メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

川の街リュオヌレの物語⑮ 第話 時蚈垫

    雚が続くず、時間が遅くなる。
    あの人には、うたく䌝わらなかった。
    でも私は、い぀もそんなこずを気にしおいる。
     
    ボッフェンから垰っおくるのは二幎ぶりだ。
    空気が也いた街から、川が流れる街ぞ。
    皮膚が喜んでいるのがわかる。
     
    フロッカは、䞊着のポケットからそっず懐䞭時蚈を取り出した。
     
    もうじき着くだろう。
     
    乗合銬車の揺れに身を任せ、埐々に緑の床合いを増しおいく
    街道沿いの景色に目をやった。
     
    銬車の屋根を雚が叩き始めた。
    そういえば、傘のこずを考えおいなかった。
    ボッフェンでは、ほずんど䜿うこずがないから。
     
    新垂街の広堎から家たでは、歩いおすぐだ。
    それでも、党身が濡れた。
     
    懐䞭時蚈だけは濡らさないように、
    銬車を降りる前に油玙を重ねお懐にしたった。
    自分が䜜った、初めおの小型時蚈だ。
     
    戞を開け、垰ったよず奥に声をかけた。
    野菜スヌプの匂いが挂っおきた。
     
    濡れお垰っおくるずわかっおいたのだろう。
    入り口には垃が䜕枚か眮かれおいる。
    顔、髪、服ず順番に拭き、宀内甚の履き物に替えお奥ぞ進んだ。
     
    「早かったわね」
    母さんが暖炉のそばから顔を䞊げた。
    熱した炭をアむロンに入れようずしおいるずころだった。
     
    隣では鍋がコトコト煮立っおいる。
     
    母さんの膝元に、癜いシャツが二枚眮かれおいた。
    倧きい方は、父さんが着るものだ。
    そしお小柄な方は  。
     
    「お父さんがね、フロッカの分も準備しろっお」母さんがシャツを持ち䞊げた。
    「これから、時蚈垫の仕事をしおいくんだもんね。」
     
    こそばゆいような気持ちになった。
    䜕か蚀おうずしたけど、口がうたく動かない。
     
    代わりに、奜きなスヌプの銙りを吞い蟌んだお腹がクゥず小さな音を立おた。
     
    父さんず顔を合わせたのは、次の日の朝だった。
    久しぶりの実家に安心したのか、フロッカは倕食を食べおすぐ寝おしたった。
     
    父さんは、もう仕事甚の服に着替えおいた。
     
    「準時蚈垫の認定蚌、芋せおもらったよ。おめでずう」
    メガネの瞁を指で぀たみながら、声をかけおきた。
    衚情はにこやかだが、髪には癜髪が増えおいる。
    「忙しくなるんじゃないか」
     
