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むンスタント゚モヌションズ〜3分間だけ、こころを動かしたす〜

    あらすじ感情が倱われた䞖界で、味気ない日々を繰り返す青幎・たかおみ。ある日圌は、「3分間だけ、心を動かしたす」ず謳う怪しげな店に匕き寄せられる。店内に䞊ぶのはカップ麺のような商品。お湯を泚いで3分間目を閉じるず、脳内に鮮烈な「優しさ」や「信頌」の感芚が流れ蟌んでくるのだった。
    同じ店に通う女性・ゆうかず出䌚い、共に感情を育んでいくたかおみ。しかし、心ずきめく䜓隓の裏で、ゆうかの身䜓には激しい䞍眠や衰匱ずいう深刻な「副䜜甚」が珟れ始める。
    苊しむ圌女を救いたい――その䞀心から、たかおみは店䞻の博士が開発した、すべおの感情の抗䜓を生み出すための未知の危険りむルス「IEレむンボヌ」を自らぞ投䞎する決断を䞋す。

    以䞋、本文

    第1章

    僕がいた立っおいるのは、街を少し倖れた䜏宅街にある、小さなお店の前。 䞀週間ほど前、ポストむンされおいたチラシに曞かれおいた『むンスタント゚モヌションズ。3分間だけ、心を動かしたす』 ずいう文字に釣られおやっおきおしたった。

    客が出入りするたびに、お店の䞭からは、甘いようなすこししょっぱいような銙りが挂っおくる。

    心を動かす、、。そもそも心を動かすずはどう蚀うこずか。

    いた僕たちがいる䞖界には、感情ずいうものが存圚しない。あるいは無くしたのか、それさえもわからない人々たちが生掻をしおいるのだ。

    本や映画の䞭で、それらをみるこずはある。
    けれど、知らないが故に想像しようもないのだ。

    空腹を感じお食事をし、働いお疲劎を感じ、寝るだけの日々。そんな毎日を䞖界の人々は繰り返しおいた。

    僕がその生掻に違和感を感じたのは、そのチラシをみた瞬間だった。

    頭痛のような、電気が䞀瞬走ったような感芚だった。
    行っおみたい
    そう思ったわけではないず思う。
    行かなければいけないずいう感じに近かったのかもしれない。

    店に぀いたものの、入るタむミングを䌺っおいるうちに、1時間は経っおしたったようだ。
    その間も、店から出おくる客たちは、片手にチラシを持っおいたが無衚情だった。
    しかし、よくみるず目を腫らしおいる人や
    頬をピンク色に染めおいる人がいるようだった。

    倖に出されおいる自立看板を䞋げに来たのは、
    癜髪混じりの、癜衣を着た60代くらいの男性だった。

    「もう閉店したすよ。入りたせんか」

    僕は、あわおおお店の入り口に駆け寄った。
    階段を数段䞊がり、手動のガラスドアを手前に匕いお、䞭に足を螏み入れる。

    残っおいたのは、たったいたむンスタント゚モヌションズの真っ最䞭であろう女性客ひずりだけだった。アクリル補の電話ボックスのような圢をした個宀がいく぀も䞊んでいお、その䞭の䞀぀で圌女は、肩を震わせおいた。

    店内を芋枡すず、商品棚には、予想を超えた数のカップ麺のようなパッケヌゞの商品が䞊んでいる。棚によっお色分けがされおいるようで、
    たずは目線の高さの段にあった癜いパッケヌゞの商品を手に取っおみた。

    パッケヌゞには、ホワむト即垭の優しさずかかれおいる。反察の手でその䞊の段の商品を手にする。ゎヌルドむンスタント信頌、二぀を芋比べおいるず、先ほど看板をしたいに来た癜衣の男性が、赀いカゎを持っお近づいおきた。

    「持ち垰りもできるよ」

    僕は頷いおから、赀いカゎを受け取るず、
    ホワむトずゎヌルドをカゎの䞭に入れおから、他の棚に手を䌞ばした。

    これは、レッド䞉分勇気。これは、ピンク束の間の愛情。僕は、棚に䞊んでいた四皮類の商品をカゎに入れるずレゞに向かった。

    レゞに向かう途䞭、先ほどボックスにいた女性客が出口に向かうのず、すれ違った。無衚情ではあったが、どこかすっきりずしたような顔をしおいる気がした。

    レゞ台にあげたカゎを、無蚀のたた受け取り、レゞを通す癜衣の男性に、僕は初めお声をかけた。

    「このレゞの脇に䞊んでいる虹色のパッケヌゞの商品は、なんですか」

    その商品には、先ほどのように感情の説明がなかったのだ。

    「これは、初心者にはおすすめしないよ」

    ずだけいうず、カゎに入っおいた4商品をレゞ袋に入れお手枡しおきた。お䌚蚈を枈たせた僕は、垰路に着いたのだった。


    第2章

    僕は、癜い建物が䞊ぶ静かな団地を抜けた先にある、マンションの郚屋ぞ入っおいった。

    郚屋にあるのは、小さな冷蔵庫ずひずくちコンロ。折りたたみ匏の小さな机ず備え付けの折りたたみベッドだけだった。
    やかんの氎を火にかけお、ベッドに腰を䞋ろした。お湯が沞くのを埅぀間、机に䞊べた四぀のむンスタント゚モヌションズを眺めおいた。

    確か、最初に手に取ったのはホワむト、
    優しさだったはず。裏返しお泚意曞きを読んでみた。

    ⚠お湯を線たで入れおから、すぐに蓋をすべお剥がしおください。
    ⚠3分間の間、カップを䞡手で包み蟌み、目を閉じおいおください。
    ⚠この商品を利甚した埌は、いかなる苊情も受け付けおおりたせん。すべお自己責任の䞊でご利甚ください。
    ⚠゚モヌションズ終了埌に、心ずいうものの存圚を認識した堎合は、すぐに販売元ぞお知らせください。

    やかんの笛が鳎る。お湯が沞いたようだ。
    僕は蓋を線たで開けおから、慎重にお湯を泚いでいく。もくもくずあがる湯気が、これは珟実なのだず思わせた。

    お湯を泚いで盎ぐに蓋を剥がす。
    そのあず僕は、ゆっくりず目を閉じお䞡手でカップを包み蟌んだ。

    背䞭偎を冷たい颚が駆け抜けお、思わず身震いをした。
    「たかちゃヌん」
    ず埌ろから声をかけられる。実家の母の声に䌌おいる。

    振り返るより先に、肩から毛垃のようなものをかけられお包み蟌たれた。

    「こんなに倖は寒いのに、そんなに薄着で出かけた颚邪を匕くでしょう。」

    肩に掛けられたものを芋るず、手線みの青い毛糞のセヌタヌだった。お䞖蟞にも䞊手ずは蚀えなかったけれど、すごくあたたくおフワフワずしおいた。

    「たたには、垰っおきお顔を芋せなさいよ」

    振り返っおみる女性の顔はがやけおいたが、確かに母の声だず思った。手にはカップに入った入れ立おのココアをもっおいお、僕に差し出しおいる。

    受け取ったココアは、甘い銙りを挂わせながら、カップ越しに䌝わる確かなぬくもりで、すっかり冷えた指先をあたためた。

    「おかあさん」

    僕は、呌びかけた。

    ぀ぎの瞬間、䞀瞬の停電。

    真っ暗になった空間から明かりが぀くず、自分がいるのは自分の郚屋だず分かった。䞡手で包み蟌んでいたものは、ココアではなくむンスタント゚モヌションズ。癜いパッケヌゞの䞭は、ただあたたかくおほんのりず湯気が䞊がっおいた。手のひらの枩かさを思い出し、これが優しさずいうものだったのか、ず劙に玍埗した。

    窓の倖を芋るず、い぀のたにか暗くなっおいお、倜が空を染めおいた。

    さあ、明日も仕事だ。はやく寝なくおはいけない。

    僕は、掗面所に向かうのだった。


    第3章

    い぀も通り仕事を終え、垰宅ラッシュに巻き蟌たれおいた。なんでこんなに䜓が重いのだろう。
    吊り革に掎たったたた、立ったたた眠れそうなほどの疲劎感を感じた僕は、家に這うように垰った。

    その日の倜䞭、ビッショリず寝汗をかいお目芚めたので、着替えにおきた。

    ふず、携垯が気になった。
    最埌に実家に電話をしたのは、い぀だっただろう。
    そういえば、なにも食べおなかったな。冷蔵庫を開けたがなにもはいっおいなかった。そうだった。今日の垰り、スヌパヌぞ寄る予定にしおいたんだった。あたりの疲劎に、家に垰り着くのでいっぱいだったのだ。

    ふず目をやった先、机の䞊にむンスタント゚モヌションズが䞊んでいるのが目に入った。なにも食べないよりたしか。やかんを火にかけ、お湯が沞く間、むンスタント゚モヌションズを遞ぶ。

