
宝条潤と九条蓮 推理の交錯―音楽家たちの連続殺人―:スピンオフ【刑事たちによる『天才』観測】
※このお話は、ひらっちさんとのコラボ作品【宝条潤と九条蓮 推理の交錯―音楽家たちの連続殺人―】の数日後という時系列になっています。
尚、会話中心のお話のため、セリフ前に登場人物の名前を記載しています。
五味
「すんません、戻りました」
五味が捜査一課のドアを開ける。
残っていた柴田たちが「おかえり」「おかえりなさい」と声を掛けた。
柴田
「おう、五味。九条にまた協力してくれって言ったか?」
五味
「言いましたよ、ソッコーで拒否られましたけど」
瀬尾
「だろうなあ…あれから今日まで閉め出し食らってたんだろ」
五味
「電話も出てもらえませんでしたからねえ、他人の声が不快だとかなんとかで」
五味は苦笑いを浮かべながら、途中で購入した缶コーヒーのプルタブを開ける。
「あいつらしいな」と柴田がどこか嬉しそうに笑い声を上げた。
五味
「そういえば、神谷管理官はいないんですか?」
柴田
「多分、また先生んとこじゃねえかな。急ぎか?」
五味
「いや、そうじゃないです。九条先生から宝条先生に預かりモンがあるってだけなんで」
瀬尾
「えっ、あの九条さんから?」
瀬尾が驚いて目を丸くする。それには柴田も意外そうに唸った。
柴田
「あいつが誰かにプレゼントか…全然想像つかねえ」
瀬尾
「そもそも、他人からのプレゼントを受け取るのも意外ですけどね」
五味
「それだけ、宝条先生と仲良くなったってことじゃないですか?捜査中は息ぴったりだったし」
潤と九条が顔を突き合わせて推理する様子を間近で眺めていた五味は、腕を組みながらその光景を思い出す。
三人の会話を聞いていた松岡たちが、興味津々な様子で会話に交じってきた。
松岡
「宝条先生と九条先生って、あれが初対面なんですよね」
柴田
「ああ、協力どころか顔を合わせたのも今回が初だな」
奈良
「でも、なんかいい友達ってかライバルって感じでしたよね!名前もちょっと似てるし」
三浦
「名前が似てるのは単なる偶然だ。それにライバルってのもちょっと違うだろ」
微妙にずれたポイントを引き出してきた奈良に、三浦が呆れたようなツッコミを入れる。
瀬尾
「見てる方はちょっと気が気じゃなかったですけどね…九条さんの冷たさがますます尋常じゃなくなってたし」
柴田
「先生が大人の対応したんだろうよ。五味みたいに慣れてるヤツ以外であそこまでついていけんのは先生くらいだな」
奈良
「僕はもうちょっとしゃべってみたかったですけどね、怖いけど!」
五味
「絶対やめとけ、お前じゃ相性が悪すぎる」
三浦より先に、五味が肩を竦めて首を横に振った。
「なんでですか!?」と即座に奈良は抗議したが、周囲は五味に完全同意らしく繰り返し頷いている。
常に前向きな思考をしている彼であっても、あの九条の鋭利な物言いを真正面から食らえば、ノーダメージとはいかないはずだ。
それに大前提として、奈良と九条の会話が致命的なほどに噛み合わない予感しかしない。
松岡
「しかし、噂に聞いていた以上の潔癖さんでしたねえ。現役時代からあんな感じだったんですか?」
柴田
「いや…ありゃ現役ん時よりもパワーアップしてやがったな。潔癖症も、ドライなとこも」
瀬尾
「それでいて見た目は全然変わってないんだから、こっちの脳がバグってんじゃないかって錯覚するわ。同い年とは思えん」
三浦
「誰と同い年なんですか?」
瀬尾
「え、俺だけど」
瀬尾が当たり前のように返事をすると、奈良や三浦、松岡もぴたりと動きを止めた。
奈良
「……九条先生って、そんなに年上だったんですか?」
柴田
「おいおい、今更何言ってんだ。五味の先輩なんだから、瀬尾と同い年でもおかしくねえだろ」
松岡
「いや、言われればそうなんですけど…九条先生って『年齢不詳』がぴったりっていうか…」
奈良
