メインコンテンツへスキップ
見出し画像

新橋駅から徒歩12秒の建物に住めるらしい

    薫 サバータイス

    ■あなたはどこを見る?


    あなたは、まずどこを見るだろうか? デザイン? スペック? それとも金額?

    メーカーから発売される新しいノートパソコンの話ではない。賃貸住宅の話だ。

    あなたは引っ越そうと決めた。どんな物件に住みたいだろうか? 新しい住まいを選ぶ際、「これはゆずれない」という条件があると思う。

    • 新築

    • オートロック

    • フロ・トイレ別

    • 駅近

    • 家賃は〇万円まで

    などなど。特にはじめての一人暮らしであれば、たくさん条件をつけているはず。

    しかし、不動産屋で確実にこう言われる。

    画像
    不動産屋さん

    「そんな好物件はありません。あったら私が住みたいですよ」

    私が東京で1番最初に住んだ物件は、駅から徒歩14分だった。不動産広告の基準によると、徒歩1分は道路距離で80m。徒歩14分だと1120mになる。つまり、あのアパートは駅から1.1km以上離れていたわけだ。

    遠すぎる
    。

    そのアパートは同じ敷地内に大家さんも住んでいるという、アットホームな物件。家賃を払いに行くたびに、両手にあまるくらいお菓子をもらった。

    そんなほっこりエピソードはあったものの、約1.1kmの道のりには閉口させられた。仕事でやらかしてしまい、涙で前が見えないときは特に。

    画像
    「やらかしちまった……」

    あれから数度、引っ越した。少しずつ広い部屋にはなったが、駅からの距離は似たりよったり。駅近に住むのはムリか……そう思っていた私の耳に、信じがたい情報が飛びこんできたのは、つい半月ほど前。

    あの「ニュー新橋ビル」に住める、という。聞いた瞬間、こう思った。

    「ニュー新橋ビル」って、新橋駅の近くでしょ。あんな駅近に住んだら、めちゃくちゃ通勤が楽じゃん。ターミナル駅だからお出かけするにも超便利。だけど、カプセルホテルみたいな部屋じゃないの? 広さが1畳しかないとか。

    これは自分の目で確かめねばなるまい。

    ■ニュー新橋ビルはビビるほど駅近だった

    画像
    新橋駅の日比谷口から見たニュー新橋ビル

    そもそも「ニュー新橋ビル」をご存じない方のために、少し説明させてもらう。

    ニュー新橋ビルは、オフィスや遊戯場、70軒以上の飲食店など、合計約400のテナントをかかえる大型雑居ビル。Wikipediaによると、ビルの竣工は1971年だから、築年数はかなり古い。そのせいか、港区最後のディープスポットと呼ぶ人もいる。

    場所は新橋駅の目の前。新橋駅は、1日の乗車人員数がJRだけで約16万7000人(2021年のデータ)いると言われる巨大駅。乗り入れている路線数も半端なく多い。

    ♦JR

    • 京浜東北・根岸線

    • 山手線

    • 東海道本線

    • 横須賀線

    ♦地下鉄

    • 都営浅草線

    • 東京メトロ銀座線

    ♦私鉄

    • ゆりかもめ

    と7本もの路線が交わっている。7本。そのうち衝突するぞ。

    画像
    新橋駅の日比谷口

    そんな"巨大"新橋駅前に立地し、70店舗以上の飲食店があるとなると、もう利用するなという方がムリ。

    仕事終わりに、SL広場で待ち合わせて、そのままニュー新橋ビルへ吸いこまれるサラリーマンも多い。

    え? 「SL広場」もご存じない? では、こちらも軽く説明させていただく。

    NHKのニュース番組などで、サラリーマンがインタビューされている映像を目にすることがあると思う。

    このとき、背景に注目してほしい。

    画像
    「コロナ・ワクチンですか? もちろん打ちました。次の日に高熱が出ましてね。ハッハッハ」

    後ろに真っ黒い物体が映っていないだろうか。なんていうか、機関車トーマスっぽいやつ。

    もし映っていれば、新橋駅前のSL広場でほぼ間違いない。ちなみにその黒い物体は、トーマスでも、おっちょこちょいのパーシーでもない。本物の蒸気機関車(Steam Locomotive)だ。

