
約束の懐中時計
🍊第64回 3つのお題(ファンタジー)
🎈お題①:「銀河鉄道の忘れ物」
🐾お題②:「彗星を追いかける少年」
⏳お題③:「星の海を泳ぐくじら」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
約束の懐中時計
カイは今日も彗星を追いかけていた。
昨日は、あと少しのところで捕まえられたのに。

カイの住む町には、年に一度、
「銀河鉄道」がやってくる。
銀河鉄道には、なぜか毎年たくさんの忘れ物があり、
それらは駅でオークションにかけられる。
カイは子どもだから、お金なんて持っていない。
それでも、誰でもオークションを見ることができた。
今夜、銀河鉄道がやってくる。

カイが駅で待っていると、
星の彼方から銀河鉄道がゆっくりと姿を現した。
見上げれば、今夜は
「星の海を泳ぐくじら」も停泊している。
オークション会場は大変なにぎわいだった。
――本当に、こんなにたくさんの忘れ物があるのだろうか。
カイは少し不思議な気持ちになった。
パン、パン。
始まりの合図が鳴った。
最初の品は、古い懐中時計だった。
「あれがあれば時間を確認できるから、
遅くまで彗星を追いかけなくてすむのにな」
カイがつぶやくと、
「ぼうや、あの懐中時計がほしいのかい?」
優しい目をした婦人が声をかけてきた。
「いいえ。あったらいいなと思っただけです」
「じゃあ、ほしいんじゃないんだね」
「はい」
値段はどんどん上がっていった。
カイには、懐中時計が
どんどん遠くへ行ってしまうように思えた。
パン、パン。
落札された。
カイが席を立とうとした、その時だった。
「ほら。これはあなたのものよ」
振り返ると、さっきの婦人が
あの懐中時計を差し出していた。
「こんな高価なもの、僕には不似合いです」
婦人は微笑んだ。
「じゃあ、この懐中時計が似合う大人になりなさい」
そして、こう続けた。
「あなたが大人になった時、私を訪ねておくれ」
そう言うと、
婦人は人混みの中へ消えていった。
――あれから、長い年月が流れた。
カイは彗星の研究を続け、大学へ進んだ。
やがて彼の書いた論文は『Nature』で紹介され、
研究は大きな注目を集めた。
本の出版も決まった。
カイの手には、
あの日の懐中時計がある。
カチ、カチ、カチ――。
「約束を果たしに行こう」
あの時より、ずっと大人になったカイは今、
星の海を泳ぐくじらがやってくるのを
静かに待っている。
