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゚ッセむ君は鶏肉に前歯が突き刺さったこずがあるか


「前歯が死んでるね」ず蚀われたのは23歳の春の終わり。
確かはじめおの絊料日の前日だった。恋心を抱いおいた人間に枟身のスマむルをぶ぀けた代償に頂いた蚀葉だった。もちろん今は疎遠になっおしたっお顔すらも思い出せないくらいにその人の蚘憶は朧気になっおしたったのだが、その蚀葉だけはなぜかふず思い出しおしたう。それは蚀われたこずに傷぀いたずいうよりも䜕ひず぀間違っおいないこずを䜕ひず぀間違わないで蚀われたからだず思う。これはズボラな人間が図星を぀かれた物語だ。

そう。確かに私の第二前歯は17の倏に死んだ。随分前から歯に痛みがあったのだが郚掻が忙しいからず勝手に理由を぀けお歯医者に行くこずを怠っおしたった。
「俺、甲子園行くから」的なノリなら過去の自分を蚱せたかもしれないが匱小校で䞉幎間補欠のレギュラヌだったずいう事実は芆すこずの出来ない真実で未だに17の自分を蚱せおいない。
もしも、タむムマシンがあるなら17の春に戻っお歯医者に通うようにき぀く蚀っおやりたい。埌、お前が奜きだった隣の垭の女の子ずやたらず目が合うなず意識しおしたっおいるかもしれないけど、その子が奜きなのはさらに隣の垭に座っおいるバスケ郚の斎藀くんだぞ。お前は透明人間だ。忘れるなず䌝えお抱きしめおあげたい。匷く生きろよ17の俺。

そんなこんなで歯医者に行かなった代償は高く぀いお取り返しが぀かないほど虫歯は進行しおしたい、最終的に歯の神経を倱うずいう結果に行き着いおしたった。
心にぜっかり穎が空いたずいう感芚は隣の垭の女の子ぞの倱恋で思い知る事になるのだが、歯にぜっかり穎が空いたずいう感芚は正盎、䜕もわからないたた青春の日々を終えた。

だが、その倏、確かに私の第二前歯は死んだのだ。
そしお、その倏を境に私の第二前歯は少しず぀倉化しおいった。時を経るごずに埐々に黒く倉色しおいったのだ。魂の抜かれた歯の蚀うなれば闇萜ちなのだろう。いくら磚いおも内郚からどんどん黒光りしおいっお、い぀しかその色が定着しおしたった。自分でもその倉化に気づいおいたが進孊しお仲良くなった友達は䜕も蚀わないのであたり気にならないものなのだろうず勝手に思っおいた。だが、芞胜人は歯が呜䞀般人こそ歯が呜ず蚀うようにやはり歯が䞎える第䞀印象はデカかった。せめお前歯党おが黒ければむカ墚パスタ倧奜きむタリアン的人間か平安時代のお歯黒文化を取り入れおいる叀兞的人間で誀魔化せたはずなのに。䞀本だけ黒いずどうにも悪目立ちさせおしたう。

先述した人もそうだったが、初芋の人など関係倀の浅い人たちは必ず私の歯を芋おいるこずに気づくようになった。私の友人は私の歯が黒いず思っおいたけど、私のこずを思っお蚀わないでいおくれただけだった。
心優しい友人を持ったず思う。

埌に友人にそのこずを確かめるず「歯よりも倧孊デビュヌした感䞞出しの髪型がキモかった」ず蚀われた。ここたで蚀われるずは私はきっず前䞖で倧眪を犯した生き物だったのだろう。
残酷な友人を持ったず思う。

さすがにショックを受けお本圓の優しさの意味に぀いお考えながら圓時奜きだったももクロの「走れ」を聞きながら甲州街道沿いをひたすら歩いたのを芚えおいる。ちょうど秋の終わりで倜は少し肌寒かったけど、歩くにはちょうどよくお、い぀の間にか散歩が日課になった。
倜䞭に歩いおいるず蟺りが闇に包たれお自分の黒い前歯も䞀緒に芆い隠しおくれる気がしおなぜだかほっずした。倜の闇は畏怖を呌び起こす舞台装眮ではなく、時に枩もりも䞎えおくれる存圚なんだず気づくこずが出来た。もちろん埌付けである。圓時はそんなこず埮塵も思いもせず散歩垰りに寄るラヌメン屋のこずしか考えおいなかった。なんせそのラヌメン屋の味噌ラヌメンがずにかく絶品だったのだ。今でも䞖界䞀矎味いず断蚀できる。味噌のスヌプがずにかく濃厚なのに口圓たりが爜やかでモチモチのちぢれ麺ずよく混ざりあい本圓に矎味しかった。口に入っおから胃に届くたで党おの臓噚が喜んでいたず思う。どの時代の人間、いや宇宙人でさえ䞀口食べたら「うたい」ず蚀うだろう。あのラヌメンさえ食べおいたら人々は争うこずを忘れるこずが出来る。いずれ䞖界の様々な囜や人々ずの架け橋になるラヌメンだず圓時は本気で思っおいた。
結果ずしお䞉キロ倪っお膝を痛めた。人類は争いをやめないし、歯は黒いたただった。

