
方向音痴が会社への道案内ページを書いてみた

私はうねり株式会社の「わかおも室」なるブランディング部署に所属している。わかおもとは、「わかりやすく、おもしろく」のこと。
この度、会社のWebサイトのアクセス、つまりオフィスへの行き方を説明するページを改善する話が持ち上がった。
私は極度の方向音痴である。
私が書くなら絶対に方向音痴の方を迷わせないアクセス案内を書きたい!と思い、企画した。
01.与件|このプロジェクトの目的は?
一般的にアクセスページというと、住所と地図と最寄り駅、全国規模の施設では電車・バス・お車でお越しの方と交通手段別のルートが書かれる。このページを、後で電波の届かない場所でも確認できるよう、とりあえずスクショする人もいるかもしれない。

さて弊社では、プロジェクトを企画するときはその大小問わず(それこそ、ちょっとしたドキュメントを書くときでも)、「あげよう」「キメヘン」というフレームワークを使って与件を整理する。いわゆるAs-is/To-Beを噛み砕いたものである。これに沿って本プロジェクトの背景を説明させてほしい。
■あげよう
【あ=あるべき姿】
お客様に、来社前からワクワク期待感を持っていただき、万全の準備で打ち合わせができる状態。
ひとつの貴重な顧客・関係者接点から可能な限りノイズを取り除き、「素敵な体験だったな、わざわざ出向いてよかったな」と思ってもらえる状態。
【げ=現状】
アクセス案内は、いわゆる型通りの「駅から徒歩●分」という簡潔な記載とビルの外観を公開していた。実際にオフィスにたどり着くには、住所をGoogleMapに打ち込んで具体的な道順を確認する必要があるだろう。
特に弊社らしさを出してはおらず、当然ながら話題に上ることもない。
弊社はビルの1フロアを占有しているが、エレベーターを降りてから会社らしいエントランスが見えるまでの間にビル廊下の無機質なドアがひとつあり、「ドアを開けちゃっていいのかわからなくてドキドキした」という戸惑いの声を聞くことがある。これはオフィスビルによく訪問する方には共感いただけると思う。

【よ=要因】
アクセス案内とは、来社が決まったお客様が最初に確認する場所。にも関わらず、お客様が求める情報が足りていない。次に、弊社らしさも足りていない。
「アクセス案内とはこういうもの」という既成概念に捉われ、わかりやすさと面白さ(おもてなしの心)の両面での検証を怠っていた。
【う=打ち手】
わかりやすく、弊社らしく、方向音痴の人も絶対に迷わせない、詳しすぎるアクセス情報を作成する。
■キメヘン
キメヘンとは、打ち手である「アクセス案内」を読むことになる相手を定義したものである。
【キ=聞き手】
会社にお越しいただくすべての方(クライアント、採用候補者、協業者、コミュニティのメンバー、イベント参加者など。まとめて本記事では以下「お客様」とする。)
その中には、方向音痴の人も一定数含まれると思われる。
さらに社会人になったばかり、上京したばかり、このエリアには縁がない、といった属性も加われば、前日から不安な気持ちで何度もGoogleMapを確認している可能性がある。
ところで、Microsoftのインクルーシブデザインのガイドラインでは、障壁・不自由さを以下の3つに分類している。
恒久的(Permanent): (例)片腕がない人
一時的(Temporary): (例)腕を骨折している人
状況的(Situational): (例)赤ちゃんを抱っこしていて片手が塞がっている人

普段は道に迷わない人でも、「初めての土地で、時間ギリギリの営業訪問」という特殊な状況に置かれた場合、一時的に「情報弱者」になってしまうこともある。
【メ=メインメッセージ】
私たちはあなたの訪問を歓迎しています!ようこそ!
【ヘン=起こしたい変化】
全く迷わずに到着でき、初めて訪れる街を道中楽しむ余裕があった。おかげで話題は弾んだし、雑学の知識まで増えた!

