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二兎追うものは… プレイヤーと裏方と

5月22日、23日と全日本マスターズ選手権に出るために石川県津幡町に行ってきました。
東大ボート部の大先輩の方々と一緒にエイトを漕いで、平均年齢60-64歳カテゴリーで5杯中1着。優勝記念のメダルをもらってきました。

ローイングを生業にしていて、パラローイングのハイパフォーマンスディレクター(強化統括責任者)として世界一を目指す選手やスタッフばかりの世界にいる人間です。
ただ、自分自身の選手歴は非常に短くて、大学1年生の4月から2年生の10月までの1年と半年だけ。
残りは裏方(マネージャー)が主たる活動。大学の授業に行かずに艇庫に残って、平日昼間にスカルを漕いだりはしてましたが、継続的なトレーニングはできず、嗜む程度。
結局、生涯で出場した全日本級の大会はOX盾と新人選手権の2つだけ。長良川で開催された全日本新人選手権の舵手付きフォア5位入賞が最高の戦績です。

20歳になった大学2年生の秋以降、4年生夏の引退まで学生連盟の幹部としてひたすら大会運営。
各大学のマネージャーや大会に出ない新入生を集めてきて、配置を作って、仕事をしてもらう。大会が終わったあとのミーティングでは、手伝いに来てくれた人たちに感謝の言葉をかける。
「いや、自分も同じ学生だし、感謝されたい方なんだけど。」
大好きなスポーツなのに、自分自身がプレイする機会は全然ない。大会会場には誰よりも長くいるのに、ひたすら眺めているだけ。
選手だけをやってそのまま引退する人たちには想像できないであろう、積もり積もった羨ましさがありました。

戸田ボートコース
一番左の建物が東大の艇庫

時は流れて20年少し立った後、約20歳上の先輩達に誘われて大学OBチームの週末練習に時々参加するようになりました。
先輩達は全日本選手権を連覇していた東大ボート部が最強だった時代の人間。60代になっても身体は鍛えられてて、乗艇練習のボリュームも学生に遜色なし。
体力的にも技術的にも付いていくのが精一杯。でも、40歳を超えて一人のプレイヤーとしてどんどん成長できるのが、本当に楽しい。練習の度に人生史上最高のローイングが更新されていく。
来年5月に関西で開催されるワールドマスターズゲームズ向けのクルー「淡青会連合」のメンバーにも選ばれて、この数ヶ月は練習の参加頻度が増えてきました。
ワールドマスターズゲームズで1位になって、世界一を獲るのがクルーの目標です。

2026年5月23日、来年の本番に向けたステップとなる今年の全日本マスターズ選手権。1000m、3分30秒の戦い。
自分が乗る「淡青会連合」は2レーン。去年の全日本マスターズで優勝を争ったライバル「ボート団塊号玄武」はすぐ左隣の3レーン。

スタート直後 筆者は右から5人目の漕手
C 金子 S 氏家 7 野中 6 日下部 5 佐原 4 近藤 3 吉田 2 大井田 B 田中
写真提供/JARA広報

スタートで少しだけ前に出る。ノーマークだった右隣、1レーン「魚崎ローイングクラブ」も付いてきている。楽々と勝てる雰囲気ではない。
学生の時はいつも舞い上がってしまっていて、アドレナリンが切れるスタート30秒後に息が上がってしまって、全く余裕がなかったけど、今回はスタート5本の3本目に冷静になることができて、周りを見る余裕あり。

これまでの練習のときよりも左右にバランスが崩れて、ちょっと嫌な感じ。相変わらず右の魚崎ローイングも左の団塊号も全然離れず、近くにいる。500m地点を過ぎたところ少し差がつく。後ろ向きに進むローイングでは、先に出ているクルーがあとに続くクルーの背中を見ることができる。
団塊号よりも更に奥の4レーン、5レーンは遥か後ろの方。5杯レースで1位を漕ぐ景色を見るのは初めて。心拍数はおそらく170くらい。少し余裕がある。

900m地点写真提供 日本ローイング協会

ラスト100mでスパートのコール。ストロークレート(1分間に漕ぐ回数)40以上を狙って、レンジを切っていく。前を漕ぐストロークペアの2人よりも、ほんの少し早いタイミングでオールをエントリー。OBクルーらしからぬハイピッチのラストスパートは淡青会クルーの伝統芸。あと15本でフィニッシュのはず。団塊号も魚崎も近づいてはこない。
ここまできたら勝利は確実。苦しいけど、苦しくない。

予想に反して、12本目で「イージーオール」(漕ぎやめる合図)がかかる。すこし間があって、フィニッシュラインを通過を知らせるホーンの音が聞こえる。
目の前にいる日下部さんと握手。振り返って、真後ろの近藤さんと握手。
30秒後、5杯全部がフィニッシュして、レースを追走してきた審判艇から白旗が上がる。レース成立。優勝確定。

陸に上がって、表彰式。大会本部にいるJARA(日本ローイング協会)の役員の人たちはいつも大会運営を一緒にやっている顔なじみ。「いつか自分もJARAの理事になって、メダルをかける側の人になるんだろうな」という想像はするものの、メダルをかけてもらう側になるのは想像してなかった。
表彰式を取り仕切る役員は東京2020組織委員会での同僚。わざわざ配慮してくれたのか、メダルプレゼンターは理事長、一番偉い人。広報委員長が一眼レフでクルーの集合写真を撮ってくれました。

広報委員長に撮ってもらった表彰式後の集合写真
写真提供/JARA広報

何回かのマラソンだったり、2月の大阪のHYROXだったり、気楽ないちプレイヤーとしてスポーツイベントに参加することはあって、それぞれ楽しいし、達成感もあるし、とても幸せ。
ただ、自分自身との繋がりが深いローイングの大会での楽しさ、達成感、幸せはひと味違うものでした。来年のワールドマスターゲームズの後は、エイト(8人漕ぎ)だけじゃなくてシングルスカル(1人漕ぎ)とかダブルスカル(2人漕ぎ)でも勝ってみたいな、とか意欲が湧いてきます。

一方で、全日本マスターズの主要運営スタッフが高齢化しているにもかかわらず、後継者不在な状況はとても気になっていて、次回は運営の方にも絡んでおいた方がいいかな、なんてことも考え出している。自分には職人気質が欠けていて、何か一つのことに専念することができない。一見両立しなさそうなことを両方上手くやってしまうことに喜びを見出す性質です。

戸田公園での艇の積み込み作業
アルバイトの学生たちを上手くリードするのは楽じゃない

「あいつはフラフラしてて、信用できない」とネガティブに捉える人は少なくないはず。それでも、子育てと仕事もしかり、色々なことを同時に追ってきたからこそ、影を感じさせることもなく、ただただお気楽で、ごきげんな今の自分がいます。
家族・友人・同僚など周りの人にはこの感覚を少しだけ分かってもらえると嬉しいな、と思っています。

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