    画像
    SL広場にある蒸気機関車
    画像
    位置関係(写真右に蒸気機関車が見える)

    そんなSL広場の真横に、ニュー新橋ビルは建っているというわけ。

    本筋に戻ろう。ニュー新橋ビルは、どのくらい駅近なのか? ビルと新橋駅の間にあるのは、下の地図からもわかるとおり、小道のみ。一番短いところは、黒太線部分と思われる。

    画像
    ニュー新橋ビルと新橋駅の間にあるのは小道のみ(GoogleMapより)

    アプリで距離を測ってみた(黒太線の新橋駅側は「烏森口」)

    画像
    烏森口からだと、たった15.7m

    なんと15.7m。

    「80m進むのに、徒歩1分かかる」と比例すると考えれば、「15.7m進むのには、徒歩11.775秒かかる」。つまり、約12秒だ。

    駅を出た瞬間に家じゃん。こんなところに、本当に住めるの?

    ■いざビル内へ突撃!

    画像
    正面入口
    画像
    1階通路

    まずはビルの全体像をつかもうと、エレベーターに乗ったところ……

    画像
    「住宅 Residences」の表記

    さっそくこんな表記を発見。噂はマジだった! 住居用物件、あるんだ!

    期待に心臓をバクバクさせつつ、ビル内を歩く私に目に「不動産」の文字。

    画像
    不動産(株)三立エースさん

    ニュー新橋ビルの不動産屋さんなら、きっと同ビル内の物件もとりあつかっているに違いない。ていうか、そうであってくれ。

    祈るような気持ちで「三立エース」なる不動産屋さんへ行く。

    画像
    おそるおそるうかがうと……

    「あるよ、住居用」

    「マジっすか!」

    「内見の予約が2件、もう入ってるけど」

    「ぼくも内見させてください! 住むかどうかはわからないですけど、後学のためというか、過去の清算というか……」

    「いいよ」

    というわけで、ご厚意で内見させていただけることになった! 住居用があるのはビルの10・11階らしい。だが残念ながら住居用は撮影NG。同階の事務所用ならOKとのこと。

    雰囲気はほぼ同じみたいなので、担当の人と10階へ上がる。

    画像
    廊下

    むむ! 通路を通っていると、なんか違和感。ドアが……

    画像
    玄関のドア

    低くない? 身長162cmの私が手を伸ばしてこのくらい。ひょっとすると、ドアの高さは180cmないかもしれない。ちなみに一般的な住宅用ドアの高さは200cm。

    さすがディープスポット。

    いやがおうにも高まる緊張感。ドキドキしつつ、部屋の中へ。

    一気に開放的な空間が広がった! かつ、SL広場を見下ろせるという、新橋のベストポジション!!!

    気になっていた天井の高さは、まったくもって普通だった。茶室のにじりぐちみたいに、あえて入口を低くし、中へ入ったときの非日常感を演出したのか?

    そんな勘ぐりすらさせるニュー新橋ビル。おそるべし。

    窓の外を見ると……

    画像
    虎ノ門ヒルズ
    画像
    東京タワーも

    この部屋は北に面した物件。東側に面した別物件なら、ほぼ真上から新橋駅を見下ろせるだろう。どの部屋にしろ、10・11階からの眺めはかなり良さそうだ。

    ちなみにこの事務所用物件、住居用としても利用可らしい。

    画像
    キラリ

    す、住みたい……

    難点があるとすれば、基本的に事務所用なのでトイレはあるが、フロ・シャワーがない点(自分で設置するのは可)。それから、家賃。ある意味、これが一番重視するポイントだ。

    月、おいくら万円でしょうか?