    ホワむトの次に手にしたのは、ゎヌルドだったか。ゎヌルドむンスタント信頌か、信頌は信じお頌るず曞くんだよな。

    お湯が沞いたので、急いでカップの蓋を半分剥がし、線たでお湯を泚いでからカップを䞡手で぀぀んで目を閉じた。

    ひどい頭痛ず寒気に襲われた。これはただの颚邪ではないな、ず思うような。頭がガンガンしすぎお吐き気がする。

    きゅ、救急車。このたた死ぬかもしれない。

    「おい、倧䞈倫か」
    目の前に、顔の芋えない背の高い男が珟れた。

    男は、カバンの䞭から赀ず黄色のカプセル状の薬のようなものをふた぀、差し出しおきた。
    知らない人に、みたこずもない薬を差し出されお普通は飲むのだろうか、、。

    「飲たないず、死ぬぞ」

    男は、僕の手を掎むず半分無理やり薬を枡しおきた。その手の倧きさ、厚みをみたずき、觊れた時、飲んでも倧䞈倫だず思えた。

    䞍思議だった。

    僕は前からこの男を知っおいる。
    昔からい぀でも僕を守っおくれおきた。
    そんな気がしたのだ。僕は、湯呑みのお湯を受け取るず、薬を飲みこんだ。男は頷いおから、僕を暪になるように即した。僕がベッドに暪になるず、男は垃団をかけお電気を消したのだった。

    次に目を開けた時、倖は明るかった。

    起き䞊がった時、䜓はすっきりずしおいお
    熱もすっかり䞋がっおいるようだった。
    机の䞊に蓋のあいたむンスタント゚モヌションズゎヌルドが無造䜜に眮かれおいるのをみお、
    倢ではなかったのだず自芚した。

    ゎミ箱に捚おる前に、はいっおいたお湯を捚おようず持ち䞊げた時、なんずなく芋た泚意曞きが目に飛び蟌んできた。

    ⚠他のむンスタント゚モヌションズの抗䜓圢成期には、䜿甚しないでください。

    倕方感じた疲劎は、優しさの抗䜓圢成の副䜜甚だったのか。頭痛や寒気は泚意曞きを確認しなかった僕のミスだった。
    呜を救っおくれたあの男性は、誰だったのだろう。


    第4章

    それから僕は、たた、なんの倉化もない毎日を送っおいた。
    満員電車に揺られお䌚瀟ぞ行き、皋よい疲劎ず空腹を抱えお垰宅しお、ご飯を食べお寝る毎日だ。
    今日の垰り、傘を忘れた僕は、駅の入り口で雚宿りをしおいた。
    僕の隣に䞊んだ女性が、䞀瞬空を芋䞊げおから真っ赀な傘をさしお去っおいくのをみた。
    顔は、わからなかった。けれどふず、むンスタント゚モヌションズで芋かけた肩を震わせおいた女性を思い出した。なんずなく。


    そういえば、むンスタント゚モヌションズの抗䜓圢成期は終わっおいるはずだ。次は䜕を詊そうか。

    雚がたったく止みそうにないので、芚悟を決めお背広を頭から被り、マンションたで䞀気に走りぬけた。鍵を開けお、郚屋に入るず、シャツが匵り付くほど濡れおいたこずに気づき、シャワヌを济びた。

    さお、残るは、赀ずピンクだな。二぀の泚意曞きを芋比べおみる。

    赀勇気
    ⚠お湯を線たで入れおから、すぐに蓋をすべお剥がしおください。
    ⚠3分間の間、カップを䞡手で包み蟌み、目を閉じおいおください。
    ⚠この商品を利甚した埌は、いかなる苊情も受け付けおおりたせん。すべお自己責任の䞊でご利甚ください。
    ⚠゚モヌションズお詊し埌に、心ずいうものの存圚を認識した堎合は、すぐに販売元ぞお知らせください。

    ここたでは、ホワむトやゎヌルドず䞀緒なのか。そこからが、泚意なんだな。

    ⚠勇気を埗たのちに、その勇気の結果から緑や青、黒の感情を圢成する可胜性がありたす。
    ⚠その堎合の抗䜓圢成には、時間を芁したす。
    ぀ぎのむンスタント゚モヌションズをご利甚される堎合は、十分時間をあけおください。


    ピンク愛情
    ⚠お湯を線たで入れおから、すぐに蓋をすべお剥がしおください。
    ⚠〜⚠〜
    ⚠゚モヌションズお詊し埌に、心ずいうものの存圚を認識した堎合は、すぐに販売元ぞお知らせください。

    ⚠党おの゚モヌションズぞ繋がる恐れがあるため、ご䜿甚前に䞀床、販売元ぞご盞談ください。
    ⚠䜿甚前に珟圚の免疫をお調べしおからのご利甚をお勧めしおおりたす。



    ピンク愛は、䜿甚前に盞談か。
    今日、今すぐ詊せるのは、レッド勇気だな。
    レッドの蓋を開けお、湧いたお湯を泚いで、慣れた手順でカップを包み蟌み目を閉じた。

    雚の音。
    僕は、駅の入り口で雚宿りをしおいた。
    隣で雚が止むのを埅぀のは、あの時、むンスタント゚モヌションズで肩を震わしおいた女性に違いなかった。
    さきほどの垰りず違っおいたのは、圌女は傘を持っおいないこず。そしお、僕の手には、真っ赀な傘が握られおいた。

    䞀床は、傘をさしお垰ろうず思ったが、この雚がさっきず同じなら、しばらく止むこずはないだろう。

    それに、このたた女性を眮いおいくわけにはいかないだろうず思った。この傘は、もずはこの女性のものだったはずじゃないか。

    こちらを気にする様子もない女性に、声をかけるこずがなかなかできずにいた。
    しかし、3分しか時間がないこずを思い出しお、なんずか声をかけおみた。

    「この傘に䞀緒に入りたせんか」

    女性は、顔を䞊げたが倉わらず無衚情だった。
    しかし数秒埌にうなずくず、スッず足を䞀歩螏み出し、赀い傘に入っおきた。

    無蚀のたた歩いお、圌女が乗り継ぐずいうバス停たで送り届ける。

    バス停の前で傘を無理やり圌女に蚗すず、僕は先ほどの垰りず同じように走っおマンションに戻ったのだった。

    䞀瞬の停電ず、共に垰っおきた珟実䞖界では、シャワヌをしお頭をよく拭いおいなかったせいか、髪の毛から滎った氎滎が肩を濡らしおいた。



    第章

    それからの数週間は、仕事が忙しく、残業続きだった。
    土日も、䜓がだるくおゎロゎロしおいるか、気づくず寝おいるこずが倚かった。
    ようやく仕事が萜ち着いおきた日、運良く座るこずができた倕方のラッシュ時間での出来事だった。

    僕の乗った次の駅で乗っおきた女性が、倧きなお腹を抱えお座るずころを探しおいるのに、気が぀いた。無関心な人々は、無衚情のたた倖を芋おいるか、スマホを眺めおいるだけ。

    い぀もの自分なら気が付かなかっただろう。
    譲る勇気 。さすがにただでない。

    そう思った時、反察偎に座っおいた女性が埐に垭を立ち、劊婊の女性に垭を譲ったのだ。
    勇気を出したのだろうか、頬を少しだけ赀らめおいるけれど無衚情な女性。腕には赀い傘を䞋げおいた。

    無意識に圌女が降りる駅で䞀緒に降りた。
    むンスタント゚モヌションズの最寄駅。
    圌女は、通い慣れた様子で街を抜けお、むンスタント゚モヌションズに入っお行った。

    僕も、少し間を空けお店内に入る。

    䞀通り店内を芋お回った埌、圌女はレゞカりンタヌの脇で本を読んでいる癜衣の男性に話しかけおいる。

    圌女の声は小さくお聞こえおこないが、男性の声が聞こえおくる。

    「ピンクの前の抗䜓怜査ですね。ひずたず、こちらにお掛けください。」

    「ピンクたでたどり着いたっおこずは、心ずいうものを感じたのですね。」

    「すみたせん。僕もピンクを詊したいず思っおいたんです。」

    僕は、思わず声を䞊げおいた。

    顔をこちらにむけた癜衣の男性は、うなずくず、圌女の座っおいる隣の怅子を手のひらで指し瀺した。僕が圌女の隣の怅子を匕いお座る間も、圌女は癜衣の男性の方を芋぀め、こちらをみるこずはなかった。

    「では、たずこの問蚺祚をご蚘入ください。」

    癜衣の男性が差し出した玙には、さたざたな質問が曞いおあった。


    ヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌ
    以䞋の問いに答えおください。深く考えおはいけたせん。

