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会社を辞めると言えた日

     会社を辞めます、と言えた。

     今の会社は、すごく悪い人はいないし、仕事内容もそんなに嫌いじゃないし、何より必要とされていた。私が必要とされていた。私にしかできない仕事がいくつかあって、私にだから任せられる仕事がいくつかあった。その割に軽んじられてるなって思うこともたくさんあったけど。

     会社を辞めたいというよりは、こんなぬるくてあたたかくて優しくて猛毒のように私を麻痺させる場所に、ずっといることが怖かったという気もする。

     それ以外に、関東に住みたいというかなり前向きな理由もあった。大学を卒業したら冷めると思っていた芥川龍之介への感情が、歳を重ねるごとに熱くなる、というよりはズブズブと深みにハマっていっていた。年に何回も東京に行くのなら、何回も行って、それでも足りないと思うのなら、いっそ関東に住んでしまった方が良い。……というのは合理的な結論であり建前である。
     素直に言えば、本当は自分の強い意志で「首都圏」という場所を選んでいない、ただ環境が「首都圏」だっただけの人間への憎しみみたいなものもたくさんあった。憎しみの始まりは羨望だった。私はそれになりたかった。それになりたかったことを認めて、それに近づこうとする勇気を持つのに、今日まで掛かった。

     貯金はそこそこある。数字で言ったら、ちょっと盛って500万円くらいある。だから、私を縛っていたのは現実じゃなくて、なりたい自分になろうとして、その果てに何にもなれない未来の自分への恐怖だと言える。臆病と言っても良い。

     それをようやく断ち切れた。

     自分で決めて、自分で選ぶ、ということを久々に本当にした気がする。言えてよかった。10月か、11月からは関東に住みます。

     
     
    ある女の「るおん」の部分です。 絶賛迷走中の芥川龍之介限界オタク

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