02.分析|方向音痴とはどういう状態か?
私はなぜ道が苦手なのか。それを考えるにあたり、道が得意な人=地理つよ人である同僚に、どうやって道を把握しているのかをインタビューしてみた。
地理つよ人「苔、方角、ランドマーク」
すると同僚は、主に2つのポイントがあると答えた。
方角の体感: 常に「自分がどちらの方角を向いているか」を気にしている。自分の位置を把握する力を定位能力という。カーナビに浮く矢印のように、自分の中に方位磁石があり、基準との関係が把握できている。
地下はやっぱり苦手なので、屋外に出たいと思っている。あと、ななめの道は徐々に認識がずれていくから苦手。とのこと。
マクロ視点での注意力:大きな建物を見ている。ランドマーク(目印)を覚えており、「自分とその建物との位置関係」を俯瞰で捉えている。
また別の地理つよ人からは「家を見ている」という意見もあった。「苔が生えているのは北」「ベランダがあるのは南」など、東西南北の情報になるらしい。
地理よわ人「人、車、看板」
一方、方向音痴は歩きながら何を見ているのか?
人の顔、服装、持ち物
虫、鳥
車
流れる雲
お店の看板のデザイン、サービスやメニュー
など、地図になく、再現性もない情報。
自動販売機のラインナップは見る。しかし遠目でどんな形・高さの建物だったかは覚えていない。駅から近いか遠いかくらいは気にしても、東西南北で認識したことはほぼなかった。

違いが明らかになった。
ざっくり、
道が得意な人:マクロ・普遍的な視点
道が苦手な人:ミクロ・瞬間的な視点
で環境を見ているらしい。後者が悪いというわけではなく、空間把握には不向きな特性ということだ。
03.実践|どんな道案内ならだれでも迷わずに導ける?
地理つよ同僚の視点をインストールするべく、マクロな視点を取り入れる。しかし、それだけでは現状の空間認識と乖離があるため、目につきやすいミクロな視点もミックスさせることにする。
マクロ視点の取り入れには、次の2点を採用した。
Ⅰ.引きで撮った写真に矢印を書き込む
Ⅱ.ランドマークが左右どちらに見えていれば正しいかを伝える


Ⅰの道路に矢印を描き込む手法自体は、目新しいわけではない。ただ、これまではエンタメ系施設やサロンなど「ユーザーが遅刻した際のリスクが大きい場所」での導入が主であり、一企業がここまで詳しく作り込んでいる事例は見つけられなかった。常に最新情報を保つ更新コストとを天秤にかけた結果と思われる。GoogleMapのARナビ機能で目的を果たせることも大きい。
参考:横須賀芸術劇場(エンターテイメント系の施設)

参考:行き方.jp「Zepp Hanedaのアクセス、最寄り駅から何分何秒?行き方は?」

Ⅱについても、「右手に東京タワー」のような説明はよく見聞きするが、方向音痴にとってはこれでは不十分である。極端に言えば「右手に東京タワー」の条件を満たす進行方向は360度あるからだ。
そのためなるべく2点以上の目印を挙げ、どちらも満たす方角に進んでもらうようにした。


”わかりやすい”のための工夫
最初で最大の難関、駅を攻略する
どの改札から、どの出口から出て、左右どちらへ進むか。
都心の地下鉄は出口の選択肢が非常に多く、弊社最寄り駅にも10の出口がある。これは<駅の両サイド>かつ<道路・線路の両サイド>に出口を設置してくれているためである。私は、ホームでは改札がどちらにあるかも必ず確認するために足を止める。
正直、出口をミスらなければ大幅な遅刻の可能性は低い。ただ、マップで調べておいても、電車を降りて人混みの中であらためて確認しようとするとそのページを見失っていたりする。
なので出口はとにかくでかい表記にした。


地図でくるくるしない、固まらない
駅の近くではスマホのMapは嘘つきだ。Wifiが混線するのか、特に方角は当てにならず、くるくる回している人をよく見る。
一通りくるくるしてみた方向音痴は、自然と駅前の道路上に掲示されている大きな物理地図看板に向かうが、この地図の説明においても現在地と目的地と経路がわかりたいのだ。
しかし、ある程度普遍的な地図には街の名前や道路の名前こそ書かれているものの、店や会社の名前は書かれていないことが多い。
そこで、この地図を加工して現在地と目的地を記載する。

誘惑をブロックする
方向音痴は、なぜかナビよりも自分の直感を優先して信じようとするところがある。開かれていたり、賑やかだったりすると、なんとなくいざなわれている感じを受ける。実際、弊社の場合もいかにも会社がありそうな大きな通りを進むと遠回りになってしまう。
そうした根拠のない衝動を先回りして阻むようにした。


