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いい人モグラを、なまはげが叩く日


    拙者の城に、拙者がいなくなる前に

    夕方になってしまったけれど、
    今日のあじこ城、開門でござる。

    今週も実家は、
    日帰り奉公にさせてもらった。
    先週に比べたら、
    元気度が増えてきた感はある。

    でも油断は禁物。
    ある程度仕事をして、
    帰ることにしたのだ。

    それでも出社は8時。
    自宅を出たのは7時前なのである。
    しかもその前に自宅で、
    キンメの煮付けを作ってきた。

    昼ご飯は、
    姉が買って残していきよった
    キャベツの千切りを全て使い、
    お好み焼きをこしらえた。

    ホントなら、
    訪問入浴のあとの洗濯をし、
    乾燥して、
    畳んでから帰りたいところなのだ。

    しかし、
    もうひとりの拙者が言った。
    「やめーぃ。それはやりすぎである」
    赤札である。

    日々、いろんなところで、
    「来られてはどうじゃ?」的な
    お誘いやら、
    イベントの告知やらがやってくる。

    ううむ。
    ちょっと良さそうである。
    すると、
    拙者の中の「いい人」が、
    モグラ叩きのモグラのように
    ひょこっと出てくるのだ。

    そこで待ち構えるのが、
    なまはげである。
    「それ行って、そのあと平気なのがーっ」

    この一言である。
    拙者の中のいい人は、
    それでも大昔に比べたら、
    出てくる回数は減ってきた。

    たとえば、
    SNSで、
    「今度、遊びにいきたい」
    などと書き込みがあれば、

    昔の拙者は、
    すぐさまセッティングするようなヤツであった。

    日程を出し、
    旦那の予定を確認し、
    相手の都合を聞き、
    自分の予定を曲げる。

    モグラ叩きの
    いい人モグラが、
    高速で出てくるような感じであった。

    齢を重ね、
    いい人をやめはじめてからは、
    そんな書き込みにも
    だいぶ動じなくなった。

    「いったい、いつ呼んでもらえるの?」

    そんなふうに言われても、
    今の拙者は、
    「タイミングが合ったらね」
    という、のらりくらりした答えで
    かわしておる。

    昔の拙者には、
    なまはげがいなかった。

    だから、
    いい人モグラは出たままであった。

    ひょこっ、どころではない。
    出っぱなしである。

    「やります」
    「合わせます」
    「大丈夫です」
    「私が動きます」

    そう言いながら、
    中の電源はショートしていた。

    バチバチバチッ。

    煙が出ているのに、
    まだ笑っていた。

    今思えば、
    なかなかの怪奇現象である。

    でも当時は、
    それが普通だと思っていた。

    誰かのために動くこと。
    空気を読むこと。
    先回りすること。
    期待される前に差し出すこと。

    それが、
    いいことだと思っていた。

    けれど、
    いい人モグラが出っぱなしになると、
    自分の暮らしが留守になる。

    拙者の城に、
    拙者がいなくなるのだ。

    倒れて、
    回復して、
    また全力で出陣する。

    それを、
    ずいぶん長くやってきた。

    でも今は、
    なまはげがいる。

    「それ行って、そのあと平気か」

    そう聞いてくれる番人が、
    毎回拙者の中にいる。

    だから今は、
    断る。

    そして介護も、
    やりすぎる前に帰る。
    予定を入れない時間を守る。

    来月も、旅に出る。

    予定を入れようと思えば、
    いくらでも入れられる。

    行けば必ず行く店。
    行けばだいたい会う人。
    ちょっと面白そうな催し。
    気になる店。
    探せば、
    いくらでも出てくる。

    でも今の拙者が本当にしたいのは、
    予定表を埋めることではない。

    好きな神社へ行く。
    お団子を食べる。
    それから、
    次どうしよっかなあと考える。

    あっちかな。
    こっちかな。

    いや、
    今日はもう帰ってホテルで昼寝しよ。
    そんな時間の中で、
    拙者はようやく自分の城に戻ってくる。

    断ることは、
    冷たいことではない。

    全部やらないことも、
    怠けではない。

    行かない選択をすることも、
    人生を狭めているわけではない。

    むしろ、
    拙者が拙者の城にいるための、
    大事な作戦なのである。

    今回の実家奉公も、
    全部はやらなかった。
    キンメの煮付けは作った。
    お好み焼きも作った。
    ある程度の仕事もした。
    そして帰った。

    なまはげは見ていた。
    いい人モグラも、
    すんでのところで
    穴にとどまった。

    まだ完全討伐ではない。
    しかし拙者は、
    たしかに前よりも、
    自分の城を守れるようになってきたのである。

    今週もひとつ、
    拙者は拙者の城へ帰還したのである。


    #創作大賞2026
    #エッセイ部門

     
     
    ゴキゲン検証家 |不機嫌を斬るあじこ侍 旅、海、食、日々の気づき。読んだ人の肩の力が少し抜けるnoteを書いています。

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