
緑のパイロットランプ
親戚の叔父さんから聞いた話だ。
叔父さんが小学生だった頃の話。家には真空管ラジオがあったという。
真空管ラジオの電源を入れると、緑色のパイロットランプが点く。暗闇にじわりと、緑の光が現れてくる。
海外の音楽や聞きとれない声が、強く弱くさざ波のようにスピーカーから流れてくる。けれども、音を聞くよりも「緑色のパイロットランプ」を見ているのが好きだったらしい。
眠る前に、母親にお願いして枕元に真空管ラジオを持って来てもらい、温かい布団にもぐりこむ。
灯りをすべて消すと、部屋は真っ暗になった。
音声ボリュームをゼロにする。
顔だけを出してじっとして動かない。
暗闇の中、光だけを見つめる。
真空管からは、「チリチリ」という微かな音が聞こえてくる。
「眠る前のね、いちばん幸せな時間だったよ」
叔父さんは、はにかむように少し笑った。
何を見ていたのかは、うまく想像できなかった。
それでも、話を聞いたあと、暗闇に浮かぶ緑の光だけが残った。
いまは、音が溢れている。
消しても、すぐ別の音が入ってくる。
ふとした時に思い出す。
何も鳴らないラジオの前で、じっと光だけを見つめていた時間。
#創作大賞2026 #エッセイ部門