
金糸梅が枯れたのは12
ふふ、おいしかったねーと笑う先輩が隣を歩いている。なんだこの多幸感は。
ふたりでバスに乗り込む。
「今度はお寿司食べに行こうね」
「寿司っていうか先輩はサーモン食べに行くんですよね」
「寿司がどんなに好きでも、回転寿司のお店で働くと寿司が無理になるらしいよ」
「先輩も無理になるんですか?」
「無理になりたくないから絶対寿司屋では働かない」
「でも賄いでサーモン出てくるかも」
「それはもうだったら不自由なくサーモンを食べられるくらい稼ぐよ」
「たしかに、頭いい」
「里玖ちゃんはなに食べるの?」
「ポテトっすね」
「おいしいよねポテト、ああいうのはサイドメニューがいっちゃんおいしい」
「無類のサーモン好きなのに?」
「それとこれでは話が違う」
お互いを見合って笑う。身振り手振りとまではいかないけど、手を振り回して話す先輩がかわいい。これは盛ってない。
「渚とどんな話するんですか?」
「相談乗ってるよ」
「先輩の話はしないんですか?」
「しないよ、聞かれてないし」
「聞かれたら、今日のこと言いますか?」
「⋯⋯言ってほしい?」
あ、まずいかも、こっちを見つめる顔面が強すぎて。
「えなんで黙るのっ」
「すんません」
「いいよー」
先輩は目線をもとに戻して、窓の外を眺めていた。その横顔がたまらなく愛おしい。
バスを降りた。
「次はお寿司ね」
「冬は忙しいですかね」
「んーどうだろ、里玖ちゃんは忙しいでしょ」
「まあ。先輩のほうが忙しいんじゃないですか?」
「じゃあお互い落ち着いてからになるね」
先輩はなかなか歩き出そうとしない。
「先輩?」
「ねー里玖ちゃん」
「なんですか」
「感性が似てるなーって思う人に勧められた本が案の定面白かったり」
先輩の人差し指が私の指先に触れて絡まる。
「美味しいお店を見つけるのが上手な人とご飯に行ったり」
触れる指が一本から二本、二本から三本になる。
「好きな言葉を使ってる人に、意味もなく散歩に行こうって言われたり」
先輩はふたりの指を見ている。
「そういうの、あるじゃん。そういうときになんかこう、どきどきするやつ。心臓動かしてくれるやつ」
気付けば先輩の両手がわたしの指先を包んでいた。
「そういう感じ」
「⋯⋯どういうことですか」
やっと顔をあげて、先輩は困ったように笑った。ひと息ついて、だから、
「里玖ちゃんのことが好きってこと」
「わたしと付き合って」