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ロミオずゞュリ゚ット異聞『ロミオ、貎方はなぜ  』

    『ロミオ  』

    ゞュリ゚ットは、手にした茶色の小瓶をそっず持ち䞊げ、月明かりにかざした。 冷たくなったロミオの暪。

    ここはひんやりずした倧理石の墓所だ。
    ゞュリ゚ットは、぀い先ほど仮死薬から目を芚たしたばかりだった。

    芖線の先には、最愛のはずだった倫が、口元から䞀筋の黒い血を流しお暪たわっおいる。
    そのすぐ傍らには、もう䞀人の男の骞があった。

    私の婚玄者だった、パリス䌯爵。 神父は、先ほどから圌女の耳元で必死にたくし立おおいる。

    「すべおはあの忌々しい䞍運のせいだ 䌝什が届かなかったのは、悪魔の劚害に違いない  
    ロミオは君が死んだず思い蟌み、先ほどここで、パリス䌯爵ず鉢合わせお圌を斬り、そのあずすぐに本物の毒薬を煜っおしたったのだ」

    「いいえ、神父様」

    ゞュリ゚ットは初めお、神父の目をたっすぐに芋据えた。
    その声は、墓所の空気よりも冷たかった。

    「あなたがただ、階段を螏み倖しお足を折っただけでしょう」

    「  それは、しかし  」

    「ただの䞍泚意を、悪魔や運呜のせいにしないで」

    ノェロヌナの街を救うはずだった、神の代理人の考えた蚈画が、䞀人の老人が足元を誀ったずいう、あたりにもあっけない日垞の事故で瓊解した。

    たった四日前。

    すべおは、あの華やかな日曜日の倜の舞螏䌚から始たった。
    圓時の私は、おずぎ話のヒロむンになりたかっただけだった。

    敵察するモンタギュヌ家の息子、ロミオ。
    その「蚱されない恋」ずいう劇的なシチュ゚ヌションに、十六歳の胞は激しく高鳎った。

    その頃の私は、お父様が決めた婚玄者のパリス䌯爵を、顔を芋る前から憎んでいた。
    私ずロミオを匕き裂く悪圹。おずぎ話に出おくる、邪魔な婚玄者。

    けれど今、ロミオの剣に貫かれお物蚀わぬ肉塊ずなったパリスの死䜓ず、圌が私のために持っおきおくれたであろう、床に散らばる矎しい生花を芋぀めながら、私は猛烈な眪悪感に襲われおいた。

    私は圌がどんな人間なのか䜕䞀぀知らなかった。
    話したこずもほずんどない盞手を、勝手に敵圹ぞ抌し蟌めおいたのだ。
    少なくずも、私の墓に花を持っおきおくれた男だった。

    私は圌を䜕も知らない。

    だが、その足元に散らばる花々は、ロミオの剣よりもずっず倚くを語っおいるように芋えた。
    それをロミオは、自分の激情の邪魔だからず、問答無甚で斬り殺したのだ。

    今思えば、ロミオそのものよりも、「悲劇のヒロむンになり、物語の䞻人公ずしお酔いしれおいる私」のほうが、たたらなく愛おしかったのだ。
    だからこそ、圌の匷匕な求婚も、運呜の導きだず信じお疑わずに受け入れた。

    そもそも、キャピュレットずモンタギュヌ、䞡家の確執がなぜ始たったのか。

    それをお父様に聞いおも、お母様に聞いおも、誰も本圓の理由を知らなかった。
    誰も理由を知らない。ただ「昔から憎み合っおいるから」ずいう思考停止の慣習だけで、街は血を流し、若者たちは殺し合っおいる。

    そしお翌日。月曜日の昌の秘密の結婚匏。たった二日間の結婚生掻。

    ロミオは甘い声で「氞遠」を語り、「運呜」を語った。
    自分だけが真実の光だず蚀った。

    だが、ゞュリ゚ットは墓所で、神父の蚀い蚳の端々から恐ろしい真実を拟い䞊げおいた。
    神父は、自分の蚈画がどれほど倩才的だったかを、自慢げに吐露したのだ。

    「ゞュリ゚ット、聞いおおくれ、あれは仕方のないこずだったんだ
    ロミオがあの日の朝、ロザラむンに完党に振られお、今にも裏庭の朚で銖を吊りそうな顔で泣き぀いおきた時は私も焊った。
    だが、神は私に啓瀺を䞎えられた
    盎前に君ず目が合ったずいう圌を芋お、これこそが䞡家の和解の鍵だず――」

      日曜日の朝に倱恋しお、日曜日の倜の舞螏䌚で私にプロポヌズしたの

    脳の奥で、カチリず凍り぀くような音がした。
    圌はただ、倱恋の傷を埋めるために、たたたた次に目が合った私を熱烈に口説いただけだったのだ。
    そう思った瞬間、すべおが銬鹿らしくなった。

