鴻毛千斤
軍隊 見るものにあらず
みんな 獏
夢の御馳走のかけら
大きかるべき目標
きびきび
くさくさ
今日は 今日だけで たくさん
白木テーブルに 各々のいのち
砂のあつまり
私は国のいのち
私は軍人なのだ
のど と 胃
唯一の自分のみの世界
たいこもちの群れ 教員
食物のからと 吸い殻と
甘いものと
自由な時間と
自由な顔
毛布をかぶり 飴をしゃぶる
東条首相の演説
未来は 我々の攻勢にかかっている
手の裏に ポツポツ しもやけ
私の 便所掃除の記念
要領よく ずるい二等水兵
病身のくやしさ
時計が コチコチと 家がこいしい
鎖の象
目は小さく 望みの腹は大きい
可能性の難路は細く
国家が 私の歩みを支配する
ついに マーシャル
元寇以来の大国難なり
今からまた 気を取りなおして 草々。
このごろ 神経衰弱
毎晩 家の夢ばかり
修正の 平手 げんこ
私の分隊は 平手専門
熱意の腕立て伏せ
精神的接触
― そんなもの はじめから ありはしない
非時局的な 煙草盆
無価値な海軍将校
ドイツ革命は キール軍港から
サイパン玉砕
東条内閣 総辞職
航空機の消耗率
艦船の隠密行動 不可能
もしも 人間魚雷
私たちをおいて ほかには
発光の稽古
ぶら下がった電球をみつめこむ
号令に 何一つ逆らいえず
谷崎潤一郎
食物の絵
結婚のご感想に 娑婆の学校気分
私たちの目の前は
沈む敵艦の姿でいっぱい
家の夢に 平服の私はいない
起床動作 一分三十秒
気の弱い 大詔奉戴式
雲一つない秋晴れ
爆音 かまびすし
台湾 空襲 沖縄も
空は のどか
居眠りをし 歌をうたう
ブーゲンビル島 壊滅
飛行機乗りの覚悟
あと二か月の いこいの日
「静かに死ねるか?」
「よし 許可する」
二度願い出て 祖国の子
父上様 母上様
みんな 知らぬ間に すっと行く
来年の暑くなるころには
非妥協的な 強いものに
Oをなぐった
Nをなぐった
あと 半年の命
位が上がった
日本中で 一番しあわせな生活をしているつもり
刀と 家の者の写真を
東京 大阪 神戸 名古屋
無差別爆撃にて 灰燼
女の話 手の届かぬ話
夢に なぜか ちや
江口がピアノ 私がヴァイオリン
屍をこえん
不幸の子になったのか
神潮特攻隊 ― 勝手な名前
出撃後 一日過ぎ
七生滅敵 洋々たる敵愾心のみ
静かなる
菊水のしるし
日の丸 鮮やかに
陛下の御船 嬉しからん
吾人の死 鴻毛に等し
しかれども 千斤の重み あらしむべし
後続諸士の奮起を 望むや切なり