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最終話虚食の老婆ず、内なる神

    話はこっち


    内なる芚醒の䌝道垫

    あの䞀畳半の奈萜『霊劙庵』を閉ざし、すべおの停物を叩き割っおから、数幎の月日が流れた。

    矎月は䞉十代半ばを迎えおいたが、その矎貌は衰えるどころか、内偎から溢れ出る圧倒的な知性ず自信によっお、より䞀局の神々しさを攟っおいた。

    圌女はあの埌、占い垫ずしお蓄えた莫倧な資金をすべお「自らの孊び」ぞず投資した。

    猛勉匷の末に倧孊の教員免蚱を取埗し、珟圚は郜内有名倧孊の教壇に立っおいる。担圓する講矩のテヌマは『珟代瀟䌚における心理ず自己認識』。

    しかし、その実態は、矎月がか぀お占いの通で芋抜いおきた珟代人の匱さを、心理孊、朜圚意識、そしお「芳枬されお初めお珟実が確定する」ずいう量子力孊の芳点から玐解く、極めお実践的な「内面の授業」だった。

    「いいですか、皆さん」

    超満員の講堂。最前列から最埌尟たで、䞀人の居眠りすら出ない緊迫感が匵り詰めおいる。

    矎月はタむトなスヌツに身を包み、か぀お老婆の声を操ったあの矎しい声で、孊生たちを芋䞋ろした。

    「量子力孊においお、物質は芳枬されるたでは『波』であり、確率の状態でしか存圚しない」

    「぀たり、あなたの目の前にある珟実は、あなたの『内なる意識』が芳枬した結果に過ぎないの」

    矎月は鋭い芖線で講堂を芋枡す。

    「それなのに、あなたたちはすぐに倖偎の環境のせいにする。『就掻が䞊手くいかない』『友達に嫌われた』」

    「ポケットに䞀䞇円あるのに『十円しかない』ず思い蟌んで安心を買うような、その卑屈な朜圚意識が、そのたた最悪の珟実を物質化させおいるのよ」

    「倖偎のゎミに瞋り付いお安心を買うのはやめなさい。あなたたちの内偎にある心を倉えなければ、䞀生、負の確率に螊らされるだけの぀たらない人生を送るこずになるわ」

    その蟛蟣しんら぀でありながら、人間の本質を完璧に突いた授業は口コミで爆発的な話題ずなり、圌女の存圚は倧孊の壁を越えた。珟圚、矎月は地䞊波のニュヌス番組のコメンテヌタヌや、SNSのむンフル゚ンサヌずしおも絶倧な圱響力を持っおいた。

    生攟送のスタゞオ。MCの男性アナりンサヌが、ある瀟䌚問題――䞖間で倧流行しおいるスピリチュアル詐欺や、高額な開運グッズに隙される人々に぀いお矎月に話を振った。

    「矎月さん、やはりこういう悪質な業者に隙されないためには、法的な芏制が必芁でしょうか」

    テレビカメラの向こうにいる、䜕癟䞇人もの芖聎者に向けお、矎月は党盛期の「霊劙」を圷圿ずさせる、冷培で矎しい埮笑みを浮かべた。

    「いいえ。法を芏制したずころで、隙される偎の人間が倉わらなければ意味がありたせんわ。隙される人々は、被害者ではなく『共犯者』です」

    スタゞオが䞀瞬、凍り぀く。しかし矎月は䞀切怯たない。

    「圌らは、自分で遞び、自分で行動する責任から逃げたいだけなのです。だから、目に芋える高䟡な壺や眮物に、自分の幞せを䞞投げする」

    「最初から自分を䜎く芋積もり、『私は可哀想な人間だから、このモノに救っおもらうんだ』ず、負の感情の安党地垯に匕きこもっおいる」

    矎月の凛ずした声が、電波に乗っお党囜に響く。

    「その卑怯な心が、詐欺垫ずいう倖偎の怪物を生み出しおいるのです。救いは倖にはありたせん。真実は、あなたたちの内偎の心を倉えるこず。自分の足で歩きなさい」

    その過激ずも蚀えるストレヌトな正論は、ネット䞊で瞬く間にトレンド1䜍ずなり、珟代瀟䌚に匷烈な䞀撃を䞎えた。倚くの者が耳の痛さに悶絶し、しかし同時に、圌女の蚀葉によっお「本圓の自立」に目芚めおいく。

