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【妄想ストーリー】 #72 WEEKENDER

吉井和哉の楽曲『WEEKENDER』の歌詞背景を独自の世界観と言葉で物語にした作品です。


いつからこの街に囚われているのか分からない。
錆びついたトタン屋根の隙間から、濁った黄昏の光が這い入るだけの狭いワンルーム。
鉄粉とアスファルトの澱んだ匂いが染みついたベッドから、俺は這い出るように身体を起こした。

いつもと同じ、無機質な壁の角に足の小指を激しくぶつける。
鈍い痛みが、ここが夢の中ではなく、逃げ場のない現実であるということを否応なく突きつける。

窓の外に広がるのは、煤煙と酸性の雨に洗われ、かつての色彩を完全に剥ぎ取られた巨大なコンクリートの巣窟だった。

管理社会の歯車の一つとして血肉をすり減らし、働いて、夜中になって帰る頃には、空も世界も泥のような闇に溶けている。
錆びたレールの上を這うような毎日に、次の休みは、この街抜け出して、せめて人工の空の届かない場所へ消えてしまいたいという渇きだけが、乾いた心に残る唯一の熱だった。

この終末めいたディストピアの街にも、かろうじて季節の残骸は存在している。

朝からいいお天気で、今年一番の熱さになるそうで…

不気味にジリジリと肌を焦がすような陽炎の中、花が咲く、蝉がなく、雨が降る、すぐに止むといった不条理な気象の営みが、干からびたアスファルトの上で機械的に繰り返される。
命の尊さなどとうの昔に忘れ去られたこの街で、それでも俺たちは、ただ生体維持のために息を吐き続けている。

煤けたパーカーのフードを深く被り、使い古したポータブルプレーヤーのイヤホンを耳に突っ込む。
街の澱んだ空気を切り裂くように、ボリュームを上げたヘッドホンから好きな歌を口ずさむ。

「よく遊ぶ、よく笑う、よく食べる、よく踊る。We're Reborn On Weekends」

そうだ…俺たちはこの終わりの見えた世界で、週末の夜にだけ、かろうじて仮初めの生を許されている。
管理された日常の隙間、すべてが虚無の底に呑まれるその直前に、狂ったように熱を帯びる回路。

「どこへでも、どこまでも。I'm So Very Excited」

その激しい胸の高鳴りだけが、機械仕掛けの心臓を無理やり動かす唯一の燃料だった。

ガレキの積み重なる裏路地を歩きながら、ふと、やり場のない苛立ちと焦燥が胸を突く。
綺麗事ばかりの真っ直ぐな道なんて、この世界には最初から存在しなかった。
幾度となく裏切られ、傷つき、泥をすすってここまで来た。

かつて夢見た理想の自分とは似ても似つかない今の姿に苦笑しながらも、「遠回りしても、良かったと言える大人になりたい」と、千切れかけた夢の端っこを強く握りしめる。

この荒涼とした世界で、それでも誰かを求め、何かを愛し、怯え、「夢がある、闇もある、愛がある、嘘じゃなく」と叫び続ける。

「生きている音がする」

耳元で鳴るノイズ混ざりのリズムと、胸の奥で燻る微かな痛みが重なり合う。
崩壊しかけた世界であっても、週末という名の魔術がすべてを鮮やかに洗い流していく。

「さりげなく強くなる、何もかもうまくいく」

そんな幻覚のような全能感に酔いしれながら、俺は錆びた鉄塔の影へと歩みを進める。

後ろを振り返れば、そこにあるのは血と涙と埃にまみれた足跡だけだ。
それでもいい。
その不格好な足跡こそが、俺がこの闇の中で、確かに生きて、この街を脱ぎ捨てたという唯一の証なのだから。


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