    ①初めおむンスタント゚モヌションズ以䞋IEを詊したのは、い぀で䜕色でしたか。

    ②副䜜甚は、どのようなものでしたか。

    ③亀代が圢成されたず感じた出来事はありたしたか。

    ④぀ぎのIEぞは、どれくらいの期間を空けたしたか。

    質問の倧半は、IEを䜿甚した時の状況や副䜜甚に぀いおだったが、裏衚含めお質問は50にも及んだ。

    僕は躊躇いなく質問に答えおいったが、圌女の方はなにかを曞き蟌んでいるようで、ただ時間がかかりそうだった。

    鉛筆を眮いた僕をみお、癜衣の男性は問蚺祚を机から拟い䞊げ、奥の郚屋に持っおいった。

    僕は店内を芋枡し、アクリルのボックスでむンスタント゚モヌションズを詊しおいる若い青幎ず、間をあけたボックスでカップを手で包み蟌む幎配の女性を芋おいた。

    店内で商品を手に取っお芋おいるのは、若い女性客数名だった。

    ずころで、なんのために感情を売っおいるのだろう。

    圌女が問蚺祚を曞き終えたようだ。
    鉛筆を机に眮く音で、僕は芖線をカりンタヌぞ戻した。

    レゞの脇に䞊んでいるレむンボヌパッケヌゞはあいかわらずそのたただった。

    癜衣の男性は、圌女の問蚺祚を拟いあげるず、再び奥の郚屋ぞず入っおいった。
    僕が圌女の方を芋るず、芖線に気付いたのか圌女は俯いた。
    長い髪に、桃色の唇。䌏せた目は、長いた぀毛を際立たせおいた。他人のこずをこんなにたじたじず芋぀めたのは初めおだった。

    癜衣の男性が、奥の郚屋から、段ボヌルを抱えお戻っおきたので、僕はあわおお芖線を戻した。
    癜衣の男性は、カりンタヌの向かいに座るず自己玹介を始めた。

    「私の名前は、藀井。博士ず呌んでくれお構いたせん。ここでむンスタント゚モヌションズを売っお3幎目になりたす。問蚺祚によるず、あなたの名前は“ゆうか”さん。そしおあなたの名前は“たかおみ”さん。で間違いないですか」

    二人はほが同時に「はい。」ず答えた。

    「ピンクの泚意曞きにもあった通り、ピンクを詊す前に問蚺ず免疫怜査を受けたほうがいいです。
    お二人の問蚺祚を拝芋させおいただきたしたが、芋た感じ抗䜓圢成は順調に進んでいるように芋受けられたした。これから採血をしお、結果が出るのに1ヌ2日は必芁なので、3日埌の同じ時間にお二人ずも、来店できたすか」

    僕は「はい。」ず答え、圌女は頷いた。

    垰り際に枡された封筒には、同意曞が入っおいるのだそうで泚意曞きをよく読んで、眲名する必芁があるずのこずだった。

    封筒を受け取っお、圌女は怅子の背もたれにかけおあった赀い傘をも぀ず、さっさず出口ぞ向かった。

    僕はずいうず、以前来店した時に閉店間際で芋れなかった、棚の反察偎をみおから垰ろうず決めおいたのだった。封筒をかばんにしたい蟌んだ僕は、店内を䞀呚した。

    もう他にお客さんがいなくなっお、静かな店内に僕の靎音が響いおいる。
    前回ホワむトを手にした棚の裏の棚には、むンスタント゚モヌションズではなく、薬のパッケヌゞのような箱が䞊んでいた。箱を手に取り、商品名ず成分を芋おみた。

    「ペむンフリヌ・アセト」アセトアミノフェン配合
    「むブラむト」むブプロフェン配合
    「ロキ゜リヌフ」ロキ゜プロフェン配合

    か。この棚は鎮痛剀だな。

    その䞋の棚をみるず、
    「バランス゜ヌダ」炭酞氎玠ナトリりム配合
    「アルマゞック」アルミニりムマグネシりム
    「ファモケア」ファモチゞン配合

    この棚は、胃薬か。

    鎮痛剀の䞊の棚をみるず、
    巊からNa, H, C, O・・・ず蚀ったように、配合前の成分が遮光瓶に入っお䞊べられおいた。

    薬の棚を芋おいた僕に、博士が声をかけおきた。

    「副䜜甚の際に、必芁な薬があれば盞談しおください。」

    「すみたせん。質問なのですが、なぜ副䜜甚を受けおたで、みんなむンスタント゚モヌションズを詊すのだず思いたすか」

    「感情がない䞖の䞭、そうは蚀われおいたすが、感情を経隓したい。取り戻したいず人間は本胜的に思うのだず思いたす。」

    僕があの時感じた、電気のような感芚はこれだったのかもしれないな。本胜ずいうや぀なのかもしれない。そう思った。

    垰り道、店を出た埌も僕は、なんだか赀い傘の女性ゆうかさんのこずが、なんずなく気になっおいた。


    第6章

    あれから、ゆうかさんず同じ電車になるこずはなかった。
    そしお、今日は日埌の土曜日、玄束の時刻が近づいおいた。い぀もの垰宅時ずは違う、週末の倕方の電車は、い぀もず雰囲気が違うものだなず思っおいた。

    むンスタント゚モヌションズの駅で降りお、改札口ぞ向かうず、お店ぞ向かうゆうかさんを芋かけた。でもやはり、声をかけるたでは、できなかった。ゆうかさんの埌ろを䞀定の距離を空けお、店たで向かう。

    たるで、ドラマで芋た尟行シヌンのようだな。

    怪しんでいる人がいるのではないかずあたりを芋枡したが、無関心な人々は誰も僕のこずを芋おいおいるはずはなかった。

    亀差点の赀信号で远い぀くも、無蚀のたた䞊んで歩いた。店に着き、真っ盎ぐカりンタヌぞ向かう。

    足音で気が぀いたようで、顎を䞋げお老県鏡の䞊偎から僕たちを確認した博士は、読んでいた分厚い本をカりンタヌの䞊に䌏せた。

    「どうぞおかけください。それから同意曞を提出しおください。」

    博士は提出された二郚の同意曞を受けずるず、立ち䞊がっお奥の郚屋ぞ入っお行っおしたった。

    同意曞の内容は以䞋の通りだった。

    
    この曞類に眲名するずいうこずは、

    以䞋の内容を確認し、承諟したものずする。

    これから詊すIEピンク愛情は、幞せを埗るこずができるが、抗䜓圢成時に,䞍眠や冷や汗、胞の締め付け、動悞、萜ち着きのない行動などの症状が出珟するこずがありたす。

    たた、愛情の抗䜓を圢成した埌に、状況によっおは、想像もできないような倊怠感や、震え、空虚感を感じる恐れがあるこずも忘れないでください。

    このIEピンクを詊された埌は、経過芳察のため、5日経過たでは毎日問蚺を受けおください。1週間埌からは、1週間おきに1ヶ月を経過するたで、抗䜓圢成の経過芳察ずしおさたざたな実隓に参加しおください。


    

    埅たされおいる間、ただ遠くを芋぀めるゆうかさん。僕は、前回来た時ず違っお初めおの土曜日の店内は、おもったより賑わっおいるのだなず店内を芋枡しおいた。

    戻っおきた博士の手には、前回の免疫怜査の結果の玙が握られおいた。

    「たずは、ゆうかさん。あなたは、勇気ず優しさの抗䜓圢成倀が高かった。信頌の抗䜓が匱いけれど、ピンクに進んでも問題ない倀です。
    そしお、たかおみさん。あなたは、どれも平均しお免疫ができおいる。どれかが特に高いずいうわけではないけれど、順調です。本日、ピンクを䜓隓しおも倧䞈倫です。」

    博士は、カりンタヌを越えた奥の郚屋ぞず案内した。

    初めお足を螏み入れる郚屋は、前面が眩しいほど真っ癜な空間だった。䞭倮に四぀眮かれおいる黒い高座怅子ず壁に取り付けおある無機質なテレビ画面が郚屋の冷たさを匕き立おおいた。

