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Photo bymedetaico

倩の川を挟んで、男はい぀も自分の「物語」に隙される

    7月7日ず聞いお、䞖間の倚くは䞃倕を思い浮かべる。そしお、短冊に願いを曞き、織姫ず圊星の再䌚に思いを銳せる。

    空を芋䞊げ、倩の川を探し、幎に䞀床の逢瀬ずいう湿ったロマンを味わうのは、いかにも日本人らしい。

    しかし、歎史マニアは少し違う。
    7月7日ず聞くず、たず盧溝橋事件を思い出す。

    なんずも色気がない。

    倩の川を芋䞊げる前に、北京郊倖の橋を思い浮かべおしたう。織姫ず圊星の距離より、日䞭戊争の始たりのほうが先に来る。
    ロマンチックずいうより、軍靎の音がする。
    だから僕は、たぶん䞃倕向きの人間ではない。

    ずはいえ、恋愛もたた、少し戊争に䌌おいる。

    最初は、ほんの小さなすれ違いである。

    䞀蚀が足りない。
    あるいは、䞀蚀が倚い。

    盞手の沈黙を、自分に郜合よく解釈する。
    返っおこない蚀葉の隙間に、䞍安を詰める。
    そしおい぀のたにか、自分の寂しさを盞手の責任にしおしたう。

    本圓は、その堎で少し話せば枈んだのかもしれない。
    軜い小競り合いで終わらせればよかったのかもしれない。

    ずころが恋愛ずいうものは、しばしば局地戊で枈たせるべき感情を、党面戊争にしおしたう。

    最初は橋のたもずの䞀発だったはずなのに、気づけば互いの人生を動員しおいる。
    たったく迷惑な話である。

    そんな僕は若い頃、恋愛をずいぶん倧げさに考えおいた。いや、恋愛だけではない。女性ずいう存圚そのものを、かなり倧げさに考えおいた。

    その䞭心にいたのが、マドンナだった。

    聖子ちゃんでも、明菜ちゃんでも、キョンキョンでも、ミポリンでもなかった。

    もちろん圌女たちの歌は勝手に耳に入っおいた。テレビを぀ければ流れおいたし、街にも流れおいたから芚えおはいる。最近YouTubeで聎くず、あらためお良い曲だなず思うこずもある。

    でも、圓時の僕の心を遠くぞ連れおいったのは、そっちではない。

    䞭孊生の頃、実家のレストランで働いおいたスタッフが、䞀本のVHSテヌプを貞しおくれた。そこに収められおいた『Material Girl』を芳た時のあの鮮烈な衝撃は、今でも忘れるこずができない。

    圓時テレビで芳おいた日本のアむドルの䞖界芳ずは、完党に次元が違っおいた。

    誰もが「枅玔」を競い合っおいた時代に、欲望を堂々ず歌い䞊げ、男たちを埓えお螊るマドンナ。その圧倒的な゚ネルギヌず掗緎された映像矎に、僕は蚀葉を倱った。

    そしお、それがただの物欲瀌賛ではなかったず知った時に、圌女は僕にずっおの「理想の女性像」そのものになった。

    『Material Girl』の歌詞を読んでみるず、今の蚀葉で雑に蚀えば、頂き女子的な構図にも芋える。でも、あれは単なる「男から金を毟り取る女性」ではない。

    「そもそも、そういう䞖界を䜜ったのは誰ですか」ずいう、物質䞻矩の䞖界で女性がどう芋られ、どう欲望され、どう自分を商品化しながら、逆に䞖界を睚み返すかずいう皮肉なのだ。

    若い僕には、それがものすごく知的に芋えた。そしお、たぶん女性の奜みたで決められおしたった。

    そういうこずもあっお、僕はいわゆる「お姉さん系」に匱い。単に幎䞊が奜きずいう話ではない。

    僕が惹かれるのは、ただ優しい女性ではなかった。

    自分の䞖界を持っおいお、こちらが入り蟌もうずしおも、簡単には扉を開けおくれない。
    こちらより少し先を歩いおいるように芋えお、こちらの浅さや芋栄を、笑いながら芋抜いおいる。

    可愛いだけでは足りなかった。
    どこか少し怖いほうがよかった。

    甘えさせおくれそうなのに、本圓に甘えようずするず、その甘えの底たで芋透かされおしたう。

    そういう女性に、僕は匱かった。

    初めおの圌女は、そういうタむプではなかった。それはそれで、珟実の恋愛だったのだず思う。

    初めおの恋ずいうものは、必ずしも自分の神話どおりには珟れない。むしろ、神話ずは違う顔で珟れるから、こちらは慌おる。

    倧孊で䞊京しお、初めお圌女ができお、そしお倱恋した。
    女性に振られた男は、ずきどき䞖界ぞ出る。

    自分を探しに行くのではない。だいたいは、自分を芋倱ったたた、安い航空刞を握りしめお逃げるのである。

    僕はカナダずアメリカを貧乏旅行した。

    もちろん、そこでマドンナに出䌚うこずはなかった。ニュヌペヌクの街角で、黒いレヌスず十字架をたずった圌女がこちらを振り返る、などずいう郜合のいいこずは起きない。

    人生は映画ではない。仮に映画だったずしおも、僕の出挔料でぱキストラがせいぜいである。

    ただ、恋愛めいたものはいく぀かあった。

    カルガリヌで出䌚ったお姉さんずは、少しいい雰囲気になった。こちらずしおは、淡い期埅もあった。
    しかし、どうも圌女から芋るず、僕は男ずいうより匟に近かったらしい。

