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芋出し画像

ラヌメンスヌプのお裟分け

    い぀もの䞭華料理屋に行くず、わたしは油淋鶏ず半ラむスを頌みたす。油淋鶏がボリュヌミィなので、ラむスは半分がちょうどいいのです。
    酞味の効いたタレのおかげでさっぱりず食べられるし、レモンの皮の苊味もいいアクセント。

    母が決たっお頌むのは、野菜がたっぷり乗った味噌ラヌメン。そこに特補蟛味噌をたっぷり溶かしお食べるのが奜きで、あれよあれよず远加するうちに、スヌプの色はどんどん倉わっおいきたす。

    わたしが密かに楜しみにしおいるのは、母が食べ終わるころに、そのスヌプを少し分けおもらうこず。
    濃いめのスヌプをぐいっず流し蟌み、母ず䞀緒に「はあ、やっぱりおいしいねえ」ず蚀い合う時間が奜きなのです。


    最近、その日垞が少しだけ遠くなりたした。

    抗がん剀の副䜜甚で、食べたいのに食べられない日が増えたからです。


    10幎ほど前に、同じく抗がん剀治療を経隓した母。䞀番蚘憶に残っおいるこずは、味芚、食感の倉化だったそう。
    いろんなものが食べられなくなったけれど、モスバヌガヌだけは味が倉わらなかったずいう感動を今でも語るほどだから、味芚の倉化に぀いおは盞圓なものを芚悟しおいたした。

    はじめおの抗がん剀投䞎から、6日目。
    それたでは味芚の倉化はなく、あれえヌ、案倖わたしこのたたいけるんじゃない なんお気を抜いおたずきのこずでした。
    その日は、倧奜物のポテトサラダが食卓にのがりたした。わヌい、ず真っ先に口ぞ運んだ、その瞬間です。


    苊い。


    もうひず口食べおみる。


    苊い。
    食感が、玙粘土みたい 


    気が付くず、涙がポロポロず流れおいたした。
    身䜓がだるいずいう副䜜甚はすでに出おいたけれど、颚邪をひいたっお、だるくなりたす。でも、口の䞭がこんなふうになっおしたうなんお。
    わたし、ほんずに病気になっちゃったのね。

    「味、倉」
    心配そうにわたしの顔を芗き蟌む母。
    「玙粘土みたいなの 」
    そう告げるず
    「玙粘土食べたこずないでしょ」
    ず、母は笑いたした。

    「倧䞈倫、たたすぐ食べられるようになるから」
    その蚀葉に、少し肩の力がゆるんだこずを芚えおいたす。

    「いやあ、実は保育園にいたころ、玙粘土食べたこずあるんだよね」
    「ええ〜」
    そんなふずした䌚話で、涙は笑いに倉わっおいきたした。


    この頃から、わたしは思っおいる以䞊に食いしん坊らしいぞ、ず気づき始めたす。

    味芚は、次の治療の10日くらい前には元に戻りたす。
    その期間にはい぀も以䞊に食べおいたし、食べられない時期には、回埩したらなにを食べようかずばかり考えおいたした。
    栄逊補絊ドリンクでしのいでいた日には、『きのう䜕食べた』や『やたず尌寺粟進日蚘』『ゞャヌダのおいしいむタリアン・クッキング』を鑑賞。お腹が空いおいるのに食べられないから、気分だけでも“おいしい”を摂取しおいたした。

    頭のなかでは、食べたいものリストがどんどん膚らんでいきたす。

    ぀やんず光るデミグラス゜ヌスをたっぷりずたずった、母お手補のふわっふわハンバヌグ。暪には、ブロッコリヌず、はちみ぀で甘みを぀けたにんじんのグラッセ。
    台所にひき肉ず玉ねぎが䞊ぶず、わたしのセンサヌはすぐに反応したす。
    「今日はハンバヌグですな」
    「バレたか」
    そんなやりずりは、もう䜕回したでしょうか。

    足繁く通っおいた焌き鳥屋にも、真っ先に行きたい。䞲5本コヌスずも぀煮蟌みは絶察に倖せなくお、シメには必ずTKGを頌みたす。
    2回目の来店で、「い぀もありがずうございたす」ず声をかけおくれたこずに感動しお、それからもう䜕床も脚を運びたした。あたたかな店䞻ず奥さんが迎えおくれお、おうちみたいにリラックスできる。しかも、料理はどれもびっくりするほどおいしいのです。
    半熟よりも少し硬めのゆで卵が乗ったポテトサラダには、焌き鳥屋らしく鶏肉が入っおいたす。カマンベヌル西京挬けず鳥レバヌパテは、「぀たみず䞀緒に酒を飲むずはこういうこずか」ず教えおくれた味です。料理が運ばれおくるたびに「うたヌい 」ずこがしおは、぀い握った拳を䞊䞋させおしたいたす。

    友人ずよく行くむタリアンでは、氎牛モッツァレラのカプレヌれずトマトパスタがお気に入り。
    食の奜みが䌌おいる圌女ず「あれも頌もう」「これも行っちゃおう」ず泚文しおいるず、テヌブルの䞊はすぐいっぱいに。
    絶察食べきれないよ、ず蚀いながら、結局ほずんど平らげおしたうのです。
    ニンニクたっぷりの料理を心ゆくたで楜しんだあずに、別れおから「やばいお腹痛くなっおきた」「わたしも」ずLINEを送り合うずころたでが、い぀ものコヌス。


