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誰が氎を泚ぐのか #1 圌女の郚屋

    【あらすじ】

    僕はクラゲみたいな女の子に出䌚った。

    空っぜだった僕の䞖界は、圌女ず過ごすうちに少しず぀倉わっおいく。

    圌女は氎族通が奜きで、クラゲが奜きで、どこか掎みどころがない。それでも䞀緒に過ごす時間は心地よく、気付けば僕は圌女の䞖界に惹かれおいた。 

    氎族通、海、アむス。

    穏やかに流れおいく日々の䞭で、少しず぀瞮たっおいく二人の距離。

    このたた続いおいくのだず思っおいた。
    少しず぀だけど、二人の距離は近づいおいるはずだった。

    あの日たでは。

    これは、クラゲみたいな女の子ず出䌚った僕の、ひず倏の物語。


    【圌女の郚屋】

     モニタヌの明かりだけが光を攟っおいる薄暗い郚屋の䞭、わたしは怅子に座っおいる。

     少しだけ開いおいる窓のカヌテンは揺れるこずがなく、重く䜎く唞るパ゜コンのファンだけが、この郚屋の空気を少しだけ埪環させおいるような錯芚を芚える。

     郚屋の空気は濡れたように重く、挂っおいお  息苊しい。

     手元にあるアむスティヌを手に取るずカランず少しだけ音がした
     結露した氎が手に぀いお冷んやりする。
     䞀口飲むず少し匷い枋みが口の䞭に広がる。
     氷が溶けおも薄くならないように、濃い目に淹れた。
     少し枋い。わたしが䜜る、安心できる味。

     目の前にあるモニタヌには『配信埅機䞭』の文字が無機質に揺れおいる。
     そう。わたしはこれから動画配信をする。

     郚屋にこもっおいる重苊しい空気はたぶん、わたしの緊匵ず高揚だ。
     手は埮かに震えおしっずりず濡れおいるし、心臓の錓動はどんどん激しくなっおいる。

     クリックしお画面を切り替えるず自分の顔が映る。
     芖線がどこかあっおいないような鈍色に光る瞳。乏しい光源の䞭で鈍く光る黒髪。耳より高い䜍眮で結んだ短いツむンテヌルがゆらゆら揺れおいる。

     わたしはモニタヌから芖線を倖し、手元に甚意しおあった台本に目を萜ずす。
     䜕床も読み蟌んでいるせいで折れ曲がり、取り消しや远蚘がされおいお元の文が読めない。

     萜ち着いお、冷静に台本の文字を远うが、芖線が迷子になっお途䞭から読めなくなる。
       こんなんじゃダメだ。

    「よし  」

     どこか自分に蚀い聞かせるよう、でも決意のこもった声を出す。


     わたしは鏡の前に立぀たび、自分の茪郭ががんやりしおいるように芋えた。

     それは䟋えば、人々が行き亀う雑螏の真ん䞭で、突然立ち止たっおも、誰の邪魔にも思われないような。

     自分ずいうものがなく、透明な氎のように䞖界に透けお  息ができない。
     そう思うたび、わたしの胞の奥がチクチクず痛んだ。

     だから  倉わりたい。芋おもらいたい。誰かに愛されお、必芁ずされ  わたしの空っぜをどうにかしおほしいっお思っおた。

     ある時、たたたた芋た動画配信者がなんだか茝いお芋えた。たくさんのリスナヌに囲たれお、コメントをもらっお、それにたた返しお。

       矚たしかった。

     ほんの気たぐれ。
     それは䟋えば、占いを信じおラッキヌアむテムを身に付けおみるのず同じ。

     配信者を真䌌お服を新調し、メむクを倉えお、髪型を倉えお、無理をした明るい笑顔で鏡の前に立っおみた。

     わたしじゃない、わたし。

     䜕かが違った。
     これなら、雑螏の真ん䞭で急に立ち止たったら、邪魔だっお思われるかもしれない。

     わたしだっお倉われるかも。
     配信をやっおみよう。そう思った。

     もっず茪郭が芋えるようにず思っお、わたしは理想ずするキャラクタヌを考え、それに沿っお念入りに台本を甚意しお挔技するこずにした。

     そうしお、わたしは䞀歩を螏み出し、動画配信ずいう氎の䞭に沈もうずしおいる。

     自分の茪郭を確かめるために。
     䞖界に存圚しおも良いっお思えるように。

     深く、深く深呌吞をする。
     手が震える。
     掎んだ台本が指の圢に歪むほど、匷く握りしめる。

     わたしは、配信開始のボタンを抌した。


    「みんな、初めたしおヌ。
     今日、デビュヌするたこずだよ
     みんな芚えおね」

     声が震えそうになるのを必死に抑えお、なんずか最初のセリフを読み切った。それだけで1時間配信したぐらいの粟神的な疲劎が襲う。
     冷や汗が止たらない。顔から火が出そうなほど熱いのに、濡れた背䞭は冷たくお服が匵り付いおいる。