「正体がロボットやAIって言われても信じます!」
三浦
「それは流石に盛りすぎだろ、ていうかそんな話信じるのはお前だけだ」
五味
「ま、言いたいことはなんとなくわかるけどな」
五味はけらけらと笑い、缶コーヒーを煽って飲み干した。ぐいと唇を拭う。
三浦
「同い年ってことは、一緒の現場になったこともあるんですか?」
瀬尾
「何回か、くらいだけどな。あの人、いろんな現場にひっぱりだこでしょっちゅう呼び出されてたから、そこまでしゃべったこともないし」
柴田
「大体のヤツはそうだったんじゃねえか?俺だって、そこまで一緒にやってた訳じゃねえしよ」
五味
「馴れ合いとか和気藹々とか、社交辞令でも人付き合い嫌いな人ですから」
瀬尾
「あ、でも九条さんが俺の曲がってたネクタイ直してくれたことあったかな」
奈良
「へえ、意外と優しいとこもあるんですね!」
瀬尾
「ピンセットで、だけど」
三浦
「それ聞くと急に優しくない!」
柴田
「あー、それ俺もやられたことあるぞ。俺の場合スーツの襟だったけどな」
松岡
「上司にまで容赦なしですか」
瀬尾
「……宝条先生までやられてたってことはないよな?」
五味
「他の人と違ってネクタイ曲がってるとかないと思うんで大丈夫じゃないっすかね」
松岡
「それなら、五味さんは毎回ネクタイ直されてるんでは?」
年下から割と失礼な言葉が飛んできたが、五味は気にすることもなく軽くネクタイを締め直した。それでも僅かに斜めになっているが。
五味
「先生のとこに行くときは対策してるから大丈夫だ」
奈良
「対策って?」
五味
「ネクタイを外す」
三浦
「対策じゃなくてただの怠惰じゃないですか」
五味
「立派な予防策だ、先生の機嫌損ねるよりよっぽどマシだろ」
口々にツッコミが入るものの、当然の如くといった表情で五味が言う。
柴田
「そういや、先生が九条ん家に行ったとか聞いたんだけど、マジか?」
五味
「マジですよ、捜査報告っていう体で」
瀬尾
「すげえな…さすが宝条先生、人心掌握に長けてる」
奈良
「お二人は行ったことないんですか?」
柴田
「ある訳ねえだろ、多分無理やり押しかけたところで門前払いされるだけだな」
松岡
「入るのに洗浄の儀式とか施されそうですね」
三浦
「いや、潔癖症だからってさすがにそれはないんじゃ…」
五味
「除染スプレーのシャワー浴びないと入れねえぞ」
三浦
「そこもマジなんですか!?」
奈良
「じゃあそれやったら僕らも入れますかね!?」
五味
「やめろって、『不快なノイズは俺一人で十分だ』とか言って叩き出されんのがオチだ」
九条の口調の真似をした五味を見て、柴田と瀬尾が楽しそうに笑った。
柴田
「さすが、九条の扱いには慣れてんな」
瀬尾
「宝条先生にはハルちゃん、九条さんには五味くん、ですね」
五味
「そこ、多分同列じゃないです。あと扱いとか言ったら俺が怒られるんでやめてください」
柴田
「怒られついでにもう一回行ってこい、次の協力要請取り付けに」
五味
「俺の労力なんだと思ってます!?」
五味の必死な様子に、後輩たちも思わず吹き出してしまう。
凄惨な事件の後の捜査一課には、しばらくの間平和な笑い声が満ちていたのだった。
刑事たちによる『天才』観測――了
こちらのお話は、本編を書きながら途中で思いついた会話劇でした。
刑事さんたちの出番をもう少し増やせたらな~、と思い立ったのがきっかけです。
本編がだいぶ重い内容だったので、コメディチックにしてみました。
ちなみに宝条シリーズの奈良くんが「名前が似ている」と発言していますが、実はこれはコラボするってなった時に実際にジミさん(Gemini)に「名前からしてライバルのような存在ですね!」と言われたのが元だったりします。
せっかくなので引用しました(笑)
スピンオフも楽しんでいただけたでしょうか。
ここまでご覧いただきまして、ありがとうございました。