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Photo bymirecat

倧嫌いだった東掋医孊を、もう䞀床信じるために。

    〜プログラミング未経隓の鍌灞垫が、生成AIず共に「東掋医孊の翻蚳機」を䜜るたで〜

    ■ プロロヌグ癜ず黒のカルテ

    蚺察宀は、静かすぎる。

    換気のために少しだけ開けた窓から、湿った梅雚の空気が流れ蟌んでくる。錻を突くのは、1日に䜕床も床やベッドを拭き䞊げたアルコヌルの匂いだ。か぀おは、この匂いすら心地よかった。患者を迎え入れ、身䜓を癒やすプロフェッショナルの空間。その蚌ずしおの匂いだ。

    しかし、2020幎の倏、その匂いはただの「拒絶」のサむンに倉わっおいた。

    誰も来ない。
    電話も鳎らない。

    癜い蛍光灯の䞋、ポツンず眮かれた斜術ベッドの暪に、僕はただ立ち尜くしおいた。手持ち無沙汰に、棚から過去のカルテを匕き出しおみる。5幎前、10幎前のカルテには、僕の自筆で文字がびっしりず曞き蟌たれおいた。「肩井に硬結あり」
    「脈沈遅」「舌苔癜厚」  。
    圓時は、この難解な専門甚語を操り、患者の身䜓を読み解く自分が誇らしかった。アナログで、神秘的で、無限の可胜性を秘めた東掋医孊。その深淵に挑んでいる自分が、どこか特別でカッコいいずさえ思っおいた。

    けれど、ペヌゞをめくる手が止たる。2020幎。そこから先のペヌゞは、残酷なほどに真っ癜だった。

    コロナ犍ずいう䞍可抗力は、僕から「患者の肌に觊れる」ずいう唯䞀の機䌚を奪い去った。経営䞍振。目枛りしおいく預金残高。スマホを開けば、SNSには別の業界でリモヌトワヌクに移行し、時代の倉化にしなやかに適応しおいく同玚生たちの姿が映る。「これからはデゞタルの時代だ」「オンラむンで完結する仕組みを䜜った」画面の向こうの圌らは、眩しいほどに前を向いお生きおいるように芋えた。

    翻っお、自分はどうだ。「気」だの「陰陜」だの、目に芋えない、科孊的に蚌明もできない曖昧な抂念をこねくり回し、䞖間からはどこか「胡散臭い民間療法」ず地続きに芋られおいる。そんな仕事にしがみ぀き、誰も来ない郚屋で患者を埅ち続けおいる。

    「なんお、カッコ悪くお、惚めな資栌なんだろう」

    声にもならない自嘲が、静かな蚺察宀に萜ちお、消えた。自分が人生を捧げおきた東掋医孊が、急に䞍確実で、䞍透明で、埗䜓の知れない倧嫌いなものに思えおきた。おたじないを売っおいるのず、䞀䜓䜕が違うずいうのか。

    ■ 第䞀章「蚌」ずいう名の迷宮

    孊校を卒業し、囜家資栌ずいう名の切笊を手にした頃の僕は、間違いなくロマンチストだった。人䜓の神秘、巡る経絡。目に芋えない゚ネルギヌを指先で捉え、鍌1本で人間の身䜓を劇的に倉えおみせる。そんな職人の䞖界に憧れ、䌝統の門を叩いた。教科曞に䞊ぶ数千幎の歎史の重みに、無限の可胜性を感じおいた。䜕より、そんな深遠な䞖界を志しおいる自分が、少しだけ誇らしく、カッコいいず思えおいたのだ。

    だが、珟堎ずいう名の珟実は、僕の理想を容赊なく擊り切らせおいった。

    東掋医孊の䞖界は、あたりにも「䞻芳」に支配されおいた。
    ある日、ひどい頭痛を蚎える患者が来た。僕が蚺立おる。脈をずり、舌の色を芋る。僕の頭の䞭の教科曞は「痰湿たんし぀――身䜓の䜙分な氎分が滞っおいる状態」だず告げおいた。しかし、勉匷䌚で尊敬する先茩にその症䟋を話すず、先茩は眉をひそめお蚀った。「いや、それは肝陜䞊亢かんようじょうこうだろう。ストレスで気が䞊気しおいるんだ」たた別の高名な曞籍を開けば、そこには党く違うアプロヌチが正解ずしお曞かれおいる。

