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大きな裁量より、出張先の「ささやかな自由」が好きだった

     出張先でホテル近くのコンビニで惣菜と酒を買い込み、一人でビジネスホテルの部屋に入る。その瞬間が好きでした。

     部屋には狭い机とベッドがあり、窓の外には知らない街が見える。翌朝も早くから仕事なのに、荷物を置くと、普段とは違う特別な時間が始まったように感じました。

     新幹線で移動する際は、売店に並ぶ少し高い駅弁を眺める時間まで楽しかった。会社を辞めた今、なぜ私は出張が好きだったのかを考えました。


    ◾️採用イベントの出張
     会社員時代、採用担当の仕事で月に一回ほどは全国各地へ出張する機会がありました。採用活動というと華やかに聞こえるかもしれませんが、実際の仕事は地味な裏方作業がほとんどです。

     事前に会場や人を手配し、いち早く会場へ到着し、机や椅子を並べ資料を準備する。イベントが始まれば司会を務め、終了後には片付けと撤収。一日中立ち続けることもあり、体力も使う。

     それでも、私は採用イベントの仕事が嫌いではありませんでした。普段は本社に缶詰めでパソコンに向きあう時間がほとんどでしたが、いつもとは違う場所、いつもとは違う人たちに囲まれながら、一日の仕事が目に見える形で進んでいく。

     またイベントが終わった後、現地の支店で働く人たちと飲みに行くのも楽しみでした。全国で離れて働く同期や先輩後輩、中には初めて会う方から、職場の話や住んでいる街の話を聞く時間が、不思議と心地よく感じていました。

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    一人で地元の居酒屋に行くことも


    ◾️大きな裁量と、ささやかな自由
     出張も間違いなく仕事でしたが、それだけではない「ささやかな自由」がそこにはありました。

     当時の私に、仕事上の裁量がなかったわけではありません。採用活動の主担当として、企画や人員・予算配分についても判断できる立場であり、組織の中では比較的大きな裁量を与えられていた方だと思います。

     ただ、その裁量は、あくまで組織の目的を達成するために使うものでした。どの施策に予算をかけるか。イベントをどう設計するか。誰にどの仕事を任せるか。自分で考えて決めてはいても、その判断の先には、常に組織の成果がありました。

     一方、出張先で何を食べるか、仕事が終わった後に誰と飲みに行くか、ホテルへ戻ってからどう過ごすか。どれも小さな選択です。けれど、その時間だけは組織のためではなく、自分自身のために選んでいました。

     動かす金額や影響の大きさでいえば、普段の仕事で持っていた裁量の方がはるかに大きい。それでも、自分の選択を積み重ねて生きている感覚は、出張中の小さな選択の方に強くありました。


    ◾️最後に
     会社員だった頃の私は、旅行や出張のような大きな変化をよく求めていました。新しい場所へ行けば、気分が変わる。知らない街を歩けば、いつもの生活から離れられる。だから私は、ホテルや新幹線にどこかワクワクしていたのだと思います。

     一方で今は、以前ほど大きな変化を求めなくなりました。今の生活にも決められた予定や、自分たちの力ではどうしようもできないことはあり、決して自由に過ごしているだけではありません。それでも今の選択は、自分たちの暮らしや将来へ直接つながっています。

     あの頃、私が求めていたのは知らない街でも、新しいホテルでもなく、自分の時間を、自分自身のために使っているという小さな実感でした。

     
     
     
    東京大学農学部卒業。 政府系金融機関に10年間勤務。法人営業、官庁出向、本部企画、採用担当などを経験。 来年4月の新規就農に向けたリアル、仕事・組織・キャリアからの学び、暮らしでの変化を実体験から書いています。 ときどき、パートナー筆。

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