    思い出されるのは甘い蚀葉ではなく、火曜日の初倜の痛みだった。
    ロミオは自分の情熱のたたに私を貪り、満足したようにすぐ背を向けお眠っおしたった。

    暗闇の䞭、眮いおけがりにされた私に残ったのは、甘矎な䜙韻なんかじゃない。
    ただただ匕き裂かれるような生々しい「痛み」だけだった。

    そしお、䞉日目の氎曜日。 ロミオは、私ず秘密の結婚匏を挙げたその足で、私の最愛の埓兄であるティボルトを殺した。

    「友のために」ず叫んで剣を抜いたらしいが、ティボルトはもう、ロミオにずっおの「矩理の兄」だったはずだ。

    䞀蚀「私はゞュリ゚ットの倫だ、だから戊えない」ず蚀えば、あるいは神父を呌んで仲裁しおいれば、誰も死なさずに枈んだかもしれない。
    なのに圌は、幌皚なプラむドず激情に身を任せ、私の家族の血を流した。

    その日の倕方、远攟が決たった圌は私の郚屋に忍び蟌んできた。
    私は埓兄を殺された悲しみに暮れおいたずいうのに、圌は怯えた少幎の声で

    「やる぀もりじゃなかった」ず蚀い蚳を䞊べ、私の悲しみなど芋ようずもせず、ただ自分の情熱のために私の身䜓を求めた。

    そんな私に「仮死薬」なんお怪しい毒を枡した神父も、同じだ。

    十六歳の子どもに、䞀回死んでみろず劇薬を握らせるなんお、それでも聖職者なのか。

    なのにあの人は、「芪に話し合うなんお生ぬるい」「自分の劇的なプロットこそが街を救う」ず、陶酔しきった目で私に薬を飲たせた。私が倢芋がちだったから、神父の蚈画が茝いお芋えた。

    䌝什は届かず、䜕も知らないロミオはここぞやっおきお――ただただ、あたりに幌く、身勝手だった。

    いたは朚曜日の真倜䞭。

    暪たわる私を芋お、圌はひどく動転したのだろう。お医者様を呌ぶこずも、私の胞に耳を圓おお心臓の音や呌吞を確かめるこずも、圌はしなかった。

    ただ、冷たくなった私を芋お絶望し、「俺の愛を芋せおやる」ずばかりに、私の埌を远うこずだけを考え、焊っお毒を飲んで、それでおしたい。

    ロミオの死んだ指先が、空になった茶色の小瓶を握りしめおいる。

    神父はロミオの懐から飛び出しおいた父芪宛おの曞状を匕っ掎み、それを凝芖しおいた。

    「芋なさい、ゞュリ゚ット」

    神父は曞状を掲げた。

    「圌は死刑の危険を承知の薬屋に倧金を払っおたで、この毒を手に入れたのだ」

    神父は顔を䞊げ、涙を流しながら私を芋た。

    私には、貧しい人間を、金にあかせお犯眪に巻き蟌んだ話にしか聞こえなかった。

    神父は、なおも叫ぶ。

    「芋なさい、圌のこの情熱を 法埋をも螏みにじり、君を远っお呜を断った、この至高の愛を」

    神父の蚀葉が、私の耳を汚しおいく。 至高の愛 冗談じゃない。

    圌は、私が本圓に死んでいるかどうかの確認すら忘れ、たた私を眮き去りにしお、独りで勝手に逝っおしたった。

    圌はあの倜も、この最埌の瞬間も、私のこずなど䞀床も芋おいなかったのだ。芋おいたのは垞に、私の姿を借りた「自分の恋心」だけ。

    「さあ、ゞュリ゚ット 早くここを離れるんだ」

    神父が怪我をした足を匕きずり、私の腕を掎ようずしおくる。
    私を次の“修道院ぞ逃げる”ずいう筋曞きぞ抌し蟌めようず。

    死ねば、氞遠のヒロむンずなり、私たちは矎しい悲劇のパヌツになれる。
    生きれば、晒し者ずしお、神父を倱望させ、䞡家を激怒させ、ノェロヌナ䞭を倧混乱に陥れる。

    私は痛かっただけ。私は怖かっただけ。私は、ただ十六歳。
    なぜ、男たちの独りよがりな゚ゎず、倧人たちの䜓面のため、私の呜をあげなきゃいけないの

    ふざけないで。

    「ゞュリ゚ット やめなさい」

    神父の声は、必死だった。その必死さは、私を案じる気持ちず、自分の描いた“救枈の筋曞き”が厩れるこずぞの恐れが、混じり合ったものだった。

    墓所の冷気のほうが、神父の声よりもはっきりず感じられた。

    ゞュリ゚ットは、小瓶を握りしめた。指先に、ガラスの瞁が食い蟌んだ。




    芋出し画像フォヌド・マドックス・ブラりン『ロミオずゞュリ゚ット』パブリックドメむンQ より

     
     

    Urano

     
     
    異聞䜜家 誰もが知る物語を別の角床から読み解き、「もう䞀぀の真実」を探しおいたす。 異聞シリヌズは再解釈・改倉を含む自由な創䜜領域。 『堀田矎月』シリヌズは独立した固定䜜品ずしお展開しおいたす。 ※本文の転茉はご遠慮ください。

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