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酷暑の水出しアイスコーヒー|純喫茶ガスライト #01

     路地裏のアスファルトが陽炎で揺れる、酷暑の午後。

     重厚な木のドアを一枚隔てたこの店には、外の喧騒が嘘のような静寂と、氷がグラスに当たる涼やかな音だけが響いております。
     渇いた喉を潤すのは、長い時間をかけて抽出された琥珀色のしずくでございます。


     私、月守つきもり静馬しずまと申します。
     路地裏の小さな喫茶店ガスライトを営んでおります。

    「ガスライト」と聞いて、皆様は何を想像されますかな?
     世間では様々な意味が囁かれる言葉ではございますが、当店の名は、ただ一つ。入口で静かに灯る、あの古いガス燈に由来しております。

     小さな店ではございますが、だからといって決して手は抜いておりませんぞ。豆や茶葉にこだわり、お客様に満足いただける一時をご提供させていただいていると自負しております。

     この店には実に様々なお客様がいらっしゃいますが、皆様、それぞれに語り尽くせぬ物語をその胸の内に秘めておいでです。

     そんなお客様方のほんの一時の止まり木となれるこの場所を、私は大変気に入っております。

     本日ご紹介させて頂きますお客様は……若……おっと、この呼び方をすると若に叱られてしまいますな……。いや、失礼。私としたことが。

     改めまして、本日のお客様は『神月こうづき亮りょう』さまでございます。
     彼はいつものように、カウンターの定位置へと音もなく滑り込むように着席されました。
     その所作には、長年の習慣が染み付いておりますな。

    「マスター、ダブルエスプレッソを頼む」
    「畏まりました。」

     と一つ頷き、私は手早く準備を始めます。

     亮さまは、かなり濃いコーヒー、特に熱いエスプレッソを好まれます。
    今日も猛暑を越えて酷暑ともいえるような暑さですが、彼はいつもと変わらず、その熱い飲み物を意に介さずに嗜まれるのです。

    「亮さま、ダブルエスプレッソでございます。こちらに置いておきますね」

     と、カウンターテーブルにエスプレッソのカップを配置します。

    「うん、うまい。新しいエスプレッソマシンもいい感じだね」
    「そうですな。アレはいい買い物をしました」

    カラン。

     そうこうしているうちに、入り口のドアベルが音を立てました。
    おや?今日はもう一方、お客様がお見えのようです。

     お見えになったのは『瀬島せじま桜華おうか』さま。
    亮さまが、懇意にされていらっしゃる女性でございます。

    「ふぁー暑いー……。マスター、水出しアイスコーヒーをお願いできますか?」
    「畏まりました」

     オーダーを伺い、桜華さまのアイスコーヒーを準備いたします。

     いつも明るく元気なお嬢さんというイメージの桜華さまですが、さすがにこの暑さには参ってしまわれているご様子でした。

     彼女は世界のトップIT企業、シナモン社にお勤めと伺っております。
     アナログ人間の私には詳しくは分かりませんが、かなり最先端の技術を扱っていらっしゃるのは確かなようで。