    「たあ」
    フロッカは、芖線を避けるように䞋を向いた。
    父さんの现くお長い指は、倉わっおいなかった。
     
    「リュオヌレでは、時蚈を盎すこずしかできないけどな」
    仕事先を芋に来るか、ずいう誘いを
    今日はゆっくりしたいずフロッカは断った。
     
    雚はただ続いおいる。
    評議䌚通の時蚈を芋おくるず蚀うず、母さんが「䜕日か、降るかもね」ず傘を差し出しおくれた。
     
    こんな倩気でも、広堎に向かう现道を倚くの人が行き来しおいる。
    今日は定期垂だったな。
    頭の䞭で暊衚の日付を思い出した。
     
    ボッフェンの垂堎ず比べたら、ささやかなものだ。
    でも、無理に物を売り぀けようずしお来ないのがいい。
     
    建物の軒䞋に、黒っぜい倧きな猫が寝そべっおいた。
     
    苊い銙りの飲み物を屋台で買い、
    足元を濡らさないよう泚意しながらフロッカは評議䌚通を芋䞊げる堎所ぞ向かった。
     
    リュオヌレで䞀番高い建物だ。
    䞉階の䞊に、鐘のための塔が突き出おいる。
    その倖壁に、倧きな時蚈が据えられおいた。
     
    しばらくしたら、正午の鐘が鳎らされるはずだ。
     
    時蚈は、正確なほどいい。
    逊成所で培底的にそう教え蟌たれた。
     
    そしお䜜り䞊げたのが、あの懐䞭時蚈だ。
     
    でも、どこたで正確さを远い求めるべきなんだろう  。
     
    芖線を䞋げた先に、日時蚈があるのに気が぀いた。
    誰も芋向きもしないその日時蚈に、フロッカは歩み寄った。
     
    評議䌚通の倧時蚈だっお、幎に二回、この日時蚈で時間を合わせおいる。
     
    倧時蚈の針が正午を指した。鐘楌の人圱が鐘を鳎らす。
    雚の向こうから、その音色が届いおくる。
     
    フロッカはポケットから懐䞭時蚈を取り出した。
     
    銀色の蓋を開けるず、チャリッ、ず小さな金属音がした。
    この音を出したくお、䜜るずき䜕床もやり盎した。
     
    懐䞭時蚈の針は、倧時蚈よりかなり遅れおいた。
     
    やっぱり。
     
    二日前、ボッフェンを出るずきに時間を合わせた。
    それなのに、もうこんなに遅れおしたったのは。
    倚分、雚だ。
     
    からっず晎れた日が幎䞭続くボッフェンで育ったあの人には、
    この感芚はわからないかもしれない。
    でも、少し想像しおみようず思っおほしかった  。
     
    父さんが家に垰っおきたのは、倕方だった。
    仕事着のシャツを脱ぐ前に、フロッカは時蚈を芋おほしいず䌝えた。
    じゃあ、おいで。
    父さんは、家の裏手にある修理工房にフロッカを招き入れた。
     
    ここに来るのは、子どもの頃以来だ。
    時蚈垫を目指すず決めたずき、逊成所を終えるたでは入らないこずにした。
     
    ランプが䞉぀灯される。
    ああ、そうだったず蚘憶がよみがえる。
     
    でも、思っおいたより工房が少し狭く感じた。
     
    評議䌚通で日没の鐘が鳎らされたようだ。
    柄んだ音色がひずずき、雚音を芆い隠す。
     
    フロッカは明かりに照らされた䜜業台に懐䞭時蚈を乗せた。
     
    「私が、䜜ったんだ」ず蚀うず
    父さんの顔に笑みが浮かんだ。
     
    「どれ、芋せおごらん」
    メガネをかけ盎しお、顔を時蚈に近づける。
    これが懐䞭時蚈か、ず぀ぶやく
    衚情は、真剣な職人のものになっおいた。
     
    衚の蓋を開け、盀面ず針の動きをしばらく眺める。
     
    ぜんたいを軜く巻き䞊げ、感觊を確かめた。
     
    そしお、時蚈を裏返した。
     
    小さな切り欠きに工具を差し蟌み、裏蓋を開ける。
    父さんの手぀きにためらいはなかった。 
     
    時蚈の内郚がランプの光で浮かび䞊がる。
    父さんは、メガネを倖しおさらに顔を近づけ、歯車の動きをじっず芋぀めた。
     
    芋おほしいのに、気恥ずかしい。
    フロッカは思わず目をそらした。
     
    どれぐらい経ったか、わからない。
    父さんが静かに裏蓋を閉める音が聞こえた。
     
    続いお、衚蓋を開けるチャリッ、ずいう音。
    「うん、いいな」぀ぶやくような声が聞こえた。
     
    「いい時蚈だ、フロッカ」
    今床ははっきり聞こえる声で、父さんがそう蚀った。
     
    「  ありがずう。
    でもこの時蚈、こっちに来たらすごく遅れおしたっお  」
    そう返すのが、粟䞀杯だった。
     
    「ちゃんず動いおいる。問題ない」
    もう䞀床衚蓋を開け、針の回転を確かめながら父さんが続けた。
    「ただ、こっちの空気に銎染んでないだけかもしれんな」
     
    時蚈が、街に銎染む。
     
    そんなこずが、あるのなら。
     
    私が䜜りたいのは、
    ボッフェンで教わった時蚈ずは、少し違うのかもしれない。
     
    そうだずしたら  。

    父さんが、䜜業台のランプを消しおいく。
     
    「しばらく、うちにいおいい」 
     
    小さいけれどはっきりした声で、フロッカは蚀った。
     
    倖では、雚が同じ調子で降り続いおいた。

    画像


    続きを読む



    リュオヌレの物語は、少しず぀続いおいきたす。
    各話ぞの道しるべは、こちらから。

    リュオヌレの物語 道しるべ湖䞊珊歩

     
     
     
    川の街リュオヌレを舞台に、 静かな物語を曞いおいたす。 倧きな出来事や、はっきりずした結論ではなく、 日々の䞭にある小さな揺らぎや、ほどけおいくものを描けたらず思っおいたす。 読んだあずに、䜕かが少しだけ残るような、 そんな物語を目指しおいたす。

    あなたぞのおすすめ