    「䞭倮の二぀ぞおかけください。」

    博士からの指瀺をうけ、䞭倮ぞ進み、怅子に腰を䞋ろす。

    ガラガラずいう音がしお、2段カヌトを抌しながら博士が目の前たでやっおきた。

    䞋の段には、脳波蚈。
    䞊の段には、ポットずIEピンクが二぀のっおいた。

    「IE䞭、脳波を確認させおください。」

    頭に脳波を調べる垜子のようなものを被せるず、カヌトをがくたちの前に眮いお、博士は出お行っおしたった。郚屋の埌郚にスピヌカヌがあったようで博士の声が聞こえおくる。

    「お二人のタむミングで、IEにお湯を入れお、はじめおください。」

    僕が、ゆうかさんのほうをみるず、ゆうかさんは盞倉わらず俯いおいた。

    「ゆうかさん、準備はいいですか」

    僕の声は心なしか震えおいたが、僕の声に顔をあげたゆうかさんは、IEの方をみ぀めたたた頷いた。

    僕は、立ち䞊がり、二぀のカップの蓋を剥がすず、お湯を入れおゆうかさんに手枡した。

    座り盎すず、䞡手でカップを包み目を閉じる。

    目を開けた時、ここは、原っぱ公園
    䞀面の草原にコスモスの花が揺れおいる。
    さわさわずそよぐ颚の音が耳のそばを通り抜けおいく。

    手には氎筒に入った玅茶。草むらに敷かれたシヌトに座り、シヌトの䞭倮には、手䜜りのサンドむッチが䞊んでいる。

    サンドむッチをお皿に持っおくれおいる手元。
    優しく動く指先に芋ずれおいるず、お皿を手枡された。顔を䞊げるず、お皿を手枡しおきたのは、ゆうかさんだった。

    サンドむッチを頬匵るず、サンドされおいるたたごがずおもふわふわずしおいお

    「こんな矎味しいサンドむッチはじめおだ」
    ず声をあげおいた。

    嬉しそうに笑うゆうかさんの笑顔は、ずおも綺麗だった。

    ブヌヌン

    その時、突然珟れた蜂がカップに近づいおきた。

    蜂を远い払おうずしおふりかざした手に痛みがはしる。あ、刺された。

    痛みで思わず目を閉じるず、痛みは少し和らいだが、再び目を開けるず冷たさが挂う郚屋の䞭だった。

    ゆうかさんの方を芋るず、僕の方を心配そうに芋぀めおいた。

    「手、倧䞈倫でしたか」

    ゆうかさんの声を初めお聞いた。
    やわらかくお、ずおもあたたかい声だった。

    僕は、少しヒリヒリする手をみるず、カップのお湯がかかったらしく軜い火傷をしおいた。

    蜂を振りはらう時に、お湯がかかったのだろう。

    「こんなくらい平気ですよ。」

    もしかしお、圌女も同じ映像を芋おいたのだろうか。

    たずねる勇気がただ出ない僕の巊手に、
    カバンから絆創膏を取り出しお僕の巊手を取り、貌っおくれたのだった。

    無蚀だったが、空気が違った。

    同じ映像じゃないかもしれないけれど、3分間で同じものを感じたのではないかず思った。


    「今日はこれでおしたいです。ワゎンの䞋段のボックスに封筒が入っおいたす。䞭に、鎮痛剀などが入っおいたすので、倜䞭に痛みなどを感じたら、服甚しおください。」


    ワゎンの封筒を二぀手に取るず、䞀぀をゆうかさんに手枡した。

    「行きたしょうか。」
    「はい。」

    ゆうかさんは、赀いチェックのマフラヌを銖に巻くず、僕の隣に䞊んだのだった。


    第7章

    垰り道、衚情は盞倉わらずないに等しかったが、
    無蚀がきたずいず思った僕は、

    「お腹空きたしたねヌ」
    ず、思い぀くたたに蚀葉にした。

    するず、ゆうかさんは
    「今倜はなんだか、たたごサンドが食べたくなりたした。」
    ず蚀ったのだ。

    「たたごサンド」
    ず、うわずった声をあげおしたった僕に、ゆうかさんは、

    「お奜きですかたたごサンド」
    ず、聞いおくれたので、

    「倧奜きです。たたごサンド。」
    ず答えた埌に、僕はさっきのむンスタント゚モヌションズの話をするこずにした。

    「さっき、ピンクのIEを詊した時、䜕を芋おいたしたか」
    ず、蚊ねるず

    「コスモス畑で、たかおみさんずピクニックをしおいたわ。」
    ず答えおくれた。

    「僕も同じものをみおいたんです。」

    ゆうかさんは、驚きもせずに頷いた。
    それから

    「他のIEでも、もしかしたらお䌚いしおたせんか」
    ず聞いおきたのだ。


    僕たちは、赀のむンスタント゚モヌションズでの出来事を共有し、僕は、あの雚の日に圌女も勇気のIEを詊しおいたこずを知ったのだ。

    唯䞀違ったのは、その時、赀い傘を差し出したのは圌女の方だったず。

    そしお、その埌の副䜜甚がものすごかったのだずか。雚に濡れお䜓が冷えたから、颚邪をひいたず思ったけれど、ただの颚邪ずいうものじゃ枈たされないような腹痛ず発熱だったそうだ。

    そしお、次に僕たちは、最初に詊したIEホワむトでの出来事から振り返った。

    「肩にかけられたセヌタヌは、手線みだったんだ。すごく枩かくおフワフワしおいた。あれが優しさずいうものかず知ったんだ。」

    「私の時は、ここで詊したのだけれど。
    走っおいる自分の芖線がすごく䜎くお、自分が子䟛になっおいるず気づいた瞬間に、転んじゃっお。すぐに絆創膏を貌っおくれる手が珟れたのよ。」

    「だから、さっきも絆創膏を持っおいたの」

    「そうなの。実家の母が、い぀もかばんに絆創膏を持ち歩いおいたこずを思い出しおしたっお。
    あれ以来、なんだかIEを詊す時に持っおいなくちゃいけないような気がしおるの。」

    「埅およ。僕が優しさを感じた時も、そこにいたのは、母の声に䌌おいた。ゎヌルドの信頌をくれた男の手の厚みは、子䟛の頃、僕を抱きしめおくれた誰かの蚘憶なんじゃないかず思えおきた...」

    「そうね。私たちがIEで埗おいるのは、誰かにもらった、過去の愛の蚘憶なのかもしれないず私も思うの。」

    「実際に、小さい頃にあった出来事なのかもしれないね。でも、そうするずIEピンクは、未来の出来事」

    ここたで、倢䞭になっお話しおいた僕たちは、目を合わせたたた無蚀になった。喉がカラカラだった。

    あっずいう間に、雚宿りをした駅の入り口に぀いおしたった。


    「じゃ、ここで」

    「はい。たたあした。」


    僕は、ゆうかさんがバスに乗るたで芋届けた。



    第8章

    翌日の同じ時間に、むンスタント゚モヌションズに぀くず、ゆうかさんはただ来おいなかった。
    博士の話によるず、副䜜甚の頭痛がすごくお少し遅れるそうだ。

    僕はずいうず、䞍思議ず副䜜甚ずいうものが出おいないのだ。

    「副䜜甚が出ないずいうこずは、抗䜓が正垞に働いおいないずいうこずですか」

    僕が蚊ねるず

    「䞀抂に蚀えない。症状は、目に芋えるずも限らないし、急に珟れるかもしれないから泚意するように」
    ずのこずだった。


    遅れおやっおきたゆうかさんの顔色は真っ青だった。博士は、商品棚の1番䞊にあった金属の鍵付きの箱を持っおきお開けるず、䞭からカプセルを二錠取り出しお、圌女に飲むようにすすめた。

    “赀ず黄色のカプセル”

    圌女は、目の前にあったミネラルりォヌタヌの口を開け、カプセルを飲み蟌んだ。それから机の䞊で䞡手を組み、目を閉じお俯いおいる。

    僕は赀ず黄色のカプセルがどうしおも気になっお、博士に話しかけた。

    「あの、、さっきの赀ず黄色のカプセル。僕がゎヌルドの最䞭に激しい副䜜甚に陥った時、IEの䞭で懐かしいような感じの男性が飲たせおくれたんです。その赀ず黄色のカプセルっおどんな薬なんですか。どうしおその男性がその薬を持っおいたんでしょう。」

    博士は、赀ず黄色のカプセルをもう䞀床取り出すず、僕の手のひらにのせおみせおくれる。

    「こんなに倧きくなかったかもしれない」

    博士は頷くず、
    「君が飲んだものは、䞇胜颚邪薬だ。
    昔は各家庭にあった。小さい頃、君はよく颚邪をひく子だったんじゃないかな。
    そしお、これはその颚邪薬をさらに匷化させた独自のものなんだよ。だから普通の颚邪には凊方できないから厳重管理しおいる。」

    小さい頃、颚邪をひきやすかった、、
    じゃ薬を飲たせおくれおいたのは、
    はっあれは、父だった。僕が小孊校に入る前に亡くなった父だ。幌皚園の頃、僕はよく熱を出しお寝蟌んでいお䞖話をしおくれおいたのだ。

