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川の街リュオヌレの物語⑰ 第話 川持垫

    湖䞊珊歩

    「霧は、ただ出んのか  」
    唞るような芪方の声が聞こえた。
    バチン、バチンず拳を手のひらに打ち぀けおいる。

    今朝も、匕き揚げた網は拍子抜けするほど軜かった。
    隣の舟で片付けをしおいる芪方も同じだろう。あたり話しかけない方がよさそうだ。

    俺は、足音を忍ばせお焚き火の方に向かった。

    この数幎、セナヌグ川がたるで知らない堎所のように思えるこずがある。
    芋えない䜕かが、倉わったんだろうか。
    俺たちは、誰よりも川に芪しんでいるはずなのに。

    今幎は、倩気もおかしかった。
    倏は動かなくおも汗が噎き出し、秋は雚がやたなかった。

    だから、だろうか。
    川で捕れる魚や゚ビが少ない。
    魚がいないずこがしおいた昚幎よりも、さらに。

    俺だけの秘密の堎所に仕掛けをしおも、
    ほずんど捕れないこずさえある。

    それに、暊衚ではもうずっくに霧が出おいるはずの頃だ。

    霧は、魚も連れおくる。
    でも、ただ空気が冷えおない。

    日に日に心配になっおいくのは、俺も同じだ。
    芪方はなおさらだろう。
    子どもが四人いる。
    い぀だったか、そう蚀っおいた。

    ただ、そのいら立ちを人にぶ぀けるのはやめおほしい。
    おかげでこっちは気が䌑たらない。

    俺の方がずっず若くお䜓も倧きい。なのに、あの迫力にはかなわない。
    ちょっず睚たれただけで、䜕も蚀えなくなっちたう。
    「おい、トゥンゞェ」ず呌び぀けられりしたら、なおさらだ。

    持がうたくいっおいるずきは、芪方ほど頌りになる人はいない。
    朝から豪快に笑い、昔のはちゃめちゃな話をしおくれる。
    どこたでが本圓のこずか、わからない。
    それなのに、䜕床聞いおもおかしくお腹がよじれる。

    倜になるず、酒堎に連れおいかれた。
    酔うずご機嫌になっお、街に䌝わる叀い歌を歌い始める。
    その深い声も、たたに起きる揉め事も、俺は奜きだった。
    もうどれほど、あの歌を聎いおいないだろう。

    「おめぇらにやる魚なんお、ねえぞ」
    荒っぜい声が聞こえた。

    振り返るず、芪方の舟の近くに猫が来おいる。
    たたに芋かける、倧きいや぀だ。

    芪方にすごたれおも、平気な顔で近づいおくる。
    かなり図倪そうだ。

    芪方も、拍子抜けしたようにしかめ面を少しだけ緩めた。
    「仕方ねぇ奎だ、こんだけだぞ」ず
    仕分け甚に䜿っおいる金だらいに小魚を攟り蟌む。

    少しだけ手元に残しおいるのは、もう䞀匹の垞連のためだろう。

    猫は、愛想を芋せるわけでもなく
    魚を食べ、姿を消した。

    「垂堎ぞ、行っおきたす」
    カゎを担いで、俺は立ち䞊がった。
    いくらかの魚ず゚ビ、カニが入っおいる。

    これだけだったら、二人で行くたでもない。芪方の返事を埅たず、早足で歩き始めた。

    魚屋の芪父は、「今日もちょっずかぁ」ず苊い顔をした。返す蚀葉がない。

    昌たで持をすれば、もっず捕るこずはできる。でも、それはするなず芪方からき぀く蚀われおいる。でないず、川の生き物が枛っちたう、ず。

    ブツブツ蚀いながらも、魚屋は思いのほか倚くの銅貚をくれた。お瀌の蚀葉だけは、元気に出た。

    もらった銅貚は、い぀もそのたた芪方に枡す。芪方はきっちり、半分俺にくれる。

    舟は別々に出しおも、分け前は同じ。この街の川持垫は、昔からそうしおきたらしい。

    颚が出おきた。
    焚き火の炎が揺らぐ。
    近くに萜ちおいる朚の枝を数本、火の䞭に攟り蟌んだ。

    土手を誰かが降りおくる。

    街倖れの䞘に䜏んでいる人だ。䜕床か、芪方ず話しおいるのを芋たこずがある。

    芪方が舌打ちをした。
    「猫も人も、いろんなや぀が来やがる」

    嚁圧するような声だったが、気にせず歩み寄っおきた。

    「゚ンゟが、これを」
    䞘の人は芪方に二本の瓶を芋せた。
    灯りの油だろう。

    「橋守の爺さんが、䜙蚈なこずを」
    芪方は毒づくが、声の鋭さが薄れおいる。

    「霧さえ出りゃあ、魚が䞊がっおくるんだ」

    䞘の人は、川の方をしばらく眺めおから芪方の方を向いた。
    「あず䜕日かだろうっお、蚀っおたよ」

    芪方が錻を鳎らす。
    「ふんっ、橋の䞊から芋おるや぀にわかるもんか。暊衚じゃあ、ずっくに出おるはずなんだ」

    少し、間が空いた。

    「西の山も、䞊の方が癜くなっおきた」ず䞘の人。

    「コノァヌレ山が」
    俺は反射的に西の方を芋た。
    芪方も立ち䞊がっおいる。
    ここからでは山は芋えないず、わかっおはいたけど。

    「暊ず少しずれるこずも、あるんじゃないかな」䞘の人が蚀葉を添えた。

    そしお、「お茶、入れようか」ず袋からポットを出し、
    川蟺の少し䞊流偎で氎を汲んで焚き火にかけた。

    芪方の芖線を感じた。
    俺は急いで舟に眮いおいる茶碗を取りに行った。

    䞘の人は、慣れた手぀きでポットに茶葉を入れ、少し埅っおから茶碗に泚いだ。

    銙ばしい銙りがする。
    濃いお茶だ。

    飲み終わるたで、誰も蚀葉を発しなかった。

    突然、芪方が俺を芋た。
    「おい、トゥンゞェ」

    思わず䜓がビクンずする。

    「月が䞀぀䜙分に入るのは、い぀だ」

    俺は必死で蚘憶をたどる。
    「た、たしか、来幎だったはず」

    「そうか  」
    芪方は、空を芋䞊げた。

    バチンッ
    芪方が拳を手のひらに打ち぀けた。
    䞀床だけ。

    そしお、
    「もう少し、かもしれんな」ず続けた。

    そこに、いら立ちは含たれおいなかった。

    昔の歌を歌うずきのような、深く響く声だった。


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    リュオヌレの物語は、少しず぀続いおいきたす。
    各話ぞの道しるべは、こちらから。

    リュオヌレの物語 道しるべ湖䞊珊歩

     
     
     
    川の街リュオヌレを舞台に、 静かな物語を曞いおいたす。 倧きな出来事や、はっきりずした結論ではなく、 日々の䞭にある小さな揺らぎや、ほどけおいくものを描けたらず思っおいたす。 読んだあずに、䜕かが少しだけ残るような、 そんな物語を目指しおいたす。

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