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Photo byyasu430

「エッセイ」音の粒子2

    「いただきます!」
    「かんぱ~い!」
    ダーちゃんが帰宅した我が家は明るい。
    早速、居間で晩酌が始まる。
    ダーちゃんはグラスに氷をはみ出さんばかりに入れた角のハイボール、私はキンキンに冷えたビールが定番。
    あの日の肴は何だったろう?
    冬なら「鯨の煮つけ」が好きだったけど、初夏だったから「香草サラダ」はメニューに入っていたと思う。

    テレビの前のお決まりの場所に陣取って愛犬のゴンを撫でながら、今日あった事を話すダーちゃん。
    その姿をニコニコしながら見つめる私。
    何杯目かのハイボールに突入した頃、ふいにダーちゃんが言った。
    「ん?sannちゃん、何かいい事あった?」
    「えっ?何で?いつもと同じだよ?」
    「そうかなぁ~、何か嬉しそうだぞ…」
     私は、さっき発見した「音の粒子」の話をいつ切り出そうかと
    内心ワクワクしていた。
    「あ、やっぱり何か隠してる!口がムズムズしてるぞ」
    機は熟した!遂にその時が来たらしい‼
    「あのね、ダーちゃん!驚かないでよ。実は…音って軽いんだよ‼」
    「はっ?」


    そうか、勝った!
    やっぱり、全身筋肉、脳みそまで筋肉で出来てるようなダーちゃんには、私のこの世紀の大発見は難し過ぎたか…自然に笑みが沸いてくる。
    勿体付けている私に
    「何で、そう思ったの?全部話してみなよ」
    ダーちゃんが促した。


    私は、夕方ベランダでダーちゃんの声が六階まで聞こえて来た時の話を始めた。
    「物には皆、元素記号があるでしょ?で、空気は窒素や酸素や二酸化炭素で出来てるんでしょ?それよりも『音』は軽いの‼」
    ビールの力も借りて、私は段々とノって来た。無けなしの科学の知識を駆使して、この発見がどんなに凄いか熱弁を奮った。
    まるで、アメリカ大陸を発見したコロンブスのように…(コロンブスが吞兵衛だったかは知らないが)
    「うん、うん」
    ひとしきり私の話に耳を傾けていてくれたダーちゃんが、
    「ノってるところ、大変残念だけど…ノーベル賞は無理だと思う」
    と恐る恐る言った。
    「はい?」
    「音ってさ、物じゃないんだよ」
    「え?だってガスだって見えないけど物でしょ?ガスが軽いなら音も軽いんじゃない?」
    「音は振動で伝わるの。俺も上手く説明出来ないんだけどね…」
    ダーちゃんは、その後丁寧に音の伝わり方を教えてくれた。
    「うーん、うーん…」
    頭では納得したが、何だか腑に落ちない。
    「あ!じゃあ、同じ口から発する口臭は?」
    「あれは、物で粒子でいいんじゃないの?」
    (そうだよね、だってダーちゃんが内緒で夜中に『ニンニク増し増しラーメン』を食べて来た次の日の朝は、家中臭いもん。)
    「卑怯だ!!」
    私は、きっぱりと言い放った。
    「はぁ~?」
    「だって、おんなじ口から発してるのに匂いは粒子で声は粒子じゃないなんて。声が可哀想だよ」
    「まぁな」
    ダーちゃんはマイルドセブンの煙をゆっくりと吐きながら、アインシュタインを逃した女を見て微笑んだ。
    (煙!ニヤリ)

    遠い遠い昔の晩酌の話


    今では「音は振動で伝わる」と理解している。
    でも、あの日
    ダーちゃんが発した声の粒子を思い切り吸い込んでおけば良かったな…
    ダーちゃんにはダーちゃん色の声の粒子、私には私色した声の粒子があれば良かったのになと思っている。
    口臭は吸い込まないけどね(苦笑)



    ※ikebou@cafe様の素敵なお写真をお借りしました。
    ありがとうございました。


     
     
     

    sanngo

     
     
    最愛の夫を亡くして7年。植物人間だった夫の介護をして7年半。その間に、沢山の人々に助けられました。だから、私に逢う全ての人々を大切に。 「ありがとう」の感謝の心で生きていきたいです。 でも書く物はミステリーが多いです(笑)

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