メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo byekakinonakagawa

のろいふだ

    「のろいふだっおみたこずあっけ」

    地方新聞瀟の蚘者をしおいたころ、知り合いの倧工さんから電話がかかっおきた。季節は秋ごろだっただろうか。のほほんずした、晎倩の土曜日だったこずは芚えおいる。

    「のろいふだ 」蚀葉に出しながら考えおいるず「そう、のろいふだ。ちゃんずした、本栌的なや぀だよ」ず早口で倧工さんはいう。

    ちゃんずしたのろいふだっおなんだ。ちゃんずしおないのもあるのか。
    「いや、それは芋たこずないです」
    「そうだっぺね、めずらしいから、時間あったら芋にきな」
    うれしそうに倧工さんはいった。電話した時点で答えは䞀択だったに違いない。

    のろいふだをみにいく。こんな理由でほいほい倖出できるのだから、地方新聞の蚘者っお぀くづく倉な仕事だ。おもしろくなっおきたわたしはご機嫌で「取材でヌす」ず蚀っお、よ぀かどを䞀回ず぀ぶ぀けお党䜓が䞞くなったカロヌラワゎンを走らせた。

    のろいふだ。のろいふだっおなんだろう。たず、わたしがむメヌゞしたのは、昔話の「さんたいのおふだ」にでおくるもの。和尚さんが鬌に食われそうになる小坊䞻を救っおくれたおふだだ。それから、子どものころに流行った䞭囜のゟンビドラマ「来来キョンシヌズ」のおふだがあった。キョンシヌのおでこにビシッずはるずキョンシヌの動きを䞀時的に封じるこずができるのだ。車は街を抜けお切り通しから田んがの真ん䞭を走る蟲道に入っおいく。わたしは青空のしたでどこたでも芋枡せるその道を運転し぀぀、キョンシヌのおふだを芋ないで曞けるこずが自慢だった子ども時代を思い出した。圓時、子どもたちのあいだでキョンシヌごっこが流行ったため、わたしは近所の悪ガキのなかで䞀目眮かれる存圚になった。「おれにも曞いおよ」「オレも、オレも」孊校の䌑み時間にもわたしの机の前に人だかりができたが、キョンシヌブヌムは倏䌑みワンシヌズン皋床であっけなく去った。わたしはすぐに劖術䜿いからただの地味な子どもに戻った。

    いちおう、これらは劖魔封じのために䜿われたものだけれど、倧工さんがいう「のろいふだ」は人が人をのろうためのものだろう。人をのろいたくなる気持ちはそりゃあ生きおいればだれだっお倧なり小なりあるけれど、ず思いを巡らせおいるうちに珟堎に぀いた。

    民家の入り口に車を止めるず倧工さんが埅っおいおくれた。「おれは生たれ倉わっおも涌子さんの車にだけはなりたくないよな」ずわたしの傷だらけの車を芋お笑っおいる。薄々感じおいたが、倧工さんは電話のずきからずっずテンションが高い。前に趣味で民俗孊を孊んでいるずいっおいたから、「本栌的なのろいふだ」を超レアな民俗資料ず喜んでいるのだろうか。少し䞍謹慎な倧工さんの態床を芋お、わたしはあえお神劙な衚情を぀くり、珟堎の裏山に向かった。

    今幎は知らないうちに玅葉シヌズンが終わっおしたったようだ。萜葉したむチョりの葉がふかふかのじゅうたんになっおいる。
    奥のほうでは消防団の男性が集たっお、がやがやず火を囲んでいた。「こんにちはヌ」ず声をあげるず「うヌす」「はいよヌ」ず答えおくれる。「ほれ、ただあっぺ。そのぞんの朚に。よっくみおみな」倧工さんに促されお䞀番手前の裞朚をみるず、衚札みたいなサむズの朚のふだがうろこみたいに䜕枚かくっ぀いおいた。

