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【近未来小説】Q's Sanctuary第19話-5 開演前

    午後。

    Q’s Sanctuaryは昼間とは別の顔を見せ始めていた。

    ステージでは照明の点検が行われ、スピーカーからは楽器の音が断続的に響いている。

    スタッフが慌ただしく行き交い、受付では開場の準備が進められていた。

    KAYもSYUの後ろについて歩く。

    「この箱、楽屋へ。」

    「了解。」

    「終わったら入口。」

    「了解。」

    「終わったら物販。」

    「了解。」

    KAYは走った。

    戦場で培った体力は、こういう仕事でも役に立つ。

    重い機材も苦にならない。

    気付けば開場まで一時間を切っていた。

    「ふぅ……。」

    汗を拭きながら入口を見る。

    そこには、すでに長い列ができ始めていた。

    「……。」

    KAYは思わず目を丸くする。

    「もう並んでるのか。」

    RANが笑う。

    「今日はSTAR・LIGHTとROUGEだからね!」

    「遠くから来る人も多いよ!」

    列は少しずつ長くなっていく。

    年齢も様々だった。

    若い学生。

    仕事帰りらしい会社員。

    親子連れ。

    ライブTシャツを着た熱心なファン。

    みんな笑顔だった。

    その光景を見て、KAYは少し不思議な気持ちになる。

    戦場では、人が集まる場所には緊張しかなかった。

    でもここには。

    笑顔しかない。

    「すごいな……。」

    思わず漏れた言葉だった。

    その時。

    ステージ袖から聞き慣れた声が響く。

    「きゃっ!」

    ドン。

    ガタン。

    「いたたたた……。」

    KAYが慌てて振り向く。

    そこには床へ座り込んでいるARIAがいた。

    マイクスタンドに足を引っ掛け、見事に転んだらしい。

    「またか。」

    SHEENAがため息をつきながらARIAへ手を差し伸べる。

    「本番前くらい落ち着け。」

    「ご、ごめん。」

    ARIAは照れ笑いを浮かべながら立ち上がる。

    MIYUはドラムスティックを持ったまま笑っている。

    「今日は記録更新だね。」

    「まだ一時間あるのに。」

    KARENは静かにアンプの位置を直していた。

    LUNEは何事もなかったようにキーボードの音色を確認している。

    誰も慌てない。

    誰も怒らない。

    まるで毎日のことだった。

    KAYは呆然とその光景を見つめる。

    「……。」

    SYUが隣へ来る。

    「驚いたか?」

    KAYは頷く。

    「いや。」

    「ライブ前だろ?」

    「そうだけど。」

    「本番前に転ぶのか?」

    SYUは笑う。

    「あれがARIAだ。」

    「……。」

    KAYは少し考えた。

    そして真面目な顔で言う。

    「大丈夫なのか。」

    その質問に、SYUは迷いなく答えた。

    「大丈夫。」

    「転んでも。」

    「歌は止めない。」

    その一言には、不思議な説得力があった。

    KAYはもう一度ARIAを見る。

    さっきまで転んでいた少女が、今は深呼吸をしながらマイクを握っている。

    その表情だけは真剣だった。

    やがて客席の照明が少しずつ落ち始める。

    開演まで、あと十分。

    スタッフ全員が持ち場へ散っていく。

    RANは受付へ。

    SYUは客席の誘導へ。

    KAYも初めての持ち場へ向かう。

    その途中。

    ステージ袖で、小さく拳を握るARIAの姿が目に入った。

    さっきまでのドジっ子とは、少しだけ違う顔だった。

    「よし。」

    小さく自分へ言い聞かせる。

    その声を聞いたKAYは、心の中で思った。

    ――あの子、本当にステージへ立つんだ。

     
     

    KING.Q

     
     
    【近未来小説】Q's Sanctuary 連載中! 世界観・登場人物・最新話はこちら https://lit.link/Qs-Sanctuary あなたのハートに、熱い波が届きますように。

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