アリニィイ(蜘蛛)
お身拭い 仏箒により
到頭 大小の塵芥を払い 百折千磨すれば
邪鬼にも善因善果や
角なく 私物なく 鬼門なく 自他一如となりぬる
ああ 伽藍の天目の 何と清らかなるかな
井戸は深く 夜は暗い
畏る 畏る 閻魔堂の欄間に菩提を覗き見る
いまだ 古庭の松は鬱として 青風なくも 立ち揺らぎし
遠山 我が名を呼ぶ 慙愧の聲も 芥の糸に聞こえず
蛻の吉日といえども 月は 何をも贔屓なく 仏掌を照らす
羅睺羅なり わが新しき俗界を見下ろせば
さながら 祇王を亡くした入道が深夜のごとく
深み 鎮み 闃闃として 黄葉ちる赤噂の 一陣も吹かじ
唐屏のひとつと欲して 籠る 香けむる仙境の
空空寂寂の雲 地の騒きに黙してみれば
まるで 無名古刹の菩薩が微笑
浮き沼に蓮華か と 寸志空乾 俗物は 深秋の軀となりたり
なあ と 蜘蛛の尻が 一新の糸をつむぐ