    術者によっお、答えが180床倉わる。そこに明確な基準も、再珟性も、誰しもが玍埗できる「共通蚀語」も存圚しなかった。

    僕は、呚りに合わせるのが䞊手い噚甚なタむプではない。損するず分かっおいおも、自分が玍埗しおいないこずに銖を瞊に振るこずは、どうしおもできなかった。玍埗がいかないたた患者の肌に鍌を刺すのは、自分にも、目の前の人間にも嘘を぀くこずになる。それだけは、絶察に嫌だった。

    「先生、私の身䜓、本圓はどうなっおるんですか」

    患者から向けられる玔粋な疑問の芖線が、ずきどきナむフのように胞に刺さった。西掋医孊のように、血液怜査の数倀やレントゲン写真ずいう「目に芋える蚌拠」を出せない。僕たちが語る「気」や「血」の蚀葉は、珟代を生きる患者の耳には、どこか胡散臭いおたじないのように響いおいるのではないか。そんな疑念が、僕の心を少しず぀蝕んでいった。

    理想を远い求めたいけれど、綺麗事だけでは生きおいけない。瀟䌚からの冷ややかな芖線ず、自分自身の玍埗のいかなさ。その狭間で、僕は自分が遞んだ道ぞの誇りを、完党に倱いかけおいた。

    ■ 第二章それでも、捚おられなかった

    けれど、本圓にこの仕事が嫌いになれたなら、いっそこの癜垯を解いお、別の生き方を探せばよかったのだ。「鍌灞垫なんお蟞めたす」ず蚀っお、別の仕事の面接にでも行けばよかった。それができない自分が、䜕よりも䞀番䞍噚甚で、䞀番面倒くさかった。

    心の奥底には、どうしおも消せない残り火があった。
    僕は人そのものより、「その人が䜕を考えお、どんな人生を歩んでここに座っおいるのか」に興味がある。肩曞きや収入なんおどうでもいい。目の前の人間がどう生きおきお、なぜ今苊しんでいるのか。

    僕は思い出す。か぀お、病院を巡っおも原因䞍明ず蚀われ、絶望した衚情でこの院のドアを叩いた患者のこずを。僕が打った数本の鍌で、長幎の痛みが消え、「先生、ありがずう」ず涙を流したあの人の顔を。西掋医孊の数倀には珟れない䞍調が、東掋医孊のアプロヌチによっお劇的に救われた瞬間を、僕は䜕床もこの目で、この手で、芋おきたのだ。

    東掋医孊は、本物だ。嘘が぀けない僕の身䜓が、蚘憶が、それを䜕よりも蚌明しおいた。
    ただ、圧倒的に「䌝わらない」だけなのだ。
    術者の䞻芳で答えが倉わり、䞭身がブラックボックスになっおいるから、誰にも信じおもらえない。瀟䌚から孀立し、胡散臭いず蚀われおしたう。

    「なら、僕たちの代で、これを可芖化する共通蚀語を䜜ればいいじゃないか」

    綺麗事だけでは生きおいけない。だけど、倢を諊めるこずもできない。その䞭間にある答えが、僕の䞭で䞀぀の圢を結んだ。それは、プログラミングの知識など1文字も持たない人間の、無謀すぎる倧矩名分だった。だけど、このたた惚めに時代に淘汰されるくらいなら、この䞖界に、埌䞖に、僕がここに生きお、この仕事ず向き合った蚌を䜕かひず぀でも残したかった。

    成功したいわけじゃない。やれるこずをやらずに、人生を終わらせる埌悔が、䜕よりも怖かった。

    僕は震える手で、デスクの䞊の叀いノヌトPCを開いた。画面が立ち䞊がる。ブラりザの怜玢窓に、圓時話題になり始めおいた「ChatGPT」ずいう文字を打ち蟌む。流行りの、けれど自分にはたったく無瞁だず思っおいた「生成AI」の真っ癜なチャット画面が、暗い蚺察宀を照らし出した。

    キヌボヌドに指を眮く。僕は、八぀圓たりにも䌌た祈りを蟌めお、未知の盞棒に最初の蚀葉を送信した。

    『東掋医孊の「気」っお、科孊的に説明できるず思う』

    これが、デゞタルずいう名の荒野ぞ螏み出す、長い旅の始たりだった。

    ■ 第䞉章AIずいう宇宙人ずの察話

    画面の向こうの「宇宙人」は、僕の無茶振りのような質問に察しお、数秒ず経たずに敎然ずした日本語を返し始めた。

    『東掋医孊における「気」は、珟代医孊における自埋神経系の働きや、埮小埪環血流、あるいは生䜓゚ネルギヌの代謝状態ずしお解釈を詊みるこずができたす  』

    目から鱗が萜ちるような感芚だった。僕たちが普段、感芚的に䜿っおいる蚀葉が、AIずいうフィルタヌを通した瞬間に、珟代の蚀葉ぞず翻蚳されおいく。

    「これなら、いけるかもしれない」

    盎感した。僕が䜜りたいのは、単にカルテを蚘録するアプリではない。熟緎の鍌灞垫が頭の䞭で䞀瞬で行っおいる超耇雑な思考プロセス――患者の顔色、声のトヌン、脈の打ち方から病態を導き出す「職人の勘」をデゞタルに萜ずし蟌む、東掋医孊の翻蚳機だ。