最寄りのコンビニ情報
何かと訪問の直前に頼りたくなるコンビニの情報も記載した。コンビニの店舗名とはわかりにくいもので、「虎ノ門5丁目店」と言われても、通っていてもわからないのに行ったことがなければもっとわからない。
そこで最寄りのローソン、ファミマ、セブンを明示した。

”おもしろい”のための工夫
ちょっと早く到着してしまいそうなお客様へのご案内
方向音痴は、可能であれば30分から1時間くらいは余裕をもって向かうし、一度現地をこの目で確認してから、先輩との待ち合わせまで周辺をぶらぶらして時間を潰す。
そうこうしているうちに元居た場所がわからなくなって、もう一度迷ったりもする。
カフェに入れればじっとしていられるが、タイミングよく入店できるとも限らない。
そこであえて第二の選択肢として遠回りルートも案内することにした。

方向音痴のくせに、私は知らない街を訪れるのが好きだ。次のアポもなく緊張感から解放されると、歩くことを楽しんでいる。せっかくなら普段行かないその土地でごはんを食べたいし、その土地で見たものを話題にしたいので、移動だけのための最短ルートしか歩かないのはもったいなく感じる。
弊社は港区芝公園、東京タワーの至近距離に位置しており、記念に写真を撮っている人もよく見かける。訪問体験とは、打ち合わせの時間だけでなく、道中も含まれると思った。
街は、解像度が上がるとおもしろい
さらに、私の好きな考え方を2つ紹介したい。
ひとつは、弊社代表トヨマネのポストである。
勉強って「頭の中に知識を詰め込む行為」ではなく「世界の解像度が上がる行為」だと思う。ニュースのBGMだった日経平均株価が意味を持った数字になったり、外国人観光客の会話が聞き取れたり、ただの街路樹が「花の時期を迎えたサルスベリ」になったりする。

「わかおも」の根源にも通ずる思想だと感じる。
もうひとつは、「街角図鑑」という本。
街角に、街外れに、いつもあるのに私たちが「見ていない」ものたちが「見える」ようになると、街を見る目と理解が変わります。それらには、そこにある理由とその形である理由があります。

これらはまさにミクロな視点で街を見て歩く面白さである。
ミクロ派は身体から近い距離の刺激を追うのに忙しく、マクロ派から見れば「なんで目に入らないの!?」と思うような大きなランドマークを見逃しているらしい。



道中、同行者との話題になるようなちょっとした雑学も盛り込んでいる。うねりの社員は歩くこと・知ることが好きなメンバーも多いので、自社らしさ・カルチャーでもある。お客様も、知的関心の高い方が多い。
04.提案|最も理解度が低い者にガイドを任せてみませんか?
「やさしい日本語」という、ユニバーサルデザインのひとつの手法がある。これは、緊急災害時の警告や行政福祉など、誰にでも確実に理解してもらわなければならない案内を、その聞き手の一部である小学生や外国人にも伝わるように、迂遠な言い回しや慣用的な言葉遣いを避け、平易で直接的な説明を追求すると、結果的に誰にでもわかりやすくなるというもの。
また、近年「マニュアルは、教わった側(新人)が更新する」というビジネスノウハウもよく見られる。
一見バラバラに見えるこれらの事例だが、構造は共通している。それは、100人中最も困っている1人の認知のクセに合わせて翻訳をすれば、結果的に全員にとって快適なUXになるという構造だ。
今回のプロジェクトにおいては、社員の中で最も方向音痴な自分が、自分にとってわかりやすい道案内を書くことにより、ほとんどどんなお客様にもわかりやすくなることを期待している。
とはいえ、現状困っていない”地理つよ人”にとっては冗長であるという見方もあるため、詳しすぎる道案内は一階層下に格納し、トップは最低限の情報に絞ってすっきりさせた。



完成した道案内はこちら。
こうしてわかりやすくおもしろい、自社らしいアクセス案内が出来上がった。今後は、実際に訪れてくれるお客様からのフィードバックを通じて、よりわかりやすくおもしろい細かな改修を重ねていきたい。