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Photo bysabiki_ao96

【連載小説|ホラー】第五話:No Control―投棄拒否―/構築済み:ドキュメント・零



    佐伯は狂ったようにデリートキーを連打した。
    指先が痛むほど叩きつけているのに、画面上の高原のクリップは一ミリも動かない。それどころか、編集ソフトのタイムラインには無情なダイアログが躍った。



    [ Error: Required Object Cannot Be Deleted ]
    (エラー:必須オブジェクトは削除できません)




    「ふざけるな! 高原は人間だ、オブジェクトなんかじゃない!」

    叫ぶ佐伯の目の前で、高原の肉体はさらに崩壊を速めていた。

    彼の胸から腹にかけて、古いデジタル放送のようなブロックノイズが激しく走り、背景の壁紙の模様が、彼の皮膚の上にじわりと『上書き』されていく。
    実在する人間が、背景という名のテクスチャに食いつぶされていく光景。

    高原は、もはや自分の腕がないことにすら気づいていないようだった。
    彼は残った左手で、自身のウェブカメラを掴み、レンズを喉元に押し当てるようにして、最後の手がかりを絞り出した。

    「佐伯……聞け。零ゼロは、プログラムじゃない。……あいつは、『かつて、俺たちと同じ側にいた人間』だ」

    ノイズの隙間から漏れる、ひどく掠れた声。
    高原の瞳が、一度だけ、あの団地の素材に映っていた『目』と同じように、不自然なタイミングで瞬いた。

    「……あいつは、最初に『編集』されたんだ。現実を、自分の都合のいいように書き換える力に魅入られて……自分の『実在』を、サーバーの底に売り払った。……零は、『名前を奪われた最初の犠牲者』なんだよ……!」

    直後、高原の背後の空間が、バグのように激しく反転した。

    彼の部屋にあった本棚も、モニターも、散乱したコードも。
    それらすべてが、一瞬にして『何もない、灰色のワイヤーフレーム』へと先祖返りし、高原の絶叫すらも、0と1のデジタル符号へと分解パースされていく。

    「高原ーーっ!」

    佐伯の叫びに呼応するように、画面の中央に進捗バーが現れた。



    [ Rendering: 100% Completed ]
    [ Object 'TAKAHARA_N' Status: Integrated ]
    (オブジェクト『高原』:統合完了)




    静寂が訪れた。
    編集画面には、もう高原の姿はない。
    そこには、最初から誰も住んでいなかったかのように、完璧に『ノイズ除去』された、空っぽの部屋の静止画が映っているだけだった。

    ――カシャリ。


    静まり返った部屋に、またあの音が響く。
    玄関の三和土に、二つ目の『黒い箱』が投げ込まれた音だ。

    佐伯が震える足でそれを取りに行くと、中には高原が肌身離さず持っていたはずの、指紋の付いたUSBメモリが、まるで遺骨のように収められていた。


    第六話へ続く


     
     
     
    AIのGeminiと会話しながら、ミステリー・ホラーの物語を執筆しています。 最近はショートショートやAIイラストも有り。 上記の2ジャンルと猫をこよなく愛する。 ※Amazonアソシエイト参加中です。

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