メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

川の街リュオヌレの物語⑀ 第話 老朚

    窓の隙間から、朝の颚が入っおきた。
    土ず新緑の銙りが、少し濃くなった気がする。

    あそこぞ、行こうず思った。

    ハルナギは寝具の䞭で䞀床䌞びをしお
    身䜓を起こした。
    今日も倩気がよさそうだ。

    地面のぬかるみは倧分ず也いおいた。
    家の裏手の湧き氎も、い぀もの流れに戻っおいる。

    氎を汲み、台所のかたどで火を起こす。
    お茶の葉が入った円い筒を手に取り、少し考えお棚に戻した。

    窓際に吊っおある也燥した葉っぱを数枚ちぎり、ポットに入れる。

    今朝は、こちらにしよう。

    沞かした湯を泚ぐず、ほどなくしお、
    控えめで枅々しい銙りが立ち䞊っおきた。

    ハルナギは、お茶を茶碗ではなく氎筒に入れた。
    パンず赀い果実を包み、背負い袋を持぀。

    靎底を軜くぬぐい、ブヌツを履いお戞を開けた。

    䞘の小道をしばらく䞋るず、やや倪い道に行き圓たる。
    リュオヌレず西の山々を぀なぐ街道だ。
    ハルナギは、街ず反察の方向に歩き始めた。

    街道ずいっおも倧きな道ではない。

    今朝も、䞀台通っおいったようだ。
    ただ新しい蜍が残っおいる。
    山の産物を垂堎に運ぶのだろう。

    ずころどころに残る氎たたりを避けながら、
    朚挏れ日の道を緩やかに䞊っおいく。

    雚の埌、草や朚は䞀斉に枝葉を䌞ばしおいた。
    道端に咲く花も色合いを増しおいる。

    街道に沿っお小さな流れが続いおいる。
    䞘に䜏む子どもたちが沢遊びをする姿は、ただ芋られない。

    街䞭ずは違う鳥の声が、聞こえおきた。

    街の鳥が矀れで歌い合うのに察し、
    山の鳥は䞀矜で遠くぞ届けるように鳎いおいる気がする。
    ハルナギは、その歌が奜きだった。

    小川に䞞倪が本、枡されおいた。
    橋ず呌ぶほどのものでもない。

    ハルナギはそこを枡り、街道から離れた。

    䞀人が通れるほどの现い道が森の䞭に続いおいる。
    萜ち葉に芆われおいるずころも、慣れた様子で歩いおいく。

    すぐ脇の茂みで、䜕かが慌ただしく動いた。
    森の生き物を驚かせおしたったかもしれない。

    䞊りが急になったその先で、芖界が開けた。

    小さな空間がぜっかりずあいおいる。
    ちょっずした広堎のようだ。

    そこに倧きな朚が䞀本、立っおいた。

    ゎツゎツずした幹が地面からたっすぐ䌞び、
    途䞭から枝を瞊暪に広げおいる。

    かなり叀い朚だ。
    倪い幹の半分ほどは苔に芆われ、
    根元には䞀぀、掞が開いおいた。

    䞊の方ではもう枯れおいそうな枝もある。
    それでも、ほかの枝先には緑の若葉が茂っおいた。

    ハルナギは目を閉じ、軜く瀌をしおから歩み寄った。

    この朚のこずは、ただ「老朚」ず呌んでいる。

    昔は、別の呌び名があったず聞く。
    でも、この朚のこずを口にする人は、もうほずんどいない。

    幹にそっず手を觊れた。
    い぀もの挚拶だ。

    也いた朚肌の感觊が䌝わっおきた。

    倧きく匵り出した老朚の根に腰を䞋ろし、
    背負い袋を脇に降ろした。

    氎筒から茶碗にお茶を泚ぐ。
    この山で摘んだ葉だ。

    銙りを吞い蟌み、ただ枩かさが残るお茶を口に含んだ。

    食事を終えるず、
    ハルナギは老朚の呚りをゆっくりず歩いた。

    ここは、森のほかの堎所ず少し違う。

    冬は老朚が葉を萜ずし、日光が降りる。
    春になるず葉が茂り、朚陰が広がる。

    そのせいか、ここでは花の時期が少し遅くなる。

    「あっ」

    ハルナギは腰を䞋ろした。

    指先ほどの倧きさの薄いオレンゞ色の花が咲いおいた。
    カルポックだ。
    呚りではミツバチが小さな矜音を立おおいる。

    ハルナギは茎を぀たみ、そっず花の裏偎を確かめた。

    「よかった。今幎も  」

    街にも山にも咲くこの花には、
    リュオヌレ近郊にだけ残っおいるものがあるずいう。

    花びらではわからない。
    裏偎を芋お、ようやく気づくこずができる。

    文曞通で知っおから、
    芋かけるたびにこの花の裏を芗くようになった。

    街でも、ハルナギが䜏む䞘でも、
    リュオヌレに昔から咲くずいうカルポックは䞀぀も芋぀からなかった。

    「人も、荷も、皮も。
    銬車が、ほかの堎所のものを運んでくるからな」
    橋守の゚ンゟに、そんなこずを蚀われた。

    「裏を芋なきゃわからない違いなんか、誰も気にしないだろう」
    ずも。

    ハルナギがようやくリュオヌレ固有の
    カルポックを芋぀けたのが、この老朚の䞋だった。

    「今幎も、咲いおくれた  」
    ハルナギは、しばしその小さな花を芋぀めた。

    ふず、背䞭のあたりの空気が少し倉わった。

    振り向くず、老朚の根元の掞から
    䜕かが顔を出し、こちらを芋おいた。

    「小さいの、来おたんだ」
    ハルナギの顔がやわらぐ。

    やがお姿を珟したそれは、子犬ほどの倧きさで、
    灰色がかった毛䞊みをしおいた。
    キツネに䌌おいる気もする。けれど、そうずも蚀い切れない。

    そしお、倪い尻尟の先が淡く光を垯びおいた。

    い぀もここにいるわけではない。
    ずきどき、気たぐれのようにハルナギのそばに姿を珟す。
    そしお、い぀の間にかいなくなる。

    鳎き声を聞いたこずはない。

    ハルナギは、この存圚を「小さいの」ず呌んでいた。

    自分よりずっず長い歳月を
    この山で過ごしおいるのかもしれない。

    氎筒に残ったお茶を茶碗に移し、ゆっくりず飲み干した。

    立ち䞊がり、
    老朚ず、小さいのず、カルポックの花を順に芋た。

    颚がそよぎ、あたりを揺らした。

    ハルナギは手を挙げお、来た道に足を向けた。

    画像


    続きを読む



    リュオヌレの物語は、静かに続いおいきたす。
    第話の最埌に、各話ぞの道しるべを眮いおいたす。

    川の街リュオヌレの物語 第話 橋守湖䞊珊歩

    画像

    湖䞊珊歩

     
     
     
    川の街リュオヌレを舞台に、 静かな物語を曞いおいたす。 倧きな出来事や、はっきりずした結論ではなく、 日々の䞭にある小さな揺らぎや、ほどけおいくものを描けたらず思っおいたす。 読んだあずに、䜕かが少しだけ残るような、 そんな物語を目指しおいたす。

    あなたぞのおすすめ