
映画「52ヘルツのクジラたち」を観て

タイトルだけを読んで「動物愛の話なの?」って敬遠していた映画。あ、動物ものが嫌いなんじゃなくて、必ず泣くから(苦笑)
でも全然違った。
人は、どうしてこんなに悲しいのだろう。
【キャスト】

多いな(苦笑)
原作 町田その子「本屋大賞受賞作品」
ある夏の日、心に深い傷を負った貴湖(杉咲花)は、亡くなった祖母が住んでいた大分の海辺の家へ引っ越して来た。其処で出逢ったのが、母(西野七瀬)から虐待を受け、言葉を失った「ムシ」と呼ばれる少年だった。
貴湖は、自らも母(真飛聖)から虐待を受け、脳梗塞で寝たきりの義父の介護をしていたヤングケアラーの過去を抱えていた。そんな背景があって、貴湖はムシを放っておけなかった。引き取って育てたいと真剣に思い、動き始める。
場面は三年前に遡る。
ヤングケアラーだった貴湖を救い出してくれたのは、一対の魂を持つ岡田安吾(志尊淳)と言う青年だった。彼は貴湖を心から愛するようになる。そして愛するが故に言えない秘密があった。安吾は貴湖の幸せを願うが。
52ヘルツのクジラとは実際に存在する孤独なクジラを指すと言う。仲間のクジラ達に52ヘルツのクジラの声は届かない。どんなに美しく鳴いても、このクジラは孤独なまま生きている。
主人公の貴湖も、当初は「52ヘルツのクジラ」だった。誰かに助けを求めても、その声は誰にも届かなかった。
「私が死ねばいい」
トラックの前に飛び出した彼女を救ってくれたのが、安吾だった。安吾は貴湖を深い海の底から救い出してくれた。
あぁ、このまま結ばれてしまえば、どんなに良かっただろう(泣)お互いに深く愛しあっていたのに。
当然受け入れてくれるだろうと思って告白する貴湖を安吾は「貴湖の幸せを僕は祈っているよ」と、やんわりと拒絶してしまう。
何故?
貴湖は安吾と結ばれるのを諦め、お互いに信頼する友人としての関係を築き保っていく。
安吾役の志尊淳が、こんなにしっとりとした魅力的な演技が出来る俳優だとは思わなかった。押さえた穏やかなセリフの一つ一つが光を放っているように私には思えた。
安吾を諦めた貴湖は、自分が働く会社の専務(御曹司)の新名に見初められ、交際を始める。そして、新名に親友と安吾を紹介するのだが、新名は安吾に敵対心を抱き、
「これからは、僕が貴湖を幸せにするから、近づくな!!一対の魂を持っているのは僕だ」
と言い放つ。
この時点で、コイツ!!嫌な奴だな〜と私の嫌悪感はMAXに達した。でもね、安吾には貴湖を新名から奪えない事情があったんだよ(泣)
安吾は、元は杏と言う名の女性だった。トランスジェンダーだったのだ。
歳をとった私は「そんなこといいじゃない!!」と思うが、安吾は「若い貴湖に肉体的満足を与えられないかもしれない」と一人苦悩の日々を送る。
切なくて堪らない。
寄り添うのは身体だけじゃないよ!!と伝えたい。性のことは、よく分かっていないくせに。
やがて、バカ男の新名が、自分の結婚が破談になった事から安吾に八つ当たりをする。
そもそも新名が貴湖を「幸せにする」と言いながら、他の女性と今どき流行らない「政略結婚」をしようとしていたのにもかかわらずだ。
どちらが卑怯かなんて、一目瞭然だろうに。
新名は安吾の母を故郷から呼び出し、母の前で安吾の性の秘密を暴露する。この男、イカれているとしか思えない。自分が傷ついたからと言って、人を傷つけて楽しいか?
母の前で泣き崩れ号泣する安吾の姿が、心に突き刺さって痛かった。何も貴方は悪くないのに。
人を思い、自分に正直に生きただけじゃないか。
母は言う。
「杏ちゃんが悪いんじゃないよ。障害を持って生んだ母さんが悪かった。ごめんね、ごめんね」
安吾がポツリと
「障害じゃないよ」
呟いた声が母の耳には、届いただろうか。
「杏ちゃんが、男でも女でもいい。母さんは杏ちゃんを愛してるから。一緒に家へ帰ろう。」
頷いた安吾は納得したように見えたが、
故郷へ帰る日、彼は遺書を遺して自殺していた。母と貴湖が発見した血だらけの安吾の骸。
堪らない。
何故、死を選ばなければならなかったのか。
この安吾の決断に対してだけは、今も私の中で答が出ていない。
「時」を味方につける術は、なかったのか。
障害じゃないのなら、それを生きることで正当化して欲しかった。
安吾もまた「52ヘルツのクジラ」だったのだろうけれど。
貴湖は自分のお腹を包丁で刺すが、死にきれない。
そして、やって来たのが祖母が住んでいた思い出の地だった。
毒親、虐待、ネグレクト、ヤングケアラー、マジョリティ、マイノリティ、トランスジェンダー、自死⋯etc
ヒトの悲しみの全てを詰め込んだような映画だったけれど、一分一秒たりとも目が離せなかった。
貴湖に幸せになって欲しい。
でも、その「幸せ」と言う言葉さえ、安っぽく感じる。
安吾、掛ける言葉が見つからないけれど、貴湖が貴男を愛しているように、私も貴方が大好きだよ。
是非、観て欲しい傑作。