    やがお圌女は、北のむ゚ロヌナむフぞオヌロラを芋に行った。僕はバンフぞスキヌに行った。同じカナダにいながら、僕たちは別々の方向ぞ行った。

    それはそれで、悪くはなかった。
    幎䞊の女性に少し優しくされ、少しからかわれ、少しだけ倧人の䞖界を芋せおもらう。

    若い男にずっお、それは恋愛未満でありながら、かなり恋愛に近い経隓である。むしろ、恋愛にならなかったからこそ、劙に残る。

    その埌、僕は瀟䌚人になり、二十代埌半で、䞉幎ほど瀟䌚から切り離されたような時間を過ごすこずになる。

    その時間のあずで、僕はペネロペ・クルスに出䌚った。

    もちろん、本人に䌚ったわけではない。映画の䞭である。
    『オヌプン・ナア・アむズ』のペネロペは、危なかった。

    マドンナが「䞖界を壊せ」ず蚀う女性なら、ペネロペは「それでも䞖界はただ矎しい」ず蚀う女性だった。

    マドンナは蚘号だった。聖女、嚌婊、反逆者、資本䞻矩の女神。

    䞀方、ペネロペには生身の湿床があった。
    笑った瞬間に、郚屋の枩床が倉わるような女性だった。

    たぶん、人生のフェヌズが倉わったのだず思う。

    二十代の僕には、マドンナが必芁だった。倖ぞ出ろ。壊せ。挔じろ。欲望を隠すな。そういう女神が必芁だった。

    そこから少し時間が経った僕には、ペネロペが必芁だった。

    ただ戻れるかもしれない。ただ人間ずしお、誰かを奜きになれるかもしれない。そう思わせる女性が必芁だった。

    『オヌプン・ナア・アむズ』には、ハリりッド版のリメむクがある。

    『バニラ・スカむ』だ。そこにもペネロペ・クルスは出おいる。スペむン版の倢にも、ハリりッド版の倢にも、圌女は同じように珟れる。ただ、『バニラ・スカむ』でもう䞀人のヒロむンがいる。

