
料理番組を一日でクビになった話
「納得」ということについて。
物事にはいろいろな捉え方があります。
同じ出来事でも、人によって見え方は違うし、立場によって正解も変わる。だから、わざわざ理由なんて知らなくてもいい、という人もいると思います。
でも私は、昔から理由が知りたい人でした。
小学生の頃。
近所のおばちゃんが「ちょっと話聞いて」と言いながら、よくお茶を飲みに来て、母と話をしてました。
私はそんな大人たちの話を横で聞くのが好きだったなー。
そのおばちゃんは看護師さんで、二人の子どもを育てながら働いていました。少し気が強くて、でも面倒見がよくて。
今思えば、北斗晶さんをもう少し柔らかくしたような人でした。
ある日のこと。
何の話の流れだったかは覚えてないけど、おばちゃんが教えてくれた話を、今でもよく覚えてます。
それは、
「古いお寺が長く残っているのは、南側には南側で育った木を、北側には北側で育った木を使うからなんだよ。それぞれに合った場所で使われるから、無理がない。それが『納得』ということなんだよ」と。
子どもだった私は、その話の真偽なんてわからなかったけど、
「納得」という言葉だけは、なぜか心に残った。
無理がないこと。ちゃんと理由があること。だから安心して立っていられること。それが私の中の「納得」のイメージになった。
その後、大人になった私は、タレント事務所に所属して、レポーターや司会の仕事をしていました。
ある日、料理番組のアシスタントをするチャンスがやってきました!
料理好きだった私は、「いつかは料理番組のアシスタントがしたい」とずっとずっと夢に描いていたのです。
でも、その仕事はたった一日で終わりました。
ちょうど秋の食材を使った料理の収録中、先生が銀杏をゆでていました。
ゆでると、鮮やかなヒスイ色になった銀杏を見て、私は思わず聞きました。
「どうしてこんなに綺麗な色になるんですか?」
先生は答えてくれませんでした。
代わりに、カメラの向こうにいるディレクターに、なにか言いたげに視線を送っていました。
それがなぜか、その時の私はわかりませんでした。
でも後になって理解しました。
私に求められていたのは、あくまでも進行の補助であって、理由を掘り下げることではなかったのです。
番組的には、正しい判断なのだと思います。
なぜ綺麗な色になるのかな。
見てくれる人も、その理由が知りたいんじゃないかな?
そんなことを思って、私は言葉にしました。
でも、それはアシスタントとして求められていた役割ではなかったようです。
横でニコニコ笑いながら、先生の言葉に相槌を打つ。それがアシスタントの仕事でした。だから先生も、やりにくかったのでしょう。
今ならわかります。
そして、それ以来、その仕事に声がかかることはありませんでした。
あれから30年以上経った今でも、その時のことを覚えています。
仕事を失ったからではありません。
納得したい。納得できる理由が知りたい。
という性格が、よく分かるエピソードだから。
そして、理由がわかる、その理由に納得できる。
そうすると、人は動けるのだと思います。
今、私は圧力鍋研究家として圧力鍋のレシピなどを伝えてます。
圧力鍋は少し特殊な調理器具です。
普通のお鍋のように、途中でふたを開けて様子を見ることができません。
だから、
・なぜこの加圧時間なのか
・なぜ圧力が下がるまで待つのか
・なぜこの順番なのか
私はその理由を伝えたいのです。
なぜなら、その理由がわかると再現できるし、応用もできるから。
そして何より、自信を持って作れるからです。
ここで言う「理由」には二種類あります。
調理科学で説明できる理由と、何度も作ってきた経験から説明できる理由。
私はそのどちらも大切にしています。
だから調べます。
調理科学の本や栄養学の本も読みます。
だから実験します。
仮説を立てて、検証して、失敗して、また試して。
圧力鍋を何台も並べて検証するのも、そのためです。
正直なところ、「加圧◯分です」とだけ伝える方がずっと楽です。
でも私は、
どうして1分なのか。
火を止めたあと、なぜ待つのか。
なぜこのレシピは急冷するのか。
なぜ圧力鍋によって加圧時間が違うのか。
そんなことまで話したくなってしまうんです。
理由がわかると納得できるし、失敗も減らせるから。
だから説明が長くなるんでしょうね。
そして、料理番組のアシスタントを一日で終えることになったのも、きっとこの性格のせいです。
なぜなら私自身が、納得したい人だから。
理由がわかると安心するし、納得できると動けるから。
面倒な性格だなと思うことも多々あります。
頑固だね、と言われることも一度や二度ではありません。
でも、その面倒くささのおかげで今の仕事があるのだから、悪いことばかりでもないのかもしれません。