くの優秀な人材と出会える可能性が生まれます。
自治体にできること
企業だけでは限界があります。自治体の支援も不可欠です。
工業団地や企業集積地への公共交通路線の充実
企業の送迎バス運行に対する補助金制度
企業近接地域での住宅整備
若者向け住宅の家賃補助制度
デマンド交通の企業利用促進
福山市でも、こうした支援策の必要性について、少しずつ議論が始まっています。
企業と自治体が連携することで、地方でも「車がなくても働ける環境」を作ることは可能だと思います。
実際に成功している事例:宇都宮ライトレール
「自治体の支援があっても、本当に効果があるのか?」
そう思われる方もいるかもしれません。でも、実際に成功している事例があるとxで教えて頂きました。
拝読しました。
— にしだたかし@芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)🚊開業3年目に向け全力応援🚉 (@nishidatakashi1) March 14, 2026
ご主張通りのことを行なっている自治体があり、2023年に開業したLRT宇都宮ライトレール/ライトラインの成功、宇都宮市が東京からの移住先で人気急上昇したのは、正にここに書かれている通りのことを実現したからです。
2023年に開業した宇都宮ライトレール(ライトライン)です。
宇都宮市は、JR宇都宮駅から工業団地や商業施設が集積する芳賀・高根沢地区を結ぶLRT(次世代型路面電車システム)を開業しました。
その結果、何が起きたか。
宇都宮市が、東京からの移住先として人気急上昇したのです。
なぜか?
まさにこの記事で書いてきたことが、現実になったからだと思います。
公共交通で工業団地にアクセスできる
車がなくても働ける環境が整った
多様な通勤手段が用意された
若者にとって、「車がなくても働ける」は、移住先を選ぶ上で大きな判断材料になります。
地方は魅力的。でも車がないと生活できないから諦める。
この障壁を、宇都宮市はインフラ整備によって取り除いたのです。
企業単独では難しいことも、自治体が本気で動けば実現できる。宇都宮ライトレールは、その好例だと思います。
福山市でも、こうした動きが生まれることを期待しています。
山陽不動産・山陽管理としてできること
私たちは不動産会社でもあります。だからこそ、採用戦略と連動した住宅ソリューションを提案できると考えています。
新規拠点や増設時の立地選定相談
車を持たない若者向けの社宅・寮の整備
住宅手当制度の設計サポート
会社近隣の賃貸物件の紹介
社員の住まい探しのサポート
ただし、これも一つの選択肢に過ぎません。各企業の事情や地域性によって、最適な方法は異なると思います。
変化をチャンスに変える
20代の半数以上が車を持たない時代が来ています。
この変化を、課題として捉えるか、チャンスとして捉えるか。
私たちは後者を選びたいと思っています。
「マイカー通勤前提」を見直すことで、今まで採用できなかった優秀な人材に出会えるかもしれません。
多様な通勤手段を用意することで、多様な人材が集まる企業になれるかもしれません。
地方企業だからこそ、柔軟に変われる。
中小企業だからこそ、素早く動ける。
大企業にはできない、地方の中小企業ならではの強みを活かして、この変化に向き合っていきたいと思っています。
おわりに
正解は一つではありません。
それぞれの企業が、それぞれの方法で、この変化に向き合っていく。
大切なのは、変化を認識すること。
そして、一歩でも動き始めること。
「うちには無理」ではなく、「うちなりのやり方」を考えてみる。
その選択肢の一つとして、この記事が参考になれば嬉しいです。
私たち一般社団法人ミライゴトでは、この時代の変化を踏まえた企業の採用支援を行っています。車を持たない若者と地方企業をつなぐ新しいマッチングを、一緒に考えていきませんか。
また、株式会社山陽管理・有限会社山陽不動産では、採用戦略と連動した住宅ソリューションをワンストップでご提案いたします。立地選定から物件確保、社宅・寮の整備、住宅手当制度の設計まで、車を持たない若者の採用に特化した不動産戦略をお手伝いします。
お気軽にご相談ください。
参考資料:
ソニー損害保険「2025年 20歳のカーライフ意識調査」
ソニー損害保険「2024年 20歳のカーライフ意識調査」
※記事内で紹介したデータは上記調査をもとにしていますが、分析や考察はすべて筆者個人の見解です。
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https://note.com/sanyou34/n/nc38cd9c20492
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