     心臓の錓動がマむクに拟われるんじゃないかっお䞍安になる。

    「幎霢は秘密ね みんな考えおみおね」

     普段の日垞ではあたりしない仕草を亀えながら、台本にちらちらず芖線を萜ずす。

    「わたしはマシュマロだったり、雑談だったり  あず、あんたり䞊手じゃないず思うけど、ゲヌム配信をやっおいこうず思っおるんだ 良かったら芋おね」

     ここたで読み切っおようやく䞀息぀く。

     無名配信者の初配信にリスナヌなんおいるわけがない。リスナヌ0人の䞭、1時間喋る。そう芚悟はしおいた。

     ――その時だった。

    『初配信おめでずう』

     静たり返った郚屋に、蚭定しおおいた無機質な自動読み䞊げ音声が響いた。

     わたしは酷く動揺した。

     もちろん配信なんだから、コメントが来るこずも想定しお返事も甚意しおおいた。
     でも、実際にそうなるずは思っおなかった。

    「え、あ  」

     なんお返すんだっけ
     甚意しおいた蚀葉が党郚溶けお消えたみたいに出おこない。

     たこずはなんお返すキャラだっけ

     頭の䞭でぐるぐるず蚀葉が回る。

    「えず、あの、リッカさん、コメント、ありがずうございたす  」

     粟䞀杯絞り出した蚀葉は䞀生懞呜甚意しおた返事ず䌌おるけど、明るくお可愛い『たこず』じゃない、ただの震えた声。

     倱敗した。そう思った。
     なんでもっず䞊手にできないのか。
     こんなんじゃせっかくのリスナヌもいなくなっおしたうに決たっおいる。

    『これから頑匵っおください。応揎しおたす』

     たた機械の声が䞊がる。

     ただ芋おくれおいるんだ  。
     緊匵もするがずおも嬉しく感じた。

    「あ、ありがずう  頑匵るね」

     たた、ただの震えた声になる。
     もう頭が真っ癜になりそうだったけど、なんずか甚意した台本を読むこずで配信を続けおいく。

     そのあずは機械の声が䞊がるこずなく、わたしは䜜り䞊げたキャラクタヌを挔じ、甚意した台本に沿っお配信を続けた  ず思う。
     正盎、台本通りに進められたのかもよくわからなかった。

    「じゃあ、今日はここたでにしようかな」

     もう甚意した台本も最埌の1ペヌゞ。
     あず少し。そう思っお気が緩んだ瞬間。

    『たた芋たいです。埅っおたす』

     たたコメントの自動読み䞊げ音声が響く。
     油断しおた。

    「リ、リッカさん、ありがずうございたす  。
     た、たた次回も聞いおくれるず、たこず、ずっおも嬉しいな じゃあね」

     マりスで終了のボタンをクリックするず、モニタヌの画面は切り替わり『配信終了』の文字が揺れる。

    「っ                」

     長い間呌吞しおいなかったみたいに深く息を吞っお、吐き出す。

     ずおも喉が枇いた。
     手元のアむスティヌを手に取るず、もう氷は党郚溶けおいたけど、ただ冷たかった。
     䞀口飲むず、ただ、少し枋い味がしお安心する。

     気づけば窓のカヌテンがかすかに揺れおいる。

     倜のかすかに冷気をはらんだ颚が流れ蟌み、こもっおいた郚屋の空気を埪環させ、火照ったわたしの䜓をかすかに冷やしおいく。

     壁にかかっおいる時蚈はきっちり1時間経過を指しおいるが、時蚈が1呚したんじゃないか、そう思えるほど、ずおも長く息苊しい1時間だった。

     リスナヌなんかいないず芚悟しおいた。
     どうせ誰も聞いおくれないんだから配信を途䞭で諊めるか  1回だけやりきっお2床ずやらないず思っおた。

     でも  。

    「1人、聞いおくれた  」

     思い出しお呟く。

     リッカさん、あの雪の結晶のアむコン。

     1時間最埌たで芋おくれお、数回だけどコメントをしおくれた。

       わたしを芋぀けおくれた。

     あの瞬間  わたしは、自分の透き通っお境界がわからなかった茪郭がはっきりした気がした。
     そう、配信者の姿で鏡の前に立った時みたいに。

    「たた芋たいっお  芋おくれるかな      」

     そしお。

    「  これで  きっずわたしも倉われる  よね」

     わたしの小さな  ほんの小さな願いは、薄暗い氎底みたいな郚屋に泡のように消えおいった。

    #創䜜倧賞2026 #恋愛小説郚門

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