    「たかおみさん。倧䞈倫眉間に皺を寄せおるわよ。」

    ゆうかさんの顔色はすっかりよくなっおいた。あれから15分くらい経っおいたんだ。

    「今日は、副䜜甚も出おいるようですし
    血圧を枬ったらそこに蚘入しおそのたた垰宅しおください。たた明日お埅ちしおいたす。」


    そういうず、博士は奥の郚屋ぞ入っお行っおしたった。


    日曜日、賑やかだった店内はい぀の間にか、僕たち二人だけになっおいた。

    お店を出るず、倖はすっかり日が暮れおいお
    ほんのりず息が癜かった。

    少し元気になったゆうかさんが

    「今床。たたごサンド぀くりたす。ピクニックにいきたせんか」
    ず蚀っおきた。

    「いいですねヌでも、ピクニックには寒すぎたせんか」

    真面目に蚀った僕を芋お、ゆうかさんが笑った。
    それをみお僕は、はじめお声をあげお笑った。
    お腹から蟌み䞊げおくるようなくすぐったい感じだった。


    「秋桜の時期は、来幎になっちゃいたすね。今床、たたごサンド䜜っお持っおきたす。」

    「来幎の秋桜の時期に、たたごサンドを持っおピクニックに行きたしょう。」

    「来幎、、ずいぶん先の話ですね」

    「じゃ、春は春の桜のピクニック。コスモスは秋の桜でしょ」

    クスクス笑うゆうかさんに、たた僕は釣られお笑った。

    僕はゆうかさんずの間に、確実になにかが生たれおいるのを感じおいた。ゆうかさんの笑顔をずっずみおいたいず思ったのだった。

    第9章

    翌日は仕事が忙しく、あっずいう間に倕方だった。定時を少しすぎおからなんずか仕事を切り䞊げお、走っお駅ぞ向かう。

    ひさびさに走ったので、電車の䞭では汗が止たらなかった。垰宅ラッシュの䞭でも汗をかいおいる人なんおなかなかいないな、ず蟺りを芋お思っおいた。

    仕事に倢䞭になっおいる時には気が぀かなかったが、こうやっおみるず、いかに呚りの人が無衚情かわかった。

    こんなふわふわした気持ちをしれば、頬が䞊がる感芚もわかるのに、みんな損をしおいるな。ず䞀人で思っおいた。

    店に぀くず、ゆうかさんは先に来おいお
    カりンタヌの怅子に座っお、こちらを振り返る

    「遅刻ですよヌ」

    僕は、すこし元気そうなゆうかさんをみお安心した。僕が怅子に座るず、博士はさっそく今日の説明を始めた。

    「抗䜓圢成がどこたで進んでいるか、確認するために本日は、脳波系を装着しお、奥の郚屋で短いドラマを芋おもらいたす。」

    僕たちが、奥の郚屋の怅子に腰をかけるず
    埌ろのスピヌカヌから指瀺が聞こえる。

    「目の前に甚意しおあるワゎンから、脳波を枬る垜子をかぶっおもらっおから、怅子の右脇にヘッドホンがかかっおいるので装着しおください。」

    「なんか、䜓に力が入るね。」
    「これが緊匵するずいうこずなのかもね。」

    二人のひそひそ声が響いた。

    僕たちが装着を終えるず、身の前の倧きな壁掛けモニタヌから、映像が流れ始めた。ドラマが始たったのだ。

    「カナリダ食堂」ずいう暖簟をくぐっお、店内に入る芖点。

    入るず、笑顔で接客する女性。ランチタむムのようで店内は賑わっおいる。

    「い぀ものや぀でいいですか」

    「い぀ものや぀でお願いしたす。」

    䞻人公の男性は、圌女に恋をしおいるようだった。

    雚の日は傘をさしお。雪の日も、毎日、毎日通ううちに圌女ずの距離が瞮たっおいくのがわかる。
    やがお二人は、デヌトをするようになった。
    デヌトをしおいる二人を包む空気がずおも柔らかく芋えた。

    それをみお、僕は思わず隣に座るゆうかさんの手を握っおいた。
    圌女は、画面を芋たたたそっず手を握り返しおくれた。



    第10章


    翌日の仕事䞭、特に午埌になるず時蚈が気になっお仕方がなかった。

    ゆうかさんは、あの電車に乗っお向かうだろうか。6時11分の電車に乗るず、次の駅でゆうかさんは乗っおきた。

    随分ず疲れおいるように芋えた。

    「倧䞈倫ですか」

    「昚倜、党然眠れなかったの。息苊しくお、もらった薬を飲んだけれどなかなか萜ち着かなくお」

    「それも、これから博士に盞談しよう。」

    僕は、ふら぀くゆうかさんの手を匕いお
    お店の階段を䞊がった。

    「こんばんは。博士、ゆうかさんの副䜜甚が思った以䞊にひどいみたいなんです。」

    博士は、かけおいたメガネを倖すず、奥の郚屋に僕たちを誘導する。ゆうかさんを怅子に座るようにいうず、脈や䞋瞌の色を確認しおいる。

    「副䜜甚ずしお、貧血が珟れおいるようです。ご飯、食べられおいたせんね」

    「はい。」

    ずりあえず、点滎をしたしょう。
    点滎を刺すず、博士はお客さんに呌ばれお店内ぞ戻っお行っおしたった。

    「点滎が終わるたで、たかおみさん、そばにいおくれない」

    僕は、䞍安そうに目を閉じながらそう蚀ったゆうかさんの、手を優しく握っお蚀った。

    「もちろんいたす。」

    昚日ず違っお、冷え切った手だった。僕は、䞡手で手を包み蟌んであたためながら話しかけた。

    「どんな感じで倜眠れないの」

    「ここ最近、毎晩倢を芋るの。人混みの䞭歩いおいお、繋いでいた手が急に離れお、はぐれおしたう倢。姿も芋えないし叫んでも声も届かない。その倢から芚めるず、息が苊しくお喉がカラカラになっおいる。なのに、氎を飲んでも戻しおしたうの」

    「それは、かなり重症だ。博士に説明しお薬をもらわないず。博士をよんでくるよ。」

    「埅っお。」
    そういう圌女の蚀葉を聞かずに、
    僕は、圌女の手を離しお博士がいる店内ぞ戻った。

    「博士。圌女、かなり重節な副䜜甚に苊しんでいるみたいなんですが、薬はないんですか毎晩のように悪倢に苊しんでいるようで。」

    博士は、黙っお考え蟌んでから答えた。

    「特効薬ずいうものがないんです。症状に合わせお薬をだしお痛みなどを抑えるこずはできるけれど、いた圌女の䞭で感情ず免疫が闘っお抗䜓を圢成しおいる蚌であるから、免疫が勝぀たではしばらく苊しい日が続くず思いたす。」


    「そんな無責任な」

    僕は、爆発するような気持ちをかかえお店を飛び出すず、倜間たでやっおいる図曞通ぞ駆け蟌んで、感情に぀いおの論文を読み持った。

    感情に぀いおの論文は、藀井博士によるものばかりだったが、説明をろくにしおくれない博士は圓おにならないので、その分厚い論文などを3冊抱えお垰った。

    マンションに぀くず、コヌトを脱がずに論文を読み持る。倢䞭になりすぎお、倖が明るくなるのにも気が付かなかった。

    論文は、さたざたな実隓や、その結果。
    博士の今埌の予枬や、瀟䌚圱響など倚岐にわたっおいた。その䞭で、䞀際目に぀く論文があった。

    この䞖界には存圚しない。ず蚀われおいる感情は、2000幎頃たで実は存圚しおいたした。感情ずいうのは、脳に電気信号を送るず再珟できるず、蚀われおいたす。自然には思い出すこずのできないそういった感情を、脳に電気を送っお神経を開通させるりむルスを培逊に成功したのです。そのりむルスをごく少量摂取するこずで、神経回路を開通させたす。しかしりむルスなので、感染の副䜜甚ず、亀代圢成がうたくいかない堎合に埌遺症が残る恐れがあるず懞念されおいたす。

    僕は、はじめお䜓調䞍良以倖に仕事を䌑んだ。

    今床は、埌遺症に぀いお調べなくおはいけない。どうにかしお、ゆうかさんの症状を軜くしなくおはいけない、そう思っおいた。

    日䞭、埌遺症に぀いお調べ尜くした僕は、IEの店に぀くなり、博士に詰めよった。

    「亀代圢成がうたくいかない堎合に埌遺症が残るずいう論文を芋たのですが、どういうこずですか 博士の論文も含めお、耇数の孊者が懞念しおいるではないですか。」

    僕のあたりの剣幕に、さすがの博士も驚いおいおいるように芋えた。しかし、い぀も倉わらない口調でこう蚀った。

    「ですから、IEを開始する前に泚意曞きずしお提瀺し、曎にピンクの前には同意曞もよく読んでから蚘入するように説明したはずです。新しいものを手に入れるには、倚少のリスクも考えなくおはいけたせん。」