    _人人人人人人人人人_
    > 月28万4078円 < 
     ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

    ※53.83平米
    ※管理費・税込

    うーん。

    事務所物件としては確かに安いのだが、住宅として考えると……

    内見予約が入っていると言われた、別物件(同じくニュー新橋ビル10階、事務所・住宅用、シャワー付き、約30平米)の家賃なら、管理費込で約20万円とのこと。

    うお! そっちならアレとアレとアレとアレとアレを我慢すれば、住めないこともない。でもアレを我慢するとなると、エアコンなしで夏を乗り切らねばならないような……

    混乱してきた。本当に住む価値があるか、整理しよう。

    ■ニュー新橋ビルに住むメリットをあげる

    画像
    烏森口から見たニュー新橋ビル

    【その1】伝説のディープスポットに住める

    ニュー新橋ビルの「ヤバさ」にかんしては、いくつものメディアにあまたの記事が載っている。が、あらためて言いたい。何度でも言いたい。

    このビルはヤバい!

    まず地下1階・地上1階のフロアマップを見てほしい。

    画像
    地下1階マップ
    画像
    地上1階マップ

    実際の写真がこちら。

    画像
    地下1階写真
    画像
    地上1階写真

    店のひしめき具合は、フロアマップからわかると思う。小規模店がところせましと並んで、祭りの屋台みたい。

    しかも、上の写真は真っ昼間の時間帯。にもかかわらず、開いている居酒屋がたくさんあり、客もまあまあ入っている。2階に軒をつらねるマッサージ店のカオスさも合わせると、まるで九龍城みたいじゃないか。

    画像
    2階にズラリと並ぶマッサージ店

    これ、都心ですよ。歩いて15分の距離に、シャネルやヴィトンなどの超ハイブランドが店をかまえる銀座並木通りがあるんですよ。

    こんなディープスポット・ビルの上層階に住めるのだ。一生のネタになることは間違いない。

    画像
    ビル正面を見上げる

    【その2】ビル内で(ほぼ)完結する


    一歩足を踏み入れたら、まず飲食店の多さにめまいがするはず。ざっと数えてみたところ、飲食店だけでなんと70店以上もあった! 昼食・夕食で、毎日1店舗ずつ回っても1ヶ月もつ。

    しかも駅前の激戦区でもまれているだけあって、どの店もちゃんとおいしい。私は以下の3店舗で食事したが、3店舗とも個人的な「当たり食堂」のフォルダに入れさせていただいた。

    画像
    「豚大学」の豚丼(中)
    画像
    「いっぺこっぺ」(カレー)
    画像
    「むさしや」(食べログ百名店2020、2022の洋食屋)

    「食」だけではない。万が一、病気になっても、このビルの住人なら安心だ。なんせ中に病院がある。1院ではない。7、8院ほど入っている。

    画像
    3階マップ

    歯科・内科・皮膚科・形成外科など、普段お世話になりがちな病院だけでなく、現時点(2022年10月)ではPCR検査もできる。

    しかし、あなたはこう言うかもしれない。

    「心のモヤモヤは、現代医学では治せねーよ!」

    そんな人のためには、占いの部屋もある。

    画像
    1階の占いエリア
    画像
    料金表

    私も鑑定してもらった。

    画像
    ちゃんと個室っぽくしてくれる

    占い師さん「なにについて聞きたいですか?」

    薫「ぼくが金持ちになれるか知りたいです」

    画像
    占い師さんがカードを切り始める

    占い師さん「ストップと言ってください」

    薫「ストォォォォップ!」

    画像
    タロットカードと似ているが、別物らしい

    占い師さん「うーん。収穫のカードがありますね。これはお金が入ってくることを示しています。でも、ムダづかいのカードも出てますから、注意してください。これからの2、3年をがんばれば、金持ちになれます」

