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【エッセイ】手放すことが愛だと思っていた

    「相手の幸せのために、手放す愛がある。」

    「愛しているなら、相手の幸せを一番に考えて、愛していても手放さなければいけない。」

    SNSで見かけた、その言葉を私は何度も読み返した。

    昔から私は、自分の気持ちを後回しにしがちだった。

    友人と遊びに行くときも、
    「ここに行きたい!」「これが食べたい!」
    そう言われれば、自分が行きたい場所でなくても、自分が食べたいものでなくても
    相手が楽しめるなら、それでいい。
    相手が喜んでくれるなら、私も楽しい。
    そう考えるタイプだった。

    そんな私は、冒頭の言葉を見て、
    相手の幸せを想って手放すことが本当の愛なのだと思った。
    それを信じて疑わなかった。


    私には恋人がいる。国際恋愛だ。
    一緒にいると心地よくて、自然に将来を考えることができる、そんな彼だ。

    将来、私といることが
    彼にとって一番の幸せではないのならば、
    いつか、彼と離れることを選択しなければいけないのかもしれない。

    世界で一番、彼が幸せであるように。
    私といることで、もし彼が幸せでないのなら
    私は身を引こう。

    相手の幸せのために、手放す愛がある。
    手放すことが本当の愛なのだと信じていた私は、日々こんな考えをしながら恋愛をしていた。

    そんな私の考えを変える出来事があった。
    彼と未来の話をしていたときだ。

    彼が自分の国を離れて
    私の住むところに来たいと言ってくれた。

    とても嬉しかった。
    けれど、なぜか少し苦しかった。

    彼が自分の国にいる家族や友人に頻繁には会えなくなること。
    住み慣れた国を離れ、母国語ではない言葉で暮らす毎日が来ること。
    私といると、もしかしたら、
    彼は一番幸せではないのかもしれない。

    住み慣れた場所で
    いつも話していた言葉で
    家族や友人たちに囲まれて
    その国で恋人を作って
    そうやって暮らした方が
    彼にとっても彼の家族にとっても
    幸せなのかもしれない。

    大好きだけれど
    私が彼の手を
    放さなければいけないのかもしれない。

    私は思ったことを
    素直に彼に伝えた。

    その時の彼の言葉が今でも鮮明に
    彼の声が聞こえてくるほど、強く印象に残っている。


    「じゃあ、僕の今の幸せはどうなるの?
    君と過ごして今が一番幸せな僕は、どうしたらいいの?」

    「この先、もし、君以外の人に
    自分の国に戻って出会っても、今より幸せかはわからない」

    「そんなまだ分からない未来の幸せのために
    こんなに幸せな今をどうするの」

    「もしかしたら、僕の手を離すという君の選択のおかげで、未来の僕は幸せになるかもしれない」

    「でも、君は?僕と離れたら、今より幸せになるの?」

    『ううん、なれないと思う。
    あなた以外の人と出会っても、今以上に幸せにはなれないと思う。』

    彼が続けて、
    「じゃあ、君の幸せは捨てるの?」

    『うん。捨てられる。大好きだから。私といることがあなたにとって一番の幸せじゃないなら、離さなきゃ。あなたの手を。』

    「そんな考え、僕はしたことないな。」
    「僕は、わがままかもしれないけど、自分の幸せも大切。」
    この言葉で、私の中にあった「愛」の形が少し揺れた。

    「もしかしたら、
    君にとっても、僕といることが一番の幸せではないかもしれない。」

    「でも、僕の横で、僕の隣で、幸せになってほしい。僕は君を手放すなんて考えたことはない。」

    なぜか私は、言葉を失った。
    胸がすごく苦しかった。
    私は彼の幸せばかりを考えていた。
    でも彼は、彼自身の幸せも、私の幸せも大切に思っていた。

    私は、何を愛だと考えていたんだろう。
    一歩先の未来も分からないのに、
    そのもっと遠くの未来を想像して、勝手に彼の幸せを決めつけていた。
    私といることは、彼にとって一番の幸せではないのだと。

    もしかしたら、自信がなかったのかもしれない。
    友人や家族と離れて、一人で日本に来る彼を
    今以上に幸せにできる自信と覚悟が、私には足りていなかったのだ。

    それが彼にはあった。
    私は彼を失う未来を恐れていて、
    彼は私と作る未来を信じていた。

    これから先の人生、辛いことなんて、きっと何度も何度も起きるだろう。
    もし、彼にそんな出来事が起こったら、私と一緒に乗り越えればいい。

    「僕の横で、僕の隣で、幸せになってほしい。僕は君を手放すなんか考えたことはない。」
    その言葉に、私は素直に甘えることにした。

    あの日から私は、
    「愛しているから手放す」ではなく、
    「愛しているから、一緒に幸せになる」を選ぶようにしている。

    二人で幸せになろう。
    もし、私たちの出会いが運命じゃないなら、離れないように。
    もっと、ぎゅっと、強く、この縁にしがみついて生きていこう。

    手放すことが愛だと思っていた。
    今は、一緒に幸せになることも愛だと信じている。










     
     

    さき

     
     
    大学4年生(理系) ENFJ(主人公) ゆる〜く、気ままに。

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