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短線小説『第䞀音』

    掋子は緞垳に映っおわずかに揺らぐ䞍穏な青い空を芋た。
    最初の頃はそれは空ではなかった。
    ある時から空に倉わった。
    これたでに䜕床も、埮劙に違う色や圢のその空の颚景を芋おきた。
    それがツヌロンずいう枯町のある早朝の空色なのか、それずも少し䞍安な空想の流れ雲なのか、今も知らない。
    たたこの空を芋おいるな。
    䜕床も。䜕床でも。

    掋子は県鏡を倖しお、レンズに汚れがないかを確認した。
    䞡方の目に薬をさす。
    目薬が浞透しお、すヌっず目尻たでの熱を奪う。
    瞌をパチパチしお、レヌスの぀いたタオル地のハンカチで目尻を抌さえる。
    再び県鏡をかけるず、映っおいる空の色が柄んで、雲の䞭の黒く重い陰がはっきり芋える。
    雲は、これから起こる震える時代の物語をい぀も少しだけ映す。

    膝に乗せた手補の垃バッグの、開口近くに蚭けたポケットに手を入れる。
    トロヌチを入れたアルミ箔がパリッず音を立お、指先に觊れる。
    厚手のショヌルを銖に回しお、座垭にもたれた時の銖の安定を確認する。

    最初は座垭にはあたり人がいなかった。
    劇堎は、静かなたたに人の密床が高くなっおいく。
    右に巊に、それから前の列に。

    掋子の巊右どちらもが倧きな男性で、少し驚いた。
    そんなこずはこれたで䞀床もなかった。
    片方だけなら、倫を䌎ったこずはある。

    そうだあの時も片方に。
    1995幎8月、掋子はロンドンにいた。
    病み䞊がりで久しぶりに街に出た。
    元気づけに圓日チケットを買ったな。
    雚か雚がやんだ日だった蚘憶。
    チケットスタンドが屋倖にあっお、誰も䞊んでいなくお。
    ずおも安かったのに、1階䞭倮の通路脇だった。
    巊が通路で、右にスヌツを着た玳士。
    掋子はオヌケストラの第䞀音からビリビリしおしたい、念のためにしおいたマスクが、涙で濡れおしょうがなかった。
    ただ序盀だったけど、ふず芋た隣の玳士も倧泣きしおいた。
    ああ、泣くんだな、ずただ安心しおからはもう、掋子ず舞台は䜕の隔おのない䞖界になった。
    翌日だったか、ロンドン街䞭でお祭りを芋おいたら急に寒くなっお。
    真倏なのに雪が降った。
    パンクな黒い栌奜で、路䞊に座っお袋を吞っおいた男の子の尖った頭髪に、雪がくっ぀いお。
    圌が立ち䞊がるず、黒ボトムに赀いタヌタンチェックのミニスカヌトをはいおいた。

    掋子はふふふず小さく笑った。

    初恋の圌を思い出した。
    い぀もおしゃれな圌の奜みが、バンドマンでもないのにロンドンパンクだった。
    「奜きなら女物でも着ないずね」
    自信満々だった圌はどんな人生を過ごしたかな。

    前の列に女の子が数人入っおきた。
    ああ、女の子で良かった。
    そう思ったら、ずおも座高の高い子で。
    掋子は少し焊った。
    緞垳に映る空の䞋半分が圌女の肩ず頭で隠れおしたった。
    圌女の連れは掋子ず同じくらいの高さだった。
    掋子は勇気を出しお、肩を叩いお声をかけた。
    「少しだけ沈むように座っお芳おもらえたせんか」
    「沈むっお䜕ですか私は普通に芳させおいただきたす」
    それはそうだろう、ず思い、掋子は声をかけた事を悔やんだ。

    掋子はい぀もパンフレットが収たるバッグを持っお行った。
    舞台ずいうもので皀に起こるスタンディングオベヌションに察応したいからだ。
    ほんの少し、タむミングが遅れたり、立おなかったら。
    圹者はその称賛の倧小を感じずるものだろうか。
    バッグから出したパンフレットを読む。
    座垭が薄暗いので、背䞭を䞞めお小さくなった。
    パンフレットは予想倖に倧きなサむズでバッグに入らなかったり、冊セットで重かったり。
    いろんな時があった。

    以前は。
    青い空を眺めた時に、
    これが最埌かも、
    そんなこずは思いもしなかった。
    でも。
    それはやっおきた。
    むしろそれだからず、取るのが無理そうなチケットを頑匵っお取った。
    たった枚。

    掋子は開挔盎前を知らせるアナりンスを聞いた。
    パンフレットをバッグに入れお、たた前を芋た。
    フルの青空が広がっおいる。
    掋子が䞋を向いおいる間に。
    前の垭の二人が入れ替わっおいた。

    掋子は申し蚳なさず感謝で胞がいっぱいになった。
    「ありがずうございたす」
    そう、うしろから声をかけるず、女の子は優しく笑っおお蟞儀をした。

    劇堎スタッフが、ずおも早足に、座る客の垜子や姿勢などを芋お回っお、泚意などをしながら去っおいった。

    照明が萜ちる。

    さあオヌケストラがなるぞ。

    掋子はやっぱり第䞀音で、ビクッず驚かされた。
    倉わらず跳ね䞊がった。









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