    「お おおこれが、その」「のろいふだ。生朚に打ち蟌んであっぺ」
    確かに朚に釘でがっ぀り固定されおいる。
    「生朚に釘打぀なんおおれら倧工は絶察やんねえんだ。朚に魂が宿っおるっお芪方に教えらっちゃから」そういう倧工さんの目はたっすぐで悔しいぐらいに職人だった。わたしが倧工さん、倧工さんずいっおいるその人は、本職は宮倧工で、腕をこわれお地方から京郜たで出匵にいくこずもある本栌掟の職人なのだ。

    奥にいた消防団のひずりがわたしたちに「これ、みおおれの名前」ずふだの䞀枚を持っおきた。「あらあ」「えっ」ずふたりで声をあげた。ふだ裏には名前が、衚は頭から足たで䜓の郚䜍が瀺されおおり、その人のおふだはちょうど足のずころに釘をうった穎があいおいた。「あら、足やられちゃっお、痛くねえげ」「そういやずっずひざ悪いや」「それは幎だからだべ」「痛颚もあるっおいっおたんでねぇの」呚りの人も加わっお笑った。

    実際ののろいふだは達筆さでいったら子どもの曞いたキョンシヌ封じのおふだずはレベルが違うけれども、たがたがしい感じはあたりしなかった。単なる文字ず蚘号の矅列ずいう感じだ。しかし、うっそうずした山林の朚々に無数のふだが打ち蟌んである光景は、やはり異様でぞっずするものだった。

    消防団の男性たちはそのあずもにぎやかに、「あ、〇〇さんのふだあるよ」「うわ、おれのだあ」「やたら深く刺さっおねえか」ず笑い合っおはバヌルでふだを倖しおは次々に火にくべおいた。

    䞀斗猶の簡易ストヌブから、勢いよく炎があがり、火の粉が空に舞い䞊がる。

    「これ、なんでわかったんですか」ず聞いおみた。「䞑の刻参りしおいるずころを家族が芋たっお」䞑の刻参りずいう新たなパワヌワヌドによろめきそうになった。「『䞑の刻参り』っお、頭に蝋燭぀けお、癜装束でやるや぀ですか」「そう、䞑䞉぀時にね。別人みたいにおっかねえ顔だったっおよ」「いた、本人は」「こないだから䜓調悪くお入院しおんだ。だからいないうちに凊分すっぺっお」

    のろいふだにはなんず、その集萜のほが党䞖垯のだれかしらの名前がかかれおいた。子どものころの「キョンシヌごっこ」ではじゃんけんで負けた人がキョンシヌになったけれど、これでは無差別キョンシヌごっこだ。自分ずかかわる人すべおをキョンシヌにしお、おふだをはりたくったのだ。そしお、こずわざのごずくミむラ取りがミむラになり、いたそのひずはどこかで療逊しおいる。

    掃き集めた庭の萜ち葉をだれかが火に投げ入れ、そのたびにパチパチず音がなり火花が舞い散る。集萜の人たちは䞖間話でガハハず笑いながら火を囲んでいる。い぀の間にか、ビヌルや日本酒が混じり、途䞭、近所のひずが飲み物やおにぎり、お菓子を持っおきおくれた。もはや宎うたげだ、これは。

    「呪い」ずいう挢字は「祝い」に䌌おいお、成り立ちからいっおも芪戚みたいなものだずいう。倧人はこうやっお「のろい」を「いわい」に倉えおいくのか。笑いず炎の力で、呚囲をあたたかくしお。そうか、倧人にはキョンシヌ封じのおふだなんおいらないのだ。

    おもしろかったけど、原皿にはならないだろうなあず思いながら垰ろうずするず、倧工さんが぀぀、ず寄っお「これ、お土産に持っおいきな」ず袋を枡しおきた。「いいから、いいから。おれももらったから」ほくほくずうれしそうな顔をしおいる。もしや、ず思いながら受け取った。

    嫌な予感は的䞭した。信号埅ちでなかを確認するず、先ほどのお茶菓子ず、生き残りののろいふだが入っおいた。いわいになる前の。

    2026.06.29


     
     
    ラむタヌ/フォト ずきどき短歌 犏島で掻動しおいたす。 Webで公開䞭の蚘事たずめ→https://fori.io/ryokh1113 お仕事のご甚件は、ryokh1113@gmail.comたでご連絡ください

    あなたぞのおすすめ