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小説『䞍動産特殊調査員 神代湊』01:越境する殺意 ゚ピロヌグ蚘録の看守

    枯区・虎ノ門。

    再開発の波に取り残されたような、叀い雑居ビルの四階。看板すら出されおいない無機質な䞀宀が、䞍動産特殊調査員・神代湊のオフィスである。  

    宀内には、客を招き入れるための゜ファも、芳葉怍物もない。壁䞀面を占めるのは、膚倧な建築基準法の専門曞ず、過去数十幎にわたる郜内の地盀デヌタが栌玍された黒いサヌバヌラックだけだ。

    深倜十䞀時。  
    神代はデスクに向かい、䞖田谷区の野厎邞に関する調査報告曞をシュレッダヌにかけおいた。圌にずっお、終わった案件の玙切れに䟡倀はない。物理的な歪みを法的にロックした時点で、あの土地はすでに神代の興味の察象倖だった。

    䞍意に、ノックの音もなくオフィスのドアが開いた。  
    カツ、カツず、硬質なヒヌルの音が冷たいリノリりムの床に響く。

    「䞖田谷の件、片付いたようね」  

    珟れたのは、タむトな黒のパンツスヌツに身を包んだ女だった。氷宀玗英ひむろ さえ。  

    か぀お郜内で最も冷酷で正確だず恐れられた凄腕の叞法曞士であり、珟圚は衚舞台から姿を消し、神代の調査をペヌパヌ蚘録の面からバックアップしおいる「蚘録の看守」だ。神代が土地の物理的な歪みを枬るなら、圌女は登蚘簿ず資本の流れずいう「デゞタルの歪み」を解剖する専門家だった。

    「ああ」  

    神代はシュレッダヌの電源を切り、短く応えた。

    「違法な擁壁は、行政の是正勧告ず裁刀所の仮凊分で完党にデッドロックした。あのクレヌム屋の倫婊は、死ぬたであのコンクリヌトの檻の䞭で負債を払い続ける」

    「自業自埗ね。䞍動産のルヌルを䞭途半端に悪甚しようずするから、自重で朰れるのよ」  

    玗英は神代のデスクの向かいに座るず、持っおいたレザヌのトヌトバッグから薄型のタブレットを取り出し、テヌブルの䞊に滑らせた。

    「でも、私がここに来たのは、あの小悪党倫婊の末路を笑うためじゃないわ。  これを芋お」  

    玗英の指先が画面を叩く。  
    衚瀺されたのは、野厎邞を分譲し、意図的に境界暙を停装しお違法建築を売り抜けた「倧手デベロッパヌ」の商業登蚘簿法人登蚘のデヌタだった。

    「このデベロッパヌ、衚向きは東蚌プラむム䞊堎のクリヌンな䌁業よ。でも、法務局の閉鎖謄本を遡っお、過去の資本提携ず圹員の倉遷を培底的に掗っおみたの」

    「  䜕が出た」

    「このデベロッパヌが十数幎前に急成長した背景には、ある巚倧な持ち株䌚瀟ホヌルディングスからの非公開の資金揎助があった。その芪䌚瀟の名前ず、圓時の圹員名簿よ」

    玗英が画面をスクロヌルさせる。  
    無数に矅列された圹員名の䞭に、赀くハむラむトされた䞀぀の名前があった。

    「この男の名前。  そしお、この芪䌚瀟が抱えおいた耇数のペヌパヌカンパニヌの所圚地」  

    玗英は、鋭い芖線を神代に向けた。

    「二十幎前。あなたの故郷である『斑鳩村いかるがむら』の地䞊げに関わっおいたダミヌ䌚瀟の䞀぀ず、完党に䞀臎するわ」

    神代の動きが、ピタリず止たった。  

    オフィスの空気が、䞀瞬にしお絶察零床たで冷え蟌む。神代の瞳の奥に、日垞の調査では決しお芋せるこずのない、底知れぬ暗い炎が宿った。

    「  単なる境界トラブルの裏に、あの村を消した連䞭の末端が繋がっおいたずいうこずか」

    「ええ。野厎倫婊が盞手にしようずしおいたのは、ただの悪埳業者じゃない。二十幎前、囜や法埋すらも金でねじ䌏せ、䞀぀の村を地図から完党に消し去った巚倧な䞍動産ネットワヌクの䞀郚よ。圌らは今も圢を倉え、こうしお東京の地盀に寄生しお血を吞い続けおいる」

    神代は無蚀で立ち䞊がり、オフィスの窓際ぞず歩み寄った。  

    ブラむンドの隙間から、深倜の東京の街䞊みが芋える。無数のビルの灯りが、星空のように瞬いおいる。だが、神代は知っおいる。この煌びやかな郜垂の足元には、無数の嘘ず、奪われた土地の蚘憶がコンクリヌトの䞋に埋められおいるこずを。

    神代はチャコヌルグレヌのスヌツの内ポケットに手を入れ、硬いクリアケヌスを取り出した。  
    䞭に封印されおいるのは、端が焌け焊げた和玙の断片。か぀お「斑鳩村」ず呌ばれた土地の、本来の境界線が描かれた旧土地台垳附属地図の切れ端だ。  
    二十幎前。突劂ずしお始たった狂気的な地䞊げ。攟火、暎力、そしお法的な暩利の剥奪。村人たちは散り散りになり、あるいは土の䞋に埋められ、村の存圚を瀺す公的な蚘録は、すべお『消倱』ずしお凊理された。  

    神代湊ずいう男の時間が止たったあの日から、圌はずっずこの地図の断片だけをコンパスにしお、巚倧な暗闇の䞭を歩き続けおきたのだ。

    「  連䞭は、ただ生きおいる。そしお、この街の境界線を今も喰い散らかしおいる」  

    神代は、焌け焊げた地図の断片を匷く握りしめた。

    「どうするの、湊」  

    玗英が、背埌から静かに問いかける。

    「今回の䞖田谷の件で、私たちが『末端』の尻尟を螏んだこずは事実よ。向こうのネットワヌクも、いずれ私たちの存圚に気づくかもしれない」

    「構わない」  

    神代は振り返り、氷宀玗英ず芖線を亀え合わせた。その顔には、凄絶なたでの冷培な決意が刻たれおいた。

    「人間が嘘を重ねお土を盛るなら、私がその嘘の重さを枬り、物理的に解剖する。  あんたは蚘録ペヌパヌの底から、奎らの資本の逃げ道を完党に塞げ」

    「了解。叞法曞士の免蚱を捚おおたであなたの看守になったんだから、最埌たで付き合うわよ」  

    玗英は䞍敵に埮笑み、タブレットの電源を萜ずした。

    「この街に埋められた嘘を、䞀぀残らず掘り起こす」  

    神代は、東京の暗闇を芋据えお静かに宣告した。

    「二十幎前の枅算を始めるぞ」

    倱われた村の座暙を取り戻すための、果おしない戊いの幕が䞊がった。  

    第䞀の歪みを是正した䞍動産特殊調査員・神代湊は、次なる土地の悲鳎に耳を柄たせるべく、深い倜の沈黙の䞭ぞず歩みを進めた。


    第䞀話『越境する殺意』・完

     
     
     
    専門職ミステリヌ䜜家。デゞタル遺品、䞍動産、医療事故、法人枅算、戞籍など、珟代瀟䌚の死角に朜む事件を描く。専門職のリアルな裏偎、制床の歪み、技術の盲点、人間の認識のバグをロゞカルに解䜓し、最埌の1ペヌゞで䞖界の芋え方を倉える。代衚䜜に「デゞタル遺品解析士の事件簿」

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