
「雨の日の傘」#拝啓文芸部

拝啓 あの雨の日の赤い傘様へ
あなたは、家の玄関にポツリと置いてけぼりにされていましたね。隣の小さな黄色い傘は、きちんとお出掛けをして、雨の雫に濡れていたのに。
あなたのせいじゃない。あなたが来てくれなかったから、ずぶ濡れになって泣いたんじゃない。あなただけ選ばれなかったから、泣いたの。
「トラウマ」と言う言葉があるでしょう。まだ、そんな言葉があるなんて知らなかった、ずっと昔の話。
幼い頃に私の両親は離婚をしたけれど、自分で父と暮らすと決めた私に、父はすぐに美しい継母を与えてくれた(この書き方はどうかと思うが)
でも、ずっと感じてはいた。分かってはいたけれど、子どもながらに真実に目を瞑る方が良いと生きる術を知っていたのだと思う。
親友との交換日記も見られた。家庭科の裁縫箱の中身は、殆ど空っぽで買ってもらえなかった。弟二人の裁縫箱はギッシリと全ての道具で埋まっていたのに。それから、それから……。
見て見ぬふりをすることを覚えた。でも、たった一つだけ、未だに目に焼きついている光景がある。
小学校六先生の教室は、四階建て校舎の最上階で、私は授業中に何の気なしに、ぼーっと校庭を見ていた。
ーー雨が降ってきちゃったな。
水はけの悪いグラウンドに水たまりは、すぐに出来た。その雨の向こうに赤い傘を差して歩いて来る人が居た。
ーーあ、ママ!!
その手には黄色い傘が握られていた。
ーー傘を届けてくれたんだ。
そう思った私は、クラスにある「貸し出し用傘」を借りなかった。授業が終わる頃、雨は本降りに変わった。
下駄箱へ行くと、私の下駄箱に傘は置かれて居なかった。
ーーママ?!
あれは幻だったのだろうか。見間違い?
雨は土砂降りになっていた。校舎の軒下で小降りにならないかと一人待っていたが、辺りはどんどん暗くなった。私は家に向かって走り出していた。
雷鳴が響きわたり、雨は私の全身を濡らした。
「ただいま」
「まぁ、ずぶ濡れじゃない。早く拭いて」
家に帰ると継母は私にタオルを渡してくれた。でも、玄関には弟の黄色い傘が濡れて置いてあった。
私の赤い傘へ
あなたのせいじゃない。多分、愛されなかった私が悪い。でも今も、雨の雫が滴り落ちていた黄色い傘と投げ出された小さなスニーカーの光景が焼きついている。
ごめんね、私の赤い傘。 敬具
いったい、いつになったら忘れられるのだろう。
アッチョンブリケ♪シュラシュシュシュ♪
珍しく、エッセイなんぞを書いてしまった(苦笑)
人には一つや二つ、苦い思い出もあるものですよね。
Mr.Qさん、よろしくお願いします。