
完璧な平和
まだ世界の言葉を知らなかった
でも、あの音だけは知っていた
生きているということの
いちばん正直な音
まだ言葉を持たなかった頃の
確かなゆりかごの記憶
大きな背中にやわらかな片頬を預け
私は世界のすべてを信じていた
重なり合う体温は
冬の陽だまりのように
私の小さな震えをそっと鎮めてくれた
どくん、どくん…
私の鼓動とあなたの鼓動が
境界線をなくしてひとつに溶けてゆく
この世界で最初に出会った
優しいリズム
見上げる空はどこまでも高く
揺れる歩幅に身を任せれば
恐れるものなど何ひとつない
時は流れた
もう、あの背中に隠れることはできないけれど
目を閉じれば今も聞こえる
あのあたたかな命の刻印
私は愛されていたのだと思える
そのことだけで
今日を歩く力に変えていける