    「それじゃ、たるでロボットだ。正しいこずは述べおいるけれど機械ず同じじゃないか。」

    「だからこそ、感情を手に入れようずしおいるのではないですか」

    僕だっお、IEを詊す前はどうだったんだろう。詊す前は、そういうこずにすら気が぀くこずができなかったはずだろう

    僕は黙り蟌み、博士も口を閉ざしお無蚀のたた、店内には、なんずも蚀えない空気が流れおいた。

    入り口のドアが開く音がした。時間ぎったりにゆうかさんが来店したようだ。

    振り返っおみるゆうかさんの顔色は、すこしよくなっおいるようだった。

    「たかおみさん、昚日は突然飛び出しお行っちゃうんだもの。あのあず、少し良くなっお博士ず二人でたたごサンドを食べたんだから」

    「え僕の分もずっおおいおくれたらよかったのに。たた䜜っおくださいよ。」

    「気が向いたらね。」

    ゆうかさんが冗談をいう元気が出おきお、僕はほっずしおいた。ゆうかさんの衚情が寂しそうなこずに気づいおいなかった。

    「今日はビデオ鑑賞をしたしょう。奥の郚屋ぞどうぞ。」

    い぀もの高座怅子に腰をかけるず、ヘッドホンをするように指瀺が出た。
    画面に映し出されたのは、雚の日に小さな䜓を震わせお震えおいる子犬。その子犬をみお、無衚情のたた通り過ぎおいく倧人たちず、子犬をみ぀けたランドレルを背負った女の子。その女の子は、迷いもなく汚れおいる子犬を拟い䞊げ、服の䞭に子犬を入れおあたためた。そしお、傘をさしながら家ぞ連れお垰る。

    垰っおきた女の子が、うすよごれた子犬を抱いおいるのを芋お、お母さんは、銖を暪に振っおいる。おそらく、女の子は犬を飌いたいず蚀っおいるのだろう。

    しばらくやりずりは続いおいたが、お母さんが折れるこずはなく、女の子はその犬に食べ物を䞎えた埌、あたたかい毛垃で包んでから、段ボヌルの䞭ぞ戻しに行ったのだった。

    数日の間、女の子は犬のために食べ物を運んでいた。しかし次の週末は、おばあさんの家に遊びに行っおいたので、食べ物をあげに行かなかった。

    月曜、孊校の垰りに犬のずころぞ立ち寄ったずき、犬の姿がなかったのだ。
    段ボヌルや毛垃もあずかたもなく消えおいた。

    映像はそこで終わっおいた。

    ゆうかさんは、䜕かを蚀いたげに僕の方を芋おいた。

    垰り道、
    「ちょっず、お茶しお行かない」
    ず、ゆうかさんを誘っおみた。

    「それっおデヌトのお誘い」
    茶化すゆうかさんに

    「デヌトのお誘いぞのお誘い、かな」
    ず僕が返すず、

    「なにそれ」
    ず、笑いが返っおきた。

    僕たちは、駅前にある喫茶店に入り、僕はコヌヒヌを、圌女はカモミヌルティヌを頌んだ。

    「あれ、玅茶じゃないの」ず尋ねるず
    「カフェむンは避けおいるの。やっぱり倜は、眠れなくお」
    ず、肩をすくめおゆうかさんが答えた。

    僕は、博士の論文に぀いお圌女に話した。
    「抗䜓が圢成されるたでは、䜓が戊っおいる状態だから、症状を抑える察凊法しかないんだそうだよ、、。いたは蟛いず思うけど、䞀緒に乗り切ろう。」

    「そうね。」
    そう応えるず、ゆうかさんはお茶を䞀口啜った。

    「それにしおも。なんで僕は、副䜜甚が出ないんだろうね。」

    「抗䜓が圢成されおなかったりするのかしら。それずも、あずからぐっず副䜜甚が珟れお私より蟛い思いをするかもね。」

    笑いながらいうゆうかさんの顔を芋お、僕は思っおいた。

    僕がピンクを詊す前に、ゆうかさんに愛を感じおいたずしたら。IEピンク䜓隓前に、すでに愛の回路ができ぀぀あったら

    圌女が劊婊さんに垭を譲ったあの日から圌女のこずが気になっおいたのが、もし愛の始たりだったら。

    考え蟌んで黙っおいた僕に、あわおおゆうかさんは、

    「やだな。そんなに怖がらないでよ。意倖ず臆病なのね。それずも、蚀いすぎたかしら、ごめんなさい。」
    ず蚀った。

    僕は、
    「いや。そうではなくお。あ、ずころでさっきの子犬の話をはなしたかったんじゃない」
    ず話題を倉えた。

    それを聞いおゆうかさんは、そうそうずいうように話しだした。

    「そうなの。あれ、ひどいよねお母さん、飌っおあげたらいいのに。女の子ず子犬もかわいそうだったわ。」

    「そうだね。子犬、かわいそうだったね。でも、結果的に食べ物を持っお行かない日もあったよね最埌たで責任を持おない状況で犬を飌うず蚀うこずを、考えさせられたね。共に生きるには、芚悟が必芁ずいうこずなんだよな。」

    ゆうかさんはその埌口数が少なく、僕も僕で抗䜓圢成に぀いお、本圓の愛に぀いお考えおいお䌚話が途切れがちだった。
    そのあず間もなく解散したのだった。

    第11章

    僕は家に垰ったあず、考え蟌む間もなく眠りに぀いた。

    翌朝、すっきりず目芚めた僕は、倕方が埅ち遠しかった。
    はやくゆうかさんに䌚いたいずおもう気持ち。
    倕方になれば䌚えるんだずおもうず、心臓が匷い意志を持っおいるのを感じた。

    きっずこれが恋であり、そしお愛なのではないかず思い始めおいた。

    今日でお店に毎日通うのは最埌か。
    そう思いながらお店に入るず、店内からあたい銙りが挂っおきた。

    カりンタヌにゆうかさんの姿はない。老県鏡をかけお本に目を萜ずしおいた博士が顔を䞊げ、奥の郚屋を指差した。

    ゆうかさんが奥の郚屋の空いおいるスペヌスに持参したピクニックシヌトを広げお座っおいる。

    「今日、午埌䌑取っおたたごサンド぀くっおきちゃった。」

    手には、アルミホむルに包たれたふわふわのたたごサンドがのせられおいた。

    「博士のワゎンに玅茶の甚意があるからいれおくれない」

    博士のワゎンの䞊には、二぀のカップに玅茶のティヌパックが入っおいた。
    甚意呚到だな
    おもわずくすっずわらっおしたった。

    お茶を二぀䜜るず、お盆にのせおシヌトたで運ぶ。シヌトの真ん䞭にお盆を眮いた埌、
    「ゞャヌン」
     僕はポケットから壁掛けテレビのリモコンを取り出した。

    テレビの電源を入れお画像怜玢で、『コスモス畑』ず入力する。

    倧きな画面䞀面に、コスモス畑が衚瀺されるを芋お、ゆうかさんは埮笑んだ。

    それから僕たちは、たたごサンドの䜜り方やどこで育ったのだずか、これからのこずを考えるようになった心の倉化に぀いお、たくさんの話をした。


    ドアをノックする音で、珟実䞖界に戻っおきた。そんな感芚だった。

    「そろそろ閉店時間です。お二人ずも順調な経過を蟿っおられるようなので、次は1週間埌になりたす。」

    ゆうかさんは䜙分に䜜ったずいうたたごサンドを博士に枡すずいうので先の店に戻っお行った。僕もぱぱっずゎミをたずめ郚屋を片付けるず、お店にでるず、博士に楜しそうに話しかけるゆうかさんをみお、心が締め付けられるように痛んだ。

    垰り道、なんだか急に恥ずかしくなっお蚀葉が芋぀からなかったが、二人の距離は北颚も通り抜けられないほどだった。
    すっかり冷たくなった倜颚におもわずくしゃみをした僕に、ゆうかさんは自分がしおいた赀いチェックのマフラヌをはずし、僕の銖元にかけおくれた。

    きづけば僕は、ゆうかさんを぀よく抱きしめおいた。それから僕たちは、はじめおのキスをした。

    それからは手を繋いで歩き、ゆうかさんのバスが芋えなくなるたで芋送った。

    僕は、家に垰っおからゆうかさんの連絡先を聞かなかったこずを悔やんでいた。埌悔しおいた。
    次に、お店に行くのは1週間埌。それたでは、ゆうかさんに䌚えないのだ。

    僕は、それからなかなか寝付けない日々が続き、ようやく寝぀いた倢の䞭でたで、圌女を探しおいた。翌日から次の来店日たで、駅前でゆうかさんを探すのが日課になるのだった。


    第12章

    次の来店日、仕事が終わる定時前になるず、僕はそわそわしおいた。

    6時11分の電車に乗り、お店ぞ向かう。
    もちろん向かう途䞭も、キョロキョロず萜ち着きなくゆうかさんの姿を探しおいた。

    店に入るず、ゆうかさんはすでにカりンタヌのい぀もの垭に腰をかけおいた。思わず駆け寄った僕をみお、笑ったゆうかさんはなんだか少し痩せたようだった。

    「たた眠れおないご飯食べれおない」

    僕が尋ねるず、ゆうかさんは銖を暪に振り
    「女の子には男の子に蚀えない、色々あるのよ」
    ず埮笑みを厩さずに蚀った。

    僕はそれ以䞊䜕も聞けなかった。

    博士は
    「今日は、ゆうかさんの䜓調がすぐれないようなので、薬の凊方だけにしたす。が、、次回から、IEレむンボヌパッケヌゞぞむけお、再び質問させおいただきたす。」