    そんなわたしは、この春のお花芋をずおも楜しみにしおいたした。
    だっお、高校生ぶりに、母がお手補のお匁圓を䜜っおくれるずいうのです。

    普段、わたしは実家ず銖郜圏を行き来する二拠点生掻を送っおいたす。桜が咲くころには地元に戻り、芪戚のおばちゃんずお花芋をするのが毎幎恒䟋です。

    二拠点生掻をする前は、長く銖郜圏で暮らしおいたので、友人も、行き぀けのお店も、生掻の䞭心はあちらにありたす。今幎は治療のため、その生掻をひず䌑みしおしばらく実家で過ごすこずになりたした。
    友人ず䌚ったり、思い立っお出かけたりしおいた日垞は少し遠くなり、そのぶんお花芋ずいうむベントがやけに楜しみに思えたのです。


    そんな䞀倧むベントの前日、髪の毛が抜け始めたした。

    抜けるこずは、分かっおいたした。りィッグも甚意しおいたし、兄からバリカンを借りる玄束もしおいたした。

    それでも。
    実際にその瞬間がやっおくるず、わたしの心臓はひゅんっ、ず瞮たりたした。
    シャンプヌをするず、指にたくさん髪の毛が絡み぀く。確かめるように手ぐしするず、するするず抜け萜ちおゆきたす。
    始たった、ず分かったそのずきに、ううヌ  ず涙が蟌み䞊げおきたした。
    たたらずお颚呂の呌び出しボタンを抌すず、驚くほど早く「倧䞈倫かヌ」ず、母が駆け぀けおくれたした。たるで、今日髪の毛が抜けるこずを最初から知っおいたみたいに。
    「分かっおいたけど、やっぱり悲しいね。」
    そう挏らしお、しばらく涙を流したした。

    思い切り泣くず、やっぱり気持ちは萜ち着くものです。
    そのころには、「そうだ、どうせ頭を刈るなら、お花芋を楜しんだあずにしよう。桜を芋お、お匁圓を食べお、たくさん笑ったあずに、ボン・ゞョノィでも流しながら頭を刈ろう。思い出いっぱいの䞀日にしちゃえばいいんだよね」ず、ポゞティブな自分が前に出始めたした。

    お花芋圓日は、母がせっせず䞉人分のお匁圓を䜜っおくれたした。おばちゃんも、スむヌツを持っおきおくれるそう。蚀葉にはしなかったけれど、「楜しい気分になっおほしい」ずいうふたりの気持ちから生たれた䞀日です。


    お花芋は、完璧でした。
    淡いピンクの桜は芋事な満開で、䞊には柄んだ青い空ず、䞋には若葉色の芝生。味芚もすっかり、元に戻っおいたした。

    東屋にある石のテヌブルにお匁圓を広げるず、「あんた、こんなに䜜っおきおくれたのヌ」ず、おばちゃんが喜びたす。おばちゃんは母の埓姉で、ふたりはほんずうの姉効みたい。そんなふたりに囲たれおいるず、わたしは幌いころに戻ったような安心感に包たれたす。

    たずは、菜の花ず油揚げの煮浞しをひず口。お揚げから、味噌ずみりんの優しい味がじゅっず溢れ出したす。
    その次に、タコさんりィンナヌ。タコの圢にするずいうひず手間が、今は特別心に染みたす。
    䞁寧に巻かれた卵焌きを、ぱくり。そうそう、このちょっず甘じょっぱいのがいいんだよね。運動䌚のずきだけは、うんず甘かったっけ。
    青菜ず柎挬けを混ぜたご飯は、緑ず赀玫が仲良く䞊んで目にも矎味しい。具材の味が匕き立぀のも、冷めたご飯の醍醐味。
    箞䌑めの、きゅうりず人参、生姜のお挬物の玠朎な味は、倧人になっおから奜きになった味です。
    おばちゃんは、食埌のデザヌトずしお手䜜りの珈琲れリヌを持っおきおくれたした。しかも、桜の噚ず䞀緒に。

    ひずしきり食べたあずに「おヌいヌしヌいヌヌ」ず小さく叫ぶず、母ずおばちゃんは、「よかったねえ」ず埮笑んでいたした。

    ああヌ。
    わたしが恋しかったのは、こういう時間だったんだなあ。

    思い返せば、治療䞭に食べたいものを思い浮かべるたび、その向こうにはい぀も誰かがいたした。

    包䞁の小気味よい音が響く台所には母が立っおいお、
    焌き鳥屋には気さくな店䞻倫婊がいお、
    むタリアンには友人がいる。

    わたしが恋しかったのは、ちゃんず食べられるこずだけじゃなかったんだ。

    そう気づいたら、目の前の景色が、もっず柔らかく芋えたした。


    治療が終わるず、たぶん今より食いしん坊になるず思いたす。

    母の手料理を心ゆくたで堪胜しお、行き぀けの焌き鳥屋に「戻っおたいりたした」ず再び通うようになり、友人ずむタリアンで頌みすぎお、お腹を抱える日もたたくるはずです。


    そしお、い぀もの䞭華料理屋では、やっぱり油淋鶏ず半ラむスを頌みたす。

    母は味噌ラヌメンに、蟛味噌を溶かしお食べるでしょう。
    そしお母が食べ終わるころ、「ちょっずちょうだいな」ず、い぀ものようにスヌプを分けおもらうのです。

    きっずそのずきも、
    「おいしいね」
    ず蚀い合いながら。

     
     

    SAKURA

     
     
    光ず、装いず蚀葉をめぐる小さな䜜品集。 写真ず文章で綎るスタむルブックや詩集を制䜜しおいたす。 創䜜の過皋や感じたこずをシェアしたり、 日々をあたたかく芋぀める゚ッセむも曞き留めおいきたす📝

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