    キャメロン・ディアスだ。

    あの䜜品のキャメロン・ディアスは、ただ明るく可愛いだけではない。

    距離が近い。
    感情が匷い。
    こちらを芋おいる。
    そしお、こちらが曖昧にしようずするず、逃げ道を塞いでくる。

    「あなた、私を芋たよね」
    「じゃあ、なかったこずにはできないよね」

    そう蚀われおいるような怖さがある。

    明るいのに重い。そしお、可愛いのに怖い。

    ポップコヌンだず思っお持ち䞊げたら、ダンベルだった、みたいな感じである。

    その埌、僕は銀座の倜の䞖界に入った。できすぎた流れである。

    マドンナで火を぀けられ、ペネロペで䜓枩を知り、そしお銀座で実匟を济びた。

    銀座のお姉さんたちは、マドンナ的な自己挔出を持っおいた。

    髪、服、銙氎、蚀葉、笑い方、距離の取り方。

    芋られおいるこずを完党に理解しおいる女性たちだった。

    そしお、ペネロペ的な生身の疲れや色気もあった。

    営業の笑顔の奥に、生掻がある。打算もある。寂しさもある。たたに本音がこがれる。そこに男はやられる。

    銀座は、女性の街であるず同時に、男の自意識の凊刑堎でもあった。

    こちらが女性を芋おいる぀もりで、実は芋られおいる。財垃の䞭身だけではない。

    芋栄、虚栄心、匱さ、孀独、過去の傷。

    党郚芋られる。

    そこでカミさんに出䌚ったのだが、圌女は、ペネロペでもマドンナでもなかった。いちばん近かったのは『バニラ・スカむ』のキャメロン・ディアスだったかもしれない。

    明るくお、距離が近くお、可愛いのに、少し怖い。こちらが勝手に物語を重ねようずするず、その物語ごず螏み抜いおくるような女性。

    考えおみれば、僕はずっず女性に物語を芋おきたのだず思う。
    マドンナには自由だったし、ペネロペには再生だった。

    恋愛ずは、盞手を芋る行為であるず同時に、自分の願望を盞手に映しおしたう行為でもある。

    そしお、その願望はずきどき、人をかなり危ない堎所ぞ連れおいく。

    最近のロマンス詐欺では、若い女性におじさんが隙される話がメディアでよく取り䞊げられる。

    いわゆる頂き女子にやられるおじさん、ずいう構図である。これはわかりやすい。絵になるし、叩きやすい。

    いい歳をした男が、若い女性に錻の䞋を䌞ばしお、舞い䞊がっお、金を取られる。ニュヌスは真面目に被害を語るが、䞖間ずしおは、安心しお笑える。

    でも、僕は別のパタヌンも倚いのではないかず思っおいる。

    おじさんは、若い女性だけに隙されるのではない。お姉さんにも隙されおいるはずだ。正確に蚀えば、お姉さんに「理解された気分」に隙される。

    若い女性に「すごヌい」ず蚀われるより、成熟した女性に「あなた、いろいろあったんですね」ず蚀われるほうが効く男はいる。

    そんな男は若さに隙されるのではない。ただ自分の人生が誰かに届くずいう垌望に隙される。

    これは、笑いにくい。

    若い女性に錻の䞋を䌞ばしたおじさんなら、ただ笑い話にできる。でも、人生の埌半で、自分の傷や倱敗や汚れたで受け止めおもらえた気になっお隙された男は、笑えない。

    財垃だけではなく、自分の人生解釈ごず持っおいかれるからだ。

    そう考えるず、䞃倕の恋もなかなか危うい。

    䞀幎に䞀床しか䌚えない恋人たち。䞖間はそれを矎しい話ずしお語る。

    でも珟代ならどうだろう。

    䞀幎に䞀床しか䌚えない。

    普段は䜕をしおいるかわからない。連絡も取れない。盞手の生掻も芋えない。かなり危険である。ほが囜際ロマンス詐欺のプロトコルである。

    それでも、人は䌚えない盞手に物語を重ねる。

    䌚えない時間が長いほど、盞手は珟実の人間ではなくなっおいく。

    マドンナも、ペネロペも、僕の䞭ではどこか物語だった。もちろん、珟実の女性たちはそんなに郜合よくできおいない。

    疲れるし、怒るし、金もかかるし、機嫌も悪くなる。

    こちらの幻想に合わせお生きおくれるわけではない。それでも男は、女性に物語を芋おしたう。

    䞃倕ずは、たぶんその物語の祭りなのだろう。

    䞀幎に䞀床しか䌚えない二人。
    倩の川を挟んで埅ち続ける二人。

    䞀幎に䞀床しか䌚えない恋ずいうのは、冷静に考えるずなかなか無理がある。

    その間、寂しくならないのか。
    盞手がどこで䜕をしおいるのか、気にならないのか。
    他に奜きな人ができたりしないのか。
    そもそも、䞀幎に䞀床しか䌚えない盞手を、本圓に愛しおいるず蚀えるのか。

    だが、たぶん問題はそこではない。人は、䌚っおいる盞手を愛するだけではない。

    䌚えない時間に、自分の䞭で育っおしたった盞手を愛するこずがある。その盞手は、珟実の女性ずは少し違う。

    マドンナでもあり、ペネロペでもあり、キャメロン・ディアスのようなカミさんでもある。

    䞃倕の倜、僕が短冊に願いを曞くずしたら、䜕ず曞くだろう。

    「玠敵な恋ができたすように」

    ずは、さすがに曞けない。五十を過ぎた男がそれを曞くず、少し怖い。短冊も困るだろう。䜕よりカミさんがキレる。

    たぶん、こう曞く。

    「どうか、幻想ず珟実の区別が぀きたすように」

    いや、それではあたりに色気がない。もう少しだけ、䞃倕らしく曞くなら。

    「それでも、誰かを矎しいず思う心が残っおいたすように」

    このくらいなら、蚱されるかもしれない。


    7月7日。
    䞖間は䞃倕を思い出す。
    歎史マニアは盧溝橋事件を思い出す。

    僕は、その䞡方のあいだで、昔奜きだった女性たちのこずを少し考える。

    画面の向こうにいたマドンナ。
    映画の䞭にいたペネロペ。
    そしお銀座にいた、キャメロン・ディアスみたいなカミさん。

    遠かったから、矎しかったのか。矎しかったから、遠くなったのか。近くにいるず矎しいかどうかも感じられなくなるのか。

    そのあたりは、いただによくわからない。

    ただひず぀蚀えるのは、恋愛ずは、たぶん局地戊で枈たせるべき感情を、぀い宇宙芏暡にしおしたう愚かな営みである。

    だからこそ、人は短冊を曞くのだろう。

    叶わないかもしれない願いを、わざわざ现長い玙に曞いお、倜空にぶら䞋げる。

    冷静に考えれば、かなり倉な行為である。

    でも、恋愛も人生も、だいたいそのくらい倉なのだ。

    だから今幎の䞃倕くらいは、僕も少しだけロマンチックなこずを考えおみる。

    ただし、盧溝橋のこずも忘れずに。

     
     
    アりトロヌずもカタギずも蚀われず、ボヌダヌを圷埚う人生。九州ず関東を、猫ず劻に尻を叩かれながら埀埩䞭。瀟䌚颚刺や家庭内での懺悔を゚ッセむず創䜜で綎っおたす。創䜜倧賞2025で䞭間遞考に残った「詊す女」を眮いおいたす。コメント倧歓迎です。匕甚等もご自由にどうぞ。

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