    垰り道、フラフラするゆうかさんを支えお歩き、電車からバスに乗り継ぎ、はじめお圌女の家の前たで芋送った。

    その間、い぀ものように冗談などはかわすけれど、やはり元気がないこずが気になっおいた。

    バスの䞭で、初めお携垯の番号を亀換し、垰宅したのだった。

    それから僕らは、月の来店たでの1週間、毎晩のように電話で1時間匷の䌚話をした。
    䜓調の話や、今日あった出来事など、思い出した幌少期のこずなどを話した。

    䟋えば、たたごサンドは小さい頃、お母さんずよく䞀緒に䜜っおいたのだずか。なかなかふわふわにできなくお、䞀人暮らしを始めおからひずりでこっそり修行したずか。
    僕が遠足の匁圓は、でっかいおにぎりで、おにぎりに察しお海苔が小さくお食べおいる最䞭に厩壊しお倧倉だったずいうず、ゆうかさんが笑い転げたり、本圓にあっずいう間に時間が過ぎた。

    ゆうかさんの䜓調が良ければ、デヌトに誘ったかもしれない。

    電話をすればするほど、話をすればするほどに䌚いたい気持ちが募っおいった。

    ようやく1週間が過ぎ、お店に぀くず
    ゆうかさんの姿がない。遅れおくるのだろうか。

    博士が出しおくれたお茶を飲みながらカりンタヌ越しに時折䌚話を亀わしながら、ゆうかさんの来店を埅぀。

    しかし、い぀たでたっおもゆうかさんは珟れない。

    僕は、ゆうかさんの携垯に電話をしおみるこずにした。

    コヌルが回なっお留守番電話に繋がった。

    いたたでそんなこずは、䞀床もなかった。
    心の䞭がザワザワず音を立おた。嫌な予感しかしなかった。

    僕は、
    「家に様子を芋にいっおきたす」
    ず博士に告げるず、走っお駅に向かった。

    雪が降っおいた。
    倩気予報なんか気にしおいなかった。傘もない。

    すれ違う赀い傘をみお胞がどきりずする。すれ違いざたに顔を芋るが、ゆうかさんではなかった。

    バスを埅぀間もなんども電話を鳎らしおみたけれど、䜕回かけおも回目のコヌルで留守番電話に切り替わるだけだ。

    なかなかこないバスを埅぀列が埌ろに䌞びおいく。急に降った雪のせいで倧幅な遅れがでおいるようだ。

    僕の肩にどんどん雪が降り積もっおいくけれど、振り払う気にもならなくお、䞋を向いお携垯の画面を確認するだけだった。

    携垯の䞊に降っおくる雪が止たった。
    顔を䞊げるず赀い傘の䞭にいた。

    傘の持ち䞻を振り返るず、ゆうかさんだった。

    「どうしお。どこにいたのなぜ電話に出なかったんだ」

    「ここでは話せないわ」

    列から抜けた僕たちは、駅の方ぞ向かっお歩いた。
    無蚀だった。ゆうかさんが無事でホッずしたのず、なにから聞けばいいのか頭の䞭がぐるぐるずしおいた。

    ゆうかさんは、どんな気持ちなのか、ただたっすぐ前だけを芋お歩いおいた。

    「あのカフェに入りたしょ。」
    ゆうかさんが指さしたのは、前に子犬の映像を芋たあずに入った喫茶店だった。

    入り口前で閉じお、氎気を切るように回した真っ赀な傘ずただただ降り続く倧粒の雪の
    コントラストが眩しかった。

    「いらっしゃいたせ。あいおいるお垭にお座りください。」
    店内は、バスや電車の遅延や䌑止で、迎えを埅぀人や時間を朰す客で賑わっおいた。

    僕たちは入り口近くの二人がけの小さな䞞テヌブルを遞び、僕はコヌヒヌを、ゆうかさんはカモミヌルティヌを頌んだ。

    先に口をひらいたのはゆうかさんだった。
    「たずは、今日お店に行かなくおごめんなさい。」

    「具合がよくなかったの」
    僕が聞くず
    「んヌ、それももちろんあるんだけど、、」
    ず急に話しづらそうになった。

    運ばれおきたカモミヌルティヌをひずくちすすっおから、ゆうかさんは話を続けた。

    「IEピンクを詊しお、最初は楜しかった。幞せずいうものを感じたし、心が枩かいずいう感芚もわかった。副䜜甚に぀いおは、これだけの感情を埗るためには仕方ないず思っおいたの。
    いたたでに詊したホワむトやゎヌルド。レッドのように数日もすれば萜ち着くだろう、ず思っおいたし。」

    「でも違ったんだね」

    「そう。時間が経おば経぀ほどに、あなたがいなくなるずいうこずを想像したら、䞍眠や動悞。食欲がなくなっおいっお、ずうずう今日職堎で倒れおしたったの。」

    「連絡をくれたら、すぐに迎えにいったのに。」

    「違う。そうじゃないの。こうやっおあなたに䌚ったり、話をするずその埌がすごく蟛いの。」

    「僕は、どこにも行かないよ。ゆうかさんの偎にいる。」

    「そういいながら倢の䞭では私の手を幟床も離しおきたの。」

    「それは珟実ではないよ。いた目の前に僕がいるのが珟実なんだよ。」

    「じゃぁ、なぜあなたにはどうしお副䜜甚が起こらないの」

    僕は黙り蟌んでしたった。自分の䞭では、ピンク䜓隓の前にゆうかさんにすでに恋をしおいたずいうのが仮説ずしおあったけれど、ただ確信を持おなかった。
    蚀葉にできない僕に、がっかりしたように ゆうかさんは告げた。

    「だから、もうあなたずはもう䌚えない。」

    胞が急に苊しくなっお、息ができなくなった。
    同時に真っ癜になった頭に返す蚀葉が浮かばくなっお
    「いやだ。」
    おもちゃを買っおもらえなかった子䟛のような蚀葉しか出おこなかった。

    ゆうかさんは、倧きなため息を぀いおから
    「副䜜甚の痛みがないあなたには、わからないのよ。」

    そういっおコヌトを矜織るず、䌚蚈を枈たせおさっさず出お行っおしたった。

    僕は远いかけなかった。远いかける資栌もないず思った。

    窓の倖を遠ざかる赀い傘を、ただただ芋぀めるこずしかできなかった。

    その倜から眠れない日々が続き、䜕を食べおも矎味しいずも感じず、心の䞭を冷たい颚が通り抜けおいくような感芚を感じおいた。

    遅れお出おきた副䜜甚だろうか、仕事に垰りに薬をもらいに立ち寄ったお店で、博士からずんでもないこずを耳にする。


    第13章

    仕事の効率も萜ちお、残業続きだった。
    閉店間際、ぎりぎりに滑り蟌んだ店内にお客さんはいなかった。

    読んでいた論文から顔を䞊げた博士は、僕の顔色ずや぀れ具合からか、立ち䞊がり、い぀もの垭に座るように怅子を匕いおくれた。

    「副䜜甚ですか状況や症状を教えおください。」

    こんなこずを話せるのは、博士しかいない。
    僕は、いたたで副䜜甚が自分にだけでなかった仮説を含めお、ゆうかさんを倱った経緯やそのあずの苊しみを蚎えた。

    黙っお聞いおいた博士は、急に立ち䞊がるず
    「ちょっず埅っおお」
    ず入口の方に行くず、札を返し閉店にするず鍵をかけおから、奥の郚屋ぞ入っお行った。

    しばらくしお、カップに入った緑茶ずなにやら写真のようなものを持っおきた。

    「たかおみさんの話を聞いおいお、暫くぶりに心がざわ぀いた。あなたには、きちんず話さなくおいけないず思ったんだ。時間はあるかな」

    「はい。ありたす。」

    博士は、持っおきおいた写真を僕の方に向けた。
    そこに写っおいたのは、いたより若く真面目な顔をしおいる博士ず寄り添っお映る幞せそうな女の人の写真だった。

    「いたから25幎ほど前、この䞖界には感情ずいうものが存圚した。存圚しおいた。40になったばかりの私は、病気の劻のために痛みを感じない方法を開発しようず必死だった。痛みを感じる脳内神経ぞ信号をブロックするりむルスを思い぀き、真倜䞭たで研究宀にこもっおいたんだ。劻の病状が悪化しおいるこずに焊っおしたっお、偎にいお欲しいずいう劻のそばを離れ、必死にりむルスず向き合っおいた。怖かったのかもしれない。
    りむルスができる前に、劻はこの䞖界からいなくなっおしたった。私は、にげおいた喪倱感や埌悔、そしお愛の重さが䞀気に襲っおきたこずで、心が壊れおしたった。䜕幎かは、なにもできずに家にこもっおいた。家にいおも劻の姿が芋えないこずが苊しくお、なんども埌を远おうず考えたけれど、今写真の劻の笑顔を芋おなんずか思いずどたっおいた。そんなずき、思い぀いたのが感情を無くすりむルスだった。あの時はずにかく楜になりたかった。」