     そして、亮さんとは高校時代からのご学友。
     私から見ても、お二人の間には特別な信頼関係が築かれているように思われますな。

    「桜華、会社は良いのか?」

     亮さまはそういって、桜華さまに声をかけられました。

    「いいのいいの。ようやく新型スパイスの広報活動も一段落ついたし、有給取らせてもらったから」

     桜華さまはそうお答えになりながら、額の汗を拭っておられます。

     普通の人間にはこの暑さは、応えるのでしょう。そして桜華さまは、ここのところ大変お忙しかったとのこと。ようやく一息つけたのでしょうな。

    「桜華さま、水出しアイスコーヒーでございます。」

     私はそっと桜華さまの前に、よく冷えたグラスを置きます。

    「ありがとうマスター。んーおいしい!マスターのコーヒー最高…!ゆだった体に染み渡るわー…。」

    「恐縮です。」

     率直に味を褒めていただけて、本当に光栄でございます。
     一晩かけて水で抽出した甲斐があります。

     桜華さまが、そうして、ようやく一息つかれたその時でした。

    「なんかお前、おばちゃ…」

     亮さまがからかうように口元を緩めて言いかけた、その瞬間。
     桜華さまの視線が、すっと鋭くなりましたな。

     確かにそれはデリカシーがありませんぞ、若。

    「いま…何か言いかけた……?」

     普段の桜華さまは鈴の音のような大変お美しい声をしていらっしゃいますが、この時の低い声には、他人事ながら背筋が冷える思いでございました。

    「いや……何でも無い」

     亮さまは、さすがに失敗したと思われたようで、慌てて目をそらしておりますな。

     亮さまが話題を切り替えるかのように私にお声をかけられました。

    「ああ、そういえば、マスター。いつも俺のシティウス停めさせてもらって悪いね」

     シティウスとは、亮さまの愛車『ホシノ シティウス R-Spec』のこと。
     彼の頼れる足として、迅速にかつパワフルに目的地へ運んでくれるのが気に入っておられるようです。
     そのシティウスを、いつも当店の隣の駐車場に停めていただいております。

    「とんでもございません。そもそもあの駐車場は、亮さまのお車のために契約しているものですから」

    「……今度、駐車場代払うよ」
    「必要ございません。私が勝手にやっていることですので」

    「うーん……」

     亮さまは、どうにも納得がいかないご様子で少し唸っておられますな。
    しかし、ここは私が譲るわけにはまいりません。

     私と亮さまのやり取りを隣で聞いていた桜華さまが楽しそうに会話に入ってこられました。

    「マスターのアイスコーヒーでスッキリさせてもらったし、先輩、暇ならクルマでどこか連れてってくださいよ」
    「暇ってお前……俺だって仕事ないわけじゃないんだからな?」

     その言葉に、桜華さまは悪戯っぽく笑い返します。

    「いいのいいの。私はさっきも言った通り、今日はお休みだから暇なの。だから、先輩、付き合いなさいよ」

     差し出がましいとは思いつつも、つい、お二人の仲を後押ししたくなってしまいまして。

    「亮さま、よろしいではないですか。お二人でドライブデートというのもオツなものかと」

     私の言葉に、桜華さまの白い頬は見る見るうちに桜色に染まり、やがてその可愛らしいお顔は真っ赤になりましたな。

    「ど、ドライブデート!?」

     彼女のその愛らしい反応に、思わず口元が緩んでしまいます。

    「デートって、マスター…まあいいや。行くか桜華」
    「え、ええ……」

     やれやれ、といった風に亮さんが席を立ちます。
     私めは、そんなお二人のやり取りを、大変好ましくみております。

     普段は、あの憎き仇敵どもに見せる怒り以外は、ほとんど感情をお見せにならない亮さんが、桜華さまの前ではとても人間らしい柔らかな表情をなさる。

     ほんのりではありますが照れておられましたな。この静馬、若のその表情の変化、見逃しませんぞ。

     私は大変勝手ながら、桜華さまこそ、いずれ若の奥方様になられる方であると確信しております。

     お二人の仲がさらなる進展を遂げ、いつの日かお世継ぎのお顔を拝めることを、この静馬、ひそかに楽しみにしておりますぞ。

     そうしてお二人は、お出かけになりました。
     おや、お客様。 亮さまと桜華さまの行く末が気になりますか?

     彼らの真の物語は、この喫茶店の片隅だけでは、とても語り尽くせぬほどに壮大でございます。
     もし、そのすべてをご覧になられるなら、その扉から『仮想境界線』の世界へお進みください。

     そして、その旅に少しお疲れになられた際は、どうぞまた当店にお立ち寄りくださいませ。 とっておきの水出しアイスコーヒーをご用意させていただきます。

     またのご来店を、心よりお待ちしております。

     また、もし他のお客様の日常会話にも聞き耳をお立てになるなら⋯⋯
    『昼下がりの純喫茶ガスライト』マガジンをご覧くださいませ。

    ※この記事のアイキャッチはAdobe FireflyとPhotoshopによって制作しております。

     
     
    物語とAIの境界を対話を通じて探求しながら、AIと共創する『対話型クリエイター』です。 現実と仮想、その狭間にある境界線を描く物語を綴っています。

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