
普段出かけない父が、帰ってこなかった夜
今年、十三回忌を迎える父の話。
父は無口な人間だった。
その遺伝子を完全に受け継ぐ私。
思春期の内向的、自己肯定感の低さ、
どれだけ悩んだことか。
そして、それを全て父のせいにして
少しでも楽になろうとする、
ひどい娘の私。
長年一緒に過ごしていたのに、
語り合った記憶は全くない。
何なら父と二人きりになるのも
イヤだった。
そんな父は生前、夜に食事会や飲み会は全く行かない人だった。
だから、私は幼かったが、
あの日のことはよく覚えている。
出かけない父が、夕方、見知らぬ人の車でどこかへ行った。
母は事情を知っていたが、教えてくれなかった。
幼心に不安が私を襲った。
母が行き先を知っていても、
父が苦手でも、怖かった。
どうしよう、
父が帰ってこなかったら。
布団に入った時も、
父はまだ帰ってこなくて、
ドキドキしていた。
私の不安をよそに、翌朝起きてみると、父は帰ってきていた。
やっと、安心できた。
その後、少し大きくなって、
あの日のことを母に聞いたことがある。
母は、意外とすんなり教えてくれた。
エーーーーーーーーーーッッ
カツラ⁉️
そう、父はカツラ装着者。
30代の頃から若ハゲに悩まされ、
カツラをつけていた。
よって、その日は
カツラの作り替えだったらしい。
だったら、言えよ〜
正直な感想。
そこまでしても隠したい。
隠さなくても知ってる、カツラ。
恥ずかしがり屋の父だ。
その恥ずかしがり屋は、
若い頃作ったカツラが、
年齢相応でなくても被り続けていた。
あの人は、棺桶に入る時も
カツラを被るのだろうか?
変な不安が私をよぎる。
実際、
その不安はありがたいことに解消され、
父が亡くなる数年前から
とうとうカツラを諦め、
帽子をかぶってくれた。
それでもやはり、
人前で地肌を見せることはしなかった。
恥ずかしがり屋もここまで来れば、
立派なもの。
忘れもしない、父が亡くなった日。
施設から葬儀場に向かう車に、
私と父、後部座席で
生前は苦手だった二人きりになった。
でも、心は穏やかだった。
多分、魂抜けて時間も経ってない。
父、いるんでしょ、近くに。
感覚を研ぎ澄ましながら
父の気配を感じ(実際は感じていない、霊感ゼロだから)、
もう動かなくなった身体に触れた。
普段触れることは禁じ手の
おでこ、そして地肌の頭。
今、触っておかないと後悔する。
二度とできない。
触りながら、お疲れ様でした。
心で父に言った。
父が亡くなってからも、
私の性格は、
そんなに簡単に変わるものではない。
それでも、
父を責めることは、
自分を責めているようで、
今はもう、できない。