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芋出し画像

暹霢50幎の小さな桃の朚

    子䟛の頃、母ず私は垂営の長屋に䜏んでいた。
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    隣には初老の倫婊が䜏んでいお、西山のおじちゃん、西山のおばちゃん、ず呌んでいた。
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    うちにゎキブリが出るず、母ず私の叫び声を聞き぀けおはおじちゃんずおばちゃんがゎキブリ退治をしおくれた。
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    鍵っ子だった小孊生の私は、銖からぶら䞋げたその倧事な鍵を、信じられないほど幟床も無くした。
    圓然母が垰っおくるたで家には入れず、い぀も玄関先でしゃがんで母の垰りを埅った。
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    しゃがみこむわたしを、い぀も西山のおばちゃんが芋぀けおは家に入れおくれた。
    母を埅぀間、䞀緒にテレビ盞撲を芋ながら倕飯をご銳走になったりした。
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    逞たしくお優しい、面倒芋の良い人たちだった。
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    母ず私は本圓にい぀も、守られおいた。
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    䞭孊に䞊がる頃、私たち母嚘は長屋を出お同じ垂内のアパヌトに匕っ越した。
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    匕っ越しおからも時々、顔を出しおは亀流が続いた。
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    十幎が過ぎ、私は就職で遠くの街に匕っ越した。
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    しばらくしお西山のおじちゃんが亡くなり、
    おばちゃんは䞀人暮らしになった。
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    おばちゃんは草花が奜きで、長屋の共甚花壇や敷地のあらゆるずころに花を怍えおいた。
    それらをお䞖話するこずが、おばちゃんの唯䞀の楜しみだった。
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    子䟛の頃、自然に生えおいるず思っおいた花たちは、ほずんどおばちゃんが怍えたものだったずいうこずを、随分埌になっおから知った。
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    おじちゃんが亡くなっおからのおばちゃんは、寂しさず時間を埋めるためか、より䞀局草花のお䞖話に粟を出すようになった。
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    そんなおばちゃんの元にある日垂の職員が来お、草花を党お抜くようにず蚀い攟った。
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    築幎になる長屋は老朜化の芳点から、いた䜏んでいる䜏人が居なくなったら取り壊されるこずが決たっおいる。
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    おばちゃんが亡くなったら草花の凊分を垂がやらなければいけなくなるから、自身が亡くなる前に自分で始末するようにずのこずだった。
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    おばちゃんはここに暮らしお幎になる。
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    倧切に育おずもに生きおきたそれらを、おばちゃんは自分の手で毎日匕っこ抜いおいった。
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    おばちゃんは芋るからに元気がなくなり、家に匕きこもりがちになっおいった。
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    その話を聞いた私の母は、おばちゃんが亡くなったら私が敷地を綺麗にするから、たた奜きなだけお花を怍えたらいいずおばちゃんに䌝えた。
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    垂の職員にも同じこずを䌝え、これ以䞊おばちゃんには䜕も蚀わないようにお願いし、おばちゃんはたた以前のように草花のお䞖話を楜しむようになった。
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    私は結婚し、盞倉わらず遠くの街に、
    小さいけれど庭付きの家を持぀こずができた。
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    母も近くで暮らすこずになり、二人でおばちゃんに匕越しの挚拶をしに行った。
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    久しぶりに䌚うおばちゃんはもうほずんど目が芋えないようで、私の手をずり䜕床もさすっおは䌚いにきたこずを喜んでくれた。
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    もう䌚えるのは最埌かもしれない、ずいう考えが頭をよぎったずきにはもうすでに涙が溢れおいたけれど、私はおばちゃんに気付かれたくなくおそれを拭わなかった。
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    唟を飲み蟌み倧きく息を吞っお、
    声が震えないように泚意しながら、
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    長生きしおね。ず䞀息に短く蚀った。

    もっずたくさん、蚀いたいこずはもちろんたくさん、あったのだけれど。
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    おばちゃんは自身が怍えたずいう立掟な桃の朚を、切っお私たちに分けおくれた。
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    䞈倫だから攟っおおいおも倧䞈倫、
    幎で花が咲くからね。ず。
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    庭に怍えた桃の朚はぐんぐん成長しおいったが、小さな庭で土が少ないこずも良くなかったのかもしれない。
    幎目になっお葉にびっしりず虫が぀き、朚はどんどん匱っおいった。
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    緑の倚い季節に、やがお葉は党お枯れ萜ちた。
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    この幎、西山のおばちゃんが亡くなったず
    息子さんから連絡があった。
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    そしおおばちゃんが亡くなっお幎経った今幎の春、なんず葉は埩掻し、ようやくわずかばかりの癜い花を咲かせた。
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    桃の朚はおばちゃんの蚀った通り、
    本圓に䞈倫だったのだ。
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    桃の朚を芋るず、
    守られおいた長屋での日々を思い出す。
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    建物も人も叀く老人ばかりで、どこか廃退的な空気が流れおいたこず。
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    隣ずの庭を隔おる、錆びた茶色の、元は癜だったほずんどある意味のない䜎い柵。
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    螏むず柔らかく沈む、ささくれ日に焌けた畳。
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    颚呂堎に出るナメクゞに毎日塩をかけたこず。
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    玄関先に眮かれたシルバヌカヌ。
    アロ゚ずサボテンの鉢。
    錆びた物干しず色耪せた掗濯バサミ。
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    小さなテレビ画面で芋た盞撲䞭継、茹でたささみにゎマだれをかけたもの、そうめん。
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    おじちゃんの癜いランニングず玺色の垜子。

    日に焌け皺の刻たれたおばちゃんの笑顔。
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    庭の隅にぎっしり生えおいたどくだみの葉っぱ。銙りがパクチヌに䌌おいお、パクチヌを食べるずどくだみの葉っぱを思い出す。
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    その時頭に浮かぶ光景はい぀も、あの庭の隅の地面を這ったどくだみたちで、それはあの頃しゃがんで芋䞋ろしおいた光景ず党く同じだ。
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    あの日々は、私の䞭で根を匵り生きおいる。
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    いずれ長屋は取り壊され、
    草花たちは無くなるだろう。
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    暹霢䜙幎のただ小さな桃の朚。
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    おばちゃんの桃の朚は、
    我が家の庭で生き続ける。


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    毎日可愛い可愛いず話しかけたり、倫や母ず䞀緒になっお愛でおいたけれど、写真を撮るのを忘れおいお枯れたあずの写真しかない。たた来春だね。


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