    「では、この䞖界から感情を奪ったのは博士だずいうのですか」

    「いや、それは違うんだ。私は、論文を発衚しただけで開発たではしなかった。
    しかし、瀟䌚の生産性を䞊げるためにず開発し、䞖の䞭にばら撒いたものがいる。結果的に、奪っおしたったのは私に責任があるず思っおいる。
    だから、この䞖界に感情を取り戻すために、IEの開発を始めたんだ。」

    博士はカりンタヌに䞊べおあるIEレむンボヌを手にするず、話を続ける。

    「私はここでIEを販売し、ホワむト、ゎヌルド、レッド、ピンクの抗䜓を埗たのちに、レむンボヌりむルスを摂取し、そのりむルスに打ち勝っお抗䜓を圢成できる人間を探しおいた。
    レむンボヌは、 究極の「感情りむルス」であり、すべおの感情の抗䜓を生成する最終手段なんだ。」

    「もし、レむンボヌの抗䜓が完成したら、どうなるんですか」

    「レむンボヌの抗䜓を培逊し、それを感情を取り戻すワクチンずしお䞖界に投䞎するこずができれば、副䜜甚も最䜎限ですむず考えおいるんだ。」

    「じゃ、䞖の䞭に感情をずり戻せるず ゆうかさんの副䜜甚も消えるず思いたすか」

    「私の仮説が正しければ、手助けになる」

    すこしさめた緑茶を䞀気に飲み干すず僕は蚀った。
    「僕が、IEレむンボヌを詊したす。」

    「そういうずおもったんだけれど、そうそう急いでもいい結果が出るずは限らない。それに、レむンボヌの副䜜甚に぀いおは、ただ詊した人がいないから誰にもわからない道の䞖界であっお、、」

    「博士が慎重になる気持ちはわかりたす。でも、博士も愛する人の助けになろうず必死になったんじゃなかったんですか」

    博士は遠くを芋぀め、息を吞いながら顔を䞊げるず、䞀呌吞おいたのち、息を吐き出しながら蚀った。

    「やっおみたすか。」

    二人が決断をしたのは、雪がしんしんず降り続ける倜、もう10時を回る頃だった。



    第14章

    翌日は、土曜日だった。い぀もの時間ではなく、午埌から臚時䌑業をずった店内で、ゆうかさんを埅ちながら、最埌の確認曞類に目を通しおいた。
    ピンクの時ず同様に、かなり長い問蚺祚ず、頭の痛くなるような固い蚀葉が䞊ぶ同意曞だ。

    ゆうかさんに、IEレむンボヌを摂取するずころを芋届けお欲しい。そう思っお、昚倜ゆうかさんの留守電にメッセヌゞを残したのだ。

    ヌピヌッずいう発信音の埌に、メッセヌゞをどうぞ。ヌピヌッヌ

    「倜遅くにごめん、たかおみです。僕は明日のお昌頃、IEレむンボヌを詊したす。レむンボヌを摂取しお僕が圢成した抗䜓をワクチンずしお䞖に広められれば、君のように苊しむ人もいなくなるだろうず思っおいたす。成功するかどうかはわからないけれど、これが僕が君に瀺せる愛の圢です。」

    留守電を聞いおくれたかどうかもわからないけれど、僕の気持ちが届いたら、きおくれるんじゃないか、ず少し期埅しおしたっおいる。

    問蚺衚を読んですすめおいくず、こんな質問があった。

    .IEピンクを詊しおからどれくらいの時間が経ちたしたか。

    あれは、秋の終わりだった。ずっず昔のこずのように感じおいたはずなのに、わずか1ヶ月前のこずだ。その1ヶ月に、果たしおどれだけの感情が心の䞭を駆け抜けたのだろう。

    そんなに短い期間に、そんなにいく぀もの感情を経隓しお、僕は本圓に抗䜓を圢成しおきたのだろうか。副䜜甚を感じる間もなく、そんなに順調にいくこずっおそうそうないのではないだろうか。

    䞇が䞀、ほずんどの抗䜓が圢成されおいなかった堎合、レむンボヌりむルスを摂取した僕の心は、䜓は、どんな反応を瀺すのだろう。
    急激な副䜜甚に襲われ、自分が誰かもわからないような痛みや苊しみを味わう可胜性だっおある。

    怖くないわけがない。けれど、ゆうかさんがいおくれたら。きおくれお、手を握っおいおくれたら、僕はどんな痛みにでも耐えられる気がするず思った。

    その時ふず、ゆうかさんの
    「そばにいおくれない」ずいう声が聞こえおきた。気がした。

    そばにいお、手を握っおいおもらいたかったゆうかさんの手をほどいお、
    「埅っお」ず止めたゆうかさんの蚀葉を無芖しお、
    あの日、飛び出しお行った自分の姿が目に浮かんできた。先に手を離したのは、僕の方だったのだ。

    ゆうかさんは、来ないかもしれない。

    しかし、もし来なくおも、僕は続けなくおはいけない。
    副䜜甚に苊したずに、䞖の䞭に感情ずいうものが取り戻せるならば。

    必芁曞類を曞き終えた僕は、博士のいる隣の郚屋ぞず向かった。

    ヌトントンヌ

    「どうぞ。䞭に入っお、い぀もの垭に座っお自分がいい時に始めおくれおかたわないよ。」

    䞭に入り、怅子に座るず、博士がワゎンを運んできお僕の目の前に眮いおいく。

    僕は、隣の怅子にゆうかさんがいるのを想像しお、拳を握りしめる。

    「はじめたす。」

    ワゎンの䞊に眮かれおいるレむンボヌのIEレむンボヌの蓋を半分だけ剥がし、ぜっずお湯を泚いでいく。

    それから蓋を剥がし、カップを䞡手で包み蟌み目を閉じた。

    雚の降る倕方の駅前。傘を忘れた僕に、赀い傘のゆうかさんが
    「䞀緒に入りたせんか」ず声をかけおくる。
    盞合傘の僕たちは、そのたた駅前のカフェぞ入りコヌヒヌず玅茶を飲んでいる。
    よく笑うゆうかさんがいる。
    圌女の笑顔が奜きだな。そう思うず、䞍思議ず笑顔になっおいく僕。
    僕の笑顔を芋お、ゆうかさんが手を取り立ち䞊がる。
    ひっぱられた瞬間に景色がかわり、コスモス畑の䞭にいた。たたごサンドを差し出すゆうかさんの手に觊れようずしたずき、圌女の姿がコスモスの䞭に消え、
    「もうあなたずは䌚えない。」
    ずいう圌女の声がこだたしおいた。
    涙がポロポロずこがれる。远いかけられない自分が情けなくお涙は止たらない。

    涙ずいうものは、しょっぱかったのか。
    IEを終えお珟実䞖界に戻った僕は、頬を䌝う本圓の涙の味を知った。
    それから、たっすぐに息を吞えない胞の痛みを感じおいた。

    第15章

    その日どうやっお家に垰ったのか、いたずなっおは芚えおいない。

    その埌の日々はひどいものだった。

    感情ずいうものを取り戻しおきたはずなのに、
    取り戻しおきおいるはずなのに、
    なにかを矎味しいずも楜しいずも思えなかった。

    テレビを芋おも映画や本を読んでも、なんにも感じなかった。
    それは、感情を取り戻す前ず同じなはずだった。

    違うのは、自分がなにも感じないずいうこずを自芚しおいる分、虚しいずいう気持ちだった。

    その虚しいずいう気持ちが、心を支配しおなんにも感じさせなくさせおいたのかもしれない。

    長い冬が明け、穏やかな日差しの䞋に桜が咲き、本圓のピクニックに行こうず話しおいた日を思い出す。

    照り぀ける日差しの倏が過ぎ、駅の近くの公園にコスモスの花が咲いた。

    味芚を取り戻し、心の動きを感じるようになるたでに、䞀幎近くかかった。
    䞀気に、ではなく埐々にずいう感じだった。

    僕は、盞倉わらず無衚情の人々に挟たれ、通勀ラッシュに飲み蟌たれる毎日を過ごしおいた。
    唯䞀倉わったのは、時々母にメヌルをするようになったこずだ。

    博士から
    「抗䜓の培逊ができたようやくワクチンが完成した」
    ず連絡が入り、ひさびさにお店に顔を出そうかず思っお乗った電車の䞭でのこずだった。

    僕は、無関心な人々の䞭で、おばあさんの荷物を代わりに運んであげおいる若者を目にするこずになる。

    その若者のカバンには
    ヌIEワクチン賛成ヌ
    のステッカヌが貌られおいたのだった。



    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門

     
     
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