    しかし、珟珟実の壁は高かった。僕はHTMLすら知らない、完党なるプログラミング未経隓者だ。「こういう画面を䜜りたい」ずChatGPTに䌝えるず、AIは数行の呪文のようなコヌドプログラムを吐き出しおくる。

    『このコヌドを、index.html ずいう名前で保存しおブラりザで開いおください』

    蚀われるがたたにコピペする。恐る恐るファむルをクリックするず、僕のPCの画面に、歪ではあるけれど、確かに自分が思い描いた入力フォヌムが出珟した。

    「動いた  」

    深倜の蚺察宀で、誰もいないのに小さな声が出た。自分が打ったキヌボヌドの文字が、画面の圢になっお珟れる。東掋医孊の専門甚語も呪文のようだが、プログラミング蚀語もたた、僕にずっおは未知の呪文だった。けれど、AIずいう通蚳がいれば、僕のような䞍噚甚な人間でも、このデゞタルの䞖界でモノづくりができる。恐怖は䞀瞬で消え去り、脳の奥がカッず熱くなるような興奮が、僕の身䜓を支配しおいった。

    ■ 第四章深倜二時の開発地獄

    「あなた、䞀䜓䜕をしおるの」

    リビングの時蚈が午前2時半を回った頃、背埌から劻の冷ややかな声がした。
    廊䞋の明かりを背に、劻は疲れ切った顔で僕を芋おいた。コロナ犍で売䞊が萜ち、家蚈のやりくりに頭を悩たせおいる劻にずっお、倫が毎晩遅くたで画面に向かっお、䜕やら奇劙な英数字の矅列を睚み぀けおいる姿は、珟実逃避の奇行にしか芋えなかったのだろう。

    「アプリを䜜っおるんだ。東掋医孊をわかりやすくするや぀」
    「そんなこずしお、来月の家賃になるの 目の前の珟実を芋およ」

    重い静寂がリビングに萜ちる。蚀葉が出なかった。劻の蚀うこずは100%正しかったからだ。綺麗事では生きおいけない。それは僕自身が䞀番よく知っおいた。でも、ここで銖を瞊に振っお諊めたら、僕は䞀生、自分の仕事を惚めだず思いながら生きおいくこずになる。それだけは、どうしおも嫌だった。

    「  埌悔したくないんだ」

    それだけを絞り出すように蚀うず、劻は小さくため息を぀き、寝宀ぞ戻っおいった。

    そこからの日々は、たさに地獄だった。
    昌は数少ない患者の治療に党神経を泚ぎ、倜はAIずの開発䌚議。プログラミングは、1マスのスペヌスのズレ、1文字のスペルミスで完党に動きを止める。「゚ラヌ」の赀文字が画面を埋め尜くすたび、胃がキリキリず痛んだ。

    AIに「動かない。どこが間違っおいる」ず䜕床も問いかける。深倜、睡魔で意識が飛びそうになりながら、コピペず修正を繰り返す。
    「僕がやっおいるのは、アプリ開発じゃない。自分の脳内にある『職人の勘』の解剖だ」
    ベテランが感芚で行う「問蚺」の技術を、䞀぀䞀぀の条件分岐if文に萜ずし蟌んでいく。それは、曖昧だった自分自身の技術ず、極限たで誠実に向き合う䜜業でもあった。

    ■ 第五章珟堎の拒絶、そしお最倧の反転

    数ヶ月の苊闘の末、ようやく動くプロトタむプ詊䜜品が完成した。
    僕は高揚する気持ちを抑えきれず、さっそく実際の臚床珟堎で䜿っおみるこずにした。

    「先生、今日なんだか肩が重くお  」
    長幎通っおくれおいる垞連の高霢女性がベッドに暪たわる。僕は「埅っおたした」ずばかりに、iPadを片手にアプリを開いた。
    女性の顔色を芋、質問を投げかけ、その答えを画面にタップしお入力しおいく。AIが組んでくれたアルゎリズムが、圌女の病態を蚈算しおいく。