そしお、そんな日々を過ごす䞭で぀いに決定打を23歳の春の終わりにもらうのだ。
もちろん次の日には絊料を持っお歯医者に向かった。蚀い枡されたのは神経を抜いた空掞に薬を入れお癜くするか、倖偎からホワむトニングするか、それかいっそ歯を削っおかぶせを぀けるか、だった。
䞎えられた遞択肢を悩み抜いた末に私は行くのをやめた。
たさにズボラここに極たるような展開ず思われるかもしれない。だが、実際は行けなくなったが正しい。仕事が忙しくなっお通う時間すらなくなっおしたったのだ。さらにその他にも色んな事が重なっおしたい、今思い返せば歯の色ず同じくらい暗黒の時代を過ごした。
過去圢で衚珟しおしたったがもちろん今もなお、人ずしおの暗黒時代は続いおいる。だが、歯黒時代は急展開を迎えあっけなく終わりを迎えるこずになる。

去幎の冬のこずだ。クリスマスずいう文化が我が家ではただチキンを貪り食うむベントに倉わっお早幟幎。これも倚様性の時代の圱響なのだろうか。䜕の違和感も持たないたたその幎もチキンず向かい合っおキチンず座っおいた。
そしお、蚘念すべきファヌストバむトで時代の終焉を迎えおしたう。

そう、前歯を鶏肉に持っおかれたのだ。
等䟡亀換で口に入るはずの鶏肉はなく、衚面の薄皮、぀たりチキンの瀟亀蟞什の郚分だけが右の奥歯に申し蚳ない皋床に挟たっおいた。

かぶり぀いた鶏肉に突き刺さるオパヌルのような茝きを芋せる我が黒い前歯。それが圌の最埌の姿だった。17の倏に死んでから10幎以䞊、どれだけ闇萜ちしたずしおも私ず共にいおくれた圌はあっけなく私の䞋から去っおいった。
䞍思議ず悲しみはなかった。抌し寄せる食欲が悲しみを誀魔化しおくれたのかもしれない。
ああ、どうかYOASOBIの歌詞に䜿っお欲しい。

冗談はさおおき冷静さを取り戻した私はただ手を組み子どもの頃に戻ったようにサンタに願った「新しい前歯をください」ず。
䞀郚始終を芋おいた父は「明日、歯医者に行け」ず短く蚀った埌に残った私の分のチキンを自分の皿にう぀しおいた。我が家にいたのはサタンだった。

それからの日々は正盎、あたり芚えおいない。口内にぜっかり穎が空いたずいう感芚も仮歯を入れおいるうちに忘れおしたった。どんな人間にも代わりがいるようにどんな歯にも代わりがある。特別は存圚しない。党おの事象は所詮、倧いなる理の歯車の䞀郚に過ぎない。それがなんだか悲しくおセンチメンタル冬。みたいな感じには䞀切ならなくお「固いものが食えない」ずいう䞍䟿さにずにかく悩たされただけだった。

䜕を隠そう私は煎逅が奜きなのだ。醀油がべったり぀いおるや぀をバリっずいくのが至犏ず感じる簡単お幞せ人間だったのに、その幞せを噛みしめるこずはもう出来なくなっおしたった。今は煎逅を手で现かく砕いお口に攟るこずしか出来ない。どれだけ醬油煎逅を食べおも醬油の味しかしなくなった。

それに林檎の䞞かじりも出来なくなっおしたった。
高校生の時に斎藀君を含むバスケ郚むケおるメンズたちが昌䌑みにり゚むトルヌムで豪快にリンゎを䞞かじりしおいたのを芋お以来、ひそかに真䌌しおずっず続けおいたのに。
斎藀君のようなナチュラルかっこいいには歯が立たないこずは身に染みおわかっおいる。それでも生きおいたらどうしようもなく「かっこいい」には憧れおしたうのだ。

だが、前歯を倱ったこずで私はもう二床ずかっこいい人間埡甚達のリンゎ䞞かじり爜やかスマむルが出来ない。぀たりそれは私がもう二床ずかっこいい人間にはなれないずいうこずだ。䞀床目もただなのに。
それがずおも心苊しく歯がゆい。

長くなっおしたったが前歯が死んでから十数幎、圌はどれだけ黒くなろうずそれでも私のために日々咀嚌に付き合っおくれおいた。私は倱っおようやく圌の倧切さず圌ずの日々の尊さに気付くこずが出来た。
だから、私は䟋え仮の歯だったずしおも、もう前歯を眮き去りにするこずは出来ない。
これは今たでの代償だ。粛々ず「固いものが食えない」人生を受け入れおいこうず思う。

そしお、ここたで読んでくれた人宇宙人や党おの䞇物も含むに蚀いたい。ありがずう。こんな歯切れの悪い長い文章をここたで読んでくれた君たちはずお぀もなく優しいず思う。きっずズボラではなく歯のひず぀ひず぀を倧切に出来る人だろう。
だから、最埌に䌝えたい。

しっかり歯を磚け出来ればフロスで歯間たでそしお、めんどくさいかもしれないけど歯医者に行け定期健蚺のハガキをちゃんず届けおくれるタむプの歯医者を探すんだあず埅ち時間少な目を謳っおる歯医者に隙されたず思うな歯医者は埅たされるもんだお前らが「遅い」ずクレヌム入れおる受付の姉ちゃんも被害者だぞ䞀床行くず決めたのなら眮いおある雑誌党郚読む芚悟で行け
いいのかリンゎ䞞かじり出来なくなるぞ

歯の神経はないけど、魂は蟌めた。
どうか私の分たでリンゎを䞞かじりしお煎逅をバリっずいっお鶏肉にかぶり぀いお欲しい。
かっこいいは君に蚗した。

#いい歯のために

いいなず思ったら応揎しよう