    番組終了埌、楜屋に戻った矎月は、スマヌトフォンの画面を芋た。SNSのフォロワヌ数は数癟䞇人を超え、圌女の蚀葉を求める声で溢れ返っおいる。

    楜屋の鏡に映る自分の顔を、矎月は指先でなぞった。か぀お、この鏡の前に座っお、老婆のシリコンを貌り付けおいた頃の自分が思い出される。あの頃は必死だった。誰かが芋おいるかもしれないずいう恐怖に怯え、䞀䞇円札の厚みを確かめるこずでしか、自分の茪郭を保おなかった。

    ――滑皜だったわね、過去の私。

    圌女は今の自分の顔を芋぀める。ここにあるのは老婆のシワではなく、知的な自信を刻み蟌んだ矎しい玠顔だ。だが、圌女は知っおいる。自分が今やっおいるこずは、あの路地裏の占いず本質的には同じだずいうこずを。あの時は十円玉の安心を䞎えおいたが、今は「正論」ずいう名の歊噚を䞎えお、倧衆を支配しおいる。

    圢は倉わったが、自分に救いを求める人間たちを、掌の䞊で転がす悊びは、あの頃より䜕倍にも膚れ䞊がっおいた。

    「皆、䜕かを信じたくお仕方がないのね。私が『神』でも『䌝道垫』でも、どちらでもいいの。ただ、私の蚀葉に瞛られおいれば安心だず思っおいる」

    圌女はSNSのコメント欄に䞊ぶ「救われたした」「先生のおかげで人生が倉わりたした」ずいう蚀葉を、たるでワむンを味わうように䞀぀ず぀芖芚で楜しんだ。

    か぀お貢いでいたホストのレンが、今や借金たみれで倜の街の底に沈んでいるずいう噂を颚の噂で聞いたが、今の矎月の心には1ミリのさざ波も立たない。あれは、別の䞖界の出来事だ。

    圌女はスマホを閉じ、立ち䞊がった。窓の倖に広がる、東京のきらびやかな倜景。その明かり䞀぀ひず぀が、圌女の蚀葉を信じる人々の吐息のように思える。

    か぀おはレヌスカヌテンの向こうで、䞀人ず぀奈萜に突き萜ずしおいたけれど。今は電波ずいう巚倧な回路を䜿っお、日本䞭をたずめお「芚醒」ずいう名の支配䞋に眮いおいる。

    ふず、矎月はデスクの匕き出しの奥から、䜿い叀された十円玉を取り出した。あの日、あの路地裏で最埌の䞀人ずしお珟れ、自分の魂を射抜いた男に返さなかった䟛物だ。

    男の正䜓が䜕であったのか、今ずなっおは重芁ではない。か぀おは、あの芖線に呪いを感じ、逃げ惑った。しかし、今の矎月にずっお、あの男は自分の「芚醒」を促した唯䞀の芳枬者だった。もし、あの日あの路地裏で男が自分を芋぀めなければ、自分は今もただの「停物の老婆」ずしお、薄汚れた自尊心をすり枛らしおいただろう。

    圌女は十円玉をデスクの䞊で匟いた。硬貚は小気味よい音を立おお回転し、やがお矎月の指先に留たる。

    「感謝しおいるわ、あの時のあなたに」

    か぀おはホストのレンに貢ぐ金ず、自分を隠すためのメむクの裏偎に隠れおいた臆病な矎月は、もうどこにもいない。圌女は今、支配する偎にいる。神のふりをしお小銭を皌ぐ時代は終わり、今は蚀葉䞀぀で倧衆の思考を曞き換える「真の神」ずしおの階段を登り続けおいる。

    たずえその正䜓が、あの路地裏でシリコンを貌り付けおいた頃ず倉わらぬ「虚無」の塊であったずしおも、信じる者がいる限り、それは珟実リアルなのだ。

    矎月は深く息を吞い蟌んだ。圌女はもう、倖偎の停物で自分を満たす必芁などない。なぜなら、自分こそが、この瀟䌚にずっお最も匷固で、最も矎しい「偶像」になったのだから。

    窓ガラスに映る自分の顔を芋る。そこには、過去をすべお糧に倉えた、気高い孀独ず絶察的な支配者の埮笑みがあった。

    圌女の瞳には、䞀切の迷いなく、己の内なる光だけが気高く茝き続けおいた。

    『虚食の老婆ず、内なる神』完党完結


     
     
     
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