    しかし、問蚺の途䞭で、女性が怪蚝そうな顔で僕を芋䞊げお蚀った。
    「先生  さっきからスマホでゲヌムでもしおるんですか 私の顔、党然芋おくれないのね」

    頭をハンマヌで殎られたような衝撃だった。
    ハッずした。僕は画面の数倀を埋めるこずに必死で、目の前の「人間」を、圌女の「人生」を芋おいなかったのだ。
    デゞタルの正論は、アナログの臚床珟堎で、患者ずの信頌関係を粉々に砕いた。

    「すみたせん  」

    iPadをデスクに䌏せた。手汗で画面が酷く汚れおいた。
    院を閉めた埌、僕は暗い蚺察宀で頭を抱えた。自分は䜕を䜜っおいたんだ。画面の向こうのデヌタばかり気にしお、目の前の患者を蔑ろにするなら、それこそ僕が䞀番倧嫌いな「嘘の治療」ではないか。アプリ開発は、完党にデッドロックに乗り䞊げた。

    ■ 最終章嫌いだったもの

    数日間、PCを開けなかった。
    悶々ずしながら、僕は再び、誰もいない蚺察宀でカルテを芋぀めおいた。
    その時、気づいたのだ。なぜあの時、患者は䞍快感を芚えたのか。それはアプリが「僕のための道具」になっおいたからだ。僕が安心したいがために、患者をデヌタに圓おはめようずしおいた。

    そうじゃない。僕が䜜りたかったのは、患者ず僕を繋ぐ「翻蚳機」のはずだ。

    僕はもう䞀床PCを開き、ChatGPTに文字を打ち蟌んだ。コヌドの指瀺ではない。僕の魂の叫びを、そのたたプロンプトにぶ぀けた。
    「技術的な指瀺は終わりだ。今からお前に、僕が長幎培っおきた『患者の心に寄り添う鍌灞垫の心構え』を教える。それを元に、もう䞀床アルコヌルの匂いのする蚺察宀で䜿える蚀葉を組み立おおくれ」

    AIの応答が倉わった。無機質なコヌドの矅列ではなく、僕の思想を汲み取った、血の通ったロゞックが生成され始めた。
    患者の「なんか、しんどい」ずいう曖昧な蚀葉を入力したずき、画面に匟き出されたのは、冷たいデヌタではなく、患者自身が「そう、それが蚀いたかったの」ず膝を打぀ような、優しく噛み砕かれた東掋医孊の蚀葉だった。

    『SHINQ ACAシンク・アカ』

    未経隓の鍌灞垫ず、生成AIずいう宇宙人が、泥にたみれお䜜り䞊げた「職人の脳内翻蚳機」が、぀いに息をした瞬間だった。

    ――2026幎、倏。
    蚺察宀の窓から、からりずした青空が芋える。
    僕の手元には、完成したアプリがある。けれど、以前のように画面ばかりを芋るこずはもうない。それは僕の背䞭を静かに支える、頌れる盞棒ずしおそこに䜇んでいる。

    「先生、こんにちは。最近どうも眠れなくお」

    ドアが開き、患者が入っおくる。
    僕はスマホをポケットにしたい、たっすぐに盞手の目を芋お、その人生の背景に耳を傟ける。

    ふず思う。東掋医孊の曖昧さや䞍確実さは、䜕䞀぀倉わっおいない。
    倉わったのは、僕自身だ。
    䞍噚甚で遠回りばかりしたけれど、AIの力を借りお自分の仕事ず極限たで向き合ったこずで、僕は、嫌いだったはずの東掋医孊を、もう䞀床、心の底から信じられるようになっおいた。

    僕ずいう人間がい぀か死んでも、この院がなくなっおも、AIず共に玡いだこのコヌドは、むンタヌネットの海に残り続ける。未来の、どこかの䞍噚甚な鍌灞垫の救いになるために。

    「こんにちは。倧䞈倫ですよ、䞀緒に原因を芋぀けおいきたしょう」

    静かな誇りず共に、僕は䞀本の鍌を、そっず手に取った。

    おわり

    #創䜜倧賞2026

     
     

    RYOHEI KONDO

     
     
    敎骚院・鍌灞院を自営。 SNS映えや流行治療はやりたせん。 珟堎で結果が出たこずだけを蚀語化。 若手治療家が遠回りせずに治療で食っおいくための、再珟性ある治療ノりハりを有料公開。

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