    薫「……」

    なんだか気持ちが軽くなった気がする。

    ※念のため言っておきますが、症状を感じたときは必ず専門の病院へ行きましょう。現代医学が最優先です。

    【その3】目の前にSL広場がある

    画像
    SL広場

    毎週土曜にビルのSL広場側で、将棋大会が行われているのを目にした人は多いと思う。将棋好きなら、たまらない環境だろう。

    画像
    和気あいあいと楽しまれている

    最近だと、『新橋SL広場 鉄道フェスタ~鉄道開通150年~』が開催されていた(2022年10月15日)。

    画像
    「新橋SL広場 鉄道フェスタ」
    画像
    JR職員さんの制服を間近で見られる

    大勢の鉄道ファンでごった返す中、特にシンカリオンE5はやぶさ&E6こまちのステージでは、大勢の子供たちが歓声があげていた。

    画像
    シンカリオンE5はやぶさ&E6こまち

    自分の住むビルの真ん前で、こんな楽しいイベントが行われる。都心に住む醍醐味を存分に味わえるに違いない。

    メリットはほかにも、警備員さんが24時間いてくれる、地下駐車場があるなどたくさんあるが、私はフェアでありたいので、次はデメリットを考えてみる。

    ■ニュー新橋ビルに住むデメリットもあげる

    【その1】閑静な住宅街にはほど遠い

    住居用物件のある10階・11階にいた間、騒々しいとはまったく思わなかった。フロアの廊下など、しんとしすぎていて逆に不気味なくらい。しかし窓を開ければ、音は入ってくる。

    画像
    夜の新橋駅前

    そもそもニュー新橋ビルは、歓楽街のまっただ中にあると言っていい。最近は、朝までやっている飲食店も多いだろう。

    テラスにおいたテーブルで、落ち着いて紅茶を飲むような休日を過ごしたい人は、別の物件を選んだ方がいい。

    【その2】ビルから一歩も外へ出なくなるおそれがある

    メリットその2「ビル内で(ほぼ)完結する」の裏返しとも言えるが、あまりにビル内が充実しているため、外へ出る必要がない。

    画像
    ゲームセンター「ダイアナ」

    娯楽場だけでなく、人間が生存するのに必要な衣食住がそろっている。具体例をあげよう。

    • 衣……「洋服の青山」あり

    • 食……いわずもがな

    • 住……居住スペースあり

    ほら。そろってる。

    画像
    「洋服の青山」

    現金がなくなれば、ATMがあるし、地下に郵便局もある。古き良き純喫茶でまったりもできるし、地下1階には居酒屋がズラリ。体をほぐしたければマッサージ店もある。こういうの、なんていうんだっけ?

    えーと、天国?

    デメリットとしてあげたつもりだったが、自宅で仕事する働き方が広まった今、むしろ堂々とメリットと言っていいかもしれない。

    画像
    純喫茶「フジ」の店頭

    ちなみに、ビルから外へ出ないのであれば、駅近の意味がなくなると考える読者の方もいるかもしれない。

    しかし駅近だからこそ、これだけの種類のお店がそろっているとも言えるので、やはり新橋駅徒歩12秒の効果は絶大だ。

    画像
    雀荘も

    かつて最先端だったはずなのに、いつのまにか「おやじビル」と呼ばれ出したニュー新橋ビル。

    再び時代に追いついたのかも。

    ■結論らしきもの

    画像
    正式には、建て替えはまだ本決まりではなく「検討段階」とのこと

    ニュースにもなったが、ニュー新橋ビルは、「新橋駅西口地区市街地再開発事業検討区域」に入っており、建て替えが検討されている。

    三立エースの人いわく、解体は早くても2028年。遅れる可能性も十分あるらしい。とはいえ、6年後か10年後か、はたまた20年後かに解体されるのは間違いないようだ。

    それは確かにデメリットかもしれない。しかし。

    もしニュー新橋ビルに住むなら、解体までの一部始終を目撃できる。つまり、歴史的建造物の終焉を見届けることができる。

    ということは……

    画像
    廃校が決まっている小学校の、最後の卒業生
    画像
    沈むタイタニック号を、救命ボートから見守る乗客たち

    彼らに似た気持ちを味わえるのだ。

    たぶん。

    これは素晴らしいことではないだろうか?

    「じゃあ、おまえは住むんだろうな」って?

    家賃があと10万円